「殴りっこの相談」(後)
「さあさあ、暗い話はそれくらいにして。ミトラ、パレルレの盾の手応え、どんな感じだった?」
ジュテリアンが明るい口調で言った。
「どうって……、十層の盾を殴るのが、そもそも初めてだったんだけど、層が進むにつれて、硬いのに弾力があって、跳ね返される感じで、壊しにくくなっていった」
「あーー。面倒そうじゃのう」
と、眉を寄せるフーコツ。
「一度、体験しといた方が良いよ。あたしは、皆んなの盾を殴ってみたい」
「うん、そうね。この街を発ったら、何処かで街道を逸れて、人目に付かないところで殴りっこしましょう」
と、メリオーレスさん。
やる気が語調からほと走っていた。
「研鑽になる事は、間違いなかろう」
やる気はなさそうだったが、フーコツは最な事を言った。
そんなところにノックの音がして、ウッカリ娘のミトラが反射的に、
「どうぞ」と言い、
慌てて股を閉じる婦女子数名。
「お邪魔しますよ」
と言いながら、ワゴンを押して入って来たのは、一本眉のロームさんだった。
「え? 何それ、食べ物?!」
ワゴン上の、沢山のフタを取るべく(たぶん)立ち上がるミトラ。
「頼んでないわよ」
と、警戒するメリオーレスさん。
「セネクト婆さんの店で大変に良いモノを見せて頂きましたので、これは儂の奢りです」
「あら、ロームさんありがとう」
脆くも警戒を解くメリオーレスさん。
部屋の小さなテーブルに、二段組のワゴンで運んで来たフタ付きの大皿小皿を並べるロームさんとミトラ。
「しまった。もう置く所がない」
と、ロームさん。
「椅子の上にどうぞ」
と、ジュテリアン。
フタを取ると、そこには海の幸、山の幸、空の幸、大地の幸が盛られていた。
美味そうな香りが部屋に広がる。
「では、ごゆっくり。今後とも、我がバルバトの宿、エリスを宜しく」
並べ終えたロームさんは、
「容器はまた、ワゴンに乗せて、廊下に出しておいて下さい」
と言って、部屋から出て行った。
ワゴンは、戻されたフタですでに一杯だ。
「このお肉、何かしら?」
と、大皿の中央に盛られた焼き肉を指すジュテリアン。
「豚蜥蜴だね」
料理に鼻を寄せてミトラが言った。
「クカタバーウ砦の祝勝会で食べた時は、串揚げだったけど」
「この果実、甘くて美味しい」
と言ったのはメリオーレスさんだ。
「お主は何故デザートから食しておるか?!」
と怒るフーコツ。
「このお団子、蜂蜜入りだっ!」
と叫ぶミトラ。
「デザートは後回しにしろと言うに!」
「ザリガニの甘辛煮も美味しいわね」
「ジュテリアン、あなたヒゥウォーンの街でもザリガニを貪っていたわね」
「うん。野に下ってから、池や川で取れるこのエビの味が癖になっちゃって」
女子会は早い夕食会と化し、そのまま早めのお風呂となった。
男街バルバトだが、女風呂は心配しなくてもあった。
女性客が泊まらない訳ではなかったからだ。
「女風呂、思ったより広くて良かったね」
「花柄だらけで参ったのう。あれが男どもが考える『女性が喜ぶ設備』か?」
「お化粧の匂いが染み付いてて、あたしは少し酔っちゃった」
などと言いながら、女性陣が帰って来た。
「あたしは、えーー、パレルレの十層盾を壊すのにエナジーを大層消耗したので、そのう、いつもより念入りに揉みしだいても、問題ないのではなかろうかと思います」
「うむ。ミトラのお陰で、護符が当初の半額以下になったようなものであるから、当然の権利じゃと思う」
「うん。お婆さん、夫の遺品だから手放したくないくて法外な値段にしたような事を言ってたけど、『あわよくば』って、顔に書いてあったわよね」
と、メリオーレスさん。
なかなかに手厳しい。
そんな訳で、ミトラを念入りに、
「あっふん! あっふん! あっふん!」
言わせ、その他の女性たちもそれなりに、
「うふんうふん」
喘がせて、バルバトの夜は更けて行った。
翌朝は、例によって宿の食堂で朝食を取った。
「なんか、チラチラ見られてない? あたしたち」
ミトラが蒸し菓子を食べながら囁やいた。
「昨夜のミトラの声が聞こえてたのよ」
と、揶揄うメリオーレスさん。
「そんな事ないもんね。必死で口を抑えていたもんね!」
少しムキになって反発するミトラ。
「女性客、私たちだけだから、興味があるんでしょう」
と、今朝はザリガニの素揚げを食べているジュテリアンだった。
次回、「アマゾネスの襲来」(前)に続く
お読みくださった方、ありがとうございます。
第五十四話「アマゾネスの襲来」前編は、明日の土曜日に投稿します。
今日の
午後には、「続・のほほん」と、「新・ビキラ外伝」を投稿予定です。
毎日投稿で、どちらかを入れられるように、話を作っています。が、さてはて、どうなんだろう。
いや、頑張れや。みたいな………。




