「殴りっこの相談」(前)
ラファームの街をもう少しで出るという所で、白馬の手綱を引いて来るミニスカートの銀髪女性に出会った。
片肌脱ぎの真紅のワンピース。
バルバトの街に入る前に、馬車に声を掛けて来たお嬢、ギュネーさんだった。
「あら、先生。さっきぶり」
と、笑顔を見せるギュネーさん。
「あなたたち、予約って、ロームさんだったの」
一本眉のおじさんを見て、そう言った。
「それともラファームに宗旨替えに来てくれたのかしら?」
気さくに語り掛けてくるミニスカ銀髪娘に、
「お客さんが護符を買いたいって言うんでね、こちらに寄ったんだよ」
と、これもフレンドリーに対応するロームさん。
「ああ、バルバトの方は、男性専用だものね。ちゃんとセネクト婆さんの店を紹介してくれた? ロームさん」
「もちろんだよ。良い買い物が出来たさ」
「馬鹿高くて驚いちゃった」
ミトラがすかさず口を挟んだ。
「そうね。高いけど、品物は確かだから、安心して良いよ」
銀髪娘は苦笑いを見せた。
「うん。凄く良い護符だった!」
ミトラがまた、即座に応じた。
「良かったわね。じゃあ、またね」
ギュネーさんはそう言うと、またあっさりと去って行った。
「街に入る前に会った時は、バルバトを敵視してる感じだったのに、意外ね」
と、ジュテリアン。
「ああ。『呼び込み』に合ったのか。バルバトとラファームは、一応『敵対』で売っているからな」
ロームさんは笑った。
「ところで、誰が先生なんだい? ギュネーの知り合いがいるのかい?」
「コプス魔法学校で、ワシが教師、彼女が生徒という間柄であった」
「あっ、あんたか! 『イカれた爆裂先生』と言うのは?!」
と、驚いた顔になるロームさん。
「アマゾネスの名にふさわしい狂乱魔法を教えただけだと思うがよい」
「う、うんまあ。退学処分になったが、実に有意義な学園生活だったって言ってたよ」
「おお、有り難い。教師冥利に尽きる言葉だのう」
「そうか。ギュネーが穏やかな物腰だったのは、恩師が居たからか。なるほど」
と、納得顔になるロームさん。
「アマゾネスって、剣と格闘技の種族だと思っていたわ」
と、ジュテリアンがつぶやいた。
「ギュネーは確かに変わり種だったが、才能があったら伸ばしてやらんとのう」
言いながら、顎を撫でるフーコツ。
「それにもちろん、アマゾネスらしく、剣法も格闘技も得意であったぞ」
「夜の方は? 男性でも女性でも?」
と、興味津津の顔でミトラ。
「お嬢ちゃん、言うねえ。アマゾネスは同性が大好きなようだが、子供のためには男性も受け入れる人だよ」
「お嬢ちゃんに説明する話ではないな」
フーコツがそう言ってロームさんの脇腹を突いた。
その後、ぼくたちは無事にラファームの街を出て、バルバトの宿に戻った。
浴衣の宿着に着替え、ベッドの縁に思い思いに座り、くつろいでいる女性陣。
宿屋の売店で買った焼き菓子とお茶で、女子会を始めている。
「敵の攻撃エナジーを吸い取り、盾を強化するって、なかなかよね!」
ミトラが嬉しそうに言った。
「宮廷の連中が使う盾って、だいたいそうよ」
と、ジュテリアン。
「えっ? そうなの?」
目を丸くするミトラ。
「そうなの。お抱えの護符師が居るから。私も宮廷に勤めていた時は持ってた。退職する時に、杖や防具と一緒に返したけど」
「へえ。身分で貰えるのね。護符も防具も」
「しかし、相性は、金や権力では買えぬし、鍛練を怠っておっては、宝の持ち腐れじゃろう」
「その持ち腐れどもに武器や防具を毎日のように自慢されて、ついにプッツンして辞めたとか? ジュテリアン」
と言ったのはメリオーレスさんだ。
「まあ、『こんな連中が持っているのは間違っている』とは、思ったわね」
ジュテリアンはうつむき、足をぶらぶらさせた。
「そう言うの、街の警備隊が持ったら良いのに。あの人たちの装備、全然大した事ないよね」
ミトラが顔を上げ、足をバタバタさせた。
「早くそういう世の中になると良いわね」
メリオーレスさんのその言葉には、感情が感じられなかった。
たぶん、
「そんな時代は来ない」
と思っているのだろう。
次回「殴りっこの相談」(後)に続く




