「破壊される盾」(前)
「これらの護符は、亡き夫の遺言みたいな物で、店の『見せない飾り』でもあった。このようなモノも揃えておる店だと自慢するためのな」
大きな本屋さんが、純文学作家の個人全集を並べているようなものか?
「よもや購入資格を持った者が、こんなに一時に現われようとは。人生久々の珍事じゃて」
お婆さんは、嬉しそうではあった。
「ちょっとミトラ。パレルレのその十層が、本当に強力な盾かどうか試してみようではないか」
と、フーコツが言った。
「えっ? これで?」
と、ホルスターの棍棒を抜くミトラ。
「な、何を無礼な。青色とは言え、そんな棍棒ごときで破壊される光の盾ではないぞ」
と、お婆さんは怒り出した。
「一層でも残ったら、倍の値段で買おう。もし、全部を破壊できたら、半値にしてもらおう」
と、フーコツ。
(『姑息!』)
と、サブブレイン。
(そうだよね、伝説の斧だもんねえ)
「面白い、やってみるが良い。純心転生者専用の盾を舐めおって!」
「聞いたか、半値だ、ミトラよ。パレルレの青の盾を破壊せよ。ただし、棍棒でな」
フーコツは笑顔でミトラの両肩を掴んだ。
「確かにボッタクリな値段だが……」
「なんて値切り方よ」
と、ロームさんとメリオーレスさんが小声で話していた。
かくて、店の前で対峙するミトラとぼく。
その距離、十メートルほど。
ミトラに向かって、十層の青色の盾を真っ直ぐに発現させた。
盾は、ボッ! と鈍い音を立てて出現し、それが十回続いた。
輝きも十層ともなると、強く感じた。
盾と盾の間は、一メートルくらい空けた。
ミトラは、ヘルメットとガントレットもして、フル装備だ。
目の前、一メートルほど先にある一枚目の盾を見て、
「じゃあ、行くよ!」
棍棒を両手で持って、上段に構え、ミトラが明るく言った。
一層目の盾に、
ぶん!
と唸りを上げて振り下ろされる棍棒。
シャラン!
と微かな音を立てて破壊される盾。
四散して消える青の盾を見て、
「なんだって!」
と、首を伸ばして叫ぶお婆さん。
二層目、三層目、四層目も難なく一撃で破壊した。
だが、五層目、六層目、七層目の破壊に、二、三回の打撃を必要とした。
「うらあーーっ!」
気合いを込めて、五、六回の殴打で八層目を。
もはや滅多打ちで、九層目を破壊した。
「あと一層!」
と、ジュテリアン。
「ぶっ壊せ、ミトラ!」
と、フーコツ。
「ヒャッハーーー!」
(メリオーレス談)
様々な声援が飛ぶ中、
「ぜいぜい」
と荒い呼吸を吐きながら、肩を大きく上下させていたミトラが、
「やるぞ、ゴラァッ!」
と鼓舞したところで、お婆さんが、
「分かった! 半値で良いよ!」
と叫んだ。
「元々、売りたくなくて、法外な値を付けてたんだ。お前さんたちの勝ちだから、もう止めとくれ!」
「ううう、あと一枚……」
呻くミトラをなだめ、
「もう、勝ったから」
と、ホルスターに棍棒を収めさせるジュテリアン。
「それにしても、凄まじい棍棒だね。一体どこで手に入れたんだい?」
と、お婆さんが危うい事を聞いてきた。
「それはその」
と目を泳がせるミトラを制して、
「この娘は、オララ集落の出身なのだが、ご存知かな、集落の名は? 婆殿」
と、フーコツが言った。
「ああ、ドワーフの有名な工房集落だね。なるほど、さぞかし名工の手に成る棍棒なんだろうねえ」
お婆さんは、フーコツの誘いに乗って、勝手に納得した。
「ええっと、名人中の名人。伝説の名人の手による棍棒です」
と、必死の嘘の中に真実を混ぜてしまうミトラ。
「旅に出る前に、餞別にもらったのじゃな? ミトラよ」
フーコツが適当な事を言い、その嘘にはずみで、
「うん」
とうなずくミトラだった。
次回「破壊される盾」(後)に続く
お読みくださった方、ありがとうございます。
「蛮行の雨」、第五十二話「破壊される盾」後編は、明日の日曜日に投稿します。
「新・ビキラ外伝」は、午後に投稿予定です。
来週から、投稿話を減らす予定です。
「ビキラ」二、三話。「のほほん」四、五話くらいの比率になるでしょうか? (自分でも分かってない)
ともあれ、回文オチ形式のショートショートは、アイデアの続く限り、毎日投稿しようかな、と。




