「護符屋のお婆さん」(後)
「ワシは光精霊の呪いを強化したい」
まず、フーコツが切り出した。
「ヌールの呪いだって?! まだあんなものを操る物好きが……、あ、あるよ、あるとも!」
お婆さんは甲高い声を出した。
次にミトラが、
「あたしは闇精霊の呪いを強化したい!」
と握りこぶしを見せて言った。
「な、なんだって?! お前さんはさらに珍しいブーヨの呪い?!」
それから目の前のフーコツとミトラを交互に見ながら、
「まさか同じチームだと言うんじゃないだろうねっ!」
と叫んだ。
「同じチームだよ、フーコツとは」
と、フーコツを見上げるミトラ。
「うむ。この小っこいのは、チームの先輩じゃ」
「正反対の性質だよっ?! 反発しまくるはずだ。上手くやっていけるはずがない」
動揺を隠せないセネクス婆さん。
「ふたりとも、大雑把だから、大丈夫」
と、ジュテリアンが一言で片付けた。
それから、強化する盾を見てもらうために、全員で外に出た。
セネクスお婆さんは、やはり胸股ともビキニアーマーだった。
そしてヒールの高いロングブーツに赤いマント。
たぶん若い時のままの格好なのだと思う。
外は、夕方の薄闇に包まれていた。
いつの間にか、点在していた石灯籠(石灯籠)が店を囲み、辺りを照らしている。
その集合した石灯籠の群れに、
「うお?!」と声を上げて驚くロームさん。
暗くなってからこの店に来た事がないのだろう。
まず、フーコツが両手をかざして銀色の光の盾を三層、出現させた。
薄暮に光の盾が美しく浮かび上がっている。
「すでに光の呪いで強化してあるじゃないか……」
と、つぶやくお婆さん。
続いて、
「卍!」
を唱えて手印を切り、大型卍手裏剣に変形させる。
フーコツが手印を切ったので、苦笑するジュテリアンとミトラ。
しかしロームさんとメリオーレスさんが唸ったのは、その手印の所作が美しかったからだろう。
ぼくは良いハッタリだと思った。
「うっ。こ、これは黒の盾にも匹敵しそうな『矛の盾』だね」
息を呑む年老いたエルフ、セネクスさん。
「盾を卍に変えて攻撃するんだから、守りがなくなっちまうんだよね?」
「でも、一が八かの時は仕方がないよ」
と、ミトラ。
「それに、エレの反射はさせなかったよ」
「エレ使いと戦ったと言うのかい?!」
また大きな声を出すお婆さん。
フーコツはそれから、三つの卍手裏剣を光の盾に戻して消滅させた。
「術者の体力の消耗は考えに入れなくて良い。爆発力や斬撃力も高めたい」
と、フーコツ。
「うんうん。スヴァスティカは遠距離爆撃用だものねえ」
と、お婆さん。
遠距離爆撃?! 知らなかった。
魔族バンガウアが「黒の盾」を使ったので、対抗策としてミトラたちは止むなく「卍」を使ったのだろう。
次にミトラが紫色の闇の盾を見せると、お婆さんは、
「おや、ビオレータかい? 銀色に格上げしてはどうだい?」
と言った。
「いんや、ビオレータが好きなので、このまま強化したい」
と、古代紫の鎧を叩いて応じるミトラだった。
「ふむ。もちろんビオレータでも強化できるさ。しかし、エレには勝てないかも知れないよ」
「大丈夫だったよ。ビオレータの『影多身』の呪いで、エレの盾を突破したよ」
「お前さんも出鱈目だねっ。盾を騙して攻撃に使うなんて」
闇の呪いは本来、自分の為にしか使えないと言っていた。
が、そうか、盾は本来自分の守備に使うものだが、騙せば攻撃できるんだ。
(本当に、デタラメたなあ)
(『御意』)
(で、どうやって騙したんだい?)
(『錯覚』)
んなアホな。
と思ったが、それ以上の突っ込みはやめた。
不毛の討議になるだけだと思ったからである。
ミトラは荒々しく手印を切り、三層の卍手裏剣を見せた。
大袈裟な手印は、フーコツとの差別化を図ったのだろう。
そして、
「チームに空を飛べる者がいないので、卍が頼りなの」
と言った。
そしてすぐに卍を円盤盾に戻して消した。
エナジーの消耗を避けたのだろう。
その次はジュテリアンだったが、彼女の三層の光の盾を見たお婆さんは、
「金色の盾かい。汎用の最上級だね。やっと見慣れたヤツが出た。安心したよ」
と笑った。
「エレに負けないように、ギュミュシに格上げしようかね?」
「いえ、退職金代わりに宮廷の宝物庫から掠めて来たアクセサリーのお陰で、アルジェントでもエレの反射は防げましたよ」
「あんたもかい?! 出鱈目三人娘なのかいっ」
お婆さんは嬉しそうに興奮した様子を見せた。
そしてジュテリアンが、少し長い手印を切り、光の盾を卍に変態させるのを見たお婆さんは、絶句してしまった。
卍手裏剣は、存在自体が大変珍しいもののようだった。
次にメリオーレスさんが、緑色の三層の盾を出現させると、セネクス婆さんは、
「ひょっとして、そのなんでもなさそうなクローロンの盾も、卍に変形するのかい?」
とたずねた。
「いえ、これで精一杯です」
メリオーレスさんのその声を聞いて、お婆さんは、
「そうかいそうかい。よしよし、金色に強化しようかね!
五層は欲しいよね?!」
と、大層嬉しそうに笑った。
呪いによる強化とか、宝物級のアクセサリーによる強化はなくても、金色の五層は充分すぎるくらい使用に耐えるのではなかろうか?
次回「強化される盾」(前)に続く
お読みくださった方、ありがとうございます。
次回、第五十一話「強化される盾」前編は、来週の木曜日に投稿します。
後編は、金曜日に投稿予定です。
本日午後は、回文オチ形式のショートショート
「続・のほほん」を投稿します。




