「ミトラが『蛮行の雨』」(後)
屯所でもらった賞金は、中古の防具屋ですぐに使ってしまった。
V字の小型盾を見つけたミトラは、
「これ、使えるのよ。村の守護者のお気に入り防具だったの」
と言い、七つも買ってしまったのだ。
丸盾より遥かに使えるそうだ。
ぼくはひとつだけを手に持ち、残りは収納庫に収めた。
それから、物理攻撃耐性、魔法攻撃耐性の「護符」を買ってもらい、収納庫に入れた。
身に付けておけば良いのだ。
思念で発動するそうだ。
「護符で発現する光の盾は、もっとお金を貯めてから良いのを買おう」
と言う話になった。
「ぼくは頑丈だから、急がなくても大丈夫なはず」
と言うミトラの理屈だった。不安だ……。
スタイルを気にする人は、詠唱も入れると言う。
「正義の盾!」
とか、そう言うヤツだ。
分かる気はした。形は大切……。
ミトラも護符は幾つも帯状の袋に入れて、身体にくくりつけていると言う。
やはり街道で野盗たちの前に現れた赤い光は「光の盾」だったのだ。
ただ、安物のせいで、効果がなかったのだろう。
光の盾は敵の攻撃を防ぎ、内側からの盾の発動者の攻撃は許すそうである。
たとえば魔法使いであったなら、盾の内側から攻撃杖 の先だけをプツリと出し、攻撃魔法が射てるのだ。
盾は熱などを防ぐから、杖から炎を吹いても、盾が術者を「火傷」から守ってくれる、という訳である。
斧や剣で斬り掛かる時も、盾の内側から出来ると言う。
でないと盾が邪魔で仕方がない、と思う。
「お腹が空いた」
とミトラが言い出し、安い食べ物屋を探して歩く「蛮行の雨」の二人。
「大きな街は、食べ物も高いわねえ」
店の外に立ててある板のメニューを見てボヤくドワーフの娘。
(ゴーレムのぼくは食べないんだから、自分の分くらい奮発すればいいのに)
と思わないでもなかったが。
だんだんと寂しい場所へ移動してしまい、
(さすがにここらに食堂はなかろう)
そう思って引き返そうとした時、
「ねえ、パレルレ。あの女性、ならず者に絡まれていると思わない?」
と言ってミトラが立ち止まった。
なるほど、高いレンガ塀と窓のない建物にはさまれた、細道の奥に見える人影が三つ。
奥に、女性らしきミニスカートのシルエットがひとつ。
手前に肩幅の広い後ろ姿が二つ。
何やら言い争っている様子だ。
ぼくは聴覚器と電子眼視覚に望遠機能を足し、クラスアップさせて、盗み聞きと盗み見をした。
「うん。紅色メイド服の女性と、銀灰色の革鎧を着た男二人が『金を出せ』とか『見逃して下さい』とか話し合ってるよ」
「それ、話し合いじゃないから。恐喝だから。ほら、パレルレ。助けに行って」
ミトラがぼくのメタルな尻を叩いた。
「『蛮行の雨』の初仕事よ」
道が狭くて余裕がないので、ぼくはガニ股の足を立てた。
ぐん! と背が伸びた。
地面には、長剣が二本、転がっている。
そして、二人の男の腰の鞘は空だ。
近づきながら、ぼくは下半身の二つのヘッドライトを点灯させた。
薄暗い細道に光が満ちる。
「あーー、ちょっと良いですか?」
ぼくの声と光に振り返ったナラズ者風の二人組が涙目で、
「あっ、ゴーレムの旦那、助けてくれ!」
と声を裏返した。
そうなのだ。
ミトラには詳しく話さなかったが、お金を脅されていたのは男二人組の方だったのだ。
「ああ? なんなの金属さん。これは私たち三人の問題よ。口をはさまないで頂戴」
その女性は、ワンピースを着ていた。膝上のミニスカートだった。
とんがり耳なのは、エルフの証か?
肩はプックリと膨らみ、腰はキュッと締まり、胸部は挑発的に豊満だ。
ふわりと広がったミニスカート。
ふたつボタンにしてピンクの袖口。
ミニながら、クラシカルな印象のメイド服だ。
膝下のロングブーツも、紅色だった。
そして、裾にフリルの付いたピンクのエプロン。
何故か無骨な革ベルトをしていたが。
と、思っていたら、かの女性は右腕を後ろに回し、次に腕を戻した時には、短剣を手に握っていた。
(ああ。背中にホルスターの付いたタイプのベルトだったのか)
と、納得するぼく。
手に持った凶器が良く似合う、「凛とした」と言う形容が具現化したような顔立ちだった。
金髪は短く、瞳は紺碧に萌え、奥二重なのに優しそうに見えない。
美しくそしておそらく見たまんま、気が強い!
「そのまま来た道をもどりなさい、メタルさん」
と、短剣を振る。
さもないと二人を殺すわよ、と言わんばかりだ。
「そして消えて頂戴」
「いや、お嬢さん。あなた『有り金残らず出すのよ』とか言ってたでしょう?」
「あら、どこから聞いていたのかしら。でも、先に『金を出せ』と言ったのは、此奴らだからね」
と言って、うら若きメイド娘は金髪を掻き上げた。
髪飾りはなかった。
メイドじゃないからかも知れない。
怖い。
大男二人と、さらに巨大なメタルゴーレムに道を塞がれて笑っている美女、怖い!
次回「元・宮廷僧侶ジュテリアン」(前)に続く
次回「元・宮廷僧侶ジュテリアン」前編、後編は、明日中に投稿します。
ついにベールを脱ぐがメイドドレスは脱がない謎の金髪娘。
明日をお楽しみに!
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