「あなたはメタルオーパーツ」(前)
はい。
ぼくの名は帝辺進。二十四歳。独身。
会社員だった。
だったと言う過去形は、辞めたのでも、クビになったのでもない。
死んだからだ。
皆さんは、「転生」とか言う怪奇現象をご存知だろうか?
アレは気をつけた方が良い。
ある日、ある時、突如として「異世界」に飛ばされてしまうのである。
ぼくはどうも、元の世界で突然死をしたらしかった。
無念だ。
もう一度生まれ変わったら、気をつけたいと思っている。
ふと気がつくと、光に満ちた空間にいたのだ。
体感的に言うと、「死後の世界」というヤツだ。
自分の姿は見えた。
Tシャツにデニムに、靴下を履いている。
靴を履いてないのは、室内で死んじゃったからか?
じゃあ、風呂に浸かってて死んだら、素っ裸か?
一考すべき案件だ。
ただただ驚いて佇んでいると、目の前の空間に女性が滲み出てきた。
それを見てさらに驚き、後退るぼく。
その女性は、純白のワンピースに白い肌。
腰まである白くしなやかな髪。
白い空間に馴染んでいた。
そして美人だ。
どれくらい美人かと言うと、えーーっと、生半可ではない美人だった。
彼女は、
「転生官ランランカ」
と名乗った。
「これから貴方は異世界で人生をやり直すと言う『罰』を受けます」
掌をチラチラ見ながら発言する担当官。
カンペか?
「無事に成仏出来るように、頑張って生きましょうね」
と励ましてくれた。
頭に二本、先が丸くなった触角を生やしていた。
プラプラ揺れているのが、可愛いと思えなくもない。
「大丈夫です。言葉は分かるようにしておきます。それが私の仕事ですから」
と、女性は微笑んだ。
そしてさらに、
「これから貴方が行く異世界よりも、貴方が元居た世界の方が科学文明が発達しています。その知識は流布しないで下さいね。世界のバランスが崩れてしまいますから」
と転生官さんは言った。
(もっともな話だ。黙っていよう。科学知識なんて、もともとぼくには無いけど)
「まあ、記憶の方を弄って、そこらへん、消しておきますけどね」
(そうか、消してくるのか。うっかり喋る心配がないのは有り難い)
「それでそのう、どうしてぼくはこんな所に?」
「ああ。お部屋でうっかり、亡くなられたとか」
思わず心の中で、
(知らんのかーーい)
と、突っ込むぼく。
「それでそのう、此処は?」
ぼくの問いに、小さく咳払いをする白き美女。
「神聖なる『転生の間』です。さまざまな世界に、幾多の勇者を送り出してきました」
そこでまた咳払いをして、
「わたしもそろそろ一人くらい勇者を当てたい……」
と呟いた。
「異世界の生活で苦労をしないように、不正な能力も授けるように指示されております」
とも、言った。
ぼくが大変に感謝していると、足の先から身体が消え始めた。
「転生」とやらが始まったのではないだろうか?
ぼくが慌てて、
「あのう、噂に聞く『不正能力の譲渡とやらが、あるんですよねっ?!」
とワンピースの女官にたずねると、彼女は、
「あっ!」
と言う顔をして、消滅した。
いや、消えたのはぼくの方だったのだが。
そして飛ばされたのが、この古戦場だ。
荒地(これでも観光地らしい事が、道を行く人々の会話から判明している)に、砲塔が四つある戦車、ロボット(おそらく)、重火器などが地面に半ば埋もれ、土を被り、苔生している。
左様。
「科学知識は消す」
と言っていたのに、そんな事はなかったのだ。
その荒地で、ぼくは転生してからずっとオロオロしている。身体が無かったからである。
もやっ、とした煙のような自分の身体は見えてるんだけど。
これも「転生」?
身体をどうしたら良いの?
現地調達?
でも、この世界の人たち、ぼくに気がつかないし、こちらから相手を触ろうとしても、身体をすり抜けてしまうのだ。
ほんと、就職面接の担当官と、異世界転生の担当官には気をつけた方が良い。
当たりハズレは運かも知れないけど。
(聞いてたのと、随分違う!)
(思っていたのと、全然違う!)
原住民と言うか観光客? の言葉は分かるが、向こうはぼくのこのモヤッとした足のない姿と叫びは、見えず聞こえずの様子なのだ。
そしてその観光客だが、人間の他、
とんがり耳のエルフ?
小柄で緑系の肌のドワーフ?
大柄で額に角の生えたオーガ?
などが確認できた。
それで思ったのだが、ここは異種族共存の世界ではないだろうか?
そして今、
「なんかこの辺、寒くない?」
と言って、古戦場を歩く女性が腕をクロスさせ、簡素な木綿服の上腕部を摩った。
(ぼくの存在を感知したのかも知れない!)
「あらそう? こんなに良い日差しなのに」
と一緒に歩く女性が言った。
「スーミン、風邪でも引きかけてるんじゃないの?」
(余計な事を言うな! その娘はぼくが傍に居るから寒いんだっ)
(きっと霊感がある娘なんだ!)
「あーー、風邪かなあ」
と言って自分の額に手を当てる娘さん。
(ぼくはここだ! 気がついてくれ、スーミン!!)
(自分を信じろ! ぼくを感じるんだっ!)
必至に呼びかけながら、二人連れの女性に付いて行ったが、彼女たちは、
「噂通り、殺風景な所ね」
と言う言葉を残して古戦場から出ていった。
無念だ。
ぼくはこの古戦場から出られないのだ。
そういう「縛り」らしい。
これって、自縛霊?!
「チクショーー!!」
ぼくは虚空に叫んだ。
誰にも聞こえなかったと思うが。
次回「あなたはメタルオーパーツ」(後)へ続く
読んで下さった方々、ありがとうございます。
「召しませ!『蛮行の雨』転生したら場違い工芸品にされたって本当ですか?!」連載第一回です。
一度に書くと疲れるので、短く切りましたが、後編はまた、今日中に投稿します。
一日で一話、投稿していく予定です。
一話は、四百字詰原稿用紙にして、八〜十枚くらいです。
ではまた夕方、
「あなたは、メタルオーパーツ」(後)で。