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生まれ出でて見る世界

 身体を揺すられる感覚で、意識が呼び覚まされた。

 どうやら地面に横たわっているらしく、左半身に土と草の感触がある。重い瞼をこじ開け身を起こすと、木漏れ日が視界を覆った。

「……」

 辺りは一面、樹々に覆われている。どうやら森の中にいるらしい。

 ざわざわと鳴る葉や、囀る鳥たちの声。

 あまりに長閑な情景に呆けかけたが、後ろから再び身体を揺すられて我にかえる。

 振り返ると、薄灰色の髪をした少女が、碧色の瞳を怒ったように細めながらこちらを見ていた。フード付きのコートを纏い、木製の杖を両手で抱き抱えている。



 ーー誰だ?



 そう思うと同時に、そもそもここはどこなのか、自分は何者なのか、何もかも分からないことに気がついた。思い出せるのは【エルク】という名前だけだ。

 記憶喪失というやつだろうか。過去がなく、自分の状況が全く分からないという恐怖がじわりと心を侵食し始めた時、頭の中に声が響いた。


(彼女はアリア。"真なる不死"、リィンカーネーションの魔女であったもの)


 その声の響きは、自分の声と全く同じものであった。自分の中にもう1人自分がいて、頭の中で語りかけてくるような感覚なのだが、ひょっとして自分は頭がおかしくなってしまったのだろうか。


(私はお前の導き手。生まれ直したお前をこの世界で導くために遺された残響的存在)


 何かを説明しているが、何を言っているのか分からない。頭の中で「もっと詳しく説明しろ」と念じてみるも、何も返事は無い。念じるだけでは駄目なのか、会話が成り立つような相手では無いのかは分からなかったが、試しに口に出して問いかけようとしたところで少女(アリアという名らしい)がすぐ近くでこちらを見ているのを思い出した。

 少女に、アリアという名前なのかを問う。少女は静かに頷き、そのまま黙ってこちらを見ている。寡黙な性質なのか、それとももしかすると喋ることができないのか……

 その時唐突に、なんというかこう身体がやけに自由というか、心許ないことに気がついた。嫌な予感がして自分の身体を見下ろす。



 ーーなんてこった。



 かろうじて股間には外套がかけられており、最低限の尊厳は保たれていたが、それ以外は下着すら身に纏っていない有り様だ。ただでさえ頭がおかしくなった懸念があるのに、変態の汚名にまで手を伸ばしたくなどない。

 少女に向こうを向いているように言い、立ち上がって外套を身に纏った。膝下まで覆われるサイズなので素肌はほぼ隠すことができたが、脛から下は裸足のままだ。何か靴の代わりにできるものは無いかと辺りを見渡すと、妙なものが視界に入った。

 それは人形のようにも見える、白い大きな何かだった。雪だるまとゴーレムの合いの子のような形をしていて、ちょうどこう、大人一人すっぽりと入れそうだ。人間でいう頭の部分の前面にはガラスの窓のようなものがついている。

 何かは分からない白いそれは、木の幹に寄りかかるようにして座っていた。ガラスから中身を覗いてみたが、暗くてよく見えなかった。


(腰にあるユーティリティポーチからユニバーサルツールを回収しろ)


 再び頭に声が響いた。ユーティリティポーチもユニバーサルツールも何のことかよく分からなかったが、白ゴーレムの腰辺りに袋のようなものがあったので、開けて中を漁ると白い直方体が出てきた。何か模様と文字のようなものが見えたので確かめようとすると、ピピッと甲高い音が鳴る。

『ユーザー認証開始ーー該当ユーザー検出完了、ユーザー照合失敗。原因不明のエラー。例外処理実行。セキュリティクリアランスlv.1を付与』

 謎の音声の後、直方体の表面に光る円が現れた。直感的にその円を指で押下してみると、直方体の先から光る刃が飛び出してきた。

 試しにそれで木の皮を剥いでみると、面白いほどするすると剥ぐことができた。切れ味が良すぎて怖いくらいだ。刃を入れる際に微かだが、「じゅ」と音がしたのでもしかすると熱を持っているのかもしれない。便利だがかなり危険な代物のようだ。

 気になることは色々あるが、今身体の大事な場所を隠すこと以上に重要なことはない。長く剥いた木の皮を身体に巻き付けて、下着と靴の代用にする。着心地はかなり悪かったが、風どおりが良すぎた色々なところが木の皮に覆われることでひとまず安心感が得られた。

 人間として最低限の尊厳が保たれたところでアリアという少女に声をかけようと振り返ると、彼女が血相を変えて木陰を見ているのが目に入った。警戒して木陰を注視するとーーそこから現れたのは目が血走った野生の獣の姿。


(アリアを護れ)


 頭の声に言われるまでもなく、エルクは駆け出していた。


■Battle

森の獣たち

--------------------------

○Turn1

・エルク HP 35/35

・アリア HP 21/21


・森の狼1 HP16/16

・森の狼2 HP 16/16


●森の狼1

唸る

→アリア

 恐怖で身が竦んだ


●アリア

身が竦んでいる


●エルク

かばう

→アリア

 ブロック付与


●森の狼2

噛みつき

→アリア

 ブロック発動!

→エルク

 4ダメージ!


アリアの竦みが回復した


--------------------------

○Turn2

・エルク HP 31/35

・アリア HP 21/21 ブロック


・森の狼1 HP16/16

・森の狼2 HP 16/16


●森の狼1

引っ掻き

→アリア

 ブロック発動!

→エルク

 5ダメージ!


●森の狼2

引っ掻き

→エルク

 3ダメージ!


●アリア

ファイアランス

→森の狼2

 40ダメージ!

 森の狼2を倒した


●エルク

攻撃

→森の狼1

 10ダメージ!


--------------------------

○Turn3

・エルク HP 23/35

・アリア HP 21/21 ブロック


・森の狼1 HP6/16

・森の狼2 HP 0/16


●アリア

ヒール

→エルク

 45回復


●エルク

攻撃

→森の狼1

 12ダメージ!

 森の狼1を倒した


--------------------------


 アリアの術式により生じた炎の槍が狼を貫き、炎上させる。エルクは狼達からアリアをかばいながら、先ほど手に入れたユニバーサルツールで攻撃を繰り出していった。

 じゅ、と。喉元に突き刺したユニバーサルツールから肉と皮の焼ける音がして、狼は大きく身を震わせたのち絶命した。

多少手傷は負ったが、無事アリアを守りながら狼達を撃退することができた。その手傷もすぐにアリアが回復術式で癒してくれる。



 ーーさて、と。



 脅威は去ったものの、問題は山積みだった。分からないことが多すぎて何から着手すればよいかすら判断できないくらいだ。本来ならば目の前の少女にあれこれ問いかけるというのがもっとも手早い手段だろうが、その手は使えそうになかった。



 ーーやはり口がきけないのか。



 狼に襲われている間も、術式で攻撃する時も、アリアは一言も発しなかった。悲鳴のひとつもない。今もただ、じっと黙ってこちらを見つめている。


(その子を連れて行くのがお前の役目だ)


 頭の中の声が言う。どこに、という問いに答えは返ってこなかった。

 どこに向かうにせよ、いったん森から出て人里に向かうべきだろう。危険だというのもあるが、兎にも角にもきちんとした服が着たい。

 そう少女に告げて、どちらに向かえば良いか分かるか問いかけると、彼女は杖で方向を指し示した。

 会話はできないが、暫くはこのコミュニケーションで何とかするか。エルクは短く溜息を吐き、アリアと共に杖の指した方向へと歩き出した。



To be continued…

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