0.ある男の手記
私がこの手記を残す理由は正義感などではない。
しかし、自分にケジメをつけたいというある種の逃避と誰かに見てほしいからであるという感情は否定しない。
私はこれからある人物を手にかける。
この主たる動機はここに綴ることは難しい。端的に述べてしまえば私自身彼らを理解しきれていないからだ。少なからずとも私の意志ではないことは記しておきたい。意識なき無意識がここまでに増長したと感じる。伏魔殿はいつも人間社会であると信じてやまない。
方法はいたってシンプルだ。
これから彼を欺き、古典的な方法で獲る。
よくある話ではあるが未必の故意というものを演出する。ミステリーはあまり読まないがトリックの謎解きすることは好きだ。そういった類のコンテンツをたまに目にする。私のことだろうから、手際よく事を済ますだろう。
思えばここに来た時から私はここの人間たちにすべてを握られていたのかもしれない。
次に来る『加害者』は私の歩んだ軌条をなぞるように、彼らの手中に落ちることだろう。不本意ではあるが、次の『加害者』を生み出さないためにもこの手記はどうにかこれを見つけてほしい。願わくば、聡明な警察やふと観光にでも来た人物に見つけられ、どうにか動機を解明してほしい。
残念ながらこの手記が見つかる頃には、私はこの土地には存在しない可能性が高い。
なぜここまで記述しているにもかかわらず、私はこの場から離れたり、所轄の警察に相談しないのか、私でもわからない。
脅迫、マインドコントロール、妄信的な信仰心など私の覚えている限りではなかったと考えている。もちろんこれは私の主観で、憶測でしかない。すでに術中にあるかもしれない。
最後に伝えたいのは、私はただ誰にも縛られたくなくこの土地にやってきたということだけだった。都会の喧騒から距離を置き、のびのびと暮らしたいということだけだった。
いつの間にか、ここの住人と溶け込み、暮らし、打ち解けていった。
そんな彼らは私を徐々に囲い、そうせざるを得ない状況へと導いたと考えている。なぜだかもうどうすることもできない。そんな呪縛が私の平常心に根付いた狂気を醸成させたと考えている。最も恐ろしいものは孤独と無意識の悪意である。
もう一つ最後にここの人間と『話して』はいけない。
それが自分自身と無辜の人々を救う最適な手段だ。彼らと対峙するときに必要なことは覚悟ではなく観察であると考えている。
どうか救世主が現れていることを願ってやまない。
もうそろそろ、『狩り』の時間だ。この手記はここで終わりとしたい。
支離滅裂な文章であったがどうか許してほしい。いつか報われる時を信じている。
追伸 悪魔や天使、ましてや神も存在しない。あるのただ人間だけだろう。