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9 夢のような日々(アランSide)

 ローゼリアと結婚して、領地を繫栄させ両親を安心させる。

 それがあの時受けたローゼリアの父親であるワンド伯爵への恩返しだと信じていたし、それが当たり前だと思っていた。


 ローゼリアは小さな時から僕を頼って、僕のあとをついてくる可愛い女の子だった。

 ずっと一緒に暮らしているから妹のような存在かというと、それは違う。


 毎日毎日『将来のお嫁さん』と言われ続けていたから、そうとしか思えなかったし、幼稚な僕は結婚するということが、どういうことかさえ分かっていなかった。


 貴族学園に進学し寮生活が始まると、僕の知らない世界がたくさんあることを知った。

 婚約者を持っている生徒はたくさんいたし、僕もその一人だったけれど、婚約者がいない方が圧倒的に多かった。


 そんなクラスメートに聞くと、ほとんどの奴が在学中に恋愛をして決めるという。

 恋愛をするという感覚が無かった自分に驚いたが、自分には無縁なことと思っていた。


 僕はローゼリアが可愛かったし好きだったし、ローゼリア以外と結婚するなど想像もできなかったから女生徒にも恋愛感情を持つことはなかった。

 

 ローゼリアが一年遅れで入学してきて、彼女と同室になったララという伯爵令嬢に彼女の兄という人を紹介された。


 同性の僕から見ても、ものすごくかっこよくて、成績も常に上位で、生徒会にも所属していて将来の皇太子側近だというエヴァン様は、僕にとってまさに雲の上の存在だった。


 そんなエヴァン様が僕に期待していると言ってくれた。

 いずれは領地に帰ることは決まっているからとは考えず、死に物狂いで勉強してみろと言われたときは、なぜかとても嬉しかった。


 僕にも自分で選ぶ権利があると言われた気がしたんだと思う。


 どうせ頑張るなら、エヴァン様と同じように生徒会を目指そうと思った僕は、ローゼリアに割く時間を少し減らして勉強に回した。


 彼女もララと一緒にいろいろ楽しい時間を過ごしているからだろう、特に不満を言うわけでも無かったから助かった。


 エヴァン様が卒業して皇太子の側近となり、きらびやかな制服で学園に来る度に、官僚に憧れる気持ちは強くなった。

 絶対にあの人のようになって、あの制服に袖を通すということが僕の目標になっていた。


 その努力の結果が実を結び、僕は生徒会役員に選ばれた。

 あの狭き門をクリアしたのだと思った僕は、少し調子に乗ったのだと思う。


 あの頃の僕は自分の輝かしい未来ばかり見ていた。

 その未来にローゼリアの姿があったかどうか、今になっては思い出せない。

 嫌いになったわけじゃなく、存在することが当たり前すぎたのかもしれない。


 最終学年になる前に、領地経営に役立てようと専攻していたワイドル語が決め手となって、ワイドル国から留学してくる王女殿下の学友に選ばれた。

 学長から生徒会の仕事の一環だからといわれ、全てのスケジュールを僕だけ王女殿下に合わせることになった。


 面倒な事務作業から逃げられるのは嬉しかったし、あわよくば官僚に推薦してもらえるかもしれないという下心もあった。

 学長に呼ばれ、生徒会長と一緒に応接室に行くと、去年ワイドル国の王配となられたルーカス殿下とマリア王女殿下がおられた。


 ルーカス殿下の後ろには憧れのエヴァン様がにこやかに立っていて、近い将来の自分を見る思いがした。


「殿下、こちらがアラン・ハイド子爵令息です。彼はワイドル語を習得しておりますので、王女殿下の学友として選びました」


 学長が僕をお二人に紹介してくれた。

 正式な礼をして、言葉がかかって顔を上げた僕は、雷に打たれたようにマリア王女から目が離せなかった。


 まるで今朝開いた深紅のバラのような美しさだ。

 アクアマリンのように透き通った水色の瞳が、僕をずっと見つめている。


 学長がいろいろ話しているが、僕の耳には入ってこなかった。

 うっすらと頬を染めたマリア王女殿下の口が動き、僕の名前を呼んだ。


「アランね?よろしくお願いしますわ」


「全身全霊でお仕えいたします」


 どうしよう、失礼なほど見てしまう。

 あの頬に触れてみたいと不埒なことを考える自分が恐ろしい。


 王女殿下には住居となる王宮へ、毎朝迎えに来てほしいと言われた。

 エヴァン様は非効率だと反対してくださったが、マリア王女が譲らない。

 結局僕の方から、毎日迎えに行きますと言ってしまった。

 対面式が終わって生徒会室に帰ろうとしていた僕を、エヴァン様が呼び止めた。


「無理をするなよ?長続きしないぞ」


「いえ、全く無理じゃないです」


「あちらには護衛も侍女もいるのだから、放課後まで付き合う必要は無いから。くれぐれもローゼリアに寂しい思いをさせないようにしてほしい」


「勿論です」


「それなら良いが…まあ、頑張ってくれ」


 エヴァン様は不安そうな顔を一瞬だけ見せて去って行った。

 それから僕の毎日はマリア王女一色になっていった。

 授業が終わったら王宮に行き、学園のルールなどをレクチャーする。


 授業に早く慣れたいからと言われ、彼女の部屋で夕食をとり勉強を教える日もあった。

 休日も呼び出されて王宮に向かう僕は、朝から晩まで、それこそ寝ている時間以外はすべてマリア王女に捧げたといっても過言ではない。


 来週からいよいよ登校と言う頃、彼女の歓迎ダンスパーティーの衣装が届いたと、何気ない雑談の中で話したら、見たいと言う。

 別に構わないと思って見せたのだが、まさか彼女が自分のドレスの色を合わせてくるとは思わなかった。

 パーティー当日の朝、迎えに行った僕に彼女はタイブローチをくれた。

 

「このひと月、私のために毎日王宮に通ってくれたお礼よ。今日のパーティーで必ず着けてね」


 僕は何の迷いもなく、ローゼリアから贈られていたブローチを外してそれを着けた。

 その時の僕はローゼリアに悪いとさえ思わなかった。

 まるでそうすることが当たり前のように、僕はローゼリアの瞳の色のブローチを無造作にポケットに突っ込んだ。


「アラン!どういうことだ!」


 王女をエスコートして馬車に乗り込もうとする僕の肩を、エヴァン様が掴んだ。


「私がそうしろと言ったのです。お控えなさい」


 マリア王女が毅然と言い放った。

 エヴァン様は歯を食いしばって手を離した。


 もちろんローゼリアのことを忘れたわけではないし、嫌いになったわけでもない。

 正直に言うとローゼリアのことを考えてもいなかった。

 

 僕はマリアに恋をしていたんだ。

 初めて会った瞬間に恋に落ちたのだと思う。

 毎日夢の中で暮らしているような気分だったんだ。

 彼女との距離は離れるどころか、どんどん近づいていった。


 それからもずっとエヴァン様には出会うたびに苦言を呈された。

 王女との距離を考えろと言われ続けた。


 そんな毎日の中で、半年が過ぎた頃、いつものように王宮の彼女の部屋で一緒に勉強していたら、急にマリア王女が人払いをした。

 もちろん王族の女性が学友とはいえ、男の僕と二人だけで部屋にいるわけにはいかないから、侍女が一人と騎士が一人は残っていた。


「アラン、あなたがいつまで経っても言ってくれないから私から言います。私はあなたが好き、愛してしまったの。卒業しても離れたくない。私と一緒にワイドルに行ってくれない?お父様に言ってそれなりの地位は用意します」


 僕は頭が真っ白になった。

 勿論嬉しかったけど一番に思ったのは、婚約者のことではなく、女性から告白させてしまったという後ろめたさだった。

 

「思いがけないほど光栄なお申し出ですし、大変ありがたく存じます。私もマリア王女殿下をお慕いしております。私から口することは絶対にダメだと思い諦めていました。マリア王女殿下、私アラン・ハイドはあなたを心から愛しています」


「では一緒に行ってくれるのね」


「それは両親とも相談しなくてはいけませんし、私には婚約者もおりますので即答はご容赦願います」


「そうね、わかったわ。でも私たちは愛し合っているとわかったのだもの、私のことはマリアと呼んでほしいの。お願い」


「では二人の時はそのように」


 そう言った僕の頬を挟んで、マリア王女は口づけてきた。

 僕にとっては初めての経験だったけど、彼女の唇はものすごく柔らかくて吸いつくような感触だった。

 無抵抗な僕の口腔は彼女の舌に蹂躙され、僕は彼女の唾液を夢中で貪った。



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