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35 サミュエル殿下の進言

「それって今の時間に話し合ったの?あなたたちが?」


「はい、私も一緒に聞いていましたから間違いありません」


「サミュエルってそんなに普通に喋れるの?」


 え?今の内容を聞いて気になるのはそこですか?


「脳内では可能なようです」


「口が動かないのかしら」


「いえ、そうではなく…脳内で会話した方が効率的だとお考えのようです」


 まさか面倒臭いとは言えない私は苦しい言い訳をひねり出しました。

 そんな私を見て殿下がニヤッと悪い顔で笑います。


「いつかは私とも会話をしてくれるかしら」


 私は殿下の顔を見ました。


〈少しぐらい喋って差し上げてはどうですか?〉


〈考えておく〉


「きっともうすぐできるようになります」


 私はほんの少し意趣返しの気持ちを込めてそう言いました。

 殿下からは何の反応もありませんでしたので、そのうち話す気はあるのでしょう。


「そう。それなら嬉しいわ。それにしても内容が内容だわね。すぐにでも議会を集めましょうか」


〈ローゼリア、議会はまだ必要ない。説明して理解させる時間が惜しい。仮説が正しいと検証できた時点で父上からのトップダウンで事を運んだ方が良いだろう。それより兄上を呼び戻す方が先決だ〉


 私の心臓が跳ね上がりました。

 皇太子殿下一行が旅の途中で災害に巻き込まれては大変です!

 

〈兄上を帰らせる事はエヴァン卿を帰らせることと同義だしな〉


 私は殿下の言葉にポッと頬が染まってしまいました。


「皇后陛下、サミュエル殿下のお言葉をお伝えします。大至急皇太子殿下一行の帰国をとの事です」

 

「わかったわ!」


 皇后陛下は廊下に控えている侍従を呼び、近衛騎士を一人付けて国王の元に走らせました。


「私も戻って陛下に進言しましょう。サミュエルはまだここに居る?」


〈もう少しここに居る〉


「もう少しここに居るとのことです」


 皇后陛下は無言で頷き、急いで部屋を後にされました。

 博士があまりの慌ただしさに挙動不審になっています。


「えっと?ローゼリア?彼らは脳内では片言では無いのだね?」


「はい、私よりよほど高度な会話ですね」


「ではなぜ話さないんだ?」


「話してしまうと、いろいろと面倒なことに巻き込まれてしまうことを懸念しているようです」


「面倒なこと?」


「ええ、難しい問題を持ち込まれたり、何かの仕事を押し付けられたり。次々に頼られて自分のための時間を失うのは想像に難くないですね」


「なるほど。名誉より実利か。では彼らは自閉症ではない?」


「いえ、その傾向はベースにあるでしょう。敢えて誤解を恐れずに表現すると、天才型自閉症ですね。とんでもない少数派だと思います」


「では殿下も?」


「私の感想よりご本人に聞きましょう」


〈私は違うな。天才でも自閉症でもない〉


「違うそうです」


〈物凄く怠惰な超越者だ〉


「物凄く怠惰な超越者だそうです」


「超越者?高い能力を持っているのではなく?」


〈強いて言うなら判断力と統率力、それを行使できる高い地位を持っているが、滅多に使う気にはなれない。シニカルに世の中を覗いているのが一番楽しいと感じている偏屈な奴だ〉


〈それ言うんですか?〉


〈構わんが更問が来そうで面倒だから、エスパーって言っておいてくれ。エスパーについては自分で調べろと言え〉


「エスパーなのだそうです。エスパーについては自分で調べた方が納得できるだろうとの事です」


「エスパーか…なるほど」


 博士は何かを考え始めたようで、黙り込んでしまいました。

 真剣な時の彼の癖なので放っておきましょう。


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