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ナイジェルの恋<最終話>

 その頃、悲しみにくれるツェツィーリアのもとに以外な訪問者が訪れていた。皇后イレーネだった。

「イレーネ様・・・」

 起き上がろうとするツェツィーリアをイレーネは優しく戻した。

「・・・・・・・・・」

「・・・泣いていたのね?可哀想なツェツィー」

「イレーネ様、私・・・私は・・・」

 イレーネは黙ってとツェツィーリアを制止した。

「ごめんなさい。ツェツィー。もっと早くあなたに謝りに来たかったのですが愚かな自尊心が邪魔をして・・・本当にごめんなさい。あなたは全く悪く無かったのに酷いことをしてしまって・・・本当にあの日のわたくしはどうかしていました」


 いいえ、いいえとツェツィーリアは首を振っていた。

「いいえ、イレーネ様。私に謝る必要はございません!私・・私は確かにあの人が陛下だとは知りませんでした。でも・・・でも・・・私は陛下のこと・・・」

 涙がこぼれて最後まで言葉が出なかった。

 イレーネはツェツィーリアの瞳をじっと見て優しく微笑んだ。

「あの方が好きなのね?」

 ツェツィーリアはぎゅっと瞳を閉じて小さく頷いたようだった。

 イレーネはそっと泣く彼女の頭を胸に抱いた。

「可哀想なツェツィー。あの方は夜空の月のような人――むくわれない恋ね」

「はい・・・それに私は・・・私は大事な赤ちゃんを――」

「あなた!知っていたのね・・・私達はお互いあの方にとって必要が無くなった存在・・・でもあなたの方がこれから辛いでしょうね?そんなにあの人を愛しているのだから・・・私はそんな感情は無いのよ。もちろん最初の頃は憧れたものだけど今はこの厄介な自尊心だけ・・・だからツェツィーあなたはこれからもっと辛いでしょうね・・・」


 〝これから〟と言う言葉にツェツィーリアは泣いた。これからに希望は無いのだ。イレーネの言う通りナイジェルにとって不必要な物となってしまったのだ。彼の口からその事を告げられた時、自分は耐え切れるのだろうか?考えただけでも胸が張り裂けそうだった。

 ツェツィーリアを慰めたイレーネが部屋から出ると入り口でナイジェルと出くわした。

「イレーネ何故ここに?」

「ツェツィーの見舞いでございます」

「お前が?」

「陛下こそ、まさか今からツェツィーの所へ?」

「まさかだと?お前にそのように言われる覚えは無いが?」

 イレーネが両腕を広げた。


「なりません!彼女は今、大変傷付いております。身体では無く心がでございます」

「黙れ!お前に関係は無い!そこをどけ!」

「いいえ。お通しできません!今は精神的に不安定でございます。ですから陛下が行かれればもっと傷付くことでしょう。もう暫くそっとしてさしあげてくださいませ」

「私に命令するのか!」

 イレーネはナイジェルの恫喝に怯む様子も無かった。イレーネはツェツィーリアの心が傷付いていると言う。その原因が自分にあると?確かに自分のせいで彼女は怪我をし、子まで失った。それよりも彼女には嫌われる事ばかりしていた。自分から逃れようとして食事を取らず反抗した。


(そうだった・・・いつも私から逃れようとしていたじゃないか・・・)


 彼女の役目は無くなってしまった・・・引き止める理由が無いのだ。彼女はまだその事を知らないが、何時までも隠せるものではない。どうしたら留まってくれるのか見当もつかなかった。しかし自分の本当の気持ちに気が付いた今、行動せずにはいられなかったのだ。ナイジェルは立ちふさがるイレーネを無理やり押し退け、ツェツィーリアの所へと向った。

「ツェツィーリア!」

 泣きはらした顔が真っ直ぐにナイジェルを見た。

その顔を見ると自分の心を告げる勇気が消えそうだった。それでも・・・


「ツェツィーリア・・・子は・・・死んでしまった。お前の役目は終わって――」


 ナイジェルは口をつぐんだ。ツェツィーリアが悲鳴をあげたからだ。悲痛な叫び声だった。

「出て行って下さい!出て行って―――っ!それ以上聞きたくない!いや―――っ」

 激しい拒絶だった。愕然とするナイジェルをイレーネが連れ出した。ナイジェルの整った顔が真っ青だった。イレーネはその様子に疑問を感じた。今までとは違うナイジェルを用心深く見つめた。


(もしかして?でも・・・まさか?)


 半ば呆然として去って行くナイジェルを見送った後、ツェツィーリアの様子が心配になって戻ってみた。彼女は完全に自分を失っているかのように身じろぎひとつせずにいた。

「ツェツィー?」

 ツェツィーリアがすっとイレーネの方を向いた。

「・・・イレーネ様・・私・・・もう駄目です。やっぱり耐えられません。私は物では無いのです。心があります・・・好きな人から物扱いされ、捨てられるぐらいなら・・・」

「ツェツィー。それはどうかしら?あの方は――」

 イレーネは言葉を呑んだ。


(もしかしたらあの方はツェツィーを愛しているのかも・・・)


 さっきはそう感じたが確証は無いのだ。希望を持たせて違っていたら更に傷付くかもしれないと思った。

「・・・私死んでしまいたい・・・」

「何を言っているの?駄目よ!心を強く持ちなさい!」

 イレーネはそう言いながらこの子はもう駄目だと思った。耐え難い悲しみが続き、心が壊れかけている・・・このままでは本当に死んでしまうだろう。


(それならばせめて・・・)


「ツェツィー。死ぬのは怖いわ・・・痛いし苦しいのよ・・・だから私が眠るように死ねる毒薬をあげましょうか?」

 ツェツィーリアはほっとした顔をして頷いた。その顔が痛ましかった。

 その後、イレーネは紅い液の入った硝子の小瓶をツェツィーリアに手渡した。そして彼女をぎゅっと抱きしめた。

「さようならツェツィー。ゆっくり眠りなさい・・・そして今度生まれかわった時は幸せにおなりなさい・・・おやすみなさい。可愛いツェツィー・・・」


 ツェツィーリアは手渡された小瓶を見た。そして窓を見上げた。今日は闇夜で月は出ていなかった。せめてナイジェルのような月に見守られながら死にたかったがそれさえも叶わないらしい。

小瓶の蓋を開けようとするとその硝子がほのかに光った。ツェツィーリアは再び窓の外を見上げると雲の切れ目から月が覗いていた。


涙が一滴こぼれた・・・・・・


冷たく優しい月の光に照らされながら一口、二口と一気に飲み干すと瞼が落ちるまで、ツェツィーリアはその月を眺め続けたのだった。


(闇夜に浮かぶ月のような人・・・紫の石のような瞳・・・愛していました・・・)


 そしてツェツィーリアは本当に眠るように逝った。

朝を告げる鐘がまるで弔いのように鳴り響いているときだった―――


 その知らせは大神官クレヴァーによってもたらされた。昨晩より何かにとり憑かれたかのように皇宮に詰め、政務をし続けていたナイジェルはその言葉に耳を疑った。

「な・・・何?もう一度・・・もう一度申してみよ・・・ツェ・・・ツェツィーリアが死んだ?」

 ナイジェルは何かの聞き間違いだと思った。クレヴァーがとうとうもうろくしたのかと嗤いが出た。いつもより更に年老いたかのような様子の大神官は鎮痛な面持ちで答えた。

「・・・・・・ご自分で毒を飲まれたご様子だそうです・・・見つけた時には既に・・・」

 昨日の激しい拒絶―――


 冥の花嫁で無くなった彼女へ、そんな役目や義務に関係無くツェツィーリア自身を愛していると伝えたかったのに言葉さえ聞いてもらえなかった昨日。今更、愛を告げてどうにかなる関係で無い現実を思い知らされた。分かっていたがどうしても自分の気持ちを伝えたかった。告げた後は彼女が許して心を開いてくれるまで幾らでも許しを乞いたかった。

しかし激しい拒絶にあい、初めて自分が他人に対して謝るその勇気が無くなってしまったのだった。昨晩は一睡もせず仕事に打ち込み、その不安な気持ちを打ち消そうとした。

今日、再び勇気を持って彼女と会うために・・・それなのに・・・


(死・・・死んだ?ツェツィーリアが?死・・・・・・)


 ナイジェルの手や足が指先から冷たくなっていく・・・身体中が震え立っていられなかった。鼓動が乱れ、遠くで耳鳴りがする。クレヴァーの言う事が信じられなかった。よろめきながら痩せたクレヴァーの肩をつかんだ。言葉が出ない。

「誠に残念でございます···後宮では大変な騒ぎでございましたから、遺体は既に大神殿に運んでおります」


 ナイジェルはその言葉を聞いてもまだ信じられなかった。足は大神殿へと向う。神殿の冷たい回廊には死者を送る香がむせ返るように漂いまとわりついてくる。その回廊が長く永遠に辿り着けないかとも思った。嫌、辿り着きたく無かったのが正直な気持ちだろう。

ツェツィーリアは皇族が使う祭壇の前に安置されていた。そこは静かで夜を思わせるような空間が広がり、香と共に死者に手向けられた花々の香りがした。

その中心の棺の中にツェツィーリアはいた。彼女は白い花のしとねに横たわり、純白のドレスを身に纏っていた。いつもそれを見れば胸が苦しくなった瑠璃色の瞳は閉じられ、金糸のような髪で縁取られた顔は本当に眠っているようだった。


「―――ツェツィーリア····」


 ナイジェルは優しく彼女の名を呼んだ。頬に触れ唇に口づけをした。それらはまるで彫刻のように硬く冷たかった。

「何故?こんな事に···そんなに私が嫌だったのか?ツェツィーリア答えてくれ····」

 もちろん彼女が答える筈が無かった。

しかし代わりに棺に付き添っていたイレーネが淡々と答えた。

「貴方は彼女を道具のように扱われました。用が無くなったら捨てる···わたくし同様都合のいい物として···わたくし達にも心があります。それなのに無理やり都合だけを押し付けて····これは冥神が与えた罰ですわ」

 ナイジェルは違うと言えなかった。確かにイレーネを利用し、最初ツェツィーリアも子を産む道具としか思っていなかった。非難されても返す言葉が無かった。


(冥神の罰―――確かにそうだ)


 ツェツィーリアをそこまで追い詰めて子と彼女を亡くした。こんな愚かな者はいない。彼女が心を開くまで自分を愛してくれるまで待てばこんな事にはならなかったのかもしれない。全ての原因は自分の傲慢さだった。

「クレヴァー···」

 ナイジェルはツェツィーリアから視線を外さず、後ろに控えていた大神官を呼んだ。

「はい。此処におります」

 クレヴァーは力なく言葉を発する主君の声が聞こえるように進み出て控えた。

「····愚かな私が冥の花嫁を道具のように扱ってそれを苦に花嫁は自害し冥神の逆鱗にふれたと後世に記せ···もう二度とこのような悲劇が起こらぬように。皇室秘事には···そうだな····花嫁から結婚の承諾を貰わねば冥神の怒りに触れ子が授からぬとでも書くように···そのような当たり前のことさえ驕っていた私には分からなかった···」

「陛下····確かに承りました···」


 クレヴァーは涙した。初めて孤独な皇帝が愛に気付いた時には遅かったのだ。

 ナイジェルは棺の中のツェツィーリアを優しく見つめながら話しかけていた。

「ツェツィーリア···まるで花嫁衣裳を着ているようだな。とても良く似合っている···私の花嫁···その存在を聞かされた時から既に私はお前に恋していたのだろう···」


 イレーネは、はっとした。やはりと思った。


 ナイジェルはまるで二人だけの世界のように語り続けている。

「――自分の気持ちに気付かなかった私は随分酷いことをしてしまった。嫉妬という初めての感情に振り回されて···言い訳にはならないな···愛していた。頭がおかしくなるぐらい愛している。嫌··もう狂っているのかもしれない。子が流れたと聞いた時よりも、その子の為にお前の命が危なかったと聞いた時の方が恐怖を覚えた。そしてお前を危険な目にあわせた哀れな私達の子を憎んだ。皇統を継ぐ者の最大の義務であったものよりもツェツィーリアお前の方が大事だった。そう思う私は皇帝失格だろう···愛しているツェツィーリア···愛していた····」

 廃位されても仕方が無いとさえ思ったもの・・・国の未来よりもこれから流される多くの民の血よりも一人の女の命の方が重いと感じる自分だった。


「·····これは夢?幸せな夢··月のように遠くてつかめない大好きな人···紫色の瞳の·····声もだけど顔まで優しそう···」


 ナイジェルの時間が止まった―――


(夢なのか?)


 それならなんと残酷な夢だろうか?


(神が与えた罰か?こんな幻を見せるなんて···)


 それともとうとう気がふれたのだろうか?ツェツィーリアの瑠璃色の瞳が開いているのだ。しかも自分を好きだと言って微笑んでいる。

知り合った頃のような微笑―――

「ツェツィーリア」

 ナイジェルの強く呼びかけた声を聞いた彼女が不安そうな顔になった。

 ナイジェルは思わずツェツィーリアの頬に触れた。彼女はビクリと震えるといっそう不安な顔になった。


「な、何?夢··夢じゃないの?」


 ナイジェルも頬に触れた指が震えだした。幻でも夢でも無い現実のツェツィーリアをその指は感じている。ナイジェルはまるで壊れ物でも扱うようにそっとツェツィーリアの顔を両手で包んだ。伝わってくる柔らかな温もりに瑠璃色の瞳が大きく開く。


 そしてツェツィーリアはナイジェルの宝石のような紫の瞳から一筋涙が落ちるのを見た。


父皇帝が崩御した時でさえ涙する事の無かった孤高の皇帝ナイジェルが初めて流した一筋の涙――――

 何も言わずナイジェルはツェツィーリアを棺からすくい上げ抱きしめた。その腕の力が増していく―――全てを呑み込むかのような力強い抱擁。

「あっ··」

 そして口づけ―――

 ツェツィーリアは夢の中でナイジェルの告白を聞いていた。幸せな夢だと思っていた。自分は毒を飲んだのだから死んだ筈だった···何故?

 愛される喜びの甘美な酔い―――もう何も考えられなかった。でもナイジェルの痛いほどの愛を感じた。


 驚き見守るクレヴァーの隣でイレーネは微笑んでいた。

「大成功でしたわ」

「成功?何がでしょうか?」

「ツェツィーが飲んだのはわたくしが毒だと言って渡した仮死状態にする薬でしたの。ツェツィーの為にも陛下のご本心を確かめたかったのです。ツェツィーは本当に陛下の事を愛していましたから···もし陛下のお心が彼女になければ生まれかわったと思って生きるようにと言うつもりでしたのよ。わたくしも陛下が彼女の事をあれほど想っていられるとは思っておりませんでしたから嘆く姿を見ていて少し胸が痛みましたけれど···まあそれは、わたくしを離縁して頂く慰謝料とさせていただきましょう」

 イレーネはそう言い残して微笑みながら愛を確かめ合う二人を残し去って行った。


 その後、イレーネとの婚姻を解消したナイジェルはツェツィーリアを冥の花嫁では無く普通の娘として娶り盛大な婚礼を行い、民はこの婚儀に熱狂した。皇帝が長年連れ添った皇后を退けてまで愛した娘が、地位も財産も無い一般の娘という事にだ。


血筋を最も重要視する皇族がそんな娘を選ぶことなど今まで無かったからだろう。若い娘達など突然自分が〝冥の花嫁〟となって皇子が迎えに来ると云う夢物語のような話より、ずっと身近で夢のある出来事に感じていた。ツェツィーリアが冥の花嫁だったという事実は一部のものしか知らなかったせいもある。


 もちろんイレーネにたいする皇帝への批判は密かにあった。しかしそれよりも人が変わったかのようなツェツィーリアにたいするナイジェルの深い愛情に皆口をつぐんでしまっていた。

 そしてその後、ツェツィーリアはナイジェルとの間に女児を出産した。その子の胸には当然、星の刻印は無かったがその生まれた日に大神官クレヴァーは神託を受けた。冥の花嫁誕生の知らせだった。


十七年後その皇女に星の刻印が現れる―――


 皇女の夫候補達に皇帝ナイジェルは宣言する

〝冥の花嫁の承諾無しには婚姻できぬ。これは冥神の威令なり〟と―――

 神の名のもと勝手な盟約を追加した皇帝だったが冥界の神々は微笑んでいるだろう。



 そして時代は廻る―――

「ティアナ?何を見ている?」

 熱心に足元を見ながら歩いている彼女にレギナルトは問いかけた。

「ほら、見てください。キラキラ石が輝いているのですよ。お昼に何度も通っていたのに気づきませんでした。皇子は知っていましたか?」

 彼女は顔をあげてにっこりと微笑んだ。レギナルトもつられて微笑む。

「ああ、これは夜に光る宝石を埋めてあるからだ」

 宝石と聞いてティアナは驚いた。そしてまた熱心に眺めだした。


「赤に黄色・・・えっと緑に・・・・」


 今日は満月の夜だった。所用があって出かけたが思ったより遅くなってすっかり夜になっていた。でも月夜を散歩したいというティアナの希望で城内を歩いているところだった。


彼女は夢中になって石畳の宝石を見ている。何がそんなに楽しいのかとレギナルトは思った。だがティアナのする事は何でも可愛らしいし自分に新しい感覚を教えてくれる。昔からあるこの道に何を感じているのだろうか?ティアナは自分には考えられない発想を時々するから面白い。

 ティアナが顔をあげて輝くように微笑んで弾むように言った。その笑顔が眩しい。


「ねえ皇子。こうして見ていると夜の花園みたいですよね?」


(夜の花園?彼女はこの道をそう感じるのか···花園か?)

 

レギナルトはふと何かを思い出しそうになった。

「前もそう言っていたな?」

「え?私が?」

 ティアナは首をかしげて考えてみた。そう言われればそうかも···でもこれを見つけたのは初めてだし···?それにふと言葉が出た。

「でも、残念···紫の石が無いわ。私好きなのに···」

「それも聞いた事があるな」


 私が?と困ったように考え込んでいるティアナの顔に、レギナルトが口づけを落とした。

「明日にでもこの道に紫の石を埋めさせよう」

 ティアナはとんでもない事をさらりと言う皇子に仰天した。何時もそうだ。

「えっ!そんな駄目です!宝石なんでしょう?贅沢過ぎます」

 

こんな何でも無い事が贅沢だと言うティアナが可愛らしくてレギナルトは微笑んだ。どんな事でも叶う立場にいるというのに何時まで経ってもこの性格は変わらないらしい。

「何故?好きなのだろう?」


 大好きな皇子の紫色の瞳が優しく揺れ、ティアナは真っ赤になってしまった。宝石のような紫の瞳を持つ皇子。他のどんな色の宝石よりもその色の宝石が一番好きなのだ。

「···皇子は意地悪です。私が何故それを好きか知っているのに聞くなんて···」

 レギナルトの唇が端だけ意地悪くふっと上がった。

「そうか?そうだな。私が青···嫌、瑠璃色が好きなのと同じと言う訳か?」

 

ティアナは耳まで真っ赤に染まってしまった。レギナルトは小さく笑いながら彼女を腕の中に包み込むと、赤く染まった耳朶に囁いた。

「次の満月までにこの道にお前の望む石を埋めよう。そしていつも月が満夜は共に此処で過ごそう···約束だ」

 それからレギナルトは恥ずかしそうに小さく頷くティアナの顎を持ち上げた。薔薇色の唇が誘うように開いている。レギナルトは微笑み、その可憐な唇にそっと甘い口づけを落とした。夜の花園がまるで風に揺れるように煌いていた夜だった―――


無理やりハッピーエンドへもっていきました。かなり無理やりですけどね。本編では「昔、冥の花嫁が道具のように扱われて嘆き、自ら命を絶った」と書いていましたから…まさかこんな話を書くとは思わず…はははは。

でも恋愛ものはハッピーエンドじゃないと私的には×なので、と言うかそうじゃないと絶対イヤなので無理やりまとめさせて頂きました(笑)


 しかしこの話はレギナルトの前世でも、ティアナの前世では無い案もありまして、結構途中までそんな気分でした。それはイレーネとのハッピーエンドで書き始めていたからです。あて馬が冥の花嫁だったのですが宝石の道の妄想がふくらんでしまって、「ああーティアナとレギナルトだったらこんな感じ?」と、想像すると一気に発想が転換してしまったのです(笑)そして現在の二人に繋ぐ~~この宝石を散りばめた石畳の道は双方のシーンで書きたかったのですよ。ほほほほ・・・・金持ちっていいですね(う~っとり)最近この国ってオイルダラーの国かと思ってしまいます(オイルダラー = 金持ち王族←私の変な誤解?


というわけで最後のシーンの為に書き直されてしまった・・・・という裏話でした。如何でしたでしょうか?また冒頭におススメしたレギナルトが好きな方には、ご満足頂けたナイジェルだったかと思いますが?私は満足です(笑)

今回は少し暗めの話でしたがこの後が大事なんです!これのサイドストーリーがお気に入りなんですよ!←自分でお気に入りって言うなって。私の小説はいつもの事ですが、本編の主人公達より脇役達に愛情注いでしまってます。なので同じく気に入って頂けると嬉しいです。

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