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極剣と猛毒の薬師

「バロンウルフか。こんなものが生息していたとはな」


 巨木の枝に届く巨躯の狼に三人の男達は抱き合って震え上がる。メディも体が動かなかった。

 バロンウルフの等級は一級、冒険者ギルドが集団討伐クエストとして依頼を出すレベルだ。

 国が本腰を上げるには十分すぎる化け物であり、一級の冒険者といえど単独で挑むには危険だった。


「ア、ア、アアア、アイリーンさん! ままま、ま、まずいですよぉ!」

「何年もまともに山狩りを行なっていなかったようだからな。こんな個体が誕生しても不思議はない。さ、帰るぞ」

「え?」


 アイリーンが消えた。バロンウルフに十字の切れ目が入る。間もなく分解されて、四等分にされたバロンウルフがどしゃりと森に落ちた。


「はい? あぇ? え?」

「久しぶりに思いっきり剣を振るえた。が、少々やりすぎたか」

「ひゃっ!」


 アイリーンが再びメディの隣に現れた。息一つ切らさず、アイリーンは剣をまじまじと見つめる。

 三人の男達はその佇まいに恐怖して、腰を抜かして立てない。


「な、なぁ。あんた、あの『極剣』のアイリーンか?」

「そう呼ばれることもあるな」

「あ、ああ……やっぱり、そうなのか……なんで、こんなところに……。かつて数百の魔獣のスタンピードをたった一人で解決した……剣神……」

「へぇ! アイリーンさんってすごいんですねぇ!」


 その程度の反応かと三人の男達はメディに違う意味で畏怖する。

 今の瞬殺芸を見て、なぜ目を輝かせられるのか。男達がそう思うのも無理はないが、元々メディはアイリーンが神の肉体を持っていると知っている。

 たった一匹で騎士団を半壊させられるバロンウルフの脅威を知らないメディにとっては当然の反応だった。

 一方でアイリーンはバロンウルフとメディを交互に見比べている。


「メディ」

「はい?」

「いや……。せっかくだからバロンウルフの毛皮や肉をいただいていこう。そこの三人、手伝え」

「は、はいぃ!」


 アイリーン指導の下、三人は解体作業に勤しむ。

 その際にアイリーンは三人の動きを見て、やはりおかしいと感じた。重傷といってもいいポントとウタンの二人が今は完治している。

 アイリーンが知るポーションはこんなに早く効果は出ない。驚いたのはそれだけではなかった。


「このバロンウルフ……」


 なぜ、襲いかかるのに躊躇していたのか。アイリーン達を見つけた時、バロンウルフは即行動に移らなかった。

 獰猛で知られるバロンウルフが人間相手にそう時間をかけるわけがない。更にその前にハンターウルフに襲われた時もそうだ。

 唸り声をあげたまま、メディになかなか飛びかからなかった。そう、まるで目の前の餌に毒が盛られているのかもしれないと警戒するように。


                * * *


「すみませんでしたぁぁぁ!」


 三人がメディとアイリーンに揃って頭を下げる。無事に下山できたものの、三人はすっかり丸くなっていた。


「まさかあなたがあの『極剣』とはつゆ知らず……数々のご無礼をお許しください!」

「まぁ許さないけどな」

「そんな……」

「根に持たないよう努力しよう」


 その笑みが三人には背筋が凍るほど恐ろしかった。

 バロンウルフの毛皮と肉は、村のその手の商売をやっている人間に飛ぶように売れる。

 これが呼び水となり、村の活性化に繋がることを期待していた。アイリーンも、より狩りへと本腰を入れられる。

 

「メディ。薬草だ」

「え、いつの間に?」

「いつの間にか、だ。このアイリーン、抜かりはない」

「わぁぁぁ! これ、キゼル草じゃないですか! こっちはファメルの花!」


 メディは嬉々としてアイリーンから買い取る。

 アイリーンは心の中でメディに問う。それらの素材で魔物を殺すことが可能なのか、と。

 薬師メディの手にかかれば、薬草も毒と化す。薬師とは仲よくしておけ、という格言をアイリーンは胸に秘めた。 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 目の付け所が至極いい作品です。ストーリーの展開が楽しみです。 [気になる点] 主人公も魔術を使えるのでしょうか。異世界の住人には術からず 魔力があると、一般的に言われていますが・・・。 …
[良い点] 面白い
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