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極剣と不死身

 デッドガイはカイナ村の入口から大きく迂回して山中に身を潜めていた。

 深夜の山の中は魔物も活発となり、本来であれば危険だがデッドガイならば関係ない。

 暗闇でも目が利いて、一切の感覚が鈍らなかった。

 今はハンターウルフを丸かじりしながら、作戦を練っている。


「サハリサの奴は短気だなぁ。こういうのは焦った奴から脱落するんだよ」


 先行させたアバインは一級冒険者という事で唯一、警戒されずに村に通される。

 もっとも暗殺を実行しやすいのだが、デッドガイは期待していなかった。おそらく情に流されて手にかけないだろうと見抜いている。

 それからサハリサの案で入口に囮として冒険者達を向かわせたが、これも戦力として当てにならない。

 入り口に立ち並ぶ獣人達は予想外だったが、結果的に彼らとの衝突を避けられたのだ。もし全員で向かっていたら面倒な事になっていた。

 つまり正面突破が極めて困難だとわかっただけでも、デッドガイとサハリサにとっては収穫だ。

 その後、二人が離れた後でアイリーンが入れ違いでやってきた。つくづくデッドガイとサハリサの悪運は強い。


「ま、俺もそこまで大人しくしてらんねぇけどな。もう少し夜が深まったところで……といきたいがなぁ」


 その前にサハリサが過激な手段に出る可能性が高い。混乱に乗じて行動するのも危なかった。

 あの獣人達を見た後では、女剣士とスレンダー美女という情報がどうにも引っかかる。

 未知数の戦力に立ち向かうほど、デッドガイは無謀ではない。山の上からでも村の家々の配置は把握できた。

 その中にターゲットの薬師がいると考えれば、おのずと行動ルートが見えてくる。


「まずは端の家を襲って村人に吐かせる」


 デッドガイは行動を定めた。もっとも家がばらけている箇所を見つけて、舌なめずりする。

 彼は楽しくて仕方なかった。生まれつき、不死身の肉体を持つ彼に他人の痛みなどわかるはずもない。

 アンデッド化した女と人間の男との間に生まれた彼は、健全な肉体で人生を謳歌する者達が滑稽で仕方なかった。

 そんな連中が死に抗うのは正しくない。健全な肉体で生きたのだから、いつかは死ぬ。

 理というルールから逸脱するなどおこがましい。自分のような特別な人間だけが、それを許される。デッドガイは自身を神格化していた。


「こんな村の一つや二つ、消えたところで誰も」

「森の空気はおいしいか?」


 デッドガイとて警戒は怠っていない。木にもたれかかっているアイリーンがフランクに話しかけてきた。

 草木を揺らさず、一切の気配もなく。ここまでの接近をどうして許してしまったのか。

 デッドガイはこのわずかな間ですべて理解した。警戒していた女剣士がそこにいる。

 極剣だと直感できるほどの風格と圧を兼ね揃えているのだから、さすがの彼も動揺を隠せなかった。


「……まさかの極剣かよ」

「あの村には世話になっていてな。心地よい場所なのだが何をする気だった?」


 デッドガイの決断は早かった。サーベルの抜剣からの居合い。木ごとアイリーンを真っ二つにする勢いだが――


「聞くまでもないようだな」

「チッ……。なんであんたみたいなのが……」


 当然、受けられる。デッドガイがいくら力を入れようと無駄だった。

 見えない巨大な壁に刃を押し当てているようであり、身を引いて体勢を立て直す。

 極剣は一級の中でも別格だ。等級の枠に収まらず、異例と評されたアイリーンのような者を特級と呼ぶ。

 ただしデッドガイには焦りこそあったが、勝算を見出している。


「あんた、美人で強いらしいけどな。俺は殺せねぇよ」


 視認できない速度でアイリーンがデッドガイを縦に真っ二つにした。

 二つに割れたデッドガイだが直後、更に左右に分離する。それぞれ両手にもったサーベルでアイリーンを二つの半身で挟み撃ちにした。

 追加の横薙ぎで四等分されたデッドガイだが、まもなく分断された身体がくっつく。


「なるほど。不死身のデッドガイは伊達ではないか」

「怪我にゃ困ってねぇ。その代わり、痛みってやつをまるで理解できないがな」

「それは不憫だな」

「なんでだ? 俺に言わせりゃ怪我や病気一つでピーピー泣き喚いていちいち治そうとするお前らのほうが不憫だぜ」


 アイリーンに自分は殺せない。たった一人で王国騎士団に相当する戦力を有する怪物にも不死身は通用する。

 そう思い込んだ時、デッドガイは叫びたくなるほど快感を覚えていた。


「人ってのはいつか死ぬ。怪我や病気はそのきっかけに過ぎねぇ。これは生物が受け入れなきゃいけないルールだろ? 神様か何かが決めたんだからな。つまり無理にでも治そうとすりゃ、ルール違反だ。だからな……殺しは自然の摂理。殺せば死ぬだけ、誰が咎められる? だから俺は悪くねぇ」


 アイリーンの中に浮かぶメディの顔はいつだって笑顔だ。

 デッドガイとは対極の位置にいる彼女を侮辱されたのならば、アイリーンの怒りはいよいよ頂点に達する。

 不死身を滅するプランもあったが、実際にデッドガイを目の当たりにして彼女の気が変わった。


「俺がこれから殺そうとしてる薬師ってのは一番嫌いだ。自然の摂理に反するクソ野郎はまさに害なんだよ。あ、女だったか」

「人はあって当然のものに感謝をしない。まさにお前だな」

「なんだって?」

「水や空気がある事に感謝をする者はなかなかいない。生きる上で重要だとしてもな」

「へっ! だったら教えてくれよ!」


 デッドガイが高速で木々を縫うように移動する。彼の戦術はどちらかというと暗殺に近い。

 不死身の肉体に甘えて大胆な戦いなどせず、確実に仕留める。森の土を蹴って舞い上げて、アイリーンの視界を閉ざした。

 舞った土をカーテンのように利用してサーベルが次々と突き出す。土が落ちれば今度は枝葉を斬って落とした。

 左右に加えて上下、やがて倒れてくる巨木。デッドガイは相手がどうすれば絶望するか、そればかり考えていた。

 更にいくつかの玉が放り投げられて爆破。ここで本領発揮だ。


「そぅらッ!」


 爆破の最中、飛び込んでアイリーンを襲撃した。突然の大きな音と光に対応できる奴なんていない。

 ましてや爆破に巻き込まれているのだ。デッドガイはここぞという時に不死身を活かして止めを刺すのだ。

 これが必勝パターン、極剣さえも仕留められる。が、デッドガイの視界が森の夜空に切り替わった。


「づあぁッ!」


 デッドガイが吹っ飛ばされて体を木に打ち付ける。痛みはないが、事態の把握はできていない。


「……ん? そこで手を止めてしまうのか?」

「ハ、ハハ……」


 舞い上げた土も枝葉も巨木もアイリーンの周囲に散らばっている。爆破の痕跡もない。

 そう、デッドガイの攻撃がどこかへ消えてしまったようだった。


「すまないな。あまりに遅すぎて、ゆっくりとかき消させてもらった」

「ま、まいった……。勝てるわけねぇよ」


 不死身であるはずのデッドガイは一度として死を恐れた事などない。

 自分は死とは無縁だ。そう信じていたはずだったが、体内から何かに掴まれる感覚を覚えた。

 それは恐怖なのだが、デッドガイは生まれて初めて味わうものの見当などつかない。

 アイリーンが近づくごとに、ついに歯の根が合わなくなる。極剣のアイリーン、敵に回すべきではなかったのだ。

 不死身の肉体にも伝わる極剣の圧を受け止められるほど、デッドガイの精神は鍛えられてなかった。


「な、なんだってんだ。俺の身体、震えてやがる、どうしちまったんだよ……」

「夜は冷えるからな」

「あ、待て、あのな。話し合おうぜ」

「望むところだ」

「へ?」

「あぁ、ただし……」


 デッドガイの股下に剣が突き刺さった。彼にアイリーンの攻撃速度を認識できるはずもなく、気がつけば頭まで剣が貫いている。

 串焼きのような様になったデッドガイが手足を動かして慌てふためく。


「な、何すんだぁ!」

「この有様でも喋られるのか。確かにこれでは何も感謝しようがないな」

「こんな事したって俺は殺せねぇよ! 諦めろ! 諦めろォ!」

「誰がお前を殺すと言った?」


 アイリーンはデッドガイを刺したまま、村へと歩き出した。


「私はお前を生かす。そしてお前は目を向けるべきだったものを思い知る」

「なんだよ! わ、わかるように言えよ!」

「フ……」

「何がおかしい! オイ! やめろって!」


 元々実力では敵わないのだ。そのアイリーンが何かを企んでいるとくれば、デッドガイの中にも不安というものが訪れる。

 ましてやこの状況では身動きが取れなかった。


「お前はおそらく不死身ではいられなくなる。それを可能にする人間があの村にいるのだ」

「は、はぁ?」


 脅しだ。デッドガイはそう思い込もうとした。しかし、相手はアイリーンである。

 まるでピクニックでも楽しむかのように山を下りて、向かう先はメディの薬屋だった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 相当シュールな絵面だwww 昔からの疑問。不死身の人間は餓死するんだろうか?あと、溺死はするのか?永遠に溺れ続けるんだろうか?
[一言] 自然の摂理に反するクソ野郎はお前やと思ったのは自分だけじゃないはず。
[一言] あっ・・・そっか、そうですよね。 人を治す事が出来る薬師がいたら、その人の特徴までもをかき消す事が出来る薬だって出来るはず。 後は、サハリサのみか。火を出す事しか出来ない魔術師なんてもの…
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