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9先生になるために

 その後ユーリとゴロツキ達は警察に引き渡され、怪我人は病院へ、ヨーゼフは抗議する為にハルオチア家に向かい、残された使用人達はクラークの主導で玄関の片付けと壊された調度品の記録を行っていた。


 マリーローズはエミリアとヒナタと共に応接間に戻り、先程の件について話し合う事となった。


「私のせいでご迷惑をお掛けして申し訳ありません…」

「何言ってるの、マリーは悪くないわ。悪いのはユーリ様でしょう?ハルオチア家にはアンドレアナム家が徹底抗議するから。アンスリウム家にも報告しておくわ」


 背中を撫でて励ますエミリアの優しさにマリーローズは涙ぐむ。いつだって彼女は味方でいてくれた。


「こうなるとユーリ様は前科持ち…もしかしたら勘当される可能性があるわ。そのはらいせにまたマリーを狙う。そう考えたらあなたが水鏡族の村に行くのは丁度いいかもしれないわ」


 勢いで言ってしまったが、エミリアの言う通りかもしれない。ユーリと物理的に離れた方が安全なのは確かだ。これ以上実家にもアンドレアナム家にも迷惑をかけられない。マリーローズは改めて移住を決意した。


「こちらとしてはありがたいの言葉に尽きますが、生活の方は大丈夫ですか?衣食住の保証はしますが、貴族の様な暮らしは提供出来ないと思います」


 生まれた時から貴族令嬢のマリーローズは家事はおろか、1人で着替えや湯浴みをした事がない。身の回りの事は全て侍女任せなので、ヒナタの心配は尤もだ。


 となると侍女を伴うのが無難かもしれないが、マリーローズの侍女には家族がいるし、独身の若い侍女を連れて行けば彼女達の婚期が遅れてしまう可能性がある。


「村で侍女を用意して頂く事は可能ですか?」


 ならば水鏡族の村で新たな侍女を雇うのが妥当だと思いマリーローズが提案するも、ヒナタは唸り声を上げる。


「うーん、侍女ってお世話係みたいな人ですよね?神殿に神子のお世話をする神官はいますが…ちょっと闇の神子に確認しないとなんとも言えませんね」

「闇の神子?」

「はい、俺が仕えている塾の開校を計画している方です。水鏡族で唯一闇属性の魔術が使えるんですよ」


 水鏡族の神殿では様々な属性の精霊に感謝と祈りを捧げる神子という存在がいるらしい。その中でヒナタが仕える闇の神子とエミリアの祖父を救ったと言われる光の神子は1人ずつしかいないとか。


 マリーローズも話を聞くまで光属性は勇者と聖女、闇属性は魔王しか使えないと学んでいたので、まだまだ自分の知らない事が沢山あるのだと痛感した。


「これは闇の神子が作った塾の計画書です。良ければ目を通して下さい。その上で本当に来てもらえるか決めてもらえれば」


 ヒナタがローテーブルに置いたのは一冊のハードカバーノートだった。マリーローズが手に取り中を開くと、丁寧な字がびっしりと並んでいて、塾開校への熱意を感じた。


「承知しました」

「良い返事をお待ちしてます」


 人懐っこい笑顔でウインクするヒナタにマリーローズはつられて笑ってしまった。そして計画書は部屋でゆっくり読む事にして、応接間を後にした。


 拙い部分もあったが、計画書は水鏡族の村の将来を考えた熱意のあるものだった。ページを捲るごとにマリーローズはこの計画に加わりたいと意欲が湧いて来た。計画書を読み終えたマリーローズはすぐさまペンを手に取り、今後すべき事を綴って頭の中を整理した。




 ***



 翌朝、いつもより早く目が覚めたマリーローズは朝食前に庭を散策した。澄んだ空気を吸い込むと、頭の中が冴え渡るのを感じた。


「あら?」


 芝生の方で人影が見えたので近づいたら、ヒナタが真剣な表情で剣の素振りをしていた。体が丈夫で戦闘能力に長けていると言われる水鏡族とはいえ、彼の強さは一朝一夕で身についたものではない様だ。マリーローズに気が付いたヒナタは素振りを止めて武器をしまいこちらに近づいて来た。


「おはようございます。ヒナタさん」

「おはようございますマリーローズ様。早いですね」

「それはこちらのセリフですわ。朝から鍛錬ですか?」

「はい、習慣なのでやらないと落ち着かないんですよ」


 朝から元気なものだとマリーローズは感心しつつ、ヒナタの首筋に伝う汗にドキリとして目を伏せた。


「どうかしましたか?」

「いえ、その…汗をかいていらしたようなので…」


 マリーローズはハンカチを取り出し手を伸ばし、そっとヒナタの首筋に当てた。ハンカチ越しからでも伝わる彼の首の太さに胸の鼓動が早まる。


「なんかすみません。綺麗なハンカチを汚しちゃって」

「お気になさらないで。あの、ヒナタさん。私…」


 マリーローズは握ったハンカチを胸元に寄せてヒナタをじっと見据え、呼吸を整えた。


「私に1ヶ月の時間を頂けませんか?それまでに準備を済ませたいのです。水鏡族の村で先生をするにあたり必要な事は何か考えたんです。教える為の知識は当然ですが、父への説得も必要です。侍女がいなくても1人で生活できる様になりたいと思いますし、そうなると新しい服を買わなくてはなりません」

「うん、準備が必要な事は想定内です。そんな直ぐ連れて行ったら、俺がマリーローズ様を攫ってきたと闇の神子に勘違いされちゃいますよ」


 思ったより反応が軽いヒナタにマリーローズは肩透かしを食らってしまったが、意見を受け入れて貰えてホッと胸を撫で下ろした。


「あーお腹空いた。朝食何かな?食べ終わったら一緒に村で暮らすのに何が必要か話し合いましょう。これから忙しくなりますよ!」

「はい!」


 大きく背伸びをしたヒナタにマリーローズは大きく頷き新しいチャレンジへの高揚感を覚えながら、屋敷に向い朝食を共にするのであった。


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