5学園都市へ
「やれやれ、彼には困ったものだ」
ユーリの訪問にマリーローズの兄、ニールは眉間に皺を寄せてため息を吐いた。
「この様子だとマリーが結婚するまで付き纏ってきそうだな…どうしたものか」
「私、例えお父様が認めたとしても、あの方と結婚したくありません」
「そこは問題ないだろう。父上はハルオチア家を嫌っている。俺も嫌いだ」
はっきりとした物言いのニールにマリーローズはほっと胸を撫で下ろす。縁談相手がいないので渡に船と思われたくなかったのだ。
「マリー、しばらくアンドレアナム家に身を寄せたらどうだ?」
「えっ…」
「ユーリの動向も気になるし、ここにいるよりマリーも気が休まるんじゃないかな?」
アンドレアナム家は父方の叔母の嫁ぎ先だ。叔母は早くに亡くなってしまったが交流はあり、マリーローズは従姉妹のエミリアを姉の様に慕っていた。
「ですが、私がお世話になったら迷惑をお掛けするかもしれません」
「問題ない。元々エミリア姉さんから申し出があった」
「それでしたら…お言葉に甘えてお邪魔させて頂こうとかしら」
自分でまいた種とはいえ、アンスリウム邸は実家なのに婚約破棄以降居心地が悪かった。エミリア達は元気にしているだろうか。考えただけでマリーローズは気分が軽くなるのを感じた。
***
1週間後、マリーローズは最低限の荷物を持って学園都市へと向かった。学園都市は王都の隣なのでさほど長旅にはならない。馬車に揺られて3時間ほどでアンスリウム邸に到着した。
「ようこそマリー姉さま!」
真っ先に玄関で歓迎してくれたのは従甥と従姪のミゲルとリディアだ。マリーローズは笑顔で応える。
「2人とも久しぶり。大きくなったわね」
結婚式が近かった事や学業と妃教育で忙殺されていたし、婚約破棄後は外に出る気分にならなかった為、アンスリウム邸には2年ぶりの訪問だった。
「マリー、大変だったわね」
続いてマリーローズの従姉妹のエミリアが労わる。味方しかいないこの空間にマリーローズは肩の力が抜けて、今まで気を張り詰めていた事に気が付いた。
立ち話もそこそこに、マリーローズは滞在する部屋へと案内された。使用人達に荷物を運んでもらい落ち着いた所で皆でティータイムを楽しむ事になった。
「気が済むまでうちにいていいからね。なんだったら私の娘になってもいいのよ?」
エミリアとマリーローズは10歳以上歳が離れているが、親子ほどではない。妹の方がしっくりくると思いつつ、マリーローズは笑みを浮かべる。
「ありがとうございます。ですがいつまでも頼るわけにはいきません。私はここにいる間に今後の身の振り方について考えようと思います」
現状を打破する為にもこのままではいけない。マリーローズは学園都市でそれを決めるつもりだ。
「協力するわ。私達と色々な事に挑戦しましょう。学園都市はあなたに様々な可能性を導き出してくれるはずよ」
「ええ、私に出来ることを見つけてみせます」
手に職をつけるのはもしかしたら父から反対されるかもしれない。それでもマリーローズは新しい生き方を見出せる希望に目を輝かせるのだった。