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31いざ本番へ

 雪が深々と降り積もっている。いよいよ受験を控えた生徒たちの追い込みが始まっていた。医者や難関大学を目指す生徒はいないので、今の調子なら全員合格を狙えそうだ。とはいえ油断は禁物。マリーローズは塾の時間までにテスト問題を作ろうと机に向かった


「はあ、疲れた…」


 テスト問題が完成して印刷をしようと思った所で、ヒナタが教室に入ってきた。汗を拭った肌は蒸気している。どうやら戦闘訓練だったようだ。


 新年早々、各属性の神子が大精霊から「戦いの時は近い」と不穏な預言を賜って以来、神殿内は戦力拡充に努めているそうだ。ヒナタもこれまで以上に戦闘訓練と警備の仕事に割かれる事となり、顔を合わせる機会が減ってしまっていた。


「お勤めご苦労様です」

「マリーも。試験、今度の休みだったよね?」

「はい、皆さんとこの塾の命運が懸かってるので、今日は出来る限りの事をやろうと思います」

「頑張るのもいいけど、あまり無理しないようにな」


 優しい声色で頭を撫でて激励してくれるヒナタの汗の匂いにマリーローズは胸の鼓動が早まるのを感じた。違う、彼は自分を姉か妹として接しているだけだ。何ドキドキしているのだと自戒するも穏やかでいられない。


「失礼、ちょっといいかな?」

「塾長!」


 咳払いをして、気まずそうに入室してきたサクヤにマリーローズは飛び上がり、ヒナタと距離を取った。彼もまた訓練後だったのか、ラフな服装に首にタオルを掛けていた。


「今日の授業の後、生徒達にこれを渡して欲しい」


 そう言ってサクヤが持っていた袋を逆さにして近くの机に広げたのは直径2cm程のラベンダーカラーの石だった。


「我が特別に作った魔石だ。これを持てば緊張が和らぎ、落ち着く事が出来る」

「塾長…ありがとうございます」


 サクヤなりに気を配ってくれた事が嬉しくてマリーローズはいたく感激した。魔石を手に取ると、じんわりと温かく心に沁み渡り、優しい気持ちになった気がした。これが魔石の効果だろう。


「闇の神子…子供達が恐縮してしまいますから、魔石という事は伏せてお守りとして渡した方がいいですよ」

「そうか、配慮に欠けていたな。ではお守りらしく袋に包んだ方がいいな」

 

 ヒナタの指摘にサクヤは納得して、袋についてはあてがあると言って魔石を元に戻すと、足早に教室から出て行った。

 

「普段から背伸びしてるけど、素直で可愛いよね」


 支えている神子に対して不敬な気もしたが、マリーローズも同意見だったので頷く。サクヤの生徒達への真摯な思いはきっとこれから村を発展させていくだろう。



 そして夕方になり、最後の授業が始まった。緊張した面差しの生徒達がマリーローズが昼間作成したテストに立ち向かう。テストの後は自己採点して、質疑応答を行った。塾初日に受けたテストに比べ、全員成績が上がっていたので、マリーローズは手応えを感じる事ができた。


「皆さんが実直に励んだ努力が報われる事を願っています。明後日は存分に力を発揮して下さい」


 試験は明後日だが、当日だと開始時間までに会場に辿り着けないので、受験生達は余裕を持って明日港町へと発つ。マリーローズも駆け付けたい所だが、宿の予約が取れず断念した。聞いた話によると、受験生達が半年以上前から予約しているらしい。


「そして塾長から皆さんへとお守りの贈り物があります」


 サクヤが再度持ってきた魔石は紫色の小さな袋に入れられ、赤いリボンがきつく結ばれたお守りに姿を変えていた。彼の養母である光の神子が手芸を嗜んでおり、材料を提供してもらい、教わりながら許嫁と協力して製作したそうだ。確かに素人目から見ても袋の縫い目のぎこちなさが目立っていた。


 それでも生徒達は嬉しそうにお守りを受け取ってくれたので、マリーローズはホッとして、この後すぐにサクヤに報告する事にした。


 授業が終わり、生徒達を門前広場まで見送った。どうか全員合格出来ますように。マリーローズは指を組み、心から願わずにはいられなかった。

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