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21成金男爵

「なるほど、水鏡族の職人に机と椅子を発注すると…名案だな」


 昨日の顛末を報告すると、サクヤはいたく感心した。村の産業を生かす事で村で働きたいと願う子供達も増えるかもしれないと期待したらしい。


「して神官ヒナタよ、あてはあるのか?」

「んーとりあえず風の神子代行に聞いてみます。あの人大工だから知り合いがいるかもしれないし、もしかしたら本人が作ってくれるかも」

「神子なのに大工を副業にされているのですか?」


 事業を興している神子は何人かいると聞いていたが、その一人かもしれない。マリーローズがそう思い尋ねると、サクヤは首を振った。


「どちらかというと彼は大工が本業だ。風の神子代行は我が許嫁の兄上でな、彼女のサポートをする為に特別措置として神子の務めも行なっているのだ」

「ついでに言うとちーちゃんの旦那だよ。つまり俺の叔父だね」

「そうだったのですね」


 小さな村だから二人は共通の知り合いが多いのだろう。そのおかげで机と椅子の調達が出来るのならありがたい話である。


「じゃあ早速代行にお願いしに行きますか。今日は雨が降っているから大工が休みで神殿にいますよね?」

「待て、少し作戦を練った方がいい。風の神子は何かと理由をつけてこちらの金をふんだくる筈だ」

「あー確かにケツの毛までむしり取られるかも!紹介料仲介料、手数料材料費、技術代場所代…思いつく限りのお金を請求しそう」


 どうやら風の神子代行はお金に意地汚いようだ。少しでも予算を抑えて塾の経営を安定させたいサクヤ達にとっては厄介な問題である。二人の会話から面識がないマリーローズの中で件の人物は王都にいた時に社交界で銭ゲバだと有名な小柄で太鼓腹でちょび髭の、全ての指に大きな宝石が付いた指輪を嵌めた成金男爵ことシェフレラ男爵の姿に重ね合わせていた。


「仕方ない、ここは俺がひと肌脱ぎます」

「…我も予算交渉を粘るとするか」

「一緒に戦いましょう。マリーも行く?」

「い、いえ私は他に仕事があるから遠慮するわ」


 成金男爵が苦手だったマリーローズは同一人物ではないと分かっていながらも、つい辞退してしまった。残されたマリーローズは試験範囲の確認をしながら二人を待つ事にした。


 昼休みになってマリーローズが食堂に向かおうとした所でヒナタが戻ってきたので、一緒に食堂に行って報告を聞く事にした。


「塾長は?」

「可愛い許嫁と仲良くお昼を食べるそうだ」


 かつての自分とレイナルドと違い、サクヤと許嫁の風の神子は親密な関係を築いているようだ。マリーローズはなんだか過去の自分が情けなくなってしまった。


「職人の件だけど、代行が知り合いの家具職人を紹介してくれるそうだよ」

「でもお高いんでしょう?」

「案の定紹介料を請求して来たから、今週の休日は俺をコキ使っていいって約束したら、お安くしてくれたよ…」

「まあ…」


 どうやら宣言通りひと肌脱いだようだ。塾開校の為に体を張ってくれたヒナタにマリーローズは感心しつつも、彼にどんな労働が待っているのか不安になってしまった。


「もし私が力になれるなら、協力するわ」

「ありがとうマリー。肉体労働だけど、大丈夫?」


 肉体労働という単語にマリーローズは怯むも、ヒナタと塾開校の為にと強く頷いた。


「大丈夫です。一緒に立ち向かいましょう!」


 使命に燃えた瞳のマリーローズにヒナタは目を丸くさせるも、「これは頼もしい」と口角を上げた。


 風の神子代行はツテを使い、その日の内に家具職人に机と椅子の作成の約束を実現させた。どうやら彼は金を出せばその分だけきちんと働く性分らしい。だからこそヒナタもサクヤも頼ったのかもしれない。マリーローズは成金男爵もお金に見合った働きをするという評判を聞いていたので、益々印象を重ねた。



 ***



 そして休日、ヒナタの言っていた肉体労働の日となった。家に行くから待っててくれと言われていたので、マリーローズは動きやすい服装に着替えてリビングで光とアイスティーを飲みながら待っていた。


「来たようね」


 外から賑やかな声が聞こえてきて、光はニコニコと嬉しそうに玄関に向かいドアを開けた。


「おばあちゃんおはよう!」


 元気な声と共に銀髪の少年が光に抱き着く。その後ろでは銀髪の幼児を抱っこしたヒナタとカイリの姿もあった。


「おはよう、今日も元気そうね。ほらマリーローズ先生に挨拶して」


 名前を呼ばれて注目を浴びたマリーローズは慌ててしまった影響でうっかりカーテシーをしてしまった。


「初めまして、光さんの家でお世話になっています。マリーローズ・アンスリウムと申します」


 村では無縁の社交界定番の挨拶を目の当たりにした一同は呆気に取られ、暫し沈黙が走る中、マリーローズは完全に失敗したと心の中で悲鳴を上げた。


「すごい!ほんもののおひめさまだ!」


 そんな沈黙を破ったのは、ヒナタに抱っこされた幼児だった。幼児は興奮気味にヒナタから降りて、マリーローズの前で可愛らしくシャツの裾を摘みカーテシーの真似をした。


「はじめまして、ぼくはセツナです」

「セツナくん…よろしくお願いします」


 可愛らしいセツナの挨拶にマリーローズは救われて笑顔が戻った。そしてセツナに続くように少年もお辞儀をした。


「初めまして、セツナの兄のクオンです」


 どうやら彼らは兄弟の様だ。改めて顔を見ると、2人とも整った顔立ちをしていて、控えめに言ってもとても可愛くて、名画から飛び出して来た天使の様だった。


「俺達の従兄弟、最高に可愛いでしょう?」


 自慢げにクオンとセツナの肩に手を添えるヒナタにマリーローズはコクコクと頷いた。


「もしかして今日の肉体労働というのは…」

「この子達の遊び相手だよ。その間風の神子代行は奥さんとまったり過ごすんだって」


 成金男爵も可愛い子供達がいて、愛妻家で舞踏会で仲睦まじい様子を見かけたなと思い出し、マリーローズの風の神子代行のイメージが成金男爵へと固まっていった。


「私も従姉妹の子供達や孤児院の子供達とよく遊んでいたから相手になれると思うわ」


 ミゲル達との楽しい思い出が役に立ちそうだ。マリーローズはやる気に碧い瞳を輝かせたが、水鏡族の子供達は想像以上に底なしの体力を持ち合わせていた為、翌日マリーローズは疲れ果てて一日中ベッドの上で過ごすのだった。

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