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20備品の調達

 塾開校への準備は順調で、予定の1か月後に間に合いそうだ。今日は朝からヒナタと2人で港町まで下りて机と椅子といった備品の調達に来ていた。


「マリー、大丈夫か?」

「うぅっ…」


 少しでも村人の生活に慣れたかったマリーローズは今回乗り合いの幌馬車で移動したのだが、揺れが酷く乗り心地が最悪で酔ってしまった。


「皆さん体が丈夫なのですね…」

「人によりけりかな。俺も子供の頃は気持ち悪くなってたよ。ま、次回から神殿の馬車を借りよう」

「そうします…でも不思議だわ。乗り合い馬車と神殿の馬車、いくら作りが違うとはいえ揺れが全然違うわ」

「神殿のは風の神子が客車に防振と軽量化の付与魔術を施してくれているからだよ」


 付与魔術は魔石作りよりさらに高等な技術を要すると聞いている。もし王都にいたら宮廷魔術師になれる程の実力だ。そんな人物がこの村には何人もいるというのだから、世界は広いものだとマリーローズは舌を巻いた。


 喫茶店で一休みして落ち着いた所で本来の目的を実行する。ヒナタが案内してくれた場所は家具を取り扱う店が立ち並んでいた。


「よっ!そこの新婚さん!ベッドでも見ていかないか?」


 口髭が立派な中年男性の店員に夫婦と間違えられてマリーローズは赤面してしまう。隣でヒナタはケラケラと笑い、手を振り否定した。


「そりゃあこんな美人な嫁さんがいたらラッキーだけど、今日は仕事で来てるんだ。学校で使ってるような学習机と椅子をセットで20欲しいんだけど、ある?」

「悪いな、うちは寝具が中心なんだ」

「そっか残念。じゃあベッドを買う時にまた寄るよ」


 愛想良く手を振り店員をかわしてヒナタは歩き出したので、マリーローズも一礼してから追いかける。他の家具屋も一般家庭用の家具ばかりだった。


「うーん、港町もそこまで進学率は高くないからなあ…こうなると家具職人に直接依頼する方が良さそうだな」

「水鏡族の村に職人さんはいらっしゃらないの?」

「いると思うけど…」

「でしたらそちらに依頼された方が村の利益になるわ」

「そっか、ありがとうマリー。村を大事に思ってくれて」


 少しでも村を豊かにしようとするマリーローズの考えにヒナタは破顔一笑して彼女の頭を撫でた。マリーローズは騒がしい胸の鼓動に戸惑いを感じながら、笑顔を返した。


 家具屋の通りを離れて2人は海辺のレストランで昼食を取る事にした。王都は海から離れていたので、マリーローズは物珍しそうに窓から浜辺を見つめていた。


「もう少ししたら海開きになって海水浴客で賑わうんだよ」

「海水浴ですか。私は物心つく前に一度だけ行った事があるらしいです」

「じゃあ今度行ってみる?」

「水着姿になるのは抵抗があります…」

「足だけ浸かるなら今の格好で充分だろ。なんならこの後少し浜辺を散歩してみる?」

「それだったら…行きましょう」


 食後の予定が決まった所でウエイトレスが料理を運んで来たのでランチタイムとなった。マリーローズは貝のクリームソースのパスタを堪能する。ヒナタは大盛りのミートボールのトマトパスタを気持ち良く平らげた。


 レストランを出てからは腹ごなしに浜辺を歩いた。潮風が汗ばむ肌に心地よく、マリーローズは目を細めた。しかし夏が近づいているのもあって日差しが強く、帽子を持参しなかった事を悔やんだ。


「海開きになったら海の家に屋台とかも出店されて一日中いても飽きないんだよ。ボールとか浮き輪のレンタルとかもある」

「一日中いたら日焼けしてしまいそうだわ。ヒナタは肌が白いから真っ赤になってしまいそう」

「うんその通り。一応日焼け止めは塗ってるけど、海水浴から帰ったら水風呂に浸かったり、火照りを抑える薬塗ったりして対処してる」


 滞在時間を減らすという選択肢は無いようだ。しかしそれ程楽しいひと時を過ごせるなんて聞くと、マリーローズもヒナタと一緒に過ごしたいと思ってしまった。


 マリーローズの体力を考慮して、浜辺の散歩は早々に切り上げ、乗合所に向かう。道中カイリの好物のドーナツ屋が空いているからとヒナタがお土産に購入してから幌馬車に乗り込んだ。


「帰りは酔わないといいな…」

「寝たら?乗客少ないし横になったらいいよ」

「試してみるわ」

「ん、じゃあ野郎の膝で良ければ使っていいよ」


 膝をぽんぽんと叩いて誘うヒナタにマリーローズは戸惑い頬を熱くさせるも、これは親切心だ、向こうにやましい気持ちは無いと心の中で言い聞かせ、ぎこちなく彼の膝に頭を乗せて横になった。


 筋肉質なヒナタの膝は決して寝心地の良い物ではなかったが、直に寝るよりは幾分楽で、マリーローズは馬車の揺れも手伝いうとうととした。


「今日はヒナタと色んな所に行けて楽しかったです」

「そりゃ良かった。俺も楽しかったよ。またデートしような」


 ただの備品調達だったのに、デートと例えたヒナタにマリーローズは心臓が跳ね上がったが、馬車の揺れのせいにして小さな声で「はい」と返事をすれば、ヒナタは優しく髪を撫でてくれた。


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