2卒業パーティーにて
「私はマリーローズ・アンスリウム嬢と婚約破棄して、レティシア・ファレノプシスと婚約を交わす!」
そう来たか。
まさか学園の卒業パーティーで仕掛けるとは。レイナルドの発表にマリーローズは生徒を始めとする招待客の動揺の声を聞きながら天を仰いだが、煌びやかなシャンデリアの眩しさに思わず顔を顰めて現実と向き合った。
「マリーローズ嬢には一切非はない。今日まで私の婚約者として妃教育に励んでくれた。それだけは皆に誤解して欲しくない。私がレティシアを愛してしまった。理由はそれだけだ」
婚約者としての最後の情けか、庇い立てするレイナルドに応えるべく前に出たマリーローズの美しいカーテシーに招待客は感嘆のため息をついた。
「慎んで婚約破棄をお受けします。殿下、レティシア様、どうぞお幸せに」
すんなり婚約破棄を受け入れたマリーローズに会場内は更に騒がしくなる。
「ありがとうマリーローズ嬢」
早口で感謝の言葉を伝えるなり、レイナルドは傍で深々と頭を下げて震えていた涙目のレティシアをエスコートして、静観していた国王陛下夫妻の元へと向かった。
「父上、私はレティシアただ一人と添い遂げたいと心から願っております。彼女との結婚をお許し下さい」
まるで物語のワンシーンを見ている様だとマリーローズは当事者であるにも関わらず傍観した。誰もが固唾を飲んで見守る中、沈黙を貫いていた国王陛下が口を開いた。
「この愚か者めが。私情に走った挙句、これまで真摯に妃教育を務めていたマリーローズ・アンスリウム公爵令嬢を公衆の面前で辱めるとは…!最早お前は王太子の器ではない!今この時を持って王太子の座を剥奪、及び王位継承権を永年破棄とする!」
王位継承権を持つ人間はレイナルドの兄弟を始め多数いる。代わりはいくらでもいるのだ。よって国王陛下の発言は大方予想のついたものだ。
「…承知致しました」
「お前の処遇の仔細が決定するまで謹慎だ。レティシア嬢。そなたも別室で待機だ」
国王陛下の指示に従う事となった。レイナルドは名残惜しげにレティシアと抱擁を交わした。
「レティシア、必ず迎えに行く」
「レイナルド様…お待ちしております」
完全に悲劇の恋人同士だ。令嬢の中には感情移入して目を潤ませている者もいた。今宵の主役といっても過言ではない2人が会場を後にしたのを確認した国王陛下は招待客を見渡した。
「皆の者、大変失礼した。愚息の事は忘れてパーティーを楽しんでくれ」
そうは言われても楽しめる様な空気ではない。だが国王陛下の言葉通り招待客達は表面上はパーティーを楽しむ事にしたようで、婚約破棄発表前の賑やかさが次第に戻っていった。
当然マリーローズは楽しめるわけもなく、これ以上ここにいたら針の筵になると判断して、背筋をピンと伸ばし、近寄り難いオーラで颯爽とパーティー会場を後にした。