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13寝不足の原因

 旅は順調に進み、4日目は寝台列車での移動となった。マリーローズの利用する一等客室はアンスリウム家が手配してくれたものだ。


 これだけじゃない。これまでの列車の席や宿泊先に辻馬車まで全て上等なものを用意してもらっている。公爵令嬢としての品格を保つ為という理由もあるかもしれないが、マリーローズは指示をしたであろう父に心から感謝した。


「うわまた負けた!」


 現在一行はヒナタが持ち込んだカードゲームで時間を潰していた。ルールが単純だったためマリーローズはすぐに覚えられたので、3人で大いに盛り上がっていた。


「凄いなマリー、さっき教えたばっかりなのに俺より上手い」

「ヒナが顔に出過ぎてるだけでしょう?この子昔からカードゲームは最弱なのよ!」

「うるせぇ!」


 賑やかな親子のやり取りにマリーローズは笑いが止まらなかった。こんな姿を妃教育を担当していた侯爵夫人に見せたら鞭が飛んで来たかもしれない。しかしケラケラと口を開けて笑うのは中々気分の良いものだった。


「あーもう俺フテ寝しちゃおう。おやすみ」


 大きな欠伸をしてヒナタは席を立って客室から出て行った。いつもの明るい様子だったので本当に機嫌を損ねた訳ではなさそうだ。


「マリーちゃんも疲れてたら遠慮なくお昼寝していいからね。それとも他の事する?」

「そうですね、ではひと休みします」


 あまり遊んでもらってばかりでは祈に負担がかかるかもしれないので休む事にした。ベッドに入ると途端に微睡み、マリーローズは夢の世界へと誘われた。



 ***



 マリーローズが目を覚ましたのは既に真夜中だった。まさかこんなに眠ってしまうなんて、長旅の最中でよっぽど疲れていたのだろう。


 暗闇に目が慣れた所でマリーローズは灯りを付けてベッドを出ると、不意にお腹が鳴った。この時間に食べるのは健康に悪いと言われているが、胃に何か入れないと再び寝付ける気がしなかった。


 しかしこの時間帯に食堂車は営業していないだろう。それに単独行動は禁止されているが、祈は隣のベッドで眠っている。


 仕方ないので水で我慢しよう。マリーローズが水差しのあるテーブルに向かうと、弁当箱が置いてあった。メモが敷いてあり「お腹が空いたら食べてね」と書いてある。


 ありがたい祈の気遣いに感謝して、早速弁当箱を開けてサンドイッチに齧り付いた。空きっ腹にハムとチーズが沁み渡り、マリーローズは思わず唸った。


 サンドイッチを食べ終えて水を飲んでから大きく息を吐いたら、ガタンゴトンと列車の音が聴覚を支配した。あと3日で水鏡族の村に到着する。そこで自分は塾の先生になると決めたのはいいが、未だに想像出来なかった。


 歯を磨いて再び眠りに就こうとした所でドアのガラス部分に浮かび上がった人影に気付いて心臓が跳ね上がった。ここは一等客室だから金品を狙っているのだろうか、それとも乱暴目的か…マリーローズはテーブルに灯りを置いてから、恐る恐る扉に近付き覗き窓から様子を窺った。


「…ヒナタ?」


 覗き窓の向こうには立ったまま目を閉じているヒナタの姿がいて、マリーローズは驚きを隠せず何も考えずにドアを開けた。


「あれ、もう交代の時間だっけ…て、マリー!どうした?」

「ヒナタこそ何をしているんですか?」

「えっ、あー俺はちょっと目が覚めたから列車内を探検してたんだよ」

「本当に?」


 明らかにさっきまで目を閉じていたのに、苦しい言い訳である。マリーローズが胡乱な目で見つめているとヒナタは降参だと言いたげに両手を上げた。


「バレてしまっては仕方ない…マリーは大事なお客様だし、変な奴に狙われているだろう?だから俺と母さんと交代で夜の番をしてたんだよ」


 今日に至るまでマリーローズは守られていたなんて全く気が付かなかった。それだけ彼らがスマートに任務をこなしていたからだろう。


「もしかしてお昼に不貞寝したのは、寝不足だったから?私の為に…ごめんなさい。ありがとうヒナタ。祈さんにもお礼を言わないと」

「母さんにバレたらぶん殴られるから黙っといて」

「でも…」


 殴られると言われたら黙っておくのが得策だが、自分が呑気に寝ている間、ヒナタと祈は身を削って守ってくれていたと思うと、マリーローズは申し訳ない気持ちでいっぱいだった。


「俺達はこういうのに慣れてるし、仕事の一環で訓練の一種でもあるから大丈夫だよ。だからさ…」


 言葉を途切れさせてヒナタはマリーローズの顔を覗き込むように近付き、薄暗い車内でも分かるくらい顔をくしゃっとさせた。


「今夜の事はふたりだけの秘密にしてよ。ね?」


 ダメ押しに手を合わせておねだりをするヒナタにマリーローズの心臓は跳ね上がる。それと同時に列車が大きく揺れた。


「おっと、大丈夫?」


 バランスを崩したマリーローズの腰をヒナタは即座に支えた。そうすると自然と抱き合うような形になる。二度あることは三度あるというが、何度抱き寄せられても慣れないものだとマリーローズは自嘲してしまった。


 だけど、ヒナタの腕の中にいるのは嫌じゃない。


 そんな気持ちが頭に浮かんでしまい、慌ててかき消してヒナタから距離を置いた。


「さ、支えて下さりありがとうございます!ふたりだけの秘密、承知しました!おやすみなさい!」

「うん、おやすみ」


 早口でヒナタの提案を受け入れたマリーローズは回れ右をして客室に戻り、ベッドに飛び込み布団を頭から被った。しかしそれにより先程抱き寄せられた際の温もりと匂いが甦ってしまい、ベッドの上で転げ回ってしまった。

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