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11旅立ちの時

 翌日、遂に出発の時となった。マリーローズは移住の為に用意した上品なデザインだがコルセットを必要としない青いワンピースにストラップのついた黒いフラットシューズ姿で旅立つ。この服装は想像以上に動きやすく、もうドレスに戻れないと思ってしまうほどだった。


 駅にはアンドレアナム家の面々が見送りに来てくれた。


「マリー、体に気をつけて元気でね」

「はい、エミリア姉さま」


 エミリアとミゲル、リディアと順にマリーローズは抱擁を交わして別れを惜しんだ。しばらくすると出発を知らせるアナウンスが聞こえてきたので、マリーローズはヒナタと祈と共に列車に乗り込む。


「ヒナタさん、マリーをお願いしますね」

「はい、お任せ下さい。必ず俺が守りします」


 村の未来を支える存在だからだと分かっていても、ヒナタの言葉は心臓に悪かった。こんな言葉、元婚約者のレイナルドを始め、誰にも言われた事が無かった気がするとマリーローズは胸を押さえた。


 ジリジリとベルが鳴り列車は動き出した。マリーローズは窓から必死に手を振るも、エミリア達は段々と小さくなり見えなくなった。


「あれ…」


 不意にマリーローズは寂しさと不安でぶわりと涙が溢れ出した。厳しい妃教育や婚約破棄と困難に遭った時でさえここまで泣かなかったのに。まるで自分が自分ではないような錯覚に陥ってしまったが、涙は止まらない。


「ヒナ、胸を貸してあげなさい」


 母親の進言にヒナタは黙ってマリーローズの隣に座り、彼女を抱き寄せ胸に押し付けた。1ヶ月前もこんな事があったとぼんやり思い出しながら、マリーローズは静々と涙を流し続けた。




 ***



「ごめんなさい…」


 あれから泣くだけ泣いた後、そのまま糸が切れた様に眠ってしまい、目が覚めた時ヒナタの腕の中にいたマリーローズは声にならない悲鳴を上げた。


「お気になさらずに。生まれ育った土地や家族と別れるのは誰だって寂しいものですし」


 カラッと笑うヒナタにマリーローズの気持ちも落ち着く。出会ってまだ少しだけど、彼の言動には助けられていた。


「ところで1つ提案なんですけど、お互い敬語やめませんか?これからは同僚なんだし、1人くらい気軽に話せる相手がいた方が肩が凝らないでしょう?というより、俺が敬語苦手なんだよね」

「そういう事でしたら…承知しました。よ、よろしくヒナタさん」

「ヒナかヒナタでいいよ。俺もマリーって呼ぶから」


 初めて家族以外の異性に愛称で呼ばれたマリーローズは顔を赤くさせ戸惑うも、意を決して呼ぶ事にした。


「ヒナ…タ」

「うん、合格。よろしくマリー」


 満面の笑みでヒナタに頭を撫でられると、マリーローズは全身が熱くなってしまい、自分はこんなにも異性に耐性がなかったのかと心の中で嘆く。

 

「私も仲良くさせてねマリーちゃん!ちょっぴし上品さが足りないけど私達を水鏡族の村での家族と思っていいから!」

「は、はい!」


 チャーミングなウインクをする祈がヒナタと雰囲気が似ていたので、やはり親子だと実感しつつ、マリーローズは2人の歓迎に破顔した。


「うちの家族はあと旦那と下の子がいるの。私以外みんな男で同じ顔してるのよ。まるで三兄弟を育てているみたい!」

「ヒナタはお父様似なのね」

「ああ、なるべく違う髪型にしてるんだけど、うっかりかぶった時は後ろ姿だと見分けつかなくなる」


 確かにヒナタと祈は似ていない。だからこそマリーローズは恋人に間違えたのだ。それにしてもそこまで似ているヒナタの父親…一度見てみたいものだ。


「マリーは誰に似たんだ?」

「私はどちらかというとお父様似なの。髪と瞳の色はお母様譲りだけど」


 父親似はマリーローズにとってコンプレックスの1つだった。父は決して不細工というわけではないのだが、王女時代国一番の美貌だと持て囃された母に比べたら劣ってしまうと陰口を叩かれ続けて来たのだった。


「へえ、マリーが美人なのはお父さんの遺伝なんだ」

「えっ⁉︎」


 普段ならお世辞と受け止めるのに、ヒナタの言葉に胸の鼓動は早まり段々汗をかいてきた。平民の若い男性は皆こんな物言いなのだろうか。マリーローズは戸惑いながらもヒナタの笑顔から目が離せなかった。

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