プロローグ
「異世界ゲートレンタルでーす!1時間2000円の激安価格でお送りしていまーす!」
流れ行く車に向かって数時間、やたらとカラフルな看板を掲げ客引きをする。
この看板は目にだけは付くようで、時々こちらをちらっと見る人や面白がってよってくる子供はいるが、異世界ゲート自体に興味を示すものなどいない。
…誰もこないじゃないか。まぁ、いつも通りの事だが。
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北日本から南日本に渡ってきて3ヶ月がたった。
この不景気だ、異世界ゲートなんて物好きしか頼まないような嗜好品だ。
2ヶ月前、2048年3月17日、北日本と南日本を唯一つないでいた橋が崩壊し、異世界への関心が高まった。
「異世界」と言っても、昔から発見されていた子供だましのようなものだった。
ゴブリンやオークなどファンタジーな生物がいることを想像するかもしれないが、そこにいるのは人間だけだ。そこに、夢やロマンなんて言うものは無い。子供の時に考えていた妄想なんて絶対に叶わないものなんだ。
「よいしょっと、やっと休憩か」
看板を下ろして、整備所に向かう。
不景気なのに時給はなんと3000円の超高額バイト。
怪しいと思うだろ?そう、怪しい。
その業務内容はゲートの整備と異世界へたまに点検に行くこと。
つらそうに見えるかもしれないが、散歩より楽なぐらいだ。
「早速みますか」
きれいだが悪臭がするいつものゲート。調子は良好。
光を制御するナノスイッチも、良好。まあ、古くなっていたものを俺が変えたからなのだが。
ん?フレームが歪んでいる。勘違いかと思ったが触ってみると明らかに曲がっている。
「えー、冗談だろ。これって曲がるものなのかよ」
俺は頭をかきながらマニュアルを開く。
"34項 ゲートを支えるフレームはなんと15年前の初期型です^^!もちろんロマンを追求しました!異世界は安全ですし、こんなゲートなんていう端物は安物でいいってわけです、あ、損失はこちらでは保証しないのでそこだけよろしくお願いします!」
マニュアルというのにはあまりにもお粗末な内容だ。よくこれで刷れたもんだ。
呆れも一周して吹っ切れて前向きな気持になれた。
「次のページ、直し方か、、」
リンリンリンリンリンリンリン
時間を告げるベルがけたたましく鳴り響く。相変わらず気に触る音だ。
時計を見るともう点検の時間だ。点検に行かないとこっぴどく叱られるのだ。
「フレームを治すのは後にするしかないみたいだな」
そうしてゲートに足を運ぶ。
空気が震えているのが足先に伝わる。
下から射出された光が体を包み込んだ。
ギュイーン
「あ、暑いッッ!」
足を大きく開こうとした、が、思わず足を止めた。
目の前に広がったのは、白い世界だった。