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第9話 転移

 村のあちこちから爆発音が鳴り響く。

 迫撃砲か何かを使用しているのだろう。

 村人たちは急いで神社の方向へ向かうが、その前に爆発に巻き込まれて倒れ込む村人もいる。


「大丈夫ですか!?」


 そんな村人に手を貸しながら、とにかく北原は神社に向かっていた。

 警察や軍隊が村を襲撃して数分。

 敵の手に落ちた村人もいる。その村人は無残にも敵の手によって惨殺された。

 一方で、多くの村人は神社へと逃げ込むことに成功している。

 神社の境内では、Jが村人を逃がす手助けをしていた。


「全員こっちだ!急げ!」


 しかし平均年齢の高い村であるため、神社の階段を登るのに時間がかかっているものが多い。

 それに、敵からの攻撃が次第に強くなってきて、逃げ遅れる村人も少なくない。

 しかし、彼らは見逃すしかなく、北原は全力で神社へと駆ける。

 どうにかして神社の階段下にまでたどり着く。

 そこから階段を全力で駆けあがって、境内へと進入する。

 するとそこにはJがおり、村人たちのことを誘導していた。

 Jの目の前には、転移術式と思われる図形が描かれており、そこに飛び込んだ村人は消失しているようだった。


「お前!」


 Jが北原のことに気が付き、歩み寄ってくる。


「無事だったか」

「えぇ、なんとか」

「お前が無事ならなんとかなるかもしれないな」

「え、何がですか?」


 その時、神社の階段付近に迫撃砲が落下する。

 その衝撃で思わず境内にいた人は倒れ込む。


「あ、アブな……」

「もうこうなったらなりふり構っていられないな」


 そういって北原の肩をつかむ。


「お前、何か危機が迫ったり、困難な状況になったら、この言葉を思い出せ」

「な、何を――」

「『てんしんきあふりょうぎょ』だ。いいか?『てんしんきあふりょうぎょ』だぞ」


 そういってJは北原のことを起こし、ぶん投げる。

 バランスを崩しながら、北原はそのままJの展開した転移術式に入った。

 その瞬間、境内に迫撃砲らしき爆発が発生するのが見える。

 次の瞬間には視界が真っ白になり、空中に投げ出されるような感覚を味わう。

 そして数秒ほどで、目の前の景色が変わった。

 そこはどこかの裏路地のようであり、薄暗く湿気っている。よく見てみると、ゴミ捨て場のようだ。

 とにかく、この場所から移動しようと、北原はその場所を移動する。

 その場所はどこかの工業地帯のようであり、北原が転移したのは、その一角にある工場のようであった。

 とにかく、この工場から脱出することが先決だ。

 そう思った北原は、その手段を術式展開アプリに求めた。

 まずは簡単に見つからないように、姿を消す必要がある。

 そこで北原はアプリに入力する。


「身体、光学ステルス」


 すると、手に持っているスマホともども、光学ステルスモードになる。

 この状態ならば、簡単に監視カメラを通り抜けることができるだろう。

 そのまま、敷地の外に向かって歩き出す。

 無事に敷地の外にでたら、ステルスを解除する。

 そして北原は、今になってようやく呆然となった。

 転移前の様子がこと細かく思い出される。


「Jさん。無事かな……」


 爆発に巻き込まれそうだったJ。その安否を確かめる方法は今の所ない。


「俺はこれからどうすればいいんだろう……?」


 その考えばかりが頭の中を駆け巡る。

 北原はそのまま、何の目的もなく放浪するように歩みを進めた。

 道中、腹が減ったりしたものの、なんとなく食事を摂る気分ではなかった。

 ただ、喉は乾くため、水だけは補給しているような状況である。

 北原は歩みを止めず、工業地帯を抜け、一面畑の場所に出た。

 しかし、そこに何かあるわけでもなく、ただひたすらに歩き続けるほかない。

 そして次第に、閑静な住宅街へと場所を移す。

 時間はすでに夜となっていたが、それでも北原は歩みを止めなかった。

 家々には明かりが灯っているものの、とても静か過ぎて不気味になってくる程である。

 そんな閑静とは言い難い、静かすぎる住宅街を歩いているうちに、一つ気が付くことがあった。


「人がいない……」


 そう、いくら夜の時間であっても、散歩する人くらいいるものだろう。

 そんな人すら北原とは出会わなかったのだ。

 最初にこの世界に転移してきた時と同じような雰囲気を感じる北原。

 聞こえてくるのは、自分の呼吸音。そして自分の心臓が鼓動する音。

 意識すらしてこなかったものに次第に侵されていく恐怖を、たった今、北原は感じているのだ。

 北原はその場から逃げ出したくなるが、一度冷静になろうとする。


「落ち着け……。ここで取り乱したら大変なことになる……」


 そして再び、歩みを進めるのであった。

 住宅街の中を進んでいくと、公園のような場所に出る。

 北原は一度その場所で休憩することにした。

 ただひたすら歩くことを一日してきた北原の足は限界に近い。

 公園のベンチに横になって、そして目をつむった。

 目を覚ますと、空が白んでいた。朝が来たようだ。

 むくりと起き上がり、これからどうしようかと考えていた。

 すると、昨日は興奮していて気が付かなかったが、潮の香りを感じる。


「この香りは……海?」


 北原は、風を頼りにその方向へ進んでみる。

 すると、波の音が聞こえてきた。

 北原は思わず駆け出した。

 そして着いた場所は海岸線である。砂浜があり、そこに波が押し寄せていた。

 しかしその海は、どこか異様な雰囲気を醸し出している。

 本来海は水色とも青色とも言えるが、そんなものよりも蒼かった。

 北原の持ちうる限りの表現をするならば、青色に少しの紺色を混ぜたような、深淵を除いているような感じであった。

 そんなものを見ていると、なんだか頭が混乱してくる感じである。

 北原はそのまま尻もちをつくように浜辺に座り込んだ。

 そしてしばらくの間、その深淵のような海を見続けるのだった。

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