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第7話 検査

 ぐっすり寝ること一晩。

 朝の日差しとともに目が覚めた北原。

 その時、家の玄関から誰かが入ってくる音がする。


「おう、例のアプリは導入できたか?」

「あぁ、問題ないさ。しかしあの男で試験するつもりか?」

「俺たちの必要としている要件ではピッタリの男じゃないか」

「そうかもしれないが、ちと性急すぎでは?」

「時間がないのは我々も向こうも一緒だ。彼が否定したとしても我々の任務を遂行するだけさ」


 部屋の外では、Jと同室のエンジニアが話しているのが聞こえる。

 やがてJがこっちの部屋にやってきた。


「よう、ぐっすり眠れたか?」

「Jさん、おはようございます。久々にやわらかい所で寝ました」

「だろうな。あの研究所は異世界人を人として見てないからな」


 そういって玄関の方へ行く。


「今日は農作業のノルマはなしだ。お前さんにはちょっとした身体検査を受けてもらう」


 その言葉に、北原は少し体がこわばる。

 これまで研究所で受けた身体検査と言う名の拷問は、北原の体に痛く染みついているようだ。


「何、そんなに緊張することはない。研究所で何をされたのか確認するだけだ」


 そういって、北原を家から追い出すように連れていく。

 家から少し歩いたところにある診療所。ここで一連の身体検査を行うようだ。


「特に血液検査は最優先でやってもらう。何か変な薬品でも投与されていたら、それこそ健康被害に繋がりかねないからな」


 そういって診療所の中に入っていく。

 診療所は若干小汚いものの、依然として清潔感のある感じであった。

 中を覗いてみると、MRI室や集中治療室など、ある程度高度な医療機関であることが分かる。


「あらJさん。その人が例の男の人?」

「あぁ、身体検査をお願いしたい」

「もちろん、大丈夫ですよ」


 そういって、看護師が準備を始める。


「まずはMRIから撮っちゃいましょうね」


 そういってMRI室に案内される。

 検査は何事もなく、当然のように行われていく。

 X線撮影が終わり、次は血液を採取される。

 その時、Jが話しかけてくる。


「お前さん、もしこの先戦闘が発生したとき、真っ先に飛び込む勇気はあるか?」

「戦闘、ですか?」

「あぁ。昨日、お前さんのスマホにあるアプリを導入させてもらった。術式展開アプリだ」


 そういってJは、北原のスマホを見せる。

 そこには、見覚えのないアプリが存在していた。そのアプリは「術式」とだけ書かれている。


「このアプリを使えば、ある程度の戦闘や通訳を行うことができる」

「ちょ、ちょっと待ってください。どうしてそんなことをする必要があるんですか?」


 北原がアプリの存在意義を聞く。

 その間に、血液の採取は終了したようだ。


「今日の身体検査の結果次第だが、この世界には生半可な状態で来れるような場所じゃない。ここにいる全員が、何らかの素質を持っているということだ。そこの看護師も、お前の家のエンジニアも、農場やっているおっさんもだ」

「ここにいる、全員が?」

「あぁ。この国のお偉いさん方は、その素質がなんなのか、それを利用することができないかを探し回っているんだ。もちろん、その犠牲になった者もたくさんいる。それを食い止めるには、やつらと戦う他ない」


 そういってJは北原にスマホを返却する。


「使い方はアプリを起動すれば分かるようになっている。せいぜい頑張ってくれ」

「でも!戦わないという選択肢は――」

「ない。戦わなければ、この世界では生き残れないからな。忠告はしたぞ」


 そういってJは診療所をあとにする。


「はい。検査結果は後ほどお家に送っときますので、今日はもう大丈夫ですよ」

「あ、はい」


 そういって北原は診療所を出る。

 時間帯はまだ昼くらいだろう。

 この後何もすることはない。一度家に戻って寝るか、それとも農業の手伝いでもしようか悩んだが、とにかく腹が減っていることに今更気が付いた。

 とりあえず、北原は村の中を散策することにした。

 村はそこまで大きくはなく、ゆっくりと観光するような感じで歩けば、1時間程度で村を一周できる程の大きさである。

 そんな村の中には、大衆食堂があった。

 いい匂いに誘われて、北原はその大衆食堂に入っていく。


「いらっしゃい!見ない顔だね!」


 食堂のおっちゃんが北原に言う。北原は少々おどおどした感じでカウンター席に着いた。


「新入りかい?特別に大盛にしてやるよ!」

「あ、いや、普通でいいです」

「若いのが遠慮なんかしなくていいよ!ほら!」


 そういって大盛の白飯と味噌汁、旬の野菜を使った漬物が目の前に並べられる。

 品目は研究所の時と同じであったが、いろんな意味で暖かさが違う。その事実を理解した北原は、大粒の涙を流しながら食事をするのであった。

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