謀反
明るい時から行われた黄泉の誕生祭……。国民達は最初賑わいを見せていたがそれも終わりが近づいてくるにつれ少しずつその熱狂が静まり返っていく。黄泉は城内から正に今静まり返っている城下町を見下ろす。辺りは暗く人の姿を確認することが出来ない。
「そろそろ、お父様の誕生祭の終了宣言の時間だわ」
毎年、誕生祭の始まりと終わりは黄泉の父……。空国王が宣言する決まりとなっている。最も、終わりの時にはもう国民は自分の家に帰っている者が多くて殆ど聞いてる者はいないのだが。
黄泉が窓から覗く城下町の夜景から目を逸らし空国王の元へ向おうとすると
「グオオウゥゥウッッッ!!」
凄まじい轟音と光と共に何かに焼かれて堪えきれず痛みに喘ぐような声が廊下に響き渡る。黄泉はその声を聞いて顔を真っ青にする。なぜならその声は……。
「お、とう、様?」
そう、聞き間違えるはずがない。その声は黄泉の事を誰より大事に思ってくれている黄泉の父……。空国王のものだ。
黄泉は恐る恐る声のした方へ歩みを進める。歩みを進めている足が重い。暫く歩いていると黄泉の父……。空国王の私室が開け放たれていた。
「……お、父様?」
不安な気持ちを抑えながら中に足を踏み入れるが
「……きゃああぁァァーーーーっっっっ!!!!」
黄泉は目の前の光景を見て悲鳴を上げる。
目の前では父……。空国王と思われる男が真っ黒に焦げ、腹部を今尚剣で貫かれている。黄泉は空国王と思われる男の床にゆっくりと目を向ける。床には辺り一面に赤褐色の血が地面を濡らしていた。
そして再度、視線を今繰り広げられている光景に目を移す。自分の父である空国王を刺したのは誰なのか? 黄泉はその姿を無意識に見ようとした。……だが、部屋には灯りがなくその姿を確認することが出来ない。だが次の瞬間
――ピシャャアアーー……ゴロゴロッ
外で雷が起き、部屋の中にほんの僅かの光が入り込む。その刹那に垣間見えた空国王を殺した人間の顔を見て黄泉はその場にヘナヘナといった様子でその場に崩れるように座り込む。黄泉の顔が絶望で染まっていく。
「……なん、で?」
黄泉は下に向いていた視線をなんとか上げ空国王を刺した人間へと視線を向ける。
「どうしてこんな事を……答えてよ……光」
信じられない事に空国王を刺したのは、黄泉の幼馴染で想い人でもある光……その人だったのだ。問いかけられた光の瞳は酷く冷たいもので何者も寄せ付けない気迫のような物を発していた。光は何も答えず、ただジッと黄泉を見続けるだけだった。それも……怒りの色が濃い瞳で。
「……っ」
初めて見る光の冷たくて高圧的な態度に息を呑むのと同時に後ろから足音がした。
「光様……邪魔になり得る兵士は全て排除しました」
聞こえてきた声に黄泉は驚きその声の主を見る。それは空国王の傍に長年仕えていた羽だったからだ。羽は周りを見渡し、黄泉を目にした瞬間周りに向けていた視線を留める。
「羽……、この女とそこに横たわっている死体をこの城の門広場に出せ」
背後から光の今まで聞いたことのない冷たい声が聞こえてきて黄泉は肩を震わすと同時に目から涙が零れ落ちてくる。
(一体……何がどうなっているの?)
戸惑う黄泉は光や羽に対して問いただす事も抵抗する事も出来なかった。
「……っっ」
城の門まで出ると黄泉は地面に思い切り、叩きつけられる。腕が凄く痛いはずだが今の黄泉にそれすらも感じる余裕がなかった。城の門前広場は先程まで空が曇っていて周りがよく見えていなかったのに今は幸か不幸か月が雲の合間から顔を出し辺りを照らし出している。
背後から複数の足音がして後ろを振り向くと5人の兵士がぞろぞろとこちらへ歩み寄ってくる。
「……貴様ら、この女を殺せ」
羽が冷淡な声で命じる。男共は下卑た笑いを黄泉に向ける。
「羽の旦那〜っ、この女犯してからでもいいかい? こちとら溜まっててよ〜」
男の発言に羽は顔を顰めるが
「命令を遂行してくれるのなら方法は問わない」
光が残酷な事を言い放つ。
男共はまたそれで品のない笑い声を立てるとその内の一人が黄泉の服を掴もうと手を伸ばしてくる。
r座リサ更好きヘくださいキサフナカサら屋はれ)たらるからはこんな所で私は……犯されて、殺されるの……?)
黄泉は思い切り強く目を瞑る。これは何かの夢だっ!! 次目を開ければ私はベッドの上で眠っている……。そう思い込んだ。だが――。
「……っっっ」
ビリリと服が破かれる音が鼓膜を震わし黄泉は目を開け自分の服を見る。見るも無惨に黄泉の服は破かれていた。
斬れ、カラカは座草はクラゲ今朝腫れしれんひりけう
(もう……どうでもいい)
今の現状も空国王が殺されたこともそして……、空国王を殺したのが光だという事も。でも黄泉はこう思った。
「光……、もう一度私の知ってるいつもの優しい光に戻ってよ」
光を見ながらそう呟くとゆっくりと目を閉じようとした瞬間。
――ザシュッ
突然目の前の男の首が胴体から離れる。首が胴体から離れて一拍おいてからその胴体から鮮やかな赤い液体が吹き出し地面をその色で染めていく。そして、胴体から離れ空中に浮遊した首の近くに黄泉の知ってる人物が現れると同時にその首を思い切り右の拳で光目掛けて殴り飛ばす。
――ザシュッ
あと少しで光の顔に直撃しそうだった首を羽が真っ二つに斬り捨てた。その首から大量の血が吹き出て羽の衣服を血が汚していく。
「さてと、これは一体どういう催しで? 光様」
來が剣呑な雰囲気を含ませた目付きで光を睨みつける。
「來……。出来れば僕は君にこの場に来てほしくなかった」
「王を守護する側近の兵士がこの誕生祭で一人も見掛けねえんだ。いくらなんでも、おかしいとすぐ気付くってもんだ……」
來は黄泉へと目を向ける。上半身の服は破られ女体を晒していた。來はその事に動揺せず黄泉の前に立つと自分の上着を黄泉の破かれた服の上に被せる。そして黄泉の横で横たわっている黒焦げの死体を見て慄く。
「黄泉、様……。まさか」
そう言って黄泉の瞳を覗き込むと空虚な瞳が來に向けられる。その瞳は何者も映していないようで生きてる意味も分からないと告げているようだった。
「光っ……てめぇ……黄泉様の横に横たわっているのは誰の死体だ?」
來の眼光が鋭く光る。羽はその來の様子を見てこう思った。
(……獣そのものだ)と。
月明かりが來の襟足まで伸びた短い黒髪を照らし出す。月明かりにより來の顔に出来た陰影の中でも未だ來の眼光の鋭さが留まるどころか増していく。
「來……、この真華国で一番偉い人ですよ」と、來に光が笑顔で答えると同時に腰に挿されている剣を鞘から抜き放ち來に迫ってくる。
「貴様らっ!! 光様を援護しろっ!!」
羽の怒声を聞くと残った男共は來と黄泉に斬り掛ってくる。來は最初に斬り掛かってきた男の上段からの斬撃を横に飛んで躱しすれ違いざまにその腹に蹴りを入れる。すると蹴られた男は10メートル先まで凄まじい勢いで吹っ飛ばされる。男達はその光景に足を止め動揺する。
「な、なんだアイツ――?」
「普通魔法で身体を鍛えていてもあんなにブッ飛ばす事なんか出来ねぇぞ」
男達は目の前にいる黒髪の少年に恐れ慄く。……自分達が相手にしているのは一体何者なのかと。
「邪魔だっ!!」
そう言いながら光がいきなり來の顔目掛けて剣を振るう。來はその剣を自身の剣で受け止めると鍔迫り合いの状態に持ち込む。
「もう一方の剣は使わないのですか?」
光が來に対して高圧的な笑みを浮かべながら問いかけると
「あぁ……雑魚相手なら一本で十分だっ!!」
そう言って光の剣を押し返すとすかさず距離を詰めると……。
右、左、上、下……。全方向の無数の斬撃を連続で光に打ち込む。
最初こそ余裕を見せていた光だったが次第に劣勢に追い込まれていく。そして何度目かの打ち合いの時勝負が決まる。
「あっ」
光が來の斬撃に耐えきれず手から剣を取りこぼしてしまったのだ。來は剣の切っ先を光の顔に向ける。
「答えろっ!? 何故……何故、黄泉様の父を……空国王を殺したっ!?」
まるで獣が吠えるかのように凄まじい勢いでがなり立てる。光はその言葉に暫く無言でいた後、ゆっくりと口を開く。
「僕の父……海前国王の復讐の為だっ!!」
來はその言葉を言った光の顔を見て言葉を失う。それは復讐に駆られた悪鬼のような形相で今にでも目に見えているもの全てを殺しかねない勢いだった。
「海前国王の復讐って……。病で死んだんじゃなかったのか?」
「そんなのは奴らのでっち上げた嘘話さっ真相は違うっ!! 真相は……空国王っ……アイツが僕の父を殺したんだっ!! 僕はこの目でその瞬間を目にしたんだからなっ!!」
そう言い放つ光は真に迫っていて、とても嘘を言ってるようには見えない。
「嘘よ……お父様が……そんなこと……する訳ない」
途切れ途切れになりながらも弱々しい声で答える黄泉。
「ああ、そうだろうよっ……アイツは身内には汚い部分を隠し通していたっ……。アイツは欲しがっていたんだよ、国王という座をっ!! その為に邪魔だった僕の父を手に掛けたっ!!」
來は信じられなかった……。あの戦う事を誰よりも嫌う空国王が自分の兄を殺すなんて……。
「アハッアハハハッ……」
突然光が大声で笑い立てる。來は光を睨みつけると
「流石は慙隊長の直弟子だっ!! 剣は僕も自信があったが魔力を持たない君に負けるなんてなっ!!」
來は光から後ろへ飛び退く。光の体が紫に光ったからだ。來が着地するのと同時に光が來、そしてその奥にいる男共と黄泉に手を伸ばす。
來はその光景を見てすぐに背後にいる黄泉の元へ駆け出す。
「雷光よ……彼の者共を打ち焦がせっ!!」
そういった瞬間、光の体から無数の雷が生じ真っ直ぐに來達の元へ目にも止まらぬ速さ……音速の領域で迫ってくる。
來は光が手を伸ばしてきた時に気付いて即座に黄泉の元へ辿り着くと間一髪雷撃が放たれた瞬間に横に大きく飛び込みその雷撃を躱す。
「……ちっ」
光が忌々しそうに來と黄泉を睨みつける。
(光の奴、本気だった……)
先程の剣戟は魔法で身体強化を施していない状態でのもの……。その状態で來が勝ったということは逆に言えば、今魔法を駆使している光に來は絶対に太刀打ち出来ないということだ。
來は周りに目を向ける。來と黄泉以外の人間は空国王と同じく黒焦げになっていた。
「良かったので……光様?」
光の背後にいた羽が問いかける。
「構わない……。後々面倒になる存在は今の内に排除すべきだ」
冷酷な表情を浮かべながら答える光。
「光……。1つだけ教えろっ!! お前の望みはなんだっ!!」
來が先程より鋭さを一層増した眼光で睨みつけながら問いかける。
「決まっている……。僕の望みはこの真華国の天下統一だっ!!」
その言葉を聞いた來は言葉を失う。天下統一……。光が言っているのは霊華国との長きに渡る戦争を終わらせるということ。
「っ……そんな事の為にっ、テメェはここにいる黄泉様の父をっ……俺の尊敬する王を手に掛けたってのかっ!!」
來は、腰に挿されているもう一本の剣を鞘から抜き放つと光の元へ全力疾走する。光も剣を斜に構えて待っている。そしてお互い剣が届く間合いに入った瞬間……。
「……っっ」
凄まじい殺気を上空から感じ來は後方へと飛ぶ。
そして、上空から何かが降り立ち土煙が舞う。
「光様……。ここは……この私に任せてもらおうか?」
來はその声を聞き目を大きく見開く。やがて土煙がやみその人物が月明かりに照らし出される。
「なに……やってんだよ……師匠」
來は目の前にいる人物。師匠である慙に弱々しく語りかけた――。




