(5)night mission
「厄介なことに、我々の立ち位置はあくまでアドバイザーで、武器の供与のような軍事支援は行えなかった」
「つまり、第三国の意向が働いていたと」
「ああ、この国は冷戦時代から、両陣営の微妙なパワーバランスの上で存在していた。だから、どちらかが必要以上に加担をすれば、相手も相応に過敏になる。武器の提供が行えない以上、彼らは、我々からすれば、2世代も前の旧式の武器で戦わざるを得なかった」
「それでも、一時は奴を追い詰めたと聞きましたが」
「そうだな。兵隊たちは実によくやってくれた。作戦の要は、闇の中から突然始まる奴の攻撃に、いかにこちらの損耗を抑えて素早く反撃できるかに尽きた」
ウォルクは、軍人らしく抑揚を抑えた声で訥々と語った。
「まず、街外れの見通しの良い場所にトラックを止めた。それは、通信基地であると同時に、奴に俺たちはここにいるぞ、と伝える目印でもあった。そして、兵隊たちはトラックの周りに散開して身を潜め、奴を誘い出すためにトラックの前に歩哨を交替で立たせた。奴にはきっとそれが肉の塊りのように思えただろう。ひどい話さ。いわゆる捕り籠に仕掛けた餌の役目を人間にさせたのだから」
「・・・」
相手の無言にウォルクは言葉を継いだ。
「そんな目で見ないでくれないか。本来ならば私自身が務める役だった。だが、お偉方が本国の意向を慮って強行に反対したのさ。それに、兵士たちも相応に腕に覚えがあったから、むしろ自らこの危険な任務を買って出たくらいだ」
「失礼しました」
「作戦の概要はこうだ。わざとトラックを目立つところに止めて、奴を誘った。奴が近づいて来たら分かるように、半径100メートルに赤外線センサーを配置し、それが反応したら備えを固めた状態で十分引きつける。そこでトラックから強力な投光器で周囲を昼間に変えてしまう。昼間ならば、むしろ自分たち人間のフィールドだ。そこで周囲に散開していた兵隊たちが一斉にネットランチャーを放って動きを止める。この方法ならば歩哨に立った兵隊の命を心配せずに全員で奴に向けて一斉射撃ができる。そして、動きが止まれば、そこに弾丸の雨を降らせて仕留める」
「しかし、相手には鉄の礫と言う武器があります。それに襲われたら歩哨は一たまりもないでしょう」
「だから、身体には防弾チョッキを着込んで、頭は分厚い布のヘルメットをかぶらせた。あと、怖いのは、奴の牙と爪だけだ。その一撃さえかわせれば、後はこちらの思うまま・・・のはずだった」
「うまくいかなかったのですか?」
「作戦は夜の2200時から開始された。そして、深夜の2時に近い頃、センサーが大きな生き物の近づいてくるのを捉えた。その時の歩哨は、オジーと言う空挺隊所属の男だった。奴がセンサーに引っかかったことを知ったオジーは反射的に姿勢を低くした。本能的に鉄の礫を警戒してのことだった。だが、奴は鉄の礫を飛ばすことなく、まっすぐ突っ込んできた。オジーは立ち上がると、近づいてくる黒い影に真っ直ぐに銃を構えた。その時、投光器がトラックの回り半径50メートルを昼間に変えた。そして、その時、オジーは奴、そう、マンイーターの姿をまともに見たんだ。だが・・・、それが良くなかった」