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トゥルー(true)  作者: 風吹(かざふ)流人(るじん)
虎狩り
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(1)army truck


(1)army track


夜更けの市街地を、荷台を幌で覆った一台のトラックが走り抜けてゆく。


幌の表には、地元では誰でも聞き覚えのある運送会社のロゴが大きくプリントされていた。前は夜中の2時でも活気の絶えない歓楽街だったが、この街を襲った奇禍の記憶が未だ人々の足を遠ざけていた。


時々すれ違うのは、早朝からの配達のために輸送を行なっているトラックやバンだけだった。


「まるで火が消えたようですね」


荷台の幌の隙間から外を垣間見て一人の青年が口にした。


「おい、ジャクスン上等兵、迂闊に顔を出すな。作戦中だということを忘れるんじゃない」


「は、申し訳ありません。軍曹殿」


年嵩の上官に叱られた青年兵は、肩をすぼめて迂闊な行動を詫びた。


トラックの幌の中には、数名の男が乗り合わせ、アメリカ合衆国陸軍のグレーの迷彩服を着込んでいた。それを統率するのは軍曹と呼ばれた40代の男性で、付き従う兵隊たちはいずれも20代の若者たちであった。


その中に彼らとは明らかに異質な人物が混じっていた。トラックの運転席に背を預けて、油断なく背後を守っていた。

年の頃は40代後半で、髪に少しずつ白いものが混じり始めている。その風貌は、例えるならば黒くて大きな狼である。

無造作に伸ばした髪と髭で、顔の半分が見えなかった。その髪の下から異様に目を光らせていた。薄くてまっすぐな鼻梁は、その性質の酷薄さを窺わせる。夜の闇に彫りの深い顔を青白く浮かべながら、まるで鎧のように黒くて厚ぼったいコートを纏っていた。それは、人の衣服というより、獣の毛皮の印象が近かった。


「ウォルク少尉、失礼します」


「どうした。マーシャル君」


軍曹に少尉と呼び掛けられた彼は目を光らせながら答えた。


「今回少尉殿自らが作戦に同行されるに当たって申し上げたいことがあるのですが」


ウォルクは軍曹を言葉を軽く手でさえぎり、低く、しかし穏やかな声を返した。


「そう畏まらないでくれないか。私は、階級は少尉だが、いたって気ままにやらせてもらっている」


「は、失礼します。では、まこと失礼ながら、一つお伺いします。少尉、あなたは目が不自由と伺っておりますが」


「そのことか。気にすることはない。自分のことは、自分で何不自由なくやれる」


「しかし、少尉、これは作戦であります。あなたのような方にご同行いただくのは、その・・・良いこととは思えません」


「つまり、お荷物だとでも」


「いえ、そのような。しかし、不意に攻撃を受けたとき、今の戦力では少尉をお護りできる保証がないのです」


「いや、むしろ、このような夜戦だからこそ、私のような人間は役に立つと思って欲しい」


「しかし、ターゲットは獣のように夜目がきくと聞いております。我々はそれに対抗するために暗視スコープを装備しておりますが、少尉はそれすらも役立てていただけないのです」


「むしろ、無用だ。なまじ見えるから、目に頼るんだ」


「しかし、先鋒は我々に任せて、あなたは後陣で指揮をとっていただくわけにはいかないのですか」


「いや、今度は私も最前線に立つ。前の戦闘の愚を繰り返すわけにはいかないのだ」


「しかし、前回あなたが後方におられたことについては、少尉に責任はないでしょう」


「いや、責任なんかじゃない。因縁さ。奴は私がカタをつける。しかも、今度は最低限の損耗で作戦を遂行するんだ」


軍曹が深く息を吸い込んだのが分かった。


「分かりました。あなたを信じます」


「あと、若僧どもには、決して気を抜くなと伝えてくれ。ターゲットは尋常な相手ではない。一つ間違えば、誰も生きて帰れないことだってあり得る」


そして、歴戦の兵隊の気配に緊張を感じ取ったウォルクは、こう言葉を足した。


「何、心配はいらない。必ず、全員無事に帰す。何しろ、こっちには、鉄のスティールの秘蔵っ子がついているんだ」

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