(35)double-headed
「待つんだ!指を引き金から外すんだ」
通称「nwa」、限定地域殲滅用特殊兵器の発射指示を今か今かと待っていたオペレーターは、ウォルクのいきなりの中止命令に戸惑った。
「どうした、何が起きた?レッドクリーク、状況を教えろ」
トラックの中で作戦を俯瞰する立場のマーシャルは、急いで事態を把握しようとした。
「軍曹殿、ヤツです。マンイーターが現れました」
「気をつけろ。そちらに向かってくるかも知れん」
上官を援護するために、兵隊たちは周りに壕を掘って身を潜めていた。
「いえ、ヤツは少尉にしか興味がないようです。まっすぐ近づいていきます。撃ちますか?」
「待て、少尉の攻撃中止の意図が分からない限りはうかつには動けない」
それにしても・・・
(なぜ、ヤツは自分が有利な夜を捨てて、日の光が射す時間帯を選んで仕掛けてきたんだ)
そのマーシャルの疑念は、レッドクリーク曹長の次の言葉でさらに深まった。そして、事態は想定外の方向に展開した。
「軍曹、ヤツの姿が認められます。いや、なんてことだ・・・」
「ど、どうした」
部下の動揺の言葉に、マーシャルも吃音を発した。
「頭です。ヤツには頭が2つあります!」
「何を馬鹿なことを言っている。見間違いだろ!」
「違う!!」
いきなり、ウォルクの怒声が無線を通じて兵隊たちの耳に響き渡った。
「ヤツは、民間人を!女を!抱えている」
「え!少尉、どういうことですか!」
「ヤツは!近くの農場でさらってきた女を身体の前に括りつけているんだ」
マンイーターこと、タイガーは、なんと血にまみれた若い女を、胸に紐でくくりつけた姿で現れた。そして、女にはまだ息があるとみえて、苦しそうに呻き声を漏らしていた。
「少尉!」
「ああ、そうだ。これで私たちは銃火器を封じられてしまった。そして、この姿を見せつけるために、日が射してからやってきたんだ」
「こいつは悪魔だ」
マーシャルが呻く。
「逃げてください!」
「いや、逃げない!」
「ならば、ヤツを撃ちます!!」
「ならん!!!」
ウォルクの決然とした口調が兵隊たちを威圧する。
「民間人を決して傷つけるな!それができなかったら、自分たちはただの人殺しだ!」
「ですが!!」
その時、タイガーは口を歪めてニヤリと笑った。
そして、手の中から礫を放った。
それは、鈍い音をたてて空を切り、ウォルクの身体に吸い込まれていった。




