(17)tiger outside the cage
「サマンサの一件の後、研究所の管理官が檻のモニターを通じてタイガーと会話をしました」
・・・
「タイガー君、気分はどうだね?」
「ああ、最高にいい気分だよ。食事はおいしいし、いつも部屋はきれいにして貰えるし。でも、もう少し生肉を増やしてくれないかな。血の味がしないとなんだか食べた気がしなくて」
彼は普通の人間が聞いたらおぞましく感ずることを、柔和な顔に笑顔を浮かべながら言ってのけた。
「なあ、タイガー君、聞けば君はこの間、うちの職員の唇を齧ったそうじやないか。あまり、血の味を覚えるのもどうかと思うが」
「ああ、あれ、見てたの?あれは、齧ったんじゃないよ。彼女のキスがあんまり素敵だから、つい夢中になったんだよ」
「しかし残念だが、彼女は君の担当から外れて貰うことになった。少し君に、その、特別な感情を抱き過ぎているようだからね」
その言葉を聞いてタイガーは真っすぐにモニター横のカメラに向かってニヤリと薄い笑いを浮かべた。そして、その瞳は夜行性動物のように縦に長く伸びていた。
「それはとても残念だ。ならば、彼女にこう伝えてくれないか。『僕は一生檻の虎だけど、モニター越しでも時々僕のことを見てくれないか。それだけでとても幸せな気持ちになれるから』」
「分かった、伝えよう」
・・・
「奴はとんだドンファンだな。眠くなるかわりに歯が浮いてきた」
「ウォルク、でも、それを彼が口にすると不思議と女は心が騒ぐのよ。あと、タイガーにあまりサマンサと引き離されたことを気にしている様子はなかった。そう、まるで想定していたようにすら思えるの」
「そう言えばタイガーは部屋の掃除のことを言っていたが、その時は檻に人を入れるのかね」
「はい、動物園の檻の清掃と同じですわ。実は、彼の檻の隣には小部屋が作ってあります。そして、掃除の時だけタイガーはその小部屋に移るんです。彼が小部屋に移動すると頑丈な鋼鉄製の格子が下ります。それを確認してから初めて清掃員が入ります」
「タイガーは意外に素直なんだな」
「大佐。彼はとてもきれい好きです。いつも清潔で掃除の行き届いた部屋にいられるのなら、少しくらいの協力は惜しまないと口にしていたくらいです。しかし、格子の向こうからタイガーに見つめられると、清掃員たちは命が縮まる思いがすると言っていました。中には、舌舐めずりの音を聞いたと言う清掃員もいたそうです」
「しかし、鋼鉄の格子に守られている以上清掃員たちは安全だったんのだろう」
「そうです。しかし、ある時、その格子を開いたものがいました」
「おおかた、あの恋狂いのいかれ女だろう?」
「その通りよ、ウォルク。彼女は清掃員が掃除をしている時に小部屋の格子を開けたの。あのカメラを止めたパスワードで監視システムにでログインしてね。そして、彼女は、恋人に会いに行くように胸を高鳴らせてタイガーの檻に急いだ。そう、そこでタイガーは、逃げ惑う清掃員たちの血を浴びて嬉しそうに笑い声を上げていたの」
「無茶苦茶だ。なんてことをするんだ」
「そうです。でも、サマンサにはもう正常な判断はできませんでした。そして、清掃員たちが出入りした檻の入り口から
『ああ、タイガー、これであなたは自由よ』と言ったのです。
そして、タイガーはこう答えました。
『有難う、愛しい人、みんな君のおかげだよ』」
「それで、タイガーは彼女をどうしたのかね」
「サマンサはタイガーに言いました。
『タイガー、私を連れて行って』と。
そして、タイガーは
『ああ、もちろんだとも』と言って、彼女を連れ去りました。
ただ、もぎり取られた首から下は、その場に置き去りにされていましたが」




