(2)fairy girl
その目は深い青色をしていた。
そして、その奥に夜行性動物のように、縦長の瞳孔が見えた。
冷めたプラチナブランドの縮れた髪の下、肌は透き通るように白かった。形よくまっすぐに伸びた鼻梁の先には細くて青い血管が透けて見えた。
少女もまた、この国では異郷のものだった。
まだあどけなさの残る顔は儚げで、北欧の絵画に描かれた妖精を思いださせた。
黒いカチューシャで髪を纏め、そこに赤くて長い羽根を2本ぶら下げていた。そして、長いショールの下には、襞のついたアンティークドールのような衿元がのぞいていた。
この雨の寂しげな波止場の風景の中、まるでモノクローム写真に鮮やかな天然色が混ざり込んだような不思議な感覚に襲われた。
この少女が、俺にあの視線を送り続けた相手なのだろうか。
それとも、俺の心の中に焼付いた視線が、この風景から浮き出た少女の目と重なっただけなのだろうか。
だが、その少女は、たまたま通りかかった俺に気まぐれに視線を向けたのではなかった。俺に明らかな関心を示して、真っ直ぐその青く深い瞳を向けてきた。
彼女は、小ぶりで形の良い唇に不似合で冷ややかな笑みを浮かべた。
そして、空いている方の手でピストルの形を作って、ゆっくりとこめかみに当てた。
「バン!!」
少女は、低音でよく響く声で小さく叫んだ。
それはまるで、本物の銃撃音の如くしばらく残響をひいたように思えた。
俺はしばらく、妖精の絵本から抜け出たような異国の少女に見入ってしまった。それは、行動の不可解さだけでなく、彼女の妖艶とも言える美しさに当てられたからであった。
しかし、次の瞬間、俺の右手は冷たい鉄の感覚を覚えた。
それは左脇のフォルスターに護身用に吊ったグロックの感触だった。
いつの間にか俺は、右手に拳銃を握っていた。
俺の目は拳銃とそれを握っている右手を凝視していた。それは別の意思に動かされているように親指で安全装置を外して、グロックのスライドをいっぱいまで押し下げた。
そして、今少女が目の前でやって見せたように、自分のこめかみにグロックの銃身を当てていた。
まともじゃないと思った。スライドでレバーを解除して、初弾が弾倉に送り込まれていた。あと引き金に力を込めさえすれば、俺の頭は吹き飛んでしまうだろう。
まだ自分の意思が上回っているのか、右手の人差し指はそれ以上力を込めようとはしなかった。
だが、どうしても銃身をこめかみから逸らすことだけは出来なかった。