07-05 初めての戦闘体験でした
公共スペースを後にして、カノンと二人でフィールドに向かうジン。忍者姿は目立つので、ローブを身に纏っている状態だ。それに合わせて、カノンもローブを装備している。彼女の場合は不要なのだが、その方が落ち着くらしい。
向かう先は北側のエリアだが、これはジンが勧めたからである。【七色の橋】のギルドホームがそちらにあるのも理由の一つだが……最大の理由は、第二エリアにある。
「鉱山町なら、第一エリアには無い素材があると思うんですよね」
「た、確かに、取引掲示板に出回っている、第一エリアの鉱石は……そろそろ、物足りなくなってきたし……」
カノンと連れ立って向かう先は、第一エリアのエリアボスが待ち受けるフィールド。ジンにとっては二度目のエリアボス戦だ。
無論、二人だけで挑むのは自殺行為に他ならない。カノンに了承を得て、ミモリと【七色の橋】メンバー数名が合流に向かっている。
しかし北門から第二エリアまでの道のりもそこそこ長いし、そこまで二人だけでは苦戦する可能性もある。そこで始まりの町からある程度離れた所で、ジンは彼女を呼ぶ事にした。
「それじゃあ、呼びますね?」
「う、うん……解ったよ……」
システム・ウィンドウを操作して、ジンは契約しているPAC・リンを呼び出した。
「主様、お呼びでしょうか」
傅いて挨拶をするリンに、カノンが少し緊張気味だ。NPCと解っていても、気後れするらしい。
そんなカノンに苦笑しつつ、ジンはリンに声を掛ける。
「うん。来てくれてありがとう、リン。カノンさんを護衛しながら、第二エリアに進みたい。手伝ってくれるかな」
「はっ、仰せのままに」
二つ返事で了承したリンは頷き、立ち上がる。
「ほ、本当に、NPCなのかな……動きが、凄く自然だね……? シンギュラって無いよね……?」
「何故に初代令和ラ○ダー特有のネタに……? まぁ、僕も中に人がいるんじゃないかと思う事はありますけど」
某人気特撮シリーズにおける、謎の言葉を使うくらいに驚くカノン。
余談だが、シンギュラるとは”シンギュラリティに達している”の略語だ。意味としては、人工知能(AI)に自我が芽生える……といった認識が主である。
「あ、そうだ」
ある事を思い出し、ジンはカノンに顔を寄せる。
「ひゃ……っ!?」
「これはリンだけじゃなく、彼女達全員に言える注意点なんですが……」
緊張の度合いが強まったカノンの内心を知ってか知らずか、ジンがカノンにある情報を伝える。
「AWOではプレイヤー以外のキャラクターにNPCって言うと、好感度が下がるみたいなんです」
「……え、そう……なの?」
この仕様は、AWOの運営がNPCを大切に扱って欲しい……という思いが込められている。
NPCを相手に暴言を吐いたり、高圧的な態度を取ったりするプレイヤーは、VRMMOでは少なくない。酷い場合はNPCを欲望のはけ口にしたり、KILLしたりという事だってある。そういった行為に及ぶプレイヤーの心理は「心が無いんだから何をしたって良いだろう」という自分本位の考えである事が多い。
しかしながら、NPCはVRMMOにとっては必要不可欠な存在。クエストの起点だったり、貴重な情報を得られるのはNPCからというのが主なのである。AWOにおいては、PACシステムによってNPCの重要度が更に高い。
そこでAWO運営は、NPCに各プレイヤーへの好感度という要素を設定しているのだ。好感度が低いプレイヤーは、近付く事も出来ないようになっている。具体的には好感度が低いプレイヤーが近付くと、NPCはその場を離れる。それでも追い掛けて行くと、NPCは転移してしまう。
これは、運営の本気度が現れている仕様と言って良いだろう。
ちなみに、PACという呼称についてはオーケーらしい。これはNPC達には、相棒的なニュアンスに感じられるのだそうだ。つまりNGワードは主に”NPC”や、”AI”といったものらしい。
「へぇ……そうだったんだね、知らなかったよ……」
「僕も、それを知らなかったんです。ハヤテが教えてくれたんですよ」
PACシステムについて、独自に調査をしていたハヤテ。その結果解った事実を、【七色の橋】メンバーに周知していた。無論、それらは提携ギルド【桃園の誓い】やレーナ達にも報せてある。
「……うん、ありがとう。気を付ける事にするね」
「えぇ。さて、それじゃあ行きましょうか」
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フィールドを歩いて行く三人は、推奨レベル20以上のモンスターに遭遇するようになる。しかし、不安要素は無い。ジンが回避盾としての本分をフルに発揮し、モンスターの注意を引き付ける。
「疾風の如く!! 【クイックステップ】!!」
モンスターの攻撃を、難なく回避していくジン。モンスターの数が二、三体の内は素のAGIを駆使し……四体以上になって、敵の攻撃頻度が上がる場合は武技を駆使して回避していく。
相変わらずの回避力で、フィールドに出てから一度もダメージを受けていない。
その隙を突いて、カノンとリンが攻撃するという形で進んでいく。
「カノン様、参ります!!」
「う、うん……い、行くよ……!! 【インパクト】!!」
カノンの武器は大型のハンマー……所謂、戦槌だ。一撃の威力が高い代わりに、攻撃動作や力を溜めるのに時間が掛かる。ビルド構成は鍛冶に必要な、STRとDEXをメインにステータスポイントを振り分けている。その為、戦闘に参加するには盾役が必須のビルドである。
そんな戦槌の攻撃は、当たり判定の大きさも特徴の一つ。一度のフルスイングで、モンスターをまとめて二体打ち据える。戦闘は初めてとはいえステータス自体は高いので、十分に戦力になる。
攻撃によってヘイト値が上昇したカノンに、モンスターが一体迫る。しかし、その背後に迫るくノ一……その両手の小太刀を構える。
「【一閃】」
二刀の連撃を受け、モンスターのヘイト値が上昇。カノンに向かうのを止めると、リンに向けて振り返ったモンスター。
「今でゴザル!!」
「えぇいっ!!」
その背中がガラ空きになり、迫るカノンの通常攻撃でHPを消し飛ばされた。
AGI最高峰プレイヤーな忍者と、その従者がタゲ引きや妨害によってカノンが攻撃するまでのお膳立てをし、カノンの強力な一撃で討伐する……という流れを繰り返していく。
「……ジン君達は、凄い……ね」
身の丈ほどもある戦槌を手に、カノンがジンに声を掛ける。並び立って歩くジンと、その斜め後ろに付き従うリン。とても姿は忍者なのだが、相変わらず忍ぶ気がない。
「いやいや、カノン殿の力あってこそでゴザル! それに、リンも手伝ってくれているし!」
「主様やカノン様のお役に立てているのであれば、何よりです」
リンに設定されているプレイヤーの呼び方は、契約者のフレンドに対しては”様付け”になる。カノンは鍛冶初挑戦の後でフレンド登録を交わした為、”カノン様”と呼ばれている。
ジンとリンに慣れて来たカノンも、しっかりと戦闘に参加している。そして、回避盾の忍者主従との相性も良い。二人がしっかりと攻撃のチャンス作りをする為、ストレス無く攻略を進める事が出来ていた。
「とまぁ、拙者達はこんな感じでプレイしているでゴザルよ」
「……うん、そっか」
短く返事をするカノンの口元は緩み、目も細められている。どうやら、慣れない戦闘ながらも楽しんでいる様だ。
「……フィールドって、こんなにいろんな景色があるんだね」
何度か戦闘を繰り返した事で、風景を楽しむ余裕も生まれる。ゲーム内とは思えないその高い再現度と、現実ではありえない植物や動物がそこかしこに見受けられる。こういった部分もまた、VRMMOの醍醐味の一つだ。
「そうでゴザルな。南側には海があるし、西側には砂漠もあるでゴザルよ。東側の第二エリアには、のどかのな牧場なんかもあったでゴザル」
「家畜を育てたりも出来るんだっけ……本当に、自由度が高いよね」
和やかに会話しながら、三人は目的地へと進んで行く。
「リンは、東西南北でどこが一番好きでゴザル?」
そう問い掛けるジンに、カノンは首を傾げた。いくらAIの性能が高くても、そんな抽象的な質問に的確に回答できるだろうか? と思ってしまったのだ。
しかしカノンの考えを他所に、リンは一つ頷いて返事をする。
「私は、北が一番好ましいです。我々の拠点も、北にあります故……次点で【桃園の誓い】のホームがある、南でしょうか」
思いの外、人間らしい回答。そんなリンに、カノンは驚いてしまった。そして受け答えだけではなく、感情までしっかりと表現する事の出来る高度なAIに感心してしまう。
「リンらしいでゴザルなぁ……拙者も同じでゴザルが」
「ふふっ……何か、ジン君とリンさんは似ているのかもしれないね」
ジンとリンを見て、カノンは楽しそうに微笑む。鍛冶をしている時も楽しいが、それとはまた違った楽しさが今、ここにある。
「私も、契約してくれるPACを探そうかな……出来れば、一緒に鍛冶をしてくれる人……が良いな」
そう言って笑い、ジンやリンと並んで立つ。
「それなら、ホルンで探すのが良いと思うでゴザルよ」
「うん……ミモリ達も待っていると思うし、行こうか」
頷き合うと、三人はエリアボスが座すフィールドを目指して進む。その道中の戦闘で、カノンとの連携もだいぶ形になっていくのだった。
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第二エリアの一歩手前、エリアボスとの戦闘区域。その手前にある広場で、彼等を待つ者達がいた。
一人は、カノンの相方であるミモリ。残りは、【七色の橋】のメンバーだ。
「ジンさん、カノンさん! お待ちしていました!」
ヒメノの呼び掛けに、ジンが右手を挙げて応える。
「皆、お待たせでゴザル!」
カノンは待ってくれていた彼等に、何と声を掛ければ良いものかと困惑する。そんなカノンに対し、ミモリが笑みを浮かべて歩み寄った。
「聞いてよカノン、皆ってば凄いのよ! 強過ぎ!」
からかうでも、心配するでもなく、普段通りのノリ。それは人見知り克服に向けて踏み出した、カノンに対する気配りだ。
付き合いの長いカノンには、それが伝わっていた。そして、湧いてくるのは感謝の念だ。
「ミモリ……あのね、私……」
「うん?」
伝えたい事は、いくつもある。しかし、どう言葉にしていいのか解らない。そのまま何も言い出せずにいると、ミモリが微笑みながらカノンの肩に手を置いた。
「……良いわよ、焦らなくても。とりあえず、皆を待たせるのもあれだし……初めてのボス戦、行っちゃう?」
チャーミングに、ウィンクなどをして嘯くミモリ。綺麗系の見た目の割に、愛嬌たっぷりで可愛らしい仕草だ。
確かにミモリの言う通り、ジン達を待たせてしまっている。無駄に時間を浪費するのは、申し訳ない。だから一言だけ、一番伝えたい言葉だけでも。
「うん……ありがとう、ミモリ。色々」
「色々?」
「そう……色々」
今は、それだけで良かった。ミモリもカノンも、含むものが一切無い笑顔を向け合っている。この戦闘が終わった後で、いくらでも時間を取る事が出来る。だから、今はこれだけで良い。
「……それじゃあ、行くでゴザルか」
ジンの言葉に、ミモリとカノンは頷き合い……【七色の橋】のパーティに加わる。
「そう言えば、姉さんはどんな戦闘スタイルでゴザル?」
まだ、ミモリの戦闘を見た事が無いジン。彼が問い掛けると、ミモリは腰のポーチからソフトボールくらいの大きさの球体を取り出した。
「これをね、投げるの。モンスターに」
「ふむ、投擲系」
「そうそう。そうしたら、相手は死ぬの」
満面の笑みで、物騒な事を言い出すミモリ。そんな相方に、カノンは苦笑していた。実戦で使用した所を見た事は無いが、彼女の持つアイテムの正体を知っているのだろう。
「……オーケー、実戦の楽しみに取っておくとするでゴザルよ」
……
北の第一エリアボス、ウォータードラゴン。そのフィールドは、石造りの門が入口となっている。その門をパーティメンバー全員が潜り抜けた先は、ダンジョンボスの部屋と同様にインスタンスマップとなっている。
そして今、ウォータードラゴンに挑もうというプレイヤー達が行列を作っていた。
「……うぁ」
人の多さに、カノンが青い顔で呻く。慣れないフィールドを歩き、ボス戦に挑むという緊張感。その上に、最も苦手な人混みである。緊張のあまり気後れしてしまっても、無理も無いだろう。
「【七色の橋】、フォーメーションA!」
ジンの呼び掛けに、カノン以外のメンバーがサッと動き出す。カノンの前にジンとヒイロ・ハヤテが立ち、ヒメノ・レン・アイネ・シオンが左右をガード。殿は当然、リンとヒナ・ロータスだ。更にミモリもそれに加わり、カノンを囲む様に立つ。
カノンはすぐに、自分の為だと察した。何とか皆にお礼を言おうとしたのだが……。
「で、ジン? なにフォーメーションAって」
「ノリと勢いでゴザルな」
そんな気の抜ける会話を始めたので、肩に籠もっていた力が一気に抜けてしまった。PACまで一緒になって陣形を組むあたり、中々に染まっている模様。
そんな【七色の橋】だが、有名プレイヤーが集ったギルドなだけあって注目されている。
「おい、アレって……」
「和装勢……【七色の橋】だっけか……?」
「何か、増えてないか?」
「ひーふーみー……十二人?」
「レイドで挑むらしいな……エリアボス」
ジン達が既にウォータードラゴンを討伐済みだと知らない彼等は、仲間を揃えて攻略に挑むものだと勘違いしていた。
そんな他のプレイヤー達はエリアボス攻略に備えて、フルレイドのパーティだ。【七色の橋】にあやかろうと、声を掛けて来る事は無かったのは幸いだった。
そんな注目されている【七色の橋】と生産コンビだが、カノンの緊張を紛らわす為か雑談に興じている。
話題は主にジンとカノンがここに来るまでと、ミモリと他メンバーがここに来るまでの事だ。
「で、カノンさんと一緒に作ったのがこの手裏剣」
ジンとカノンが鍛冶を通して親しくなれた事を喜びつつも、ヒメノとしては若干の不安を覚える。ジンを信じてはいるものの、だ。そこは仕方がない事である……乙女心は、複雑怪奇なのだ。
その為、ヒメノは少しジンに意地悪をしてみる事にした。
「私達は、昔のジンさんの事をミモリさんに教えて貰いましたよ」
実際には、ジンは大丈夫かな? カノンはどうするかな? という話しかしていない。ジンをびっくりさせる為の、ヒメノのささやかなイタズラ心である。
「え゛っ……姉さん!?」
思いの外、こうかはばつぐんだ。ジンは忍者ムーブを忘れ、素でミモリに「嘘だと言ってよバー●ィ!!」みたいな顔をして見せる。
そんなジンの態度に、ミモリのイタズラ心が顔を覗かせた。
「うふふ、あの頃のジン君は可愛くてねー。ハヤテ君と一緒に、私の後ろをついて回って……ジン君とハヤテ君、すっごく仲が良いんだけどね。私を取り合って、喧嘩なんてしていたのよ?」
「何故にいきなり公開処刑!?」
「ミモ姉、俺まで巻き込まんといて!!」
そんなジンと、巻き添えのハヤテがイジられる状況。肩肘を張る事の無い雑談に、カノンも表情から硬さが消えていく。
そんな雑談で時間を潰していると、いよいよジン達の番になった。
「あら、もう時間? 続きは後にしましょうねー」
「姉さん、お願いだからもう勘弁して……」
精神的ダメージを負ってしまったジンとハヤテに苦笑しつつ、仲間達が門を潜り始める。
「……ふぅ」
緊張気味に溜息を吐くカノン。それに気付いたジンとハヤテは、カノンに声を掛ける事にした。
「カノン殿、一緒にボスをぶっ飛ばすでゴザルよ」
「俺等が付いてるッスから、思い切ってやってみるッス!」
両隣に並び、勇気付けようと声を掛ける二人。そんな二人に、カノンは頷き……そして少しだけ、笑ってみせた。
「ありがとう……そう、だね。私も……うん、頑張ってみる、よ?」
何故か、最後は疑問形。しかし、その眼にはかすかな……しかし、確かな熱が込められていた。そんなカノンに頷いて、ジンとハヤテが道を譲る様に立つ。
そんな二人に頷いて、カノンも門を潜って行った。
……
そして、ついに始まったエリアボス・ウォータードラゴン戦。ジン達【七色の橋】は、二人のバックアップがメインだ。
「そーれっ!!」
ウォータードラゴンに向けて、ポーチから取り出した球体を放り投げるのはミモリ。球体がウォータードラゴンに接触して弾けると、青い液体がその身体に付着した。
「……あれはっ!?」
レンが驚きと共に、ウォータードラゴンの身体を凝視する。白い冷気を放ちながら、液体が付着した部分が凍り付いていく。
「ふふっ、水属性には雷か氷! 麻痺だと時間が短いから、凍結で動きを鈍らせるわ!」
自信満々で次なる球体を構えるミモリの言葉に、後ろで援護射撃をするレンとハヤテが顔を見合わせる。
「相手に凍結のデバフを与える消費アイテム……でしょうか? それにしては、聞き覚えがありませんね。これだけの性能なら、もっと話題になりそうですが……」
「いや、ユージンさんが作った≪ポイズンポーション≫も似たような物ッスよ。それを考えると多分、上級の調合師なら作れる上位系のアイテムとかじゃないッスか?」
そんな感想を言い合う二人の横で、ヒメノが目を輝かせる。
「ミモリさん、凄いですっ!!」
「うふふ、ありがとうヒメノちゃん♪」
ミモリが調合し、作成した薬品や粉末。それらを投擲用の球に詰め込んで、投げる。それがミモリの戦闘スタイルらしい。
「姉さん、ノリノリでゴザルな~」
ウォータードラゴンのタゲを取るべく最前線で動き回るジンは、ミモリの様子に苦笑する。しかし、そんなジンに投げ掛けられる仲間達からのコメントがこちら。
「あの感じ、ジンに似てない?」
「強敵を相手になさる際の、ジン様に通じる所があるかと」
「あ、あはは……」
「嘘っ!? 嘘でしょっ!?」
上からヒイロ・シオン・アイネの反応に、ジンはショックを受けてしまう。自分も傍から見たら、あんなノリなのか? と。
「ジ、ジン君? その、私も……一緒に、行って良いかな?」
控えめに声を掛けるのは、カノンだ。その手には、しっかりと戦槌を握り締めている。
「おぉっ、カノン殿! よし、皆で行くでゴザル!!」
それは、新たな仲間の合流。先程までの緩い雰囲気は霧散し、全員が戦意を滾らせた表情になる。
「それじゃあ、一気に行こう!! 後衛、頼む!!」
ヒイロの号令に、後衛メンバーが一斉攻撃を開始。ヒメノの矢が飛び、レンの魔法が放たれ、ハヤテの銃弾が空気を裂き、ミモリの投擲した球体が弾ける。更にロータスの麻痺毒が塗られた矢、ヒナの聖属性魔法がウォータードラゴンを襲う。
威力の高い攻撃や、バリエーションに富んだデバフ攻撃。ウォータードラゴンがダウンするまでに、時間はそう掛からなかった。
ダウンしたウォータードラゴンに殺到するのは、前衛メンバー達。ジンとリンによるダブル【一閃】を皮切りに、ヒイロとアイネの武技攻撃。そして、戦槌をカノンが全力で振るって叩き付ける。
今回はミモリとカノンの支援を目的とする為、過剰な戦力の投入は控え気味だ。そうでなければ、ジンの分身殺法やヒイロ・アイネの【チェインアーツ】……そして破壊力に定評のあるヒメノの前線投入がされている。
そんな控えめな攻撃ながらも、ボス討伐に至るまでにそう時間は掛からなかった。ウォータードラゴンが地に倒れ伏すまで、掛かった時間は二十分と少し……ミモリとカノンは”スピード・アタック・ボーナス”を手に入れ、顔を合わせて喜んだ。
そして……ミモリとカノンから、【七色の橋】にある相談がなされた。
「これから……宜しくお願いします」
「戦闘は不慣れだけど、生産では役に立ってみせるわ」
それは、二人がギルドに加入したいという意味合いだ。その言葉は諸手を挙げて受け入れられ、【七色の橋】に上位の生産職人である二人が加入する事となった。