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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第七章 夏休みが始まりました
95/573

07-02 生産職人のお客さんでした

 ギルド【七色の橋】のホーム。その大広間で、ジン達は来客を迎えていた。

 一人はミモリ……本名、麻守あさもり和美かずみ。ジンとハヤテの従姉弟である。そんなミモリだが……現在は、自分の横に座るヒメノを抱き締めていた。

「仁君に、こんなに可愛い彼女ちゃんが出来たのね。ヒメノちゃん、よろしくねー」

「は、はぁ……よろしくお願いします?」

 何故か疑問形になってしまったが、ヒメノの困惑も無理は無い。何故、自分はこの人に抱き締められているんだろう?


 ちなみにミモリ曰く「仁君と隼君は弟だもん。なら、その恋人なら妹だよねぇ」だそうだ。どうやら彼女は、不思議な感性の持ち主らしい。

 ちなみにその台詞から、アイネもロックオンされているであろう事は想像に難くない。アイネ逃げて、超逃げて。


 そんなフリーダムな相方に声を掛けるのは、ボサボサにした茶色の髪を肩まで伸ばした女性だ。

「ミモリ……じ、自重しようよ……」

 彼女は黒縁の眼鏡をかけており、視線を右へ左へと動かしては俯いている。どうやら、気弱な性格らしい。

「んー? だって可愛いんだもん」

 放置したら、このままずっとヒメノを抱き締めていそうだ……と思ったジンは、ミモリに苦言を呈す。


「はいはい姉さん、ヒメも困惑しているからね。それと、そちらは? 姉さんのお友達?」

 そう言いつつ、ジンはミモリの手を優しく引き剥がしてヒメノを奪還。そのままヒメノの頭を、自分の胸元に抱き寄せる。

 そんなジンの行動に、ヒメノは目を見開き……次に目を細めて、ジンの温もりを堪能し始めた。流石のバカップルである。


 そんなバカップルはさておき、ジンの質問を受けたミモリ。へにゃりと笑いながら、横に座る女性を紹介し始める。

「そうよ。大学の友達で、名前は【梶代かじしろ紀子のりこ】って言うの」

「ちょ、まっ……ミモリ……?」

 あっさりと本名をバラすミモリに、女性が慌てる。そんなミモリに頭を抱えつつ、ハヤテが釘を刺した。

「かず……じゃない、ミモ姉? 自分で本名を言うのはダメって言ってなかったッスか?」

「え? あぁ、そうだね。あちゃー、失敗失敗」

 ゆるふわな口調で返すミモリに、その場に集まった全員が溜息を吐く。


「えぇと、私は【カノン】……です……鍛冶を、してます……」

 梶代の”カ”に、紀子の”ノ”……それに”ン”を付けて【カノン】らしい。そんなカノンの自己紹介に、ヒイロがフッと微笑む。

「俺はこの【七色の橋】のギルドマスターで、ヒイロといいます。こちらはサブマスターの……」

「お初にお目に掛かります、サブマスターのレンと申します」

 そんな美男美女のマスターコンビなカップルに、カノンは一礼して微妙に視線を逸らした。

「ごめんなさいね、お二人とも。カノンはちょっと人見知りなのよ」

「す、済みません……」


――まぁ、そうだろうなぁ。


 それについては全員が薄々気付いていたので、別段気分を害するという事は無い。


 ……


 ひとまずは自己紹介も無事に……無事か? ともあれ完了した。次に確認したいのは、二人が今回来訪した理由についてだ。

「今回はどの様な御用件でお見えになったのか、伺っても宜しいでしょうか?」

 余所行きモードのレン様に、ミモリはおぉ……と声を漏らす。カノンに至ってはガッチガチだ。存在感バツグンの、本物のお嬢様なレンを前にしているのだ。無理もないだろう。


「用件らしい用件は、無いと言うのが正しいかしら。あえて言うなら、ジン君に会いに、ですね」

 背筋を伸ばして、キリッとした様子でヒイロとレンに言葉を返すミモリ。次にジンとハヤテに視線を向けると、引き締めていた表情がへにゃりと崩れる。

「ジン君、私もあの動画を見たの。それで会いたいなぁって思ってねぇ。ハヤテ君が居るとは、思わなかったけど」

 ジンとしては、それならば前もって連絡が欲しかったと思わなくも無い。現実でならば、連絡は取れるのだから。そんな苦言を口にしようと思ったジンだが……その前にミモリが放った一言で、そんな気は失せてしまった。


「でも、良かった。ジン君が元気になったみたいで、安心したよ」


 従姉弟であるミモリは、当然ジンの事情を熟知している。

 昨年の事故で、選手生命が断たれたジン。遠方に住んでいる事もあり、更には当時のミモリは大学受験の真っ最中。そのせいで見舞いに駆け付ける事も出来ず、歯痒い思いをしていたと言う。


 それでも無事に大学に合格し、大学生活にも慣れた頃に高校時代からの友人であるカノンから話を聞いて、ミモリはAWOを始めたそうだ。

 ちなみにカノンが鍛冶職人だと自己紹介していたが、相方であるミモリは調合職人をしていると言う。ポーション等を作成し、それを売却する事でレベルを上げているのだ。


 そんな中、カノンと共に参加した第一回イベント。二人は始まりの町の門の中で、装備の修復やポーションの売却に勤しんでいたと言う。

 そしてイベントの後で公開された動画……それを見て、ミモリは気付いた。何度も見返して、忍者ジンが従兄弟の仁である事に確信を抱いたらしい。


「よく解ったね、二年半も会ってなかったのに」

 そう告げるジンは、どこか照れ臭そうだった。そんな様子に、【七色の橋】の面々も自然と笑顔になる。

「直接は会ってないけど、ジン君は陸上の雑誌に何度か乗ってたじゃない? だからピンと来たんだよ」

「……そ、そうなんだ」

 確かに、陸上の雑誌にインタビュー記事などが載った事もある。それを見られていたとなると、何やら気恥ずかしい。


「それよりハヤテ君が居たのにビックリだったわ、ガンスリンガーオンラインは辞めちゃったの?」

「ぶほっ!?」

 ミモリの唐突な質問によって、ハヤテは飲みかけたお茶が器官に入ってむせてしまう。そんな所まで再現する必要があったのだろうか、VR。


「ミ、ミモ姉!? 何でGSOの事を……」

「ハヤテ君が、大会で入賞したって聞いたからね」

 ミモリの言う通り、ハヤテはGSO……ガンスリンガーオンラインというFPS系のVRゲームの大会に出場し、優秀な成績を収めた。しかし、たかがゲームの大会だ。親戚に両親が話すとしても、ふーん……と聞き流されるだろうと思っていたのだが……ミモリは、更に言葉を続ける。


「FPSっていうのよね? 私には難しかったけど」

「……え、GSOやってたの?」

「うん、そうよ? ハヤテ君に会えるかと思ったから」

 ニッコリ笑うミモリの表情は、当たり前でしょうと言わんばかりだ。どうやらミモリは、実の弟の様に二人を大切に思っているらしい。

 そんな三人のやり取りを見て、他の面々はほっこりしてしまう……それは人見知りの、カノンすらもだ。


************************************************************


 どうせ残り時間はギルドホームでのんびりする予定だったので、ジン達は二人にギルドホームを案内する。

「うぅん……ゲームっぽい建物も良いけど、和風建築って何だか落ち着くわね」

「……そ、そうだね……林に囲まれてて、何だか……隠れ家的な雰囲気があって、良いね……」

 リラックスしたミモリの声に対し、緊張しつつもカノンが同意する。その口数も少し多くなっており、落ち着きつつあるのかもしれない。


「ん? あれは……菜園?」

「そうッスよ、ミモ姉。まずは野菜でも育てようかって、皆で相談してるところッス!」

 ギルドホームの裏手、開けた場所には程々の広さの畑があった。しっかりと耕されているが、ジン達はまだ手を付けていない。ちなみに当然ながら、この菜園はユージンからの贈り物である。

「良いわねぇ、自給自足」


 すると、カノンが突然立ち止まる。

「……カノンさん、どうかしました?」

 ジンが声を掛けると、カノンがハッとした表情になる。

「い、いえ……何でも、無いです……」

 慌てて、ミモリの居る方へ向かおうとするカノン。ジンはその視線の先にあるものに気付き、擦れ違おうとするカノンに声を掛けた。

「あ、カノンさん。工房見ます? 鍛冶職人ですもんね」


 そう、カノンが立ち止まったのは工房に気付いたからだ。気になるけれども、余所様の工房を見たいだなんて厚かましい……そんな意識から、言い出せずに居たのである。

 そんな中、ジンからの提案である。

「い、良いのっ!?」

 今までで一番、ハッキリとした声。そんなカノンの様子に、ヒイロ達も振り返り首を傾げる。


「大丈夫ですよ。まぁ、僕達はここを使う機会が無いもので……知り合いの生産職プレイヤーが、ここで作業をするくらいなんですが」

 ジン達が工房で何かをするという事は、現状全くと言って良い程に無い。ジンの言葉通り、主にユージンが出張して来て、装備のメンテナンスをする程度だ。

「お、お願いしますっ!」

「はい、オッケーです。ヒイロー、ちょっと工房見学ー!」

 ジンの言葉に、ヒイロ達も納得した。鍛冶職人なら、工房は気になるのも当然だろう。


 ……


「凄い……こんなに良い設備、余所にはなかなか無いよ……!!」

 カノンさん、おめめキラッキラである。作業台から一つ一つの道具、炉やふいごと隅々まで凝視している。ジン達は、そんなカノンの様子を見守っていた。

「随分と熱心に見ていらっしゃいますね」

 感心しているのか、呆れているのか。普段のクールな調子でそんな事を言うシオン。それに反応するのは、当然ミモリだ。

「お時間を取らせて済みません。カノンは鍛冶専門の職人で、ログインしたらひたすら鍛冶をするくらいなんです」

 そう言って苦笑しつつも、ミモリは止める様子が無い。


「二人は、主に始まりの町で作業を?」

 アイネがそう問い掛けると、ミモリは笑顔で頷いてみせる。

「えぇ。始まりの町にある、公共スペースが今の作業場ね」

 始まりの町には、誰でも使用出来る生産職向けのスペースが存在する。そこで鍛冶や調合、縫製や調理が行えるのである。


 そうして出来上がった物は自分の店舗や露店で売ったり、個別依頼を受けて売買取引を行ったりする。

 しかし二人は基本的に、取引掲示板での売買を行っているらしい。理由は簡単、それならば人と会話せずに売買が済ませられるからだ。人見知りのカノンにとっては、渡りに船なのである。


「あぁぁぁ……何か作りたい……」

 そんな呟きを漏らしたカノンに、ヒメノが声を掛ける。

「あ、良いですね。カノンさん、何を作るんですか?」

「え? あ、いえ……今のは冗談で……あ、厚かましいですよね……ごめんなさい……」

 我に返ったカノンが、体を縮こまらせて俯く。これまでに無いタイプの相手に、ヒメノがどうしたものかと困惑する。


 そんな両者を見て、ジンは苦笑しつつ声を掛ける。

「大丈夫だよ、ヒメ。カノンさんは、普段は何を製作するんですか?」

 優しく声を掛けると、カノンは少しだけ顔を上げた。

「お、主に剣とか……他にも、弓や槍とか……斧とかも……」

「おー、割と武器全般。試しに、何か作ってみてくれませんか。ここにある物はギルドの共有財産ですから、好きに使っても大丈夫……だよね?」

 最後の方は、ヒイロ達に向けての言葉だ。構わないとばかりに、【七色の橋】メンバーが笑顔で頷いてみせる。

「オーケーです」

 グッとサムズアップして、ジンがカノンに促す。


「い、良いんですね? 本当に良いんですね? 後で、無しとか言わないですよね?」

「大丈夫よー、カノン。ジン君はこういう事で、嘘ついたりしない子だから」

 緊張をほぐすように、ミモリがカノンの背中を叩く。

「う、うん……じゃあ、設備……お借りします、ね。あ、それなら、折角だし……」

 カノンはどうやら、作る物の目星が付いたようだ。システム・ウィンドウを開くと指を使って何かを描いていく。ウィンドウが非公開設定になっているので、ジン達には描いている物が何かは解らない。


 やがて、図案が決定したらしいカノン。ボタンを押していくと、その目前に鉄塊が召喚された。

 すると、カノンが炉の中に木炭を入れて、火を点ける。


 邪魔にならない様に、他のメンバーの所へと戻ったジンとヒメノ。カノンが準備をする様子を見て、ジンはある点に気付く。

「そう言えば僕、鍛冶をする所を見るのは初めてかな?」

「あ、私もそうですね」

 聞いてみると、ミモリ以外のメンバーも同様らしい。


「鍛冶職の人って、集中出来る環境を好むからね。私は、カノンの横でよく調合しているけど」

 それは、気心知れた仲だからではないか? と思ったヒイロだが、視線をカノンに向けるとそうではないらしい。

「俺達の会話、耳に入っていないな」

「はい。カノン様は、随分と集中していらっしゃいますね」

 ジン達の会話は、カノンの耳に届いてもおかしくない距離だ。それでも、カノンの手は止まらない。


 やがてカノンが、十分に熱された炉の中に鉄鉱石と木炭を入れる。十分に加熱され、不純物が取り除かれた状態にする為だ。

「不純物を取り除くために、本来はもっと行程があるのよ」

「そうなんだ? VRだから、簡略化されているのかな」

「多分そうッスね。それでもコアなプレイヤー向けに、スキルでポンッてならないのは良いと思うッス」


 イトコ三人は、気心知れた仲という事もあって自然体で話す。すると、それにつられてヒメノやアイネも会話に加わる。

「この後、ハンマーで叩くんですよね?」

「そうよ。良くマンガとかアニメとかで見る、アレね」

「あ、カノンさんが鉄を出しましたね!」


 加熱された鉄を金床に置いたカノンは、前もって準備していた鍛冶槌で叩き始めた。

「おおぉ、すっげー迫力ッス!」

 初めて見る鍛冶の様子に、ハヤテが興奮する。それは他の面々も同じで、普段は冷静なレンもキラキラとした眼で見入っていた。

「火花が凄いですね……!!」

「はい、お嬢様。あれも不純物で、スラッグと呼ばれるそうです」

 クールな表情を崩して、シオンも鍛冶風景を凝視している。


 そうして鍛冶鎚を振るう事、数分。成形された鉄の板金を、更に叩いていくカノン。それを二つに折って、一つに纏めていく。その際に、カノンは何かを振り掛けていた。これは鍛接剤と呼ばれるアイテムだ。

 そうして成形されたのは……何やら見た事があるアイテム。全員の視線が、ジンに向けられる。


 ようやく納得のいく形になったのか、カノンが鉄を水に浸ける。所謂、焼入れだ。更にカノン、炉内の温度を調節しては更に鉄を加熱する。

「確か、焼戻し? だっけ」

「鍛冶には詳しくないですが、恐らくそれかと」

 ヒイロとレンの会話に、ミモリが後ろから口を挟む。

「はい、花丸大正解!」

 ミモリの明るい口調に、二人も笑みを浮かべる。


「ですが、ここまで手間暇を掛けるものですか? 始まりの町の生産職は、公共作業スペースに入って出て来るまで……五分程度でしたが」

 レンの疑問に、ミモリは笑顔で頷いた。そうして右手の人差し指をピッ! と立てると、腰に手を当てて説明し始める。

「カノンはこういう手順を、しっかりとなぞるのが拘りなのよ。他の人は省略しちゃって、すぐにハイ完成ー! なんだけど。ただまぁ……ふふっ、出来上がりを楽しみにしていると良いかしら」

「……?」

 何やら自信有り気なミモリに、レンは首を傾げる。


 焼戻しを済ませたカノンが、刃の部分をヤスリで研磨していく。この段階で、彼女が作った装備品が何なのかは丸分かりだ。

 ようやく身体を起こして、カノンはこちらに視線を向ける。

 完成したのは……大きな手裏剣だった。手裏剣の形状は俗に言う風車型で、誰もが一度は見た事がある形状だろう。


「……すごっ!!」

 思わず、そんな声を上げてしまったジン。そんなジンの声に、カノンがビクッと肩を跳ね上げて……そして、肩を落とす。

「こ、こんなので……ごめんなさい……」

 しかしながら、ジンはそれどころでは無かった。テンションが上がってしまい、手裏剣を凝視する。

「いやいやいや、これは騒ぐでゴザルよ!! 実に見事!! 御見それしたでゴザル!!」

 ナチュラルに忍者ムーブに移行してしまうくらい、ジンはテンションアゲアゲであった。そんなゴザル口調に驚きつつも、カノンは手裏剣を見る。


「……後は、”仕様登録”を済ませれば……一応、作成完了……だよ?」

「む? ”仕様登録”?」

 カノンの言葉に、聞き慣れない言葉があった。そこでようやく冷静になる事が出来たジンなのだが、未だに若干忍者ムーブ中である。

「あぁ、戦闘職だと解らないよね。まぁとりあえず登録しちゃいましょ」

 ミモリの言葉にカノンが頷き、完成した手裏剣に人差し指を当てる。すると、手裏剣の真上にシステム・ウィンドウがポップアップした。


 ウィンドウをポチポチと操作していくカノンが、顔を上げる。

「名前は……どうする?」

「とりあえず、普通に手裏剣で良いと思うわ」

 名前を入力して、OKボタンをタップするカノン。すると、手裏剣が光を帯びる。

『≪カノンの手裏剣≫が仕様登録されました』

 これは、その場にいるプレイヤーにしか聞こえないシステムアナウンスだ。


―――――――――――――――――――――――――――――――

≪カノンの手裏剣≫

 説明:ブーメラン型の投擲武器。

 効果:【投擲の心得】の効果+5%。

―――――――――――――――――――――――――――――――


「これで”仕様登録”も完了ね。性能は……流石カノンね、結構イイ感じじゃない? さっきみたいにじっくり作業すると、こうしたいい結果が得られるのよ」

「……この効果の事ですよね?」

「それだけじゃないわよー? 例えばこの手裏剣は耐久値や攻撃速度が、店売りのブーメラン系装備よりも高いわ。これはカノンがパラメーター値を設定したからなんだけど……」

 設定出来るパラメーター値は、ステータスと同じ様に割り振る事が出来る。製作者がじっくり丁寧に作業をする事で、その元となるパラメーターポイントにボーナスが付くらしいのだ。


「……そうなのですね。目から鱗です」

 ミモリの解説に、レンは神妙な面持ちで頷きながら納得してみせる。鍛冶や調合については疎かったが、実際の作業を目の当たりにした事で興味が湧きつつあった。


「……それで、ジンさん? 良かったら、これ……」

 差し出された手裏剣を見て、ジンは目を輝かせた。

「ありがとうございます! おいくらですか?」

 当然、無償で貰おう等という気は無い。ミモリやカノンと話し合い、それなりの額で手裏剣を購入した。


 ……


 その後ジン達は、二人に質問をしていた。まず聞きたいのは、”仕様登録”についてである。

「えーと規定の装備やアイテムをレシピ通りに製作する場合、”仕様登録”は要らない。それは大丈夫かしら?」

 そんなミモリの問い掛けに、ジン達は頷き返す。

「まぁ、解るよ。出来るモノは一緒って事だよね?」

「そうそう。だからレシピ通りに生産した物は全部同じ名前で、変わるのは品質くらいなの」

 そう言いつつ、ミモリがジンの頭を撫でる。何故に?


「次に、レシピを元に製作する過程でアレンジを加えるパターン。これも、仕様登録は要らないわ。これは、何でだと思う?」

「ふむ……? アレンジしても、仕様登録は要らないのか……」

 ミモリの説明に、考え込み始めるジン。そんな彼に代わって、アイネが自分の予想を口にした。

「もしかして、装備の基本的な属性は変わらないから……ですか?」

 その予想が正しいか、間違っているか……その答えは、ミモリとカノンの顔を見れば明らかだった。二人は満足そうに微笑んでいる。


「そう、です……アイネさんの言う通り……」

「剣レシピを元に作った物は、どこまでいっても剣なのよ」

 例えばジンの小太刀≪大狐丸≫は、短剣と刀剣の二重属性だ。鑑定スキルでそのレシピを手に入れると、そのレシピには”短剣”と”刀剣”という属性が固定されている。

 もしこのレシピを元にアレンジして、長剣の形で装備製作をしたとする……しかしながら、”短剣”と”刀剣”の属性は変えられない。


「ちなみにこの場合、【長剣の心得】は適用されない。更に言うと、性能は格段に落ちるわね」

 装備性能やスキル対象には、長さや重さなどが設定されている。その設定値に適合しない場合、その性能は著しく落ちるのだ。戦闘で使用しても、大した効果は望めない。耐久値も低くなるので、あっさりロストしてしまうだろう。


「そしてこの手裏剣! コレは、オリジナル生産品よ!」

「手裏剣は……レシピが、無かったみたいだから……仕様登録する事で、名前や装備属性……パラメーター値を、設定出来ます……」

「多分、ジン君達の和装もそうじゃないかな。それもプレイヤーメイドよね?」

 【七色の橋】メンバーに視線を巡らせて、ミモリが問い掛ける。ジン達の装備は全て、ある生産職人によって生み出された品だ。

「そうだよ、姉さん。僕達のこの装備は、ユージンさんっていう生産職人さんが作ったんだ」

 ジンがそう告げると、ミモリとカノンが顔を見合わせ……次いで、驚愕の声を上げる。


「「ユ、ユージンさん!?」」

生産を中心に活動する人もいる、MMO。

このパートは、そんなプレイヤーに焦点を当てるお話になります。

となると出て来るよね、ハワイアンおじさん!!


次回投稿予定日:2020/10/20

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― 新着の感想 ―
[一言] ユージン「いやぁ、そんなに大きな声をだして……      何か良い事でも有ったのかい?」(開襟アロハ着用)
[一言] カノンがユージンの娘の可能性あり?
[良い点] 分身して手裏剣で一斉攻撃してるところを見られて掲示板でアイエエエエエされそうw
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