06-13 初めてのデートでした
待ちに待った日曜日、仁は星波家へと姫乃を迎えに訪れていた。
そこで待ち受けていたのは、姫乃の父親・星波大将である。
「大将さん、おはようございます」
「おはよう、仁君。姫乃はそろそろ出て来るだろう」
礼儀正しく挨拶をする仁に、大将は頷く。一見すると仏頂面に見える……だが実際の所、仁の礼儀正しい部分や真面目な部分を高く評価しているのだという。ちなみにソースは、星波家の母・聖情報です。
玄関前で雑談をしていると、星波家の扉が開いた。
「おはようございます、仁さん!」
家の中から外に一歩踏み出し、仁に対して笑みを向けるのは黒髪の可憐な少女だ。彼女は白いノースリーブブラウスに、赤いチェック柄のプリーツスカートを身に着けている。
唯一、彼女が頭部に装備しているVRゴーグル……医療用のVR機器が、彼女の目元を隠してしまっているのが残念な所だろう。
しかし、彼女の恋人は気にしない。そんな事情は百も承知だし、それに自分の杖も似た様なものである。
「おはよう、ヒメ! 制服姿以外は、初めて見たから何か新鮮だね」
「あ、そうですよね……変じゃありませんか?」
「よく似合っているよ、とっても可愛い」
「え、えへへ……」
挨拶の段階からイチャつき始める二人に、後ろから姫乃を見送ろうと出て来た聖も、仁と会話していた大将も苦笑する。
「さて、それじゃあ仁君。姫乃を頼んだよ」
「いってらっしゃい、姫乃。二人共楽しんでいらっしゃい」
微笑みかける星波夫妻に見送られて、仁と姫乃は手を繋ぐ。
「「行ってきます!!」」
……
星波家から駅前の方へ向かい、仁と姫乃は歓楽街へとやって来た。
仁は右手に杖を持っている為、姫乃は彼の左手に右手を絡める。恋人繋ぎである。登下校中と同じ歩き方であり、二人にとっては大分慣れたものだ。
「この辺りは、いつもは通り過ぎるだけだったなぁ」
陸上一辺倒だった仁は、ランニングのコースでこの辺りには足を運んだ事がある。ただ本当に来ただけで、そのまま通り過ぎるだけだった。
「私もここら辺のお店に入ったりは、した事が無いです」
一方姫乃も、全盲というハンデがある。その為、こういった場所は縁が無かった。
「ヒメ、何か気になる映画とかある?」
「えぇと……特にこれというのは無いです。仁さんはどうですか?」
互いにゆっくり映画を見たり……という習慣は無い。だからこそ、今日はやって来たのだ。
「僕もそこまで映画とか見ないからね。それなら、一緒に選んでみようか」
「はいっ♪」
映画館に入ると、ひんやりとした空気が二人を包み込む。初夏の日差しで蒸し暑さを感じていた二人には、この空気が心地良い。
冷房の効いた館内には、日曜日だけあってそれなりに人が居る。大画面で映画を楽しむという行為は、多くの人を魅了して止まないのだろう。
「今やっているのは、あの辺りみたいだね」
「はい、楽しみです♪ どんなのがあるでしょうか?」
掲示されたポスターを眺めていると、仁は一つ気に掛かる映画を発見した。
「これ……とかどう? アクション物だけど……」
「あ、面白そうですね!」
それは大分昔に連載されていた人気少年漫画で、とある侍の生き様を描いた作品だ。長年の連載を経て完結した大作で、アニメ化もされていた。
長い間寄せられて来た多くのファンからの声を受けて、今回大々的に実写映画化されるに至ったのだ。
「侍だとヒイロが一番近いかな」
「アイちゃんは薙刀ですからねー」
どうしても、思考はそっちに向かってしまう。しかしながら、二人にとってはそういった作品の方が馴染みやすいのかもしれない。
二人は列に並ぶと、先程の映画のチケットを購入。その際、姫乃が全盲障害者である事を示す証明を提示する。VRゴーグルは録画機能もある為、映画の盗撮等を疑われない様にしないといけないのだ。
「はい、確かに。ごゆっくりどうぞ」
係員は気の良い男性で、二人に笑顔でチケットを差し出してくれた。
「ありがとうございます! はい、ヒメ」
「はいっ!」
仲睦まじい様子で歩き出す二人の姿に、係員は笑みを零す。
この映画館は証明書があればVRゴーグル着用がOKな映画館であり、仁や姫乃の様なハンデを持つ人からも人気がある場所であった。
たまたま選んだ映画館だったが、二人にとっては入りやすい映画館というわけだ。二人の初デート、中々に幸先が良い。
……
飲み物とポップコーンを購入し、上映スペースへと入る二人。話題作だけあって、半分以上の席が埋まっていた。
「上映まで十五分あるのに、結構人が居るんだね」
「はい。流石、話題作ですね!」
二人の席は、最後尾の方だ。そこは仁の様な足が悪かったり、腰が悪かったりする人を案内されるスペース。その為、他の席と違って然程混みあってはいなかった。
映画のパンフレットを見ながら、雑談をする仁と姫乃。そうこうしていると、映画が始まる十分前になった。照明が徐々に消えていき、スクリーンに映像が映し出される。
「あ、映画●棒」
「このキャラクターって何十年も前から居るんですよね?」
「何代目だろうねぇ」
そんなことを小声で話していると、映画の注意事項についての広告映像が終わる。そして、次に映し出されたのは近日公開予定の映画……その宣伝映像だ。
二つ、三つと宣伝映像が流れると、少し毛色の変わった映像が流れ始める。
『話題の超大作VR・MMO・RPG!!』
VR・MMOと聞き、二人が視線を合わせた。お互いに、これはもしかして? という顔だ。
『仮想世界に広がる広大な異世界が、君の来訪を待っている!!』
これはやっぱりAWOの広告だなと、二人は苦笑する。まさかこんな所で、自分達がプレイしているゲームに遭遇するとは思わなかった。
『プレイスタイルは千差万別、多彩な育成システムを実装!! VRドライバーでスキャニングしたアバターを、好きな様にとことん育てよう!!』
好きな様にとことん育てた結果がこれだよ!! な二人が、それを見ているとは運営も思うまい。
しかし次の瞬間、二人の目に映し出されたのは驚愕の映像だった。
『第一回イベントでは、数多くのプレイヤーが八面六臂の大活躍!!』
映っていた、自分達が。それはもうでかでかと、映画館のスクリーンに映し出されていた。まさかの銀幕デビュー? である。
――あれえぇぇぇっ!? なんで!? 忍者なんで!?
――私達が映されてるうぅっ!? どうしてこうなっているの!?
『自由度の高いシステム、遊び方は自由自在!! 無限の可能性を秘めた異世界が、君達を待っている!! アナザーワールド・オンライン!!』
最後にAWOのタイトルロゴが大きく映し出されて、広告映像は終わった。ようやく映像が終わったところで、仁と姫乃はグッタリと脱力してしまう。
************************************************************
「映画、良かったね」
「はい、凄く面白かったです! 私、ちょっと泣いちゃいました!」
「特にラストシーンで、敵かと思っていた人斬りが親指を立てながら底無し沼に沈んでいくシーンは、涙なしには見られなかったね」
ようやく始まった映画自体は、非常に面白い内容だった。人間ドラマあり、爽快なアクションシーンあり、泣ける見せ場も用意されており、原作を読んでみたくなってしまうくらいに面白かった。
問題の映像……AWO広告映像が無ければ、無邪気に笑えたのは間違いない。
「まさか僕達があんな風に映っているとはなぁ……」
「AWOで流されるならまだ良かったんですけど、映画館で流されるとは……」
流石に一般人の前で、あんなにド派手に暴れている所を上映しては欲しくなかった。同じAWOプレイヤーでも少々恥ずかしいのに、まるっきり一般人だらけの場所である。
しかもイベント上位の仁達は、映る回数も中々に多かった。三割は【七色の橋】メンバーが映っていた気がする。
余計な疲労感を落ち着けるべく、二人は少し早めの昼食をとる事にした。仁が選んだのは、落ち着いた雰囲気の洋食店だ。
「いらっしゃいませ……おや、仁君? 仁君じゃないか!」
「こんにちは、マスター。ご無沙汰しています」
どうやら、この店の店主と仁は顔見知りのようだ。
「ヒメ、こちらの佐伯さんは父さんの親友なんだ。それで僕も、ここにお邪魔する事が多くてね」
どうやら佐伯とは、仁が幼い頃からの知り合いらしい。そんな相手と知って、姫乃はしっかり挨拶しなくては! と心の中で気合を入れる。
「そうなんですね! 初めまして、星波姫乃と申します」
VRゴーグルをしている事に少し驚いていた佐伯だが、礼儀正しく挨拶をする姫乃に好感を懐き笑みを見せた。
「はい、初めまして。ゆっくりしていってね。仁君も隅に置けないな、ガールフレンドが出来たなんて」
仁を少しからかおうと思っての台詞だったが、まさかそれが真実だとは思っていなかったのだろう。続く仁と姫乃の返答に、佐伯は目を丸くする事になる。
「あはは、そうですね。僕もそう思います」
「も、もぉ……恥ずかしいですよ、仁さん……」
佐伯氏、二人の様子を見て呆然。取り敢えず、久方振りに親友に連絡を入れようと決意。さて、ずっと呆けても居られない。
「ランチに来たのかな? さぁ、お席へどうぞ」
流石は接客のプロである。困惑を笑顔の奥に隠すと、すかさず二人に席を勧める。ちなみにこの席は、厨房からも客の様子を伺えるポイントだ。
席に着いた二人は、メニューを見ながら笑みを交わし合う。
「仁さん、おすすめはありますか?」
「ヒメは辛いのが苦手だったよね? それなら……」
仲睦まじい様子で話す二人は、店内の注目を集めていた。それは、様々な要因が絡み合っている。
主に仁の杖と姫乃のVRゴーグルが主要因……それと同時に、姫乃のプロポーションもある。対する仁は、鍛え上げられた体躯の持ち主。そしてアスリートらしさを色濃く残す、精悍な顔付きをしている。これで注目するなというのは、無理な注文だろう。
そんな中、更に注目を集める出来事が起こる。
「あ、そろそろバッテリーを交換しないと……」
「ヒメ、僕がやろうか?」
姫乃がVRゴーグルのバッテリーを交換しようと、鞄の中に用意している予備のバッテリーを探し出す。
そんな様子を見て、仁がバッテリーの交換を自分がやると申し出た。VRゴーグルを外している間、姫乃は何も見えなくなってしまう。それなら自分がやるのが良い……と思ったのだ。
「あ……それじゃあ、お願いしても……良いですか?」
「勿論」
バッテリーを鞄から取り出して、姫乃が仁に手渡す。次に姫乃はVRゴーグルの電源を一度切り、ロックを外してゴーグルを外してみせたのだ。
VRゴーグルを外した事で、衆目に晒される姫乃の素顔。つぶらな瞳に、形の良い鼻立ち。少女らしさを感じさせる、可憐な素顔。
それと反して発育の良い体付きが、アンバランスさを醸し出して姫乃の魅力を際立たせる。
店内の男性陣だけではなく、女性陣まで姫乃に注目していた。
そんな美少女のお相手である仁は、素顔の姫乃に一瞬ときめいたものの、すぐにゴーグルのバッテリー交換を開始する。
既に英雄に指導して貰い、自分でも交換した事が二度ほどある。仁は苦戦する事なく、バッテリー交換を終えて姫乃に手渡そうとして……ある事に気付いた。
「ヒメ、ちょっと待ってね」
仁は自分の肩掛け鞄から汗拭きシートを取り出すと、一枚取り出して姫乃に手を伸ばす。
「ちょっと冷たいよ」
「ひゃぁ!?」
拭うようにではなく、ポンポンと当てる形で姫乃がかいていた汗を拭き取る仁。そんな二人の様子に、店内の空気の糖度が増した。
「うん、オッケー。はい、付けるよ」
「仁さん、自分で出来ます……」
「僕がやってあげたいの」
そんな台詞に、姫乃が抗えるはずもない。照れ臭そうにしつつも、口元を緩めて為すがままになる。
「あ、電源は自分で」
「うん、解った」
再びVRゴーグルを被った事で、姫乃の美貌が覆い隠される。しかしそれは、彼女の魅力を損ねる事は無かった。見えているものよりも、隠されているものの方が魅力的に思える……そういう事もあるのだ。
「もぅ……仁さんは、甘やかしさんですね」
「ヒメ限定だよ、流石に」
バッテリー交換が終わっても、甘い雰囲気は変わらない。むしろ糖度を増した様な気さえする。
二人の様子を見ていたお一人様の客達によって、やたらと辛いものがオーダーされたのは気のせいではないだろう。辛いという字は、辛いとも読めるので。
************************************************************
昼食を済ませた二人は、手を繋いでゆっくりと歩く。姫乃と手を繋ぐのに慣れたので、仁もだいぶスムーズに歩けている。
「仁さん、疲れたら言って下さいね?」
「うん、ちゃんと言うから心配要らないよ」
「はい、信じてます」
とはいえこんなに長時間歩いて、あちらへ、こちらへと移動するのも久し振りだ。少しの疲労感があるのは、事実である。
それでも、苦では無い……それは、やはり最愛の存在と一緒だからだろう。
そう思って、先程気付いた事について感想を言わなければ。仁はそう思った。
「ヒメ、今日は少しメイクしているんだね」
そんな仁の言葉に、姫乃がハッとして顔を上げる。
「え、あ……はい! お母さんに、手伝って貰って……」
全盲の彼女が、一人で全てのメイクをするのは不可能だ。VRゴーグルを付けている箇所は、特に。故に、姫乃は母・聖の力を借りた。
「あ、あの……どこか変じゃないですか?」
姫乃はどこか変なところがあったから、仁が気付けたのでは? と思った。しかし、それは大いなる勘違いである。
「変な所なんて一つもないよ。綺麗で……凄く可愛いよ」
仁が気付いたのは、姫乃をよく見ているから。だからこそ、日頃とは違う変化に気付いたのである。
そんな仁の言葉に、姫乃は蕩けるような笑みを浮かべる。それは仁にとって、一番好きな彼女の表情。ふにゃっとした感じの、気を許した相手にだけ向ける笑顔である。
そうして、仁に連れられて歩いていく姫乃。行き先は、知らされていない。
カラオケに行く予定……だったのだが、ここで弊害があった。二人とも、あまりカラオケに行った事が無かった。そもそも、流行りの曲とかに疎いのだ。
そんな訳で、仁が姫乃を連れて行きたいと思っていた場所へ向かう事になった。
その場所まで、あと数分だ。
……
「こんなに可愛らしい恋人が出来るとは……仁は果報者だなぁ」
「姫乃ちゃん、ゆっくりして行ってね~」
「は、はひっ!!」
緊張のあまり噛んでしまう姫乃。無理もあるまい……何せ、目の前に居るのは彼氏の両親なのだ。
そう、仁が姫乃を連れて来たいと思ったのは、自分の家であった。
仁の両親……父・寺野俊明と母・寺野撫子は、仁が姫乃を連れて来た事でテンションが上がっていた。アゲアゲである。
喜んでくれている事は、とても嬉しいのだが……肝心の姫乃が戸惑っている。
「ほら、父さんも母さんも落ち着いてよ! ヒメが困ってるでしょ」
止めに入った仁に、両親は落ち着いて……など居なかった。彼女を守る息子の姿に、ニマニマしていらっしゃる。
「はははっ、仁もお年頃だなぁ。姫乃ちゃん、ゆっくりしておいで」
「お邪魔はしないから、ごゆっくりー。ただし、えっちな事はダメよ?」
「怒るぞ、二人とも? 全く……ヒメ、部屋に行こう」
「ふぁ、ふぁい……」
突然の事態に、姫乃は目を丸くして思考停止していた。無理も無いだろう、突然の彼氏宅訪問……更に畳み掛けるような熱烈歓迎だったのだ。
仁が姫乃を自分の部屋に連れて行くと、ようやく姫乃は深い息を吐いた。
「内緒にしててごめんね、ヒメ。先に言ったら、多分緊張で他の事を楽しめないと思ったから……」
「う……でも、このサプライズは心臓に悪いですよ……」
「う、うん、ごめん……」
ジト目で見られ、流石の仁も狼狽える。
「あ、今の内にバッテリー充電しちゃおう。僕の充電器と、接続は同じだから」
「あ、ありがとうございます。もしかして、それを気にしてくれたんですか?」
バッテリーが無くなれば、姫乃のVRゴーグルは動作しなくなる。そうなれば、姫乃は歩くのも一苦労だろう。
仁が自分を気遣ってくれたのだと察し、姫乃は笑みを零す。
とはいえ、有料ではあるが携帯用バッテリーの充電は屋外でも可能だ。姫乃を慮った事は否定しないが、仁が姫乃を自室に招いたのには別の意図もある。
「それもあるけどね。ヒメに見せたい物があって……ほら、これ」
仁が指し示したのは、VRドライバーだ。
「私やお兄ちゃんのよりも、結構高いやつですね! 実物は初めて見ました!」
姫乃の兄である英雄が使用しているのは、安めのVRドライバーだ。ヘッドセットを電源とPCに有線接続して起動する、そんなタイプの廉価版である。
ちなみに姫乃のVRゴーグルは、VRドライバーとしての機能も併せ持つ。その為AWOへのログインも、VRゴーグルを用いて行っていた。
仁はリクライニングシートのモニターに手を伸ばすと、姫乃にも見える様に向きを変える。
開いたのは、AWOのスクリーンショットだった。最初に表示されたのは、生産職人ユージンによって作成された和装を身に纏うジンとヒメノ、そしてヒイロの画像。
「あ、懐かしいですね!」
「懐かしいって言う程、時間が経っていないけど……でも、うん。懐かしいって感想は解るなぁ」
仁と姫乃が出会ってから、色濃い日々を送って来た。エクストラクエストの攻略に精を出し、PKer達を討伐した事もあった。イベントでは大立ち回りをして、ギルドを立ち上げ、そして……。
様々な思い出を切り取ったスクリーンショットの画像を、二人で眺めていく。そのどれにも、仁と姫乃は並んで一緒に映っていた。
思えばこの関係も、そしてギルドメンバーとの出会いも、全ては始まりの町のNPCショップで始まった。
「僕さ、ヒメと出会えて良かった。あの時、始まりの町のショップでヒメに出会えていなかったら、こんな風に楽しめていたか解からないよ」
仁の正直な想いを込めた言葉に、姫乃は頬を緩めて距離を詰める。
「私も、仁さんと出会えて嬉しいです。でも、あの時出会えていなくても……私達は、きっとこうなっていたと思いますよ?」
姫乃の言葉が、仁の胸をくすぐる。姫乃のその言葉は、不思議と確信に満ちていた。
「だって、私と仁さんは……そういう運命だったと思いますから」
「……それ、反則」
姫乃の華奢な肩を抱いて、その顔を胸元に寄せる。しかし姫乃がその胸元に手を当てて、優しく力を込める。仁との距離を開ける為に、だ。
嫌だっただろうか? と、仁は不安になって姫乃を見る。しかし、自分を見上げる姫乃の表情は、笑顔だ。
「少しだけ、待っていて下さいね」
そう告げると、姫乃はVRゴーグルの電源を切る。ロックを外してゴーグルを外した姫乃は、目を閉じて仁が居る方向へ唇を突き出した。
それは、そういう事だろう。姫乃の意思表示を受けて、仁の胸に言葉にできない感情が湧き上がる。
「ヒメ……」
その頬に手を添えて、名前を呼ぶ。
「はい、貴方の姫乃です」
そんな言葉を口にした、その唇が緩んだ。彼女の無言のおねだりに、仁は顔を寄せて口付けする。
「じゃあ、僕はお姫様の忍者かな」
「ふふっ、そうですよー。お姫様なんて柄じゃないですけど」
「そんな事無いよ……君は僕の、僕だけのお姫様だよ」
一度目は、そっと触れるだけのキス。二度目は、もう少し長く……三度目は、もっと長く。二人は気持ちを確かめ合うように、キスを重ねる。
忍者な少年とお姫様な少女の逢瀬は、仁の母親が呼び掛けるまで続く。その間、二人はひたすら唇を交わし合うのだった。
体は砂糖で出来ている
血潮は蜂蜜で心は飴細工
ここまでしか思い付かないよ!
甘い話三連発はクる。
しかしうちの可愛い子達の幸せライフを描けて満足!
ちなみに一番のお気に入りは、AWOの広告動画です。
次回投稿予定日:2020/10/5