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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第一章 VRゲーム始めました
9/569

01-09 ダンジョンで遭遇しました

 生産職人ユージンの依頼を受けた翌日、ジン達はダンジョン[巨兵の安置所]を訪れていた。

「ここは、何だか遺跡っぽい感じのダンジョンでゴザルな」

「というか、まんま遺跡だよ。ちなみに出て来る敵はゴーレムしかいないらしい」

 掲示板サイトを眺めながら、ヒイロが攻略情報を確認する。というのも、ここに居る三人全員が初攻略だからだ。


「ゴーレムは防御が硬くて、攻撃も重い。旨味が少ないって言うのは間違いじゃ無いみたいだ」

「装備の耐久も減りますから、厳しい攻略になりますね」

 しかし、それは一般的なプレイヤーの場合の話だ。

「物理攻撃はVIT値が高いゴーレムには軽減される……更に、武器の耐久値が大幅に減る。だから魔法攻撃主体、これが主な攻略法だね。しかし、ウチにはヒメがいる」

「STR極振りで、しかもメインウェポンが弓矢でゴザルからな。装備耐久を気にしなくて良いのは、でかいでゴザルよ」

「はいっ! 頑張りますっ!」

 そう。ゴーレムの高いVIT値を凌駕する、ヒメノのSTR値。15から20レベル推奨程度ならば、ヒメノのSTRが通用しないモンスターなど現れない。


 更に言うと、ゴーレムは同時に戦闘になる可能性があるのは三体程度。動きが鈍い為、ジンからすれば避け続けるのに大した労力はかからない相手だ。タゲを取っている間に、ヒメノの攻撃までの時間を稼ぎやすいのである。


 ちなみに今回の件は、ヒメノがジンに対して”ユージンとの顔繋ぎをして欲しい”という依頼をした事が発端となっている。ヒイロは便乗した形であるし、ジンは顔繋ぎ役だ。そこで、パーティリーダーはヒメノが務める事となった。

 AWOでは、パーティリーダーになる事に大した権限は無い。プレイヤーのパーティ参加、その決定権を得るくらいが精々だ。つまりパーティメンバーを加えたり、外したりである。


「それでは……行きましょう!」

「あぁ!」

「いざ!」

 顔を突き合わせた三人は、頷き合ってダンジョンの中へと踏み入った。いよいよ、ダンジョン攻略のスタートだ。


 ……


 ダンジョンの入口から入ってすぐの、石造りの通路を進んで行く三人。ポップするモンスターがゴーレム故か、通路は幅が広く天井も高い。

 そんな通路の先、中央には石の塊が鎮座していた。間違いなく、ゴーレムだろう。

「相手がゴーレムでも、やる事はいつも通りだ。ジン、頼む」

「任されたでゴザル」

 初めて相手をするモンスターの為、ジンはいつでも動けるように意識しながら接近する。すると、五メートル手前辺りで石塊が動きを見せた。


 身体を持ち上げた石塊は両足で立ち上がり、接近するジンを見て両手を振り上げた。その頭部には、赤い一つの光が灯っている。

「これがゴーレムでゴザルか!」

 《大狐丸》で斬り付けると、ジンは顔を顰める。

「成程、これは硬い」


 ゴーレムを倒すには、打撃属性武器か魔法属性攻撃が有効。

「少し試しても良いでゴザルか?」

「そうだな、どんな性能なのか気になるし……見せてくれるかな?」

「はい、お願いします!」

 ジンは頷くと、《小狐丸》を逆手に持つ。


 ゴーレムが大きな腕で殴りつけようとするのを躱し、ジンは《小狐丸》を地面に突き刺した。

「【狐火】!!」

 ()()名を宣言すると、小太刀を突き刺した部分から炎が噴射する。その炎の色は青く、他の火系統魔法とは全く異なる。

 噴射した炎はゴーレムに纏わり付くと、その身を焼いていく。5秒に一度、ダメージポイントがゴーレムの頭上に浮かび上がっている。

 これは直撃した際のダメージに加えて、”延焼効果”が発動したのだ。


「おぉ、これは良いね。それに延焼効果か……流石は【九尾の狐】」

「わぁ! 忍法みたいです!」

 冷静に【狐火】を分析するヒイロに対し、ヒメノは火遁の術っぽい攻撃に喜んでいる。


 尚、魔技というのはフレーバーテキストの技名に添えられた呼称だ。武技とも魔法とも違う、特殊な技なのだろう。


―――――――――――――――――――――――――――――――

魔技【狐火きつねびLv1】

 説明:地面に《刀剣》または《短剣》属性武器を接触させて発動。地面から高温の炎を噴射する。

 効果:消費MP5。詠唱破棄。攻撃時、INT+5%。低確率で延焼効果発動。

―――――――――――――――――――――――――――――――


 元のINT値が低い為、たいしたダメージには繋がっていない。それは三人とも、理解している。

「まぁ、使い続ければレベルが上がっていくさ」

 そう独り言ちたジンは、ゴーレムの殴りつけを回避する。とりあえず、タゲ取りは出来た。


 そんなジンとゴーレムの攻防を、ただ黙って見ているヒメノではない。弓に矢をつがえて、狙いを定める。

「行きます! 【フレアショット】!」

 放たれたのは、火属性を付与した矢だ。所謂、火矢である。放たれた火矢の一撃は、ゴーレムの胴体に直撃。そのHPを残り三割まで削ってみせた。


「流石に、一撃とはいかないか」

 しかし、それならばもう一射を放つのみ。ヒメノが矢をつがえ、ゴーレムを狙う。

「【ショット】!!」

 火矢程の威力は発揮せずとも、ヒメノが放った【ショット】はゴーレムの体力を根こそぎ奪う事に成功したのだった。


 ゴーレムが地面に倒れ、その身体が光となって砕け散る。その巨体が消え失せたそこには、光を放つ小さな点が残されている。雑魚キャラとされるモンスターのドロップ表示だ。

 この光の点は一人一つしか見えてないので、他のプレイヤーとどれをドロップするかで揉める等のトラブルは無い。


「≪上質な岩≫……でゴザルかぁ。でも、岩だよなぁ……」

「≪鋼塊≫出ましたよ!」

「俺は……≪鉄の塊≫だったよ」

 ドロップ結果を報告し合うと、三人は更に先へと進む事にする。今回は目標が設定されているので、しっかり稼がなければならない。


 ……


 そのまま歩いていくと、ジンはある事に気付く。

「おっ、あそこの……あの壁。なんか、他の所とうっすら色が違う」

 そう言って壁を見るが、ヒイロには別段変化が解らない。

「そうか? 俺には変わらないように見えるが……」

「ジンさんが持っている【感知の心得】のお陰かもしれないですね」

 ヒメノの予想は当たりである。ジンの持つ【感知の心得】は、採取や発掘・伐採等の戦闘外アクションにも精通する。簡単に言うと、素材が眠るポイントが解るのだ。

 最も、レベルを上げないと効果は発揮されない。ジンが見付けたほんの少しの色の変化も、よくよく見なければ解らない程だ。


「よーし、ユージンさんから貰ったピッケル! これで採掘してみるでゴザル!」

 色の違う壁に向けて、ジンがピッケルを突き立てる。一回、二回とピッケルで壁を削ると、ドロップを示す光の表示ポイントがポロリと落ちた。

「おっ?」

「採掘が出来たみたいですね!」


 ジンがドロップ表示を拾い上げると、光は消えてシステム・ウィンドウが展開される。

『アイテム≪鉄鉱石≫を入手しました』

「おぉ、≪鉄鉱石≫だって!」

 そんなジンの様子に、ヒイロとヒメノもピッケルを取り出す。作って貰うのは自分達の装備なのだから、ジン任せにするわけにはいかない。


「せいっ!! はっ!!」

「よいしょっ!! えいっ!!」

 三人でピッケルを振るっていくと、ジンは新たな変化に気付いた。

「壁の色が、周りと同じ色になったでゴザル」

 するとピッケルを何度突き立てても、素材がドロップしなくなった。

「まぁ、採掘出来る回数には限りがありますよね」

「一箇所でエンドレスに出来るはずもないか」

 ヒメノとヒイロは、そんなものさと納得した。ゲーム知識がまだ少ないジンは、そんなものかとピッケルを収納ストレージに収める。


「採掘出来るのは、三回かな?」

「≪鉄鉱石≫と、≪硝石≫に≪鋼塊≫……」

 その成果が、どの程度のランクなのかが解らないジン達。とりあえずは収納ストレージに収め、先へと進む事にした。


************************************************************


 それ以降も、三人はゴーレムを倒したり採掘をしたりして、素材を集めていく。途中で三人に【採掘の心得】というスキルまで手に入った。採掘をする時だけスキルを付け、戦闘時は予備スロットへ移す事でドロップ率を上げていく。


 収納ストレージも素材で溢れ返るのではないかという所で、ヒイロがある壁の不自然な現象に気付く。

「ちょっと待った、あの壁の光は何だろう?」

 ヒイロが指で指し示した場所に、ジンとヒメノも視線を向ける。しかし、そこには特に変わった様子は見受けられない。

「壁の光? そんなの見えないけど……」

「はい、私にも見えません」


 二人の返答に、ヒイロは怪訝そうな表情になる。自分には、こんなにハッキリと見えているのに……と。

「ちょっと調べてみるか」

 ユージンの依頼内容には、調査も含まれている。それならば、何かが隠されているのかもしれない。

 不自然な光を放つ壁に向かうヒイロに、ジンとヒメノは周囲を警戒しながら付いて行く。もしかしたら、罠の可能性だって有り得るのだ。


 ヒイロが壁を叩くと、音が反響するのが解った。他の壁と同じ石造りの壁だが、その厚みは薄い様である。

「隠し部屋……かな」

 ジンが壁を凝視するが、何も見付ける事が出来ない。隠し部屋ならば、何らかのギミックが何処かにあるはずだ。


 時間をかけて三人で調べてみるが、ギミックは特に見付けられなかった。悩んだ結果、ヒメノが一つの結論に達する。

「この壁、壊れないでしょうか?」

 巷で一撃必殺少女と呼ばれるのは、その攻撃力以外にも要因があるのかもしれない。脳筋な思考によって導き出された結論だが、他に試す手段もない。

「やるだけやってみようか……」

「そうでゴザルな」


 まず、ヒメノが弓を構える。

「行きます!!」

 つがえた矢を引き絞り、壁に向けて矢を放つ。武技ではない、通常の一射。それが原因では無いだろうが、ヒメノの放った矢は壁に弾かれてしまう。

「……あれっ?」

 普通ならば突き刺さっても良さそうなものだが、不自然に矢が弾かれたのだ。三人は顔を見合わせる。


「何か、おかしいでゴザルな……それなら……」

 ジンが≪大狐丸≫を壁に近付ける。すると壁の手前に見えない障壁が張られているのか、壁に刀身が当たらないのが解った。

 三人はそれから直剣やピッケルを近付けるも、結果は同じだった。


 ……


 壁を壊そうと、試行錯誤しているジン達。そんな中、ジンの【気配察知】が効力を発揮した。

「二人共、何かが近付いて来てる!!」

 その声に、二人は武器を手にして警戒を始める。レベルが低い【気配察知】では、相手がプレイヤーなのかNPCなのか……モンスターかも見分けられないのだ。

 しばらく待っていると、通路を歩いて来る人影が見えた。モンスターではない……その頭上に表示されるのは、色のついたカーソルである。このカーソルが、プレイヤーかモンスターかを見分ける手段なのである。


 緑色のカーソルは、通常のプレイヤー。モンスターはオレンジで、NPCノンプレイヤーキャラクターは水色だ。

 そして、軽犯罪行為を行ったプレイヤーは黄色になる。軽犯罪とは暴力を振るったり、不適切な接触行為……ハラスメント行為を行ったりする事を言う。

 そういった行為を繰り返す者は、赤いカーソルになる。こうなるとプレイヤーは賞金首となり、他のプレイヤーに狙われる事になるのだ。


 幸い、ジン達の視線の先に居るプレイヤー二人は緑色のカーソル。通常のプレイヤーである。とはいえ、それが友好的な相手かと言われると解らないが。

 その外見は特徴的で、一人は蒼銀のロングヘアに赤い瞳の小柄な少女だ。歳の頃は、ヒメノと同じくらいだろう。

 もう一人は、長身の女性だ。亜麻色の髪を肩くらいまで伸ばした、二十代前半から半ばくらいの美女である。


 二人のプレイヤーは、ジン達の存在に気付いて立ち止まる。

「……あら?」

 その内の一人……小柄な少女が、ジン達を見て驚いた。いや、正確には三人の内の一人を見て……だ。

「えっ!?」

 その一人……ヒメノもまた、驚きの声を上げた。


「貴女はもしかして、ほし……いえ、ゲーム内でリアルネームを呼ぶのはマナー違反ですね」

 そう言って言葉を切る少女に、ヒメノは首を横に振った。

「こ、こちらは私の兄と、そのお友達ですので……お察しの通り、私はA組の星波です。ここでは、ヒメノという名前でやっています」

 ヒメノの言葉に、少女はジンとヒイロに視線を向けると頷いてみせた。

「そうでしたか、それならば……お二人には初めまして、ですね。私はレン……現実では、ヒメノさんと同じ学校に通っている者です。どうぞ、よろしくお願い致します」

 少女は長いロングスカートをちょこんと摘まみ上げ、カーテシーで挨拶をして来た。その仕草は様になっていて、実に優雅である。


「ご丁寧に、どうも。俺はヒイロ、ヒメノの兄です……いつも、妹がお世話になっています」

「僕はヒイロとヒメノさんの友人で、ジンといいます。初めまして、レンさん……えぇと」

 ジンが、レンの横に立つ長身の美女に視線を向ける。彼女は一つ頷くと、レン同様にカーテシーをする。

「お初にお目に掛かります。私はレンお嬢様の付き人を務めさせて頂いております、シオンと申します。以後、お見知り置きを」

 付き人……と言われて、三人は納得する。いや、納得して良いのか解らないのだが、納得せざるを得ない。何せ、シオンと名乗った美女が身に纏うのは、どこからどう見てもメイド服なのだ。


 この時点で、ジン達はまだ知らない。

 レンとシオンが、AWO攻略の最前線を走るプレイヤー……攻略集団の一角である事を。


「お三方は、今は何を……?」

 訝しげな表情をするレンに、ジン達が謎の壁について話す。しかしレンやシオンにも、壁の光は見えない様だ。光が見えるのは、現状ではヒイロだけである。

 そんな中、ジンはある事を思い出す。ダンジョンの中で、不思議な現象に出会った事があったではないか。

「もしかしたら……この先に祠があるのかも!」


 ……


 ジンは、レンやシオンにもダンジョン内にある祠について説明する。そして、ジンはある仮説を立てたのだ。

「ヒイロにだけ光が見えるのは、VITがステータス中で一番高いからじゃないかな?」

 ジンが獲得したユニークスキルは、AGIに特化した物だ。他のステータスにも、同様のユニークシリーズがあってもおかしくはない。


「成程……では、検証してみましょう」

 そう言うと、シオンはシステム・ウィンドウを開いて装備欄を操作した。彼女は身に着けていた《守護の首飾り》を外して、壁を見る。

 この《守護の首飾り》はMNDプラス3の効果を持つアイテムである。この装備を外す事でシオンのMNDが3下がり、VITの方が高くなった。


「ジン様の仮説、恐らくは正解です。私にも、光が見えました」

「……なんてこと。そんな秘密がダンジョンにあったなんて……」

 溜息を吐くレンだが、シオンは壁から視線を逸らさない。

「VITに関わるというのならば、もしかしたら……()()()()すれば良いのではないでしょうか?」

 そう言って、シオンはヒイロに視線で促した。


――そうか、盾で攻撃する武技が……ある!


 表情を引き締めたヒイロは、盾を構え壁に向かって武技を発動する。

「【シールドバッシュ】!!」

 不自然な光を放つ壁に、ヒイロの【シールドバッシュ】が直撃する。すると今までの堅牢さは何だったのかと言いたくなる程に、壁はあっさりと崩れ落ちた。


「やった!」

「お兄ちゃん、やりましたね!」

「あぁ……そうだね」

 ジンとヒメノに笑みを返すが、ヒイロは壁に空いた穴の向こうに向き直る。その表情は、何か悩んでいる様だ。

「折角です、私達も中に同行してよろしいですか?」

 そう言い出したレンに、シオンは何も言わない。それはレンの要望に沿うつもりだと、ジン達にもなんとなくだが伝わった。


―――――――――――――――――――――――――――――――

武技【シールドバッシュLv2】

 効果:盾による打撃特化の攻撃を繰り出す。確率でノックバック効果を付与。攻撃時VIT-5%、STR+5%。

―――――――――――――――――――――――――――――――


 五人で小部屋の奥に辿り着くと、松明に照らされたオブジェクトがその全容を晒す。

「やっぱり……!!」

 目の前にあるオブジェクトに声を上げたのは、ジンだ。彼は先日、目の前にあるモノとよく似たオブジェクトを見ている。初めて攻略したダンジョン[魔獣の洞窟]で。

「これが祠……か」

「ジンさんが見た例の祠と、同じ物……でしょうか?」

「うん、間違いない。僕が【九尾の狐】を手に入れたのと、同じ祠だ」

 ジンから話を聞いた四人も、この後の展開を予想するのは容易い。ボス部屋まで行く事で、待ち受けているのだろう……エクストラモンスターが。


「“動かざること山の如し”……ですか」

 祠に貼られた札に、レンが鋭い視線を向ける。

「レンお嬢様。今度、INTの祠を探しますか?」

「……そうですね、機会があれば」

 口ではそう言うものの、レンもユニークシリーズは手にしておきたいのだろう事が解る。そんな二人のやり取りに、ジン達は口を挟めない。


 ジンの【九尾の狐】の説明文である“はやきこと風の如し”と、よく似ている。武田信玄の旗で有名な、風林火山を連想させる内容だ。

『其の疾きこと風の如く、其のしずかなること林の如く、侵掠しんりゃくすること火の如く、動かざること山の如し』

 この山の祠が、VITを強化するユニークシリーズを手に入れる為の祠だという事は間違いないだろう。


 そんな中、ヒイロが黒いスキルオーブを手に取る。それを一度見て、振り返った。

「シオンさん、受け取って下さい」

 その言葉に、四人は絶句した。シオンが口を開こうとするよりも早く、ヒイロは言葉を重ねる。

「これは貴女が盾を使う事を提案してくれたから、手に入ったものです。それならこれは、シオンさん……貴女が持つべきだ」

「先に光る壁を見付けたのも、実際に壁を壊したのもヒイロ様です。それに、ユニークスキルは唯一無二です。それを手放すと言うのですか?」

 訝しげなシオンは、ヒイロに諭すように言う。


 シオンは、ヒイロに()()()()()事を避けようと思っていた。それをネタに何かを要求されたりする……そんなトラブルが、VRMMOでは日常茶飯事なのだ。

 自分はまだしも、そういったトラブルにレンを巻き込んだら? そう思い、シオンはヒイロの提案を否定しようとした。


 だが、彼女の想像は的外れだった。ヒイロという男は、そんな卑劣さとは対極に存在する人物なのだ。

「MMOは、限られたリソースを取り合うゲームだ。早い者勝ち、それが当然の世界……そうでしょう?」

「その理論で行くと、先にそのオーブを手に取ったヒイロ様の物ではありませんか?」

「先に攻略法を見出した、シオンさんの物だ。少なくとも、俺はそう思ってるんです」

 どうやら、ヒイロの意思は強いらしい。故にレンもシオンも、口を噤む。

「それに、このままこのスキルオーブを手に入れたら……俺は、きっとどこかで後悔する。そんな気がするんです。ジンと同種のスキルを欲しいと思うのは事実ですが……」


 ヒイロの中で、ジンと同様のスキルという点は魅力的だ。友人との共通点が出来る事……ヒイロ的に、それは魅力的だった。

 しかし、ヒイロには譲れない一線があるのだ。


「自分の力で得られたスキルだと、胸を張って言えないと思います。だからシオンさん、これは入手する手段を見つけ出した貴女が持っていて下さい」

 ヒイロの真摯な言葉と、その揺るぎない視線。それを向けられたシオンは、黙り込み……そして、ついに折れた。

「ヒイロ様の熱意は伝わりました。それではお言葉に甘え、そのスキルオーブを受け取らせて頂きます」


 シオンの決断に、レンは何も言わない。その理由の一つは、これがヒイロとシオンの間で解決すべき話だからというのがある。

 それと同時に……レンは、ヒイロに強い興味を抱いたのだ。


 女子校に通うレンではあるが、これまで出会った異性は少なくはない。その多くは、大企業の社長令嬢であるレンへの下心を感じさせる異性ばかりだ。

 しかし、ヒイロはその誰もと異なっていた。自分の意志をしっかり持ち、それを伝える姿。自分の中の譲れないモノを、貫き通すその姿勢。


――ヒイロ、さん……。


 それは、レンが今まで抱いた事の無い感情が芽生えた瞬間であった。


―――――――――――――――――――――――――――――――

スキルオーブ【?????】

 説明:動かざること山の如し。

 効果:??????

―――――――――――――――――――――――――――――――

立ったー! クr……フラグが立ったー!


ご感想で何度か頂いているので、ヒメノがレンに気付いた点について。

1-2「フレンド登録しました」で、全盲患者向け医療器具であるVRゴーグルについての記述が御座います。

VR技術で視覚情報信号を、脳に直接送るスグレモノです。

VRは医療にも活かされている訳ですね、ハイ!

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― 新着の感想 ―
INT依存スキルまであるのに何故九尾の狐はINTじゃなくてAGIなんだろう...私が知らないだけで九尾の狐に速さに関するお話があるのだろうか...
[一言] 名前がもう…あれだよね。リア充フラグ立ってたからどこかしらで来るとは思ったが結構早かったな
[気になる点] あとがきで触れられていた部分が違和感を覚えた部分と少しずれていたので… レンがヒメノを一目で気付いていましたが、普段ゴーグルしてて髪色や服など雰囲気も違う、しかも通りがかりではさすがに…
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