01-09 ダンジョンで遭遇しました
生産職人ユージンの依頼を受けた翌日、ジン達はダンジョン[巨兵の安置所]を訪れていた。
「ここは、何だか遺跡っぽい感じのダンジョンでゴザルな」
「というか、まんま遺跡だよ。ちなみに出て来る敵はゴーレムしかいないらしい」
掲示板サイトを眺めながら、ヒイロが攻略情報を確認する。というのも、ここに居る三人全員が初攻略だからだ。
「ゴーレムは防御が硬くて、攻撃も重い。旨味が少ないって言うのは間違いじゃ無いみたいだ」
「装備の耐久も減りますから、厳しい攻略になりますね」
しかし、それは一般的なプレイヤーの場合の話だ。
「物理攻撃はVIT値が高いゴーレムには軽減される……更に、武器の耐久値が大幅に減る。だから魔法攻撃主体、これが主な攻略法だね。しかし、ウチにはヒメがいる」
「STR極振りで、しかもメインウェポンが弓矢でゴザルからな。装備耐久を気にしなくて良いのは、でかいでゴザルよ」
「はいっ! 頑張りますっ!」
そう。ゴーレムの高いVIT値を凌駕する、ヒメノのSTR値。15から20レベル推奨程度ならば、ヒメノのSTRが通用しないモンスターなど現れない。
更に言うと、ゴーレムは同時に戦闘になる可能性があるのは三体程度。動きが鈍い為、ジンからすれば避け続けるのに大した労力はかからない相手だ。タゲを取っている間に、ヒメノの攻撃までの時間を稼ぎやすいのである。
ちなみに今回の件は、ヒメノがジンに対して”ユージンとの顔繋ぎをして欲しい”という依頼をした事が発端となっている。ヒイロは便乗した形であるし、ジンは顔繋ぎ役だ。そこで、パーティリーダーはヒメノが務める事となった。
AWOでは、パーティリーダーになる事に大した権限は無い。プレイヤーのパーティ参加、その決定権を得るくらいが精々だ。つまりパーティメンバーを加えたり、外したりである。
「それでは……行きましょう!」
「あぁ!」
「いざ!」
顔を突き合わせた三人は、頷き合ってダンジョンの中へと踏み入った。いよいよ、ダンジョン攻略のスタートだ。
……
ダンジョンの入口から入ってすぐの、石造りの通路を進んで行く三人。ポップするモンスターがゴーレム故か、通路は幅が広く天井も高い。
そんな通路の先、中央には石の塊が鎮座していた。間違いなく、ゴーレムだろう。
「相手がゴーレムでも、やる事はいつも通りだ。ジン、頼む」
「任されたでゴザル」
初めて相手をするモンスターの為、ジンはいつでも動けるように意識しながら接近する。すると、五メートル手前辺りで石塊が動きを見せた。
身体を持ち上げた石塊は両足で立ち上がり、接近するジンを見て両手を振り上げた。その頭部には、赤い一つの光が灯っている。
「これがゴーレムでゴザルか!」
《大狐丸》で斬り付けると、ジンは顔を顰める。
「成程、これは硬い」
ゴーレムを倒すには、打撃属性武器か魔法属性攻撃が有効。
「少し試しても良いでゴザルか?」
「そうだな、どんな性能なのか気になるし……見せてくれるかな?」
「はい、お願いします!」
ジンは頷くと、《小狐丸》を逆手に持つ。
ゴーレムが大きな腕で殴りつけようとするのを躱し、ジンは《小狐丸》を地面に突き刺した。
「【狐火】!!」
魔技名を宣言すると、小太刀を突き刺した部分から炎が噴射する。その炎の色は青く、他の火系統魔法とは全く異なる。
噴射した炎はゴーレムに纏わり付くと、その身を焼いていく。5秒に一度、ダメージポイントがゴーレムの頭上に浮かび上がっている。
これは直撃した際のダメージに加えて、”延焼効果”が発動したのだ。
「おぉ、これは良いね。それに延焼効果か……流石は【九尾の狐】」
「わぁ! 忍法みたいです!」
冷静に【狐火】を分析するヒイロに対し、ヒメノは火遁の術っぽい攻撃に喜んでいる。
尚、魔技というのはフレーバーテキストの技名に添えられた呼称だ。武技とも魔法とも違う、特殊な技なのだろう。
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魔技【狐火Lv1】
説明:地面に《刀剣》または《短剣》属性武器を接触させて発動。地面から高温の炎を噴射する。
効果:消費MP5。詠唱破棄。攻撃時、INT+5%。低確率で延焼効果発動。
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元のINT値が低い為、たいしたダメージには繋がっていない。それは三人とも、理解している。
「まぁ、使い続ければレベルが上がっていくさ」
そう独り言ちたジンは、ゴーレムの殴りつけを回避する。とりあえず、タゲ取りは出来た。
そんなジンとゴーレムの攻防を、ただ黙って見ているヒメノではない。弓に矢をつがえて、狙いを定める。
「行きます! 【フレアショット】!」
放たれたのは、火属性を付与した矢だ。所謂、火矢である。放たれた火矢の一撃は、ゴーレムの胴体に直撃。そのHPを残り三割まで削ってみせた。
「流石に、一撃とはいかないか」
しかし、それならばもう一射を放つのみ。ヒメノが矢をつがえ、ゴーレムを狙う。
「【ショット】!!」
火矢程の威力は発揮せずとも、ヒメノが放った【ショット】はゴーレムの体力を根こそぎ奪う事に成功したのだった。
ゴーレムが地面に倒れ、その身体が光となって砕け散る。その巨体が消え失せたそこには、光を放つ小さな点が残されている。雑魚キャラとされるモンスターのドロップ表示だ。
この光の点は一人一つしか見えてないので、他のプレイヤーとどれをドロップするかで揉める等のトラブルは無い。
「≪上質な岩≫……でゴザルかぁ。でも、岩だよなぁ……」
「≪鋼塊≫出ましたよ!」
「俺は……≪鉄の塊≫だったよ」
ドロップ結果を報告し合うと、三人は更に先へと進む事にする。今回は目標が設定されているので、しっかり稼がなければならない。
……
そのまま歩いていくと、ジンはある事に気付く。
「おっ、あそこの……あの壁。なんか、他の所とうっすら色が違う」
そう言って壁を見るが、ヒイロには別段変化が解らない。
「そうか? 俺には変わらないように見えるが……」
「ジンさんが持っている【感知の心得】のお陰かもしれないですね」
ヒメノの予想は当たりである。ジンの持つ【感知の心得】は、採取や発掘・伐採等の戦闘外アクションにも精通する。簡単に言うと、素材が眠るポイントが解るのだ。
最も、レベルを上げないと効果は発揮されない。ジンが見付けたほんの少しの色の変化も、よくよく見なければ解らない程だ。
「よーし、ユージンさんから貰ったピッケル! これで採掘してみるでゴザル!」
色の違う壁に向けて、ジンがピッケルを突き立てる。一回、二回とピッケルで壁を削ると、ドロップを示す光の表示がポロリと落ちた。
「おっ?」
「採掘が出来たみたいですね!」
ジンがドロップ表示を拾い上げると、光は消えてシステム・ウィンドウが展開される。
『アイテム≪鉄鉱石≫を入手しました』
「おぉ、≪鉄鉱石≫だって!」
そんなジンの様子に、ヒイロとヒメノもピッケルを取り出す。作って貰うのは自分達の装備なのだから、ジン任せにするわけにはいかない。
「せいっ!! はっ!!」
「よいしょっ!! えいっ!!」
三人でピッケルを振るっていくと、ジンは新たな変化に気付いた。
「壁の色が、周りと同じ色になったでゴザル」
するとピッケルを何度突き立てても、素材がドロップしなくなった。
「まぁ、採掘出来る回数には限りがありますよね」
「一箇所でエンドレスに出来るはずもないか」
ヒメノとヒイロは、そんなものさと納得した。ゲーム知識がまだ少ないジンは、そんなものかとピッケルを収納に収める。
「採掘出来るのは、三回かな?」
「≪鉄鉱石≫と、≪硝石≫に≪鋼塊≫……」
その成果が、どの程度のランクなのかが解らないジン達。とりあえずは収納に収め、先へと進む事にした。
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それ以降も、三人はゴーレムを倒したり採掘をしたりして、素材を集めていく。途中で三人に【採掘の心得】というスキルまで手に入った。採掘をする時だけスキルを付け、戦闘時は予備スロットへ移す事でドロップ率を上げていく。
収納も素材で溢れ返るのではないかという所で、ヒイロがある壁の不自然な現象に気付く。
「ちょっと待った、あの壁の光は何だろう?」
ヒイロが指で指し示した場所に、ジンとヒメノも視線を向ける。しかし、そこには特に変わった様子は見受けられない。
「壁の光? そんなの見えないけど……」
「はい、私にも見えません」
二人の返答に、ヒイロは怪訝そうな表情になる。自分には、こんなにハッキリと見えているのに……と。
「ちょっと調べてみるか」
ユージンの依頼内容には、調査も含まれている。それならば、何かが隠されているのかもしれない。
不自然な光を放つ壁に向かうヒイロに、ジンとヒメノは周囲を警戒しながら付いて行く。もしかしたら、罠の可能性だって有り得るのだ。
ヒイロが壁を叩くと、音が反響するのが解った。他の壁と同じ石造りの壁だが、その厚みは薄い様である。
「隠し部屋……かな」
ジンが壁を凝視するが、何も見付ける事が出来ない。隠し部屋ならば、何らかのギミックが何処かにあるはずだ。
時間をかけて三人で調べてみるが、ギミックは特に見付けられなかった。悩んだ結果、ヒメノが一つの結論に達する。
「この壁、壊れないでしょうか?」
巷で一撃必殺少女と呼ばれるのは、その攻撃力以外にも要因があるのかもしれない。脳筋な思考によって導き出された結論だが、他に試す手段もない。
「やるだけやってみようか……」
「そうでゴザルな」
まず、ヒメノが弓を構える。
「行きます!!」
つがえた矢を引き絞り、壁に向けて矢を放つ。武技ではない、通常の一射。それが原因では無いだろうが、ヒメノの放った矢は壁に弾かれてしまう。
「……あれっ?」
普通ならば突き刺さっても良さそうなものだが、不自然に矢が弾かれたのだ。三人は顔を見合わせる。
「何か、おかしいでゴザルな……それなら……」
ジンが≪大狐丸≫を壁に近付ける。すると壁の手前に見えない障壁が張られているのか、壁に刀身が当たらないのが解った。
三人はそれから直剣やピッケルを近付けるも、結果は同じだった。
……
壁を壊そうと、試行錯誤しているジン達。そんな中、ジンの【気配察知】が効力を発揮した。
「二人共、何かが近付いて来てる!!」
その声に、二人は武器を手にして警戒を始める。レベルが低い【気配察知】では、相手がプレイヤーなのかNPCなのか……モンスターかも見分けられないのだ。
しばらく待っていると、通路を歩いて来る人影が見えた。モンスターではない……その頭上に表示されるのは、色のついたカーソルである。このカーソルが、プレイヤーかモンスターかを見分ける手段なのである。
緑色のカーソルは、通常のプレイヤー。モンスターはオレンジで、NPCは水色だ。
そして、軽犯罪行為を行ったプレイヤーは黄色になる。軽犯罪とは暴力を振るったり、不適切な接触行為……ハラスメント行為を行ったりする事を言う。
そういった行為を繰り返す者は、赤いカーソルになる。こうなるとプレイヤーは賞金首となり、他のプレイヤーに狙われる事になるのだ。
幸い、ジン達の視線の先に居るプレイヤー二人は緑色のカーソル。通常のプレイヤーである。とはいえ、それが友好的な相手かと言われると解らないが。
その外見は特徴的で、一人は蒼銀のロングヘアに赤い瞳の小柄な少女だ。歳の頃は、ヒメノと同じくらいだろう。
もう一人は、長身の女性だ。亜麻色の髪を肩くらいまで伸ばした、二十代前半から半ばくらいの美女である。
二人のプレイヤーは、ジン達の存在に気付いて立ち止まる。
「……あら?」
その内の一人……小柄な少女が、ジン達を見て驚いた。いや、正確には三人の内の一人を見て……だ。
「えっ!?」
その一人……ヒメノもまた、驚きの声を上げた。
「貴女はもしかして、ほし……いえ、ゲーム内でリアルネームを呼ぶのはマナー違反ですね」
そう言って言葉を切る少女に、ヒメノは首を横に振った。
「こ、こちらは私の兄と、そのお友達ですので……お察しの通り、私はA組の星波です。ここでは、ヒメノという名前でやっています」
ヒメノの言葉に、少女はジンとヒイロに視線を向けると頷いてみせた。
「そうでしたか、それならば……お二人には初めまして、ですね。私はレン……現実では、ヒメノさんと同じ学校に通っている者です。どうぞ、よろしくお願い致します」
少女は長いロングスカートをちょこんと摘まみ上げ、カーテシーで挨拶をして来た。その仕草は様になっていて、実に優雅である。
「ご丁寧に、どうも。俺はヒイロ、ヒメノの兄です……いつも、妹がお世話になっています」
「僕はヒイロとヒメノさんの友人で、ジンといいます。初めまして、レンさん……えぇと」
ジンが、レンの横に立つ長身の美女に視線を向ける。彼女は一つ頷くと、レン同様にカーテシーをする。
「お初にお目に掛かります。私はレンお嬢様の付き人を務めさせて頂いております、シオンと申します。以後、お見知り置きを」
付き人……と言われて、三人は納得する。いや、納得して良いのか解らないのだが、納得せざるを得ない。何せ、シオンと名乗った美女が身に纏うのは、どこからどう見てもメイド服なのだ。
この時点で、ジン達はまだ知らない。
レンとシオンが、AWO攻略の最前線を走るプレイヤー……攻略集団の一角である事を。
「お三方は、今は何を……?」
訝しげな表情をするレンに、ジン達が謎の壁について話す。しかしレンやシオンにも、壁の光は見えない様だ。光が見えるのは、現状ではヒイロだけである。
そんな中、ジンはある事を思い出す。ダンジョンの中で、不思議な現象に出会った事があったではないか。
「もしかしたら……この先に祠があるのかも!」
……
ジンは、レンやシオンにもダンジョン内にある祠について説明する。そして、ジンはある仮説を立てたのだ。
「ヒイロにだけ光が見えるのは、VITがステータス中で一番高いからじゃないかな?」
ジンが獲得したユニークスキルは、AGIに特化した物だ。他のステータスにも、同様のユニークシリーズがあってもおかしくはない。
「成程……では、検証してみましょう」
そう言うと、シオンはシステム・ウィンドウを開いて装備欄を操作した。彼女は身に着けていた《守護の首飾り》を外して、壁を見る。
この《守護の首飾り》はMNDプラス3の効果を持つアイテムである。この装備を外す事でシオンのMNDが3下がり、VITの方が高くなった。
「ジン様の仮説、恐らくは正解です。私にも、光が見えました」
「……なんてこと。そんな秘密がダンジョンにあったなんて……」
溜息を吐くレンだが、シオンは壁から視線を逸らさない。
「VITに関わるというのならば、もしかしたら……盾で攻撃すれば良いのではないでしょうか?」
そう言って、シオンはヒイロに視線で促した。
――そうか、盾で攻撃する武技が……ある!
表情を引き締めたヒイロは、盾を構え壁に向かって武技を発動する。
「【シールドバッシュ】!!」
不自然な光を放つ壁に、ヒイロの【シールドバッシュ】が直撃する。すると今までの堅牢さは何だったのかと言いたくなる程に、壁はあっさりと崩れ落ちた。
「やった!」
「お兄ちゃん、やりましたね!」
「あぁ……そうだね」
ジンとヒメノに笑みを返すが、ヒイロは壁に空いた穴の向こうに向き直る。その表情は、何か悩んでいる様だ。
「折角です、私達も中に同行してよろしいですか?」
そう言い出したレンに、シオンは何も言わない。それはレンの要望に沿うつもりだと、ジン達にもなんとなくだが伝わった。
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武技【シールドバッシュLv2】
効果:盾による打撃特化の攻撃を繰り出す。確率でノックバック効果を付与。攻撃時VIT-5%、STR+5%。
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五人で小部屋の奥に辿り着くと、松明に照らされたオブジェクトがその全容を晒す。
「やっぱり……!!」
目の前にあるオブジェクトに声を上げたのは、ジンだ。彼は先日、目の前にあるモノとよく似たオブジェクトを見ている。初めて攻略したダンジョン[魔獣の洞窟]で。
「これが祠……か」
「ジンさんが見た例の祠と、同じ物……でしょうか?」
「うん、間違いない。僕が【九尾の狐】を手に入れたのと、同じ祠だ」
ジンから話を聞いた四人も、この後の展開を予想するのは容易い。ボス部屋まで行く事で、待ち受けているのだろう……エクストラモンスターが。
「“動かざること山の如し”……ですか」
祠に貼られた札に、レンが鋭い視線を向ける。
「レンお嬢様。今度、INTの祠を探しますか?」
「……そうですね、機会があれば」
口ではそう言うものの、レンもユニークシリーズは手にしておきたいのだろう事が解る。そんな二人のやり取りに、ジン達は口を挟めない。
ジンの【九尾の狐】の説明文である“疾きこと風の如し”と、よく似ている。武田信玄の旗で有名な、風林火山を連想させる内容だ。
『其の疾きこと風の如く、其の徐かなること林の如く、侵掠すること火の如く、動かざること山の如し』
この山の祠が、VITを強化するユニークシリーズを手に入れる為の祠だという事は間違いないだろう。
そんな中、ヒイロが黒いスキルオーブを手に取る。それを一度見て、振り返った。
「シオンさん、受け取って下さい」
その言葉に、四人は絶句した。シオンが口を開こうとするよりも早く、ヒイロは言葉を重ねる。
「これは貴女が盾を使う事を提案してくれたから、手に入ったものです。それならこれは、シオンさん……貴女が持つべきだ」
「先に光る壁を見付けたのも、実際に壁を壊したのもヒイロ様です。それに、ユニークスキルは唯一無二です。それを手放すと言うのですか?」
訝しげなシオンは、ヒイロに諭すように言う。
シオンは、ヒイロに借りを作る事を避けようと思っていた。それをネタに何かを要求されたりする……そんなトラブルが、VRMMOでは日常茶飯事なのだ。
自分はまだしも、そういったトラブルにレンを巻き込んだら? そう思い、シオンはヒイロの提案を否定しようとした。
だが、彼女の想像は的外れだった。ヒイロという男は、そんな卑劣さとは対極に存在する人物なのだ。
「MMOは、限られたリソースを取り合うゲームだ。早い者勝ち、それが当然の世界……そうでしょう?」
「その理論で行くと、先にそのオーブを手に取ったヒイロ様の物ではありませんか?」
「先に攻略法を見出した、シオンさんの物だ。少なくとも、俺はそう思ってるんです」
どうやら、ヒイロの意思は強いらしい。故にレンもシオンも、口を噤む。
「それに、このままこのスキルオーブを手に入れたら……俺は、きっとどこかで後悔する。そんな気がするんです。ジンと同種のスキルを欲しいと思うのは事実ですが……」
ヒイロの中で、ジンと同様のスキルという点は魅力的だ。友人との共通点が出来る事……ヒイロ的に、それは魅力的だった。
しかし、ヒイロには譲れない一線があるのだ。
「自分の力で得られたスキルだと、胸を張って言えないと思います。だからシオンさん、これは入手する手段を見つけ出した貴女が持っていて下さい」
ヒイロの真摯な言葉と、その揺るぎない視線。それを向けられたシオンは、黙り込み……そして、ついに折れた。
「ヒイロ様の熱意は伝わりました。それではお言葉に甘え、そのスキルオーブを受け取らせて頂きます」
シオンの決断に、レンは何も言わない。その理由の一つは、これがヒイロとシオンの間で解決すべき話だからというのがある。
それと同時に……レンは、ヒイロに強い興味を抱いたのだ。
女子校に通うレンではあるが、これまで出会った異性は少なくはない。その多くは、大企業の社長令嬢であるレンへの下心を感じさせる異性ばかりだ。
しかし、ヒイロはその誰もと異なっていた。自分の意志をしっかり持ち、それを伝える姿。自分の中の譲れないモノを、貫き通すその姿勢。
――ヒイロ、さん……。
それは、レンが今まで抱いた事の無い感情が芽生えた瞬間であった。
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スキルオーブ【?????】
説明:動かざること山の如し。
効果:??????
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立ったー! クr……フラグが立ったー!
ご感想で何度か頂いているので、ヒメノがレンに気付いた点について。
1-2「フレンド登録しました」で、全盲患者向け医療器具であるVRゴーグルについての記述が御座います。
VR技術で視覚情報信号を、脳に直接送るスグレモノです。
VRは医療にも活かされている訳ですね、ハイ!