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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第五章 ギルド活動を満喫しました
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05-12 幕間・マリウスの末路

 始まりの町に建つ、一軒の屋敷。多くのプレイヤーは、そこに集まる者達を一目置いている。それだけの力と、それだけの数を要する大規模ギルドの本拠地なのである。


 そのギルド名は、【聖光の騎士団】だ。


 そんな【聖光の騎士団】の本拠地であるが、この日は普段と様子が違った。外部からは解らないが、屋敷の中はピリピリとした緊張感に包まれているのであった。


 ……


「マリウス、君の言い分はギルバート達から聞かせて貰った……相手方の言い分と、随分異なる内容だったが?」

 屋敷の奥にある、大広間。そこで、ある男の聴取が行われていた。


 その中心に座らされた、一人の男……その名前は、マリウス。ヒメノを襲い、ジンに撃退された軽犯罪者イエロープレイヤーである。

 そして、大広間には主だった【聖光】のプレイヤーが集まっていた。まるで王の裁定の場か、もしくは裁判の場である。どちらにせよ、裁かれるのは間違いが無い。


「な、何かの間違いです!! 俺は嘘なんて……!!」

 往生際悪く、マリウスは自分の過失を認めようとはしない。保身の為か、それともまだ挽回できると思っているのだろうか。


「では聞かせてくれたまえ。【七色の橋】のギルドホームであった事を全てだ」

 アークの横に立つギルバートが、マリウスに対して冷め切った視線を向ける。

 ギルバートは女好きだが、女性を泣かせる様な振る舞いをしない。それは禁忌である。女好きなりに、美学があるらしい。


「お、俺は、イベントの時に彼女を勧誘して、【聖光】に加入すると言うから……それで俺が、彼女を迎えに行っただけだ……!!」

 それは否、断じて否。ヒメノは「パーティメンバーに相談する」と言ったが、加入するとは一言も言っていない。


「ならば何故、彼女は【七色の橋】に所属しているんだろうね? 僕にはそれが理解出来ないな……それに、南門で彼女は「仲間に相談する」としか言っていないらしいじゃないか」

「そ、それは何かの誤解で……!!」

「実際に、それを一緒に聞いているというプレイヤーが二人も居たそうだが? あちらはそのプレイヤーにメッセージを送り、証言して貰う事も出来ると断言しているよ」


 普段は穏やかなライデンも、今日この時ばかりは無表情かつ冷めた視線を向けている。

「それにあちらのギルドマスターは、彼女のお兄さんだそうだ。兄妹でギルドを設立する……そちらの方が、君の妄言よりも信憑性が高いんじゃないかな」

 そう言うと、ライデンは視線をアークに向けた。直接【七色の橋】と対話したのは、アークとシルフィだ。この件を総括するならば、アークに任せるのが良い……という判断である。


 そんなライデンの意図は、正確にアークに伝わっていた。

「彼女は、自分の兄や仲間と相談した上で【七色の橋】の設立に加わった。他のギルドメンバーだけではなく、彼女自身の言葉も俺はこの耳で聞いている。それが真実なのだろう」

 有無を言わせない、アークの断言。それに、マリウスは何も言えない。


 本当は、叫びたかった……ヒメノは自分の下に来る、それが当然なのだと。

 だがそれは、マリウスという男の抱いた自分勝手な妄想。妄想と現実は異なり、その事実を認めたく無くてマリウスは苛立っていた。


「さて、それじゃあ次だ。なぁマリウス? アンタは女の子を襲った、そして【ハラスメントセキュリティ】を喰らって軽犯罪者イエローになった……違うかい?」

「ち、違う!! 俺は、襲ってなんか……!!」

 詰問するシルフィに対し、マリウスはそう叫んで否定する。しかし、シルフィはやれやれと言わんばかりに首を横に振る。

「既に、アンタの仕出かした事が動画で流れてるんだけどね?」

 そう言ったシルフィの視線を受けて、ベイルがギルド内の大型モニターを操作する。


 そこに映し出されたのは、ヒメノを襲うマリウスの一部始終であった。

 動画が進むにつれて、周囲のメンバーの視線が冷え切っていく。マリウスは自分が仕出かした事を客観的に見て……そこで初めて、気付いた。

 自分がしているのはまるで……嫌がる少女を無理矢理にでも手篭めにしようとする、強姦魔のそれの様だった。


「あーあ、泣き出した女の子の唇を奪おうとしてるね。それで【セキュリティ】喰らって吹っ飛んで、軽犯罪者イエロー堕ち?」

「あ……いや、それは……ちが……」

「なぁマリウス? アタシはこのまま、アンタを犯罪者レッドにした方が良いと、そう思ってんだよ」

 快活で気風の良い姉御……そんなイメージが浸透しているシルフィが、今の様に厳しい表情を見せるのは初めての事である。それ程までにマリウスのした事は独り善がりで、許し難い行為なのだ。


「マリウス。この動画は既に、掲示板にも流れているのだよ? 君は明日から、どの面を下げて町を歩けるのかね?」

 ギルバートの言葉は、マリウスをとことん追い詰める意思を感じさせた。

 泣いて嫌がる少女に対しての、マリウスの行動は紳士ではない。そんなギルバートの怒りは、他の面々とは外れているが……ただ、思ったよりも真っ当なものだった。


「それと、先方から連絡が来たよ。運営に通報したってさ。彼女は未成年どころか、中学生らしいし……アカウント停止か削除が、妥当な所だろうね」

 何でもないことのように、ベイルが言い捨てる。既に、ベイルはマリウスを見限っているのだ。


 そんなベイルの言葉に、集まっていたプレイヤーからどよめきが起きる。マリウスが中学生に手を出そうとしたと聞かされては、無理もあるまい。周囲の彼に対する視線は、完全に性犯罪者を見る視線へと変わっていた。

「中学生……? マジかよ……」

「いや、ヤバくね? アイツ知ってたのかね?」

「ていうか、知ってても知らなくてもアウトよ……彼女、大丈夫かしら?」

「中学生の女の子が、マリウスの強面で迫られたんだろ? トラウマにならないかな……」

「私が彼女の立場だったら、引退するかも……」

「むしろ【聖光の騎士団】の名前に傷が付く大事件だろ、コレ」

「確かにな……軽犯罪者イエローどころの騒ぎじゃないぞ」

「シルフィ姐さんの言う通り、犯罪者レッド堕ちが妥当じゃないか?」

「放っておいた方が良いと思うぜ? 運営に通報されて、明確な証拠があるんだ……垢バン待った無しさ」


 マリウスは、自分に対して突き刺さる視線と言葉に焦った。既に、この場に味方は居ない。更に、掲示板に出回った動画。その上、【七色の橋】から運営に対する通報。

 AWOという、大勢のプレイヤーの中で……ただ一人取り残された、そんな錯覚を覚えてしまう。

 更には、これまで育て上げたアバターがリセットされてしまう。第一回イベントで入賞を果たした、【マリウス】のアバター……それが、消滅する。


 その事実を受けて、マリウスはサッと血の気が引く感覚を味わった。

「ま、待ってくれ!! わ、悪かった!! 俺が悪かった!! だから……!!」

 そんな彼の目前に、システム・ウィンドウがポップアップした。通常のシステム・ウィンドウとは異なる、赤く明滅するウィンドウ……それは、警告の際に表示される物だ。


『運営より、プレイヤー【マリウス】に通達します。重度の違反行為を確認致しました。アカウント削除の措置を実行します』


 その文章の下に、カウンターが存在する。その数字が、一秒毎に減っていく。

「ま、待て!! 俺はっ!! 俺がしたのはそんなに悪い事なのか!? ただ、ヒメノを、俺の……っ!! 俺のぉ……っ!!」

 そんな叫びが、大広間に響き渡る。

「ヒメノは俺のものになるはずだったんだ!! なのにどうしてこうなるんだよ!! ふざけんな、クソがっ!!」

 往生際が悪いマリウスに、周囲のプレイヤーから侮蔑の視線が注がれる。


 その中でただ一人、明確な怒りを向ける者がいた……それはこのギルドの頂点、プレイヤーの最高峰に立つ存在。

「マリウス。せめて君を除籍するのは止めようと思っていた……しかし今、その言葉で気が変わったよ」

 立ち上がったアークが、マリウスに歩み寄る。その手元に表示されるのは、ギルドマスターやそれに次ぐ者だけが操作できる【ギルド・ウィンドウ】だ。


「一切の反省をしていない君を、最期まで【聖光の騎士団】に在籍させるわけにはいかない。君は、追放処分とする」

 マリウスの目前に立ち、アークはウィンドウを操作する。

「ま、待て!! 待てよアークッ!! 俺はっ、俺はイベントランカーで!! このギルドの幹部になれる実力を持ってるんだぞ!!」

 そんな戯言に耳を貸すことなく、アークはウィンドウの操作を止めない。

「やめろ!! 止めろっ!! ふざけんなよぉっ!!」

 そうしてギルドから除籍する、その直前。マリウスのシステム・ウィンドウにメッセージが届いた。差出人は、目前に立つ男……アーク。


『ヒメノはジンと愛し合っている。最初から彼女は、俺や君のものにはならない』


「……は?」

 そんな、間の抜けた言葉がマリウスの口から漏れ……その瞬間、アークは最後のボタンをタップする。これで【聖光の騎士団】から、マリウスというプレイヤーは除籍されたのだ。


 そして、彼の身体が完全に動きを停止した。ノイズがその身体に走り、マリウスは積み上げたデータごと存在を抹消された。その末路を見たプレイヤー達は、せいせいしたと言わんばかりに鼻を鳴らす。

 ただ一人、アークを除いて。


――俺はあの二人が幸せになれば……そう思う。お前は違ったんだな、マリウス。


 同じ少女に心を惹かれていながら、全く異なる結末を辿る彼を憐れむと同時に……少し、苛立ちを感じていた。

 最後の最後に、彼にとって最もショックであろう事実を突き付けた……それはマリウスから受けた迷惑に対する、ささやかな仕返しだったのかもしれない。

さよなら、マリウス!

散々頂いておりますが……彼に対するコメントをお待ちしてます、追悼の。


さて、今章までは更新ペースを狭めての投稿とさせて頂きました。

次章からは、本来の更新ペースに戻させて頂く事になります。

こちらの点を御承知の上、今後共お付き合い頂ければ幸いです。


次回投稿予定日

 2020/8/29(1:00) 第五章の登場人物

 2020/9/1 第六章

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― 新着の感想 ―
こんな奴に神や仏の救いなんてもったいない外なる神にあげよう
彼… アーク!それでこそ漢だ!よくやった!出逢いはまだまだあるさ!前を向こうな!
[一言] ”マ”抜けのリウス……惜しくないクズを無くしたな……。
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