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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第五章 ギルド活動を満喫しました
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05-07 幕間・【聖光の騎士団】ギルドホームにて

 アーク率いるギルド【聖光の騎士団】のホーム。そこへ、一人の男が帰還した。

「戻ったか、ヴェイン。勧誘の任務、ご苦労だった」

 ギルドホームのエントランスに入ったヴェインは、自分に掛けられた声に驚いてしまった。


 これがサブマスターのギルバートや、参謀役のライデンだけならばここまでは驚かない。

 シルフィやベイルがその場に居るのも、頷ける。第一回イベントで優秀な成績を収めた二人は、【聖光】に加入してすぐに頭角を現した。今では二人共、誰もが認める幹部メンバーなのである。


 しかし、彼が居るとは思ってもいなかった。まさか、ギルドマスター……アーク直々の出迎えが待ち受けているとは、到底思えなかったのである。

 そもそもヴェインにしてみれば、アークに自分の名を呼ばれる事自体が初めてである。


「アークさん、皆さん、ただ今戻りました」

 ヴェインは、リアルでは普通に働いている男である。つまりはアークも、ギルバート・ライデンも年下なのだ。

 しかし、このギルドでは実力が全て。年齢など関係ない、より強い者が上に立つ。それが認められないならば、ギルドを抜ければ良い……それが、【聖光の騎士団】のルールだ。

 つまり、彼等はヴェインからすれば上位者。だからこそ、礼を尽くしているのである。


「報告は聞いている……例の、和装集団の情報を得たとか?」

 アークの言葉に、ヴェインは納得する。

 第一回イベント上位入賞者……それも、全員がトップ10入りを果たしている集団だ。興味を引くのも、無理はないだろう。


「はい。このまま、報告しても?」

「あぁ、よろしく頼む……と言いたい所だが、君も疲れただろう? 場所を変えよう」

 そう言うと、アークが上層階に向かう階段へ歩き出した。幹部メンバーがそれに続くので、ヴェインは慌てて後を追った。

 以前のアークなら、その場で報告させていただろう。しかしヴェインを労うような言葉が出た事も意外なら、わざわざ出迎える事すら意外だ。


 そんな光景を見ていたギルドメンバー達は、驚きを禁じえなかった。

「最近、アークさん変わったよな」

「あぁ、柔らかくなったっつーか……」

「簡単だけど、私達にも挨拶する様になったわよね」

「何かあったのかしら……?」

「でも私は、今のギルドマスターの方が好きだわ」

「だな、違いねぇ」

 そんな会話が、エントランスのそこかしこでされている。


 その場に、マリウスという名のプレイヤーも居た。丁度、ヴェインが戻った際にログインして来たのだ。


――和装集団……ヒメノの、情報だと……!?


 ……


 ヴェインは幹部メンバーが使用する円卓に、座らされた。ここはギルドの中枢メンバーが話し合いをする場であり、ヴェインは入る事すら初めてである。

 目の前に出された紅茶を見ても、今回の報告がどれだけ重要視されているかが伺い知れた。

「それでは、報告を頼む」

「はい」

 とはいえ、どこから話したものか。ヴェインはひとまず、順序立てて話し始めた。


 始まりの町で、偶然ジン達の事を話す初心者らしきプレイヤーが居た事。その会話の内容が偶然耳に入り、現実での友人としか思えない会話内容だった事。

 彼等の後を追い、ジン達の本拠地を発見した事。


 そこで、ライデンが口を挟んだ。

「……本拠地?」

「はい……恐らく、ギルドホームかと」

 ギルドホーム……その単語に、幹部メンバーの表情が難しいものになる。

 もしもヴェインの言う本拠地が、ギルドホームだった場合……ジン達はギルドを作ったか、もしくはどこかのギルドに加入したという事だ。そうならば、【聖光の騎士団】に迎え入れるという狙いは外れてしまう。


「それにスカウトしようと思い、彼等と少しばかり会話をしました。鎧武者のヒイロと、魔法職のレンは話を聞くつもりはありませんでしたが。しかし、忍者のジンとは会話が出来ました」

「……ヴェイン君。何故レンさんとヒイロとやらは、話を聞かなかった?」

 ギルバートの詰問に、ヴェインはわずかに視線を泳がせた。しかし、言わない訳にもいくまい。


「……彼等はVRを初めて体験する友人を、案内しようとしていました。更に、ネットカフェからのログインだとジンから聞いています。友人達を優先し、時間に追われていた為かと」

「その初心者とやらは、よほどの才能持ちなのかな? 我々の話よりも初心者を優先するくらいなのだから」

 明らかに、ギルバートは不機嫌そうである。自分達を優先して然るべき……そんな傲慢さが、言葉の中に見え隠れする。


 しかし、それを窘める者が居た。

「その子達の考えが、アタシ達と全く同じだとは限らないよ、ギルバート? 彼等には彼等の、アタシ達にはアタシ達のプレイスタイルがあるんだ。そうだろ? アタシ達の考えを押し付けるのは、お門違いじゃないかい?」

 キリッとした美貌で、ギルバートを窘めたのは新幹部となったシルフィであった。ギルバートに対する態度からは、面倒みの良い姉御っぽさを感じさせる。

「……ま、まぁ確かに。それもそうだな。うむ、今のは失言だったな、忘れて欲しい」

 美人にそう言われてしまっては、女好き代表のギルバートは折れるしかなかった。案外、チョロい。


 話は戻り、ヴェインはジン達の外見から覗えた情報を開示していく。

 ジンやヒイロ、ヒメノ・レン・シオンは言うまでもないだろう。彼等の大活躍する姿は、公式サイトから動画で見る事が出来るのである。


 問題は、新メンバーだった。

「まずは、初心者を迎えに来ていたと思われる二人です。一人は赤髪の少年……腰にクロスボウを下げていたので、後衛でしょう。そして黒髪の少女は、背中に長物を持っていました。恐らくは、薙刀かと」

 薙刀……またもや、和風のアイテムである。

「彼等の持つ刀……あれは果たして、どこで手に入れたのだろうか……」

 ベイルが唸りながらそんな事を言うが、それに対する答えを持ち合わせているはずもない。


「二人に案内されて着いて行ったのは、見るからに初心者丸出しでした。共に少女で、ヒメノやレン、新メンバーと同じくらいの年齢でしょう」

「わざわざネットカフェからログインしているのなら、恐らくはVRドライバーを持っていないんだろうね」

 ライデンの見解に、他の面々も頷いてみせる。VRドライバーを持っているのならば、わざわざお金を払ってネットカフェに行きログインはしないだろう。平日である事から、オフ会等の催しとも思えない。


「それと、NPCが三人居ました。くノ一風の衣装の女性と、ヒメノに似た服装の少女……それに、大正風の装備を纏った男性型です」

「……既にPAC(パック)と契約しているのか」

 アークはすぐに、三人のNPCがPAC(パック)だと気付いてみせた。


「早すぎないかね? PAC(パック)システムは、実装してまだ数日だ。最前線の我々ですら、NPCクエストを進めて契約するPAC(パック)を選定している最中だよ?」

 意外と鋭い所に気付いてみせるギルバート。女性が絡まなければ、彼は割と優秀なMMOプレイヤーなのだ。


「多分、上位三位までに入賞した特典だろうね。くノ一に巫女服、大正風……好きな衣装を装備させている。多分、入賞特典はPAC(パック)を一から作れるという所じゃないかな?」

 こちらも参謀役として優秀なライデン、的確な意見を口にしてみせた。【聖光の騎士団】のスリートップ、その洞察力は流石である。


「……では恐らく、PAC(パック)を含めたその十名でギルドを設立した……と考えるのが妥当か」

 アークのその言葉には、落胆の感情が込められていた。【聖光の騎士団】を更に強いギルドに育てる為には、強力なプレイヤーを勧誘するのが最も手っ取り早い。


 同時に、彼はジン達に対してある種の執着心を抱いている。

 きっかけの一つは、圧倒的な力でモンスターを屠ったヒメノである。強くて可憐なヒメノに、アークもまた心奪われている。動画を見返す度に、彼女に惹かれていく自分を自覚していた。


 そして、その後だ。五人での朱雀討伐の光景を、アークは自分自身の目で見ていた。

 それがきっかけで、アークは自分に足りないもの……仲間を利用するのではなく、仲間と力を合わせる事の重要性を認識出来たのだ。

 それを気付かせてくれた彼等に、一方的ながらも恩義の様なモノを感じているのである。


 決して悪感情や、独り善がりな考えではなく。彼等と肩を並べて戦い、【聖光の騎士団】を更なる高みへ導きたい。それが、アークの意志である。


「最後になりますが、ジンからこう言われています。明日以降ならば、話くらいは聞ける……と」

 それは落胆気味だったアークの心に、何らかの熱を生み出す言葉だった。


――もしギルドを立ち上げていたとしても、交友関係を繋ぐ事は可能か。


 アークは【聖光の騎士団】と、和装集団のギルド……二つのギルドを統合するつもりは無い。シルフィの言葉を借りるならば、それは自分達の勝手な都合を押し付ける事になるからだ。

 ギルド設立には、相応の時間と労力を要する。それでも尚、ギルドを設立したならば彼等にもそうするだけの確固たる意志があったはずだ。それはアークも解っていた。


――彼等が応じるならば、【聖光の騎士団】の傘下に加える。もしくはギルド同士で友好関係を結ぶ……彼等の事情を慮るならば、後者だな。


 傘下に加えるよりは、友好関係を結ぶ方が現実的。それならば、彼等も一考してくれる可能性は高い。


 それに【聖光の騎士団】は、ゲーム内でも特に有名な大規模ギルドだ。その同盟相手というならば、彼等にとってもメリットはある。

 例えば、新規メンバーの募集。ネームバリューは十分かもしれないが、更にその後ろ盾に大規模ギルドが居るならば、有能な人材が集まるだろう。


 そして生産面でもメリットを提示できる。【聖光の騎士団】は加入した生産に適性のあるメンバーを集め、生産専門のサブギルドを結成する方針を固めている。

 生産職による物資の補給……これは自分達で生産をしたり、取引をするという手間を省ける。クエストやダンジョンの攻略に労力や時間を割けるのは、大きなメリットとなり得るだろう。


 アークはそう判断し、翌日の予定を決める。

「ありがとう、ヴェイン。君のお陰で、我々【聖光の騎士団】は貴重な機会を得られた」

 その言葉に、ヴェインは思わず背筋を伸ばす。

「明日のエリアボス討伐は、延期する……我々【聖光の騎士団】は、和装集団の彼等との対話に臨む。方針は、彼等とギルド同士の同盟を結ぶ事だ。どうだ、ライデン」

 アークの言葉に、ライデンは笑みを浮かべて頷いてみせる。彼も、アークが考えた相手方へのメリットは既に想定済みだったらしい。

「それが最良だね。和装の彼等に対するメリットも、十分だ。そうなると……ヴェイン、君も同行して欲しい。彼等と一度顔を合わせている君がいた方が、話はしやすいと思うからね」

「りょ、了解です……」

 思わぬ大役に、ヴェインは緊張気味に頷いた。ジン以外とは殆ど険悪な状態だったのだが、自分で良いのだろうかと内心は不安でいっぱいである。


 ……


 翌日に予定されていたエリアボス攻略は、後日に延期。その連絡が【聖光の騎士団】メンバーに通達された。理由はアーク達が和装集団との対話を行う為という事も、併せて告知されている。その情報は、あっという間に【聖光の騎士団】メンバーに広まった。

 とはいえ彼等は、PAC(パック)を含めて十人という小規模ギルドと目されている。ならば向かうのは、アークを始めとする幹部。そして、一部の指名されたメンバーに限定された。


 そのメンバーから省かれたマリウスは、怒りを滲ませてギルドホームを後にする。

「クソッ……俺はランカーだぞッ!! 俺をメンバーに入れないなんて、アーク達はどうかしているッ!!」

 そう言いながら北側の門に向かうマリウスだが、それは当然の帰結。なにせ第一回イベントが終わった後から、マリウスはひたすらヒメノの消息を追い求めて単独行動を繰り返していたのだ。

 ギルドに貢献しない者が、幹部になどなれるはずもない。【聖光の騎士団】は実力主義なのだから、それも尚更の事だ。


 そんな事に考えが至らないマリウスは、ヒメノを自らの手に入れる為にこの機会を逃すわけにはいかない……そう考えた。

 ヒメノに拒絶される事、その仲間達に阻止される事も頭になければ、アーク達に咎められる事も考えていない。


――アーク達より先に、俺がヒメノを……!!


 不運だったのは、微妙に詳しい情報がギルド内に広まってしまった事だろう。北東側の森近くに、和装集団の拠点がある……という情報が、メンバー内に広まってしまったのだ。

 マリウスは単身、北門の方角へと歩みを進める。その眼は血走り、鼻息も荒い。


――北東の、森の近く……そこに、ヒメノが……!!


 その後、マリウスは北東……【七色の橋】のギルドホームが存在するエリアに到着した。しかし既に時間は深夜0時半……誰もホームには居ない。

「クソッ……!! なら、明日……!! アーク達が来る前に……っ!!」

 マリウスの表情は、ヒメノがもうすぐ手に入るという確信によって、怒りと歓喜が綯い交ぜになっていた。

マリウスの行動が、どの様な結果を生むのか?

そしてマリウスの末路は!?


気になられる皆様もいらっしゃるかもしれませんが、一旦掲示板を挟みます。

焦らしプレイが嫌いな方は申し訳御座いませ( `д`⊂彡☆))Д´) <アッー!!


次回投稿予定日:2020/8/24

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― 新着の感想 ―
[一言] 勘ちGAY、 これがリアルなら女子中学生に付き纏う良い年した大人……。 (ある意味リアルの地続き)
[一言] それが、アークの意志である。 なぜだろう、、、普通の言葉のはずなのに、、、 別の意味を考えてしまうww スティングなスコーピオンに刺されて変身する方がいいそうなセリフだぁw
2021/07/27 10:28 通りすがりのオタク見習い
[良い点] >しかし既に時間は深夜0時半 マリウス君はバカなのかな・・・バカだったわ・・・
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