05-06 VR初体験ツアーをしました
ハヤテとアイネに連れられ、始まりの町の北東にある【七色の橋】のギルドホームを訪れるセンヤとネオン。そこで、ジン達と改めて対面する。
さて、今回はネカフェでダイブ中のジン達。残り時間は限られており、あと二時間少ししか無い。
「今回は初心者レベリングじゃなくて、VR初体験の二人に楽しんで貰う方向性で考えているんだけど、どうかな?」
ギルマスであるヒイロの提案に、センヤとネオンは嬉しそうに同意。
毎日の様にログイン出来る訳では無いので、レベリングよりはそちらの方が良いだろう。
「じゃあまずは、地底湖にでも行ってみようか」
「観光地っぽい感じですからね。二人もきっと楽しめると思います」
「おぉー、楽しみ!!」
「うん、そうだね」
早速、PACを含めた十二人で出発だ。
二人はまだギルドに加入している訳では無い。理由はVRドライバーとAWOのソフトが高額な事もあり、今後も続けるかどうかは保留にしている為である。
なので、パーティメンバー上限は八人。だが、今回の目的はレベリングではなく観光である。それならば、同一パーティに拘らなくても良いだろう。
その為ヒイロ・レン・シオン・センヤ・ネオン・ロータスの六人パーティと、ジン・ヒメノ・ハヤテ・アイネ・リン・ヒナの六人パーティで分かれる。
ヒイロチームは二人の護衛役、ジンチームは襲ってくるモンスターを殲滅する役である。どちらにせよ、過剰防衛になるのが目に見えているのだが。
さて、フィールドに出る。それはつまり、ジンのスイッチがONになるという事。≪闇狐の飾り布≫をグイッと上げて口元を隠し、いざ忍者ムーブ。
「さてと……では、いざ地底湖へ向かうでゴザル」
そんなジンに、センヤとネオンが目を見開き……そして、ウンウンと頷く。
「成程、忍者だ!!」
「うん、清々しい程に忍者だね」
学校でヒメノ達に聞かされた、「ジンってどんな人?」への回答に納得する二人。それほどまでに、ジンの姿はTHEニンジャである。
ちなみにジンが忍者ムーブする様になった経緯は、事前にヒメノから聞かされている。
ヒメノの要望を律儀に叶えている所を考えると、悪い人物では無いのだろうと確信するには十分だった。途中から惚気話を聞かされている気分にさせられたのは、余談である。
……
ギルドホームを出ると、一人の男が姿を見せた。その身を包むのは白銀の装備である。
「こんにちは、今ちょっと時間良いかな?」
にこやかに微笑んでいる男は細目で、笑顔を作る事で更に細められている。
――白銀装備……【聖光の騎士団】? まさか、俺達が尾行けられた……?
鋭い視線で、ヴェインを見るハヤテ。ハヤテの警戒網を抜けるとなれば、それなりに腕の立つプレイヤーだろう。
しかしながら、アイネもジン同様に【感知の心得】を保有している。一定範囲内ならば、システム的に気付く事が可能だ。
とすると、目の前の青年はそれらを掻い潜るスキルを持っている。
――ジン兄と同じ、【隠密】スキル持ちかな。特に敵情視察なんかを担当する、斥候。やられたね……!
そんなハヤテの視線を受け流し、ヴェインは話を続ける。
「俺はヴェインっていう者で、【聖光の騎士団】に所属しているんだけど……」
ヴェインは「時間良いかな?」と聞いておきながら、相手の返答を待たずに話を続けようとする。
これは自分が、トッププレイヤーが率いるギルドである【聖光の騎士団】に所属しているという優越感と、相手を見下す気持ちがあるからである。
しかし、残念ながら相手が悪かった。
「あ、済みません。ちょっと急いでいるんで」
ヒイロがにべもなく、話を叩き斬る。
仕方が無いのだ、今日はセンヤとネオンをもてなすと決めている。それにネットカフェでログインしているので、時間制限もあるのだ。
「いや待った、そんなに悪い話じゃないからさ」
それでも、進路を塞ごうと両手を広げるヴェイン。行く手を塞がれた形になるヒイロ達は、不信感を露わにする。
「申し訳無いですが俺達は用があるし、時間が無いんです。日を改めて貰えますか」
ヒイロが冷たく言い放つが、ヴェインはめげない。
「そう言わないで。聞いておいた方が君達の……」
「……耳が遠いんですか? 俺達は、急いでいると言っているんですが」
尚も言い募ろうとするヴェインを、ヒイロが睨む。流石にしつこい為、返事も刺々しいものになっている。これは、ヒイロにしては非常に珍しい事だ。
そうなった理由は、先に述べた理由の他に……二人が、ヒメノやレンの友人という事が挙げられる。妹と想い人の、大切な友人なのだ。どこぞの馬の骨より、そちらを優先するのはヒイロにとって当たり前だった。
そんなヒイロに続いたのは、意外にもレンだった。サブマスターであるというのも理由の一つだが、もう一つは【聖光】に顔が利くのは自分だろうと判断したのだ。
「【聖光の騎士団】のメンバーと仰いましたね? ならば幹部メンバーを連れて来て頂けますか? 話はそれから聞きます」
そう言って、レンが冷たい視線でヴェインを見る。【七色の橋】メンバーにとっては珍しい冷たさだが、以前のレン様はこんなものだった。
そんなレンの台詞に、ヴェインは更に目を細めた……無論、笑ったからではない。
「【聖光の騎士団】を甘く見ていないかい? レンさんやシオンさんなら、その意味が解ると思うけど」
トップギルドに目を付けられれば、プレイしにくくなる……そんな脅迫にも似た言葉を受けて尚、レンは小馬鹿にしたような表情を意図的に浮かべた。
「残念ながら、意味が解りませんね。それでは、私達は用がありますので」
もう話す事は無い……そう言わんばかりに、レンは歩を進める。
ここで更にレンの行く手を塞ごうとすれば、それは明確なマナー違反である。それが解っているからこそ、ヴェインは擦れ違って行くヒイロ達を睨むしか出来なかった。
が、しかし。
「えぇと、ヴェイン殿で宜しいか?」
忍者が、話しかけた。
「は? あ、あぁ……」
「うちのギルマスとサブマスが、済まないでゴザルな。VRを初体験する友人達をもてなしたくて、必死なのでゴザルよ。それに拙者達、今日はネットカフェからのログインなのでゴザル。それ故、急いでいるでゴザルよ」
VR初体験……それは、今も初心者服の二人の事だろう。それに、ネットカフェと言われて納得した。年若い彼等がログインするには、もう時間がそんなに無いはずである。
「何か用があるならば、明日以降でお願いしたいでゴザル。それならば、話を聞く事は出来ると思う故」
ヴェインは年若いプレイヤーの彼等が、実力を笠に着て高圧的になっている……と、錯覚していた。ちなみにこれはヴェイン側にも言える事なので、どっちもどっち。
しかしジンから限られた時間の中で、友人達にVRを体験させたいが為に急いでいたと聞かされ、目が覚めた。
これは明らかに、自分が悪いだろう。幸いな事に、それが解る程度にはヴェインはまともなプレイヤーだった。
「しからば、拙者も失礼するでゴザル」
申し訳なさそうに会釈したジンが、ヴェインの横を通り過ぎる。
「……!! ま、待ってくれ!!」
彼が仲間達の後を追うその前に、済まなかったと伝えたい……そう思い、ヴェインが振り返ると。
「……はぁ!?」
既に、遠い場所まで歩みを進めていたヒイロ達と合流していた。その距離、普通に百メートルはある。この一瞬で、百メートルを移動したというのだろうか?
「……俺は、もしかして、ヤバい奴らの後を尾行けたんじゃ……」
ある意味、ヴェインの感想は間違っていないのであった。
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「という訳で、明日以降に来るかもしれないでゴザル。その時は、ちゃんと話をするでゴザルよ」
「……ごめん、ちょっと気が立ってたみたいだな」
「私もですね……不甲斐ない所をお見せしました」
一瞬で追い付いたジンに窘められた、ヒイロとレン。先程のやり取りは結局のところ、自分達の都合の押し付け合いだったのだ。
最も、七対三でヴェインが強引だった部分はある。しかしながら、感情的になったのはこちらが先だ。
「まぁ、どうせギルドへの勧誘ッスね。既にギルドを立ち上げているんだから、俺らには関係無いッスよ。無視するべきッス」
尾行された……しかもそれに気付けなかった事もあり、ハヤテは未だに気が立っていた。そんなイトコに、ジンが苦笑しつつ声を掛ける。
「それはそうでゴザルが、相手は大手ギルドでゴザル。目の敵にされるのは、お互いの為にも良くないでゴザルよ。話を聞いて、お引き取り願うのが最良でゴザル」
今日のジンは、やたらと強い。不満そうな仲間達を窘めつつ、より良い方向へ持って行こうと言葉を連ねていた。
「ジンさん、結構冷静ですね?」
不思議そうにするアイネに、ジンは苦笑した。
「陸上の競技前は、緊張感が凄いのでゴザル。だから選手同士で、挑発し合う様な場面も何度か出くわしたでゴザルよ」
そういった場面で、ジンは宥めたりする事が多かった。人の心の機微に聡い方なのだ。メンタルコントロールが、身に付いているのだろう。
その言葉に、アイネがおぉ……と声を漏らす。忍者ムーブ中なのに、ジンがやたらと大人に見えたのだ。忍者ムーブ中なのに。
「まぁ、明日以降に来るならその時は話くらいは聞く事にしよう。さぁ、そろそろ地底湖だ」
既に、地底湖の入口である洞窟が見えている。刺々しい雰囲気は、美しい景色でも見て払拭してしまおう。そんなヒイロの考えを察したジンとハヤテも、これ以上先程の件を蒸し返すのは止めにした。
先導するように歩く三人の背中を見つつ、センヤはヒメノに問い掛ける。
「……ジンさんは、ただの忍者じゃないの?」
「以前は陸上選手で、凄い選手だったんだって!」
すごいよねー! と、ふにゃっとした笑顔を見せるヒメノ。ジンの事を本当に好きなのだと伝わるその笑顔に、センヤとネオンは口元が緩んでしまう。
「でも、年上の人にも物怖じしないヒイロさんも格好良かったね」
「覇気があったよ、覇気が」
自分達の事を考えて怒ってくれたヒイロに対しても、二人は好印象を抱いていた。そんな二人の批評に、何故かレンが満足そうだ。何故だろうね。
そこへ、アイネが口を挟む。ジンとヒイロだけでは無いぞと、一言物申しておきたいらしい。
「ハヤテさんも素敵な方なのよ。全体を見てサポートしてくれるんだから」
「あー、うん! 何か解るわ!」
「私達を案内してくれる時も、さり気なく気遣ってくれてたよねー」
二人の好感触に、何故かアイネが満足そうだ。本当に何故なのやら。
さて、そんな花のJC達の会話。普通に聞こえている。誰に? ジン達である。彼等の様子に気付かずに、JC五人はキャッキャしながら会話を楽しむ。薄暗い洞窟なんて、別段怖くないらしい。
「これは新手の苦行でゴザルか?」
「照れ臭くて、あっち向けないッス」
「いや、うん。気持ちは解る」
そんなジン達に、シオンが苦笑しつつ声を掛ける。
「悪印象でないのですから、胸を張っておられれば宜しいかと。特にヒイロ様、お嬢様は解ってやっています」
「あ、やっぱり?」
レンがチラチラとヒイロを見ているのに、本人も気付いていたらしい。時折、レンはこうしてヒイロをからかう様な事をするのだ。
ヒイロとしてはそれは苦ではなく、レンが自分に心を許してくれているからだと理解している。だから文句は無い、無いのだが照れるものは照れる。
さて、ようやく辿り着いた地底湖。天井にいくつか小さな穴が空いており、差し込む陽の光が湖の水面を照らしている。
「うわぁ、綺麗だね!!」
「本当! これは凄く素敵な場所ね!」
センヤとネオンの感触は、良好。掴みはオッケーだ。
湖の水に、徐に手を突っ込むのはセンヤ。活発そうな見た目通り、思い切りがある。
「うわっ、水!! 本当に水!!」
「凄いね、VRってここまで再現できるんだ……」
ネオンも水に手を浸して、現実と全く変わらない冷たさや感触に感心しきりだ。
シオンを除く女性陣が、靴を脱いで湖に足を浸して戯れ始める。笑顔を浮かべて戯れる姿は、実に絵になる。
「楽しんでくれているッスね」
「うん、ここに連れて来て正解だったね」
ハヤテとヒイロが笑みを浮かべる中、ジンは【感知の心得】でモンスターやプレイヤーが現れないか警戒中だ。ヴェインの事もあったので、尚更。
「海とか無いの?」
「南側のエリアに行けばあるけれど」
「水着とかあれば、泳げそうだねー」
「海水浴かぁ、良いかもね」
「私もVRでなら、海水浴出来るかなー」
そんな会話が耳に入り、ヒイロが真剣な表情になる。
「確かに、ここでならヒメも泳げる……か」
「あー、事故の可能性を考えたら、現実では難しいッスね」
確かに、全盲のヒメノでは海水浴を楽しむには危険が伴う。その為、星波家では海水浴へ出掛ける等は無かったし、学校のプールの授業もヒメノは免除だった。
「よし、次は南エリアを攻めようか」
「レンさんの水着姿が見れるッスよ、ヒイロさん」
からかうようなハヤテの言葉に、ピクリと反応するヒイロ。顔を少し赤くしながら、ジト目でハヤテを睨む。
「……ハヤテ?」
「わー、ごめんなさいッス! 怒っちゃ嫌ッスよ!!」
それなりの時間を共に過ごしているので、ヒイロとハヤテもすっかり打ち解けた。こんな冗談を言い合える程度には、仲が良いのだ。
会話に加われなかった……あえて加わらなかったジンに、シオンが薄っすらと笑いながら問い掛ける。
「……ユージン様ならば、水着の製作も可能では?」
「何で拙者に言うでゴザルか、シオン殿……」
ヒメノの水着姿を想像していた事など、シオンさんにはお見通しだった。
「ジン様、サプライズ・プレゼント等は如何でしょう? ヒメノ様がお喜びになられるかと」
ちなみに男子から女子に水着をプレゼントするとか、付き合っていない男女の場合は好感度激減の危険性がある。シオンがそれでも提案したのは、ジンとヒメノが相思相愛と知っているからだ。
「……ちょっとメッセージ送ってみようかな」
ヒメノが喜ぶとなれば、行動は迅速に。チョロ忍者さんは、生産大好きおじさんにメッセージを打ち始めた。疾きこと風の如し。
そんなジンの様子に、シオンはますます楽しそうに笑う。このメイド、実にゲームを楽しんでいる……ジン達で。
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無事に地底湖ツアーを終えたジン達。スクリーンショットで集合写真まで撮影するくらいには、存分に楽しんだ。
「いやぁ、彼氏も連れて来てやりたいなぁ」
「機会があるなら、一緒にネットカフェでログインしてみたらどうかな?」
「そうだね、それも良いかもー」
聞けば、センヤの彼氏も同じ歳らしい。
そこから始まる彼氏との惚気話なのだが、誰一人嫌な顔せずに聞き手に回る。友人の幸せを我が事の様に喜ぶヒメノ達、そんな女子勢の気持ちを汲むジン達。
唯一の大人であるシオンは、そんな八人を微笑ましく思って見守る。
そんな雑談をしつつ、彼等は次の目的地を目指す。場所はフィールド、普通にモンスターが現れるエリア。
レッツ、戦闘。
「【スライサー】!!」
「【ショット】!!」
「【スラスト】!!」
「【バレット】ッスよー」
忍者が斬り、巫女姫が射抜き、侍少女が貫き、銃使いが撃ち抜く。低レベルモンスター相手とはいえ、その戦いぶりは圧倒的。初期武技を披露したのは、各武器が持つ武技の特徴が二人に解りやすいようにという配慮だ。
「うわぁ、ジンさん速いね!!」
「ますます忍者にしか見えないねー」
「ヒメノちゃんの矢でモンスターがばったばった倒れるし、アイネちゃんも薙刀でばっさばっさ斬るし!」
「ハヤテさんも、全部当ててるねー。ガンマンも居るんだね、このゲーム」
いえ、銃はほぼ普及していません。そんな説明は省き、ヒイロやレンがジン達の戦闘について解説する。
ジン達の戦闘に触発された二人も、早速モンスターを相手にしてみる。
「てやっ!! はぁっ!!」
「うーん、詠唱の待ち時間がもどかしいね」
センヤは威勢の良い掛け声を上げながら、モンスターを斬っていく。ネオンは魔法でそれを援護だ。
「センヤさん、タイミングを合わせて武技を使ってみると良いよ。今使えるのは、【スラッシュ】だね」
「はい!! いっくぞー……【スラッシュ】!!」
「ネオンちゃん、モンスターの行動はパターン化されているわ。だから動きを予測して、そこを狙えば魔法を上手く当てられるの」
「ありがとう、レンちゃん。やってみるね……【ファイヤーボール】!!」
ヒイロやレンが指導をしながら、二人を援護する。徐々に二人も戦闘に慣れ、気付けばレベルも5に上がっていた。
ここらで切り上げ、ギルドホームに向かおうか……と思っていると、センヤがジン達にある要望を出す。
「でかいモンスターを倒したりとかは、出来ないのかな? ボスとか」
「あー、私達は無理だろうけど、倒すところを見たりっていう意味だよね?」
「うん、そうそう!」
二人にボス戦は、まだまだ早い。しかしVRMMO初体験ともなれば、ボス戦も見てみたいと思うのは不思議でもない。
「手頃なボスって居たっけ?」
「この辺りは東寄りですから……エリアボスでしょうか?」
「あぁ、そういえばこの付近でゴザルな」
「ここからなら、ギルドホームより近いッスね」
「徒歩でホームに戻るよりも、第二エリアのポータルから戻る方が早く済むかと」
「二人にボス戦を見せられるし、第二エリアにも行ける。一石二鳥ですね」
「確かにそれなら手頃です!」
エリアボスが、手頃な相手呼ばわりである。このあたり、【七色の橋】の異常性が解る。ハヤテやアイネまでもが、染まって来てしまっている感が否めない。
……
センヤとネオンは、目の前で繰り広げられる戦闘に目を奪われていた。いや、それは最早戦闘とは呼べない……ただの蹂躙だった。
二人は後にこう語る。
――初心者でも、アレが普通のボス戦だとは思えなかったよ。
――後でボス戦の動画見たんだけど、アレは全く別の何かだったね。
彼等【七色の橋】は、一体何をやらかしたのか?
まずは初手、ヒメノの【シューティングスター】と≪桜吹雪≫の一斉掃射。ハリケーンドラゴン、まさかの即ダウン。
そこへ殺到する前衛陣。ジンによる【分身】プラス【チェインアーツ】の一斉攻撃。更には新スキル【超加速】も発動。
ヒイロも【幽鬼】発動状態で、【チェインアーツ】による連続攻撃を披露してみせた。
シオンも【展鬼】と【バーサーク】からの、【グランインパクト】による高威力攻撃。
ハヤテとアイネは、コンビネーション攻撃で堅実にダメージを与えていく。
三人のPACも、彼等に続いて猛攻撃。センヤとネオンも折角だからと、一撃ずつ入れている。
ここまでは、これまでにも見られた光景だ。問題はそこからだった。
「【縮地】!!」
AGIが低いヒメノが、一瞬でハリケーンドラゴンの懐まで辿り着いていた。これは第一回イベントで手に入れた≪宝玉≫による効果だ。
ヒメノは朱雀、シオンは白虎と、同じ種類の≪宝玉≫を二つ持っていた。二人は相談の末に、一つずつ交換していたのだ。
ヒメノが使用したのは、≪白虎の宝玉≫で装備に付与できるスキル【縮地】である。一日に四度だけ使用出来る、瞬間移動技だ。
「【一閃】!!」
ダウン状態のハリケーンドラゴンに叩き込まれた、STR極振りプレイヤーによる【一閃】。発動が早く、更に技後硬直も少ない武技である。ヒメノのAGIでも、30秒の間に十発以上は放てるだろう。
「【朱の翼撃】! 【青の咆哮】!」
更にレンの≪鳳雛扇≫に付与された、【朱の翼撃】による爆発する羽根の発生。そして≪伏龍扇≫に付与された、【青の咆哮】による竜の息吹。
この短いダウン時間で全てを終わらせるべく、こちらも一日の使用制限四回を全て使い切る。
一度のダウンで、ハリケーンドラゴンはそのHPの大半を失った。
ヒメノの全火力を受けて開幕30秒でダウンし、HPの1割を喪失。そこへ【七色の橋】プラス二人による、集中砲火。それも出し惜しみ無しの超全力攻撃。30秒で八割程のHPを喪失してしまったのだ。
その後は安定のフォーメーションによる、ボス攻略。先程と同じ戦法は、ヒメノの【シューティングスター】が長いクールタイムに入った為使えない。
しかしながら、元々のスペックが高い【七色の橋】メンバー。エクストラボスとの戦いに慣れている事もあり、エリアボスもなんのその。
結果、ハリケーンドラゴンはジン達に損害を与える事適わず、その役割を終えてしまった。討伐までの時間、五分少々。
当然の如く手に入るスピードアタックボーナス。更にフィニッシュアタックボーナスのシルバーチケットを、ハヤテがドロップ。盛り上がる【七色の橋】。
後日……VR初体験だった二人は、真顔でこう言ったのだそうだ。
――ボス戦を見たいって言ったのは私らだけど、まさか五分ちょっとで決着が付くとは思わなかったよ。
――最初は弱いボスなのかなって思っていたんだけどね……。
――いやホント、ボスモンスターが哀れに思えるくらいだった。
――後から確認したら、あれを倒すのに普通に一時間掛かるんだって。ちょっと意味が解らなかったかな。
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■プレイヤーネーム/レベル
【センヤ】Lv11
■所属ギルド
【未所属】
■ステータス
【HP】70/70
【MP】20/20
【STR】23
【VIT】17
【AGI】15
【DEX】10
【INT】10
【MND】10
■スキルスロット(2/3)
【長剣の心得Lv2】
【盾の心得Lv2】
■予備スキルスロット(0/5)
■装備
≪初心者のチュニック≫
≪初心者のパンツ≫
≪初心者の靴≫
≪初心者の革鎧≫
≪初心者のポーチ≫収納上限50
≪初心者の長剣≫
≪初心者の小盾≫
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■プレイヤーネーム/レベル
【ネオン】Lv11
■所属ギルド
【未所属】
■ステータス
【HP】70/70
【MP】20/20
【STR】10
【VIT】10
【AGI】10
【DEX】15
【INT】25
【MND】15
■スキルスロット(1/3)
【火魔法の心得Lv2】
■予備スキルスロット(0/5)
■装備
≪初心者のチュニック≫
≪初心者のパンツ≫
≪初心者の靴≫
≪初心者の革鎧≫
≪初心者のポーチ≫収納上限50
≪初心者の魔導杖≫
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割とヴェインは、(珍しく)まともな感性を持つプレイヤーです。
ほら、直結厨でもないし!
ちなみにセンヤとネオンは、まだギルドには加入していません。
そしてハリケーンドラゴンは泣いて良い。
次回投稿予定日:2020/8/23