01-07 幕間・とあるダンジョンにて
それは、とあるダンジョンでの事。
「決める……【クインタプルスラッシュ】!!」
このダンジョンの主である、凶暴そうな二足歩行する獣のモンスター。それを四連続で斬り付けるのは、白銀の鎧を身に纏った男だ。金色の髪と青い瞳、整った顔立ち……誰が見ても、美男子と評するであろう風貌だった。
彼の放った武技で、このダンジョンのボスモンスター【ベヒーモス】のHPバーは0となった。
倒れ込むベヒーモスの身体が光る硝子細工のように変化し、次の瞬間には砕け散る。そこに残されたのは、豪華な装飾を施された宝箱一つだ。
「流石は【アーク】、機を見た見事な戦い振りだったよ」
ボスにトドメを刺した男に、一人の男が歩み寄る。軽装の装備で統一された彼の手には、見事な細工が施された槍があった。
「【ギルバート】も、ご苦労だった。相変わらず、君の援護は頼もしいな」
クールに返す、アークと呼ばれた男。その返答に気を良くしたのか、ギルバートは両手を広げる。
「いやいや。我々がダンジョンを最速で攻略できるのは、ここに集ったトッププレイヤー全員の力。そう思わないかね?」
「その通りだな。今回の新しいダンジョン攻略も、恙無く済んだ。感謝する」
そう言って、長剣を腰に差した鞘に収めるアーク。だが、感謝するとは言っても頭を下げるなどの行為はしない。
「はい、お疲れ様です!」
そんな明るい声を上げるのは、明るく可憐な少女である。整った顔立ちとプロポーションは、女子としての魅力に溢れている。浮かべる笑顔はアイドルの様だ。
むしろ、実際にアイドルなのだが。
彼女は【リリィ】というプレイヤーネームでプレイしているが、その正体が現役アイドル【渡会瑠璃】である事は広く知られている。
「リリィ君、今回も最高の支援魔法をありがとう。それで、ギルド加入の件はどうだい? 君程のプレイヤーが加入してくれるなら、我々のギルドは更に発展すると思うのだけれどね」
饒舌なギルバートに、リリィは困った様な笑みを浮かべる。
「済みません、お誘いは嬉しいですが気持ちは変わらないです。私は、ギルドには所属するつもりは無いんです」
それは丁寧ながらも、キッパリとした断りの言葉だった。
リリィはアイドルとして、高い知名度を誇っている。トップアイドルとは言えない……しかしゲーム好きを公言しており、オタクなファンにも丁寧に接する彼女。ゲーマーやオタクからの人気は高いのだ。
そんな彼女が、ギルドを作ったり入ったりすれば? 人が殺到するのは目に見えている。彼女はそれを避けたかったのだ……純粋に、一人のゲーマーとしてAWOをプレイしているのだから。
「ふむ。まぁ気が変わったらいつでも言ってくれたまえ。【レン】君はどうかな?」
ギルバートは、すぐに矛先を変える。視線の先には、優雅な佇まいの小柄な美少女が居た。彼女を一言で表すならば、深窓の令嬢か。
青みがかった銀髪と、赤い瞳の美貌。あどけなさを残しながらも、誰もが美しいと評する顔立ちだ。
「私は今の所、ギルドに所属する気はございません。お気持ちだけありがたく受け取らせて頂きます」
この場に居る者達には知る由もない事だが、彼女は大財閥の社長令嬢だ。それを知る者達がいれば、彼女に付き纏う事は想像に難くない。故に彼女は、お目付け役を兼任するメイドの【シオン】以外とはパーティを滅多に組まない。
ギルバートの勧誘の矛先を逸らす為か、一人のプレイヤーが声を上げる。
「なぁ、さっさと報酬を受け取らないか? 悪いんだが、バイトの時間が迫っているんだ」
そう言ったのは、一人の槍使いだ。オールバックにした濃紺の髪と、琥珀色の瞳が印象的な青年。
会話に割って入る青年に、ギルバートはムッとした表情を見せるのだが……そんな青年に援護射撃が入る。
「そうですね。【ダイス】さんもご予定があるのでしたら、そう致しませんか?」
「うーん、私も賛成かな?」
レンとリリィもそれを支持したので、ギルバートは引き下がらざるを得なかった。
そんな様子に、矛先を向けられそうになった一人の女性プレイヤー……魔法職の女性【フレイヤ】は安堵の溜息を吐く。次は自分だと解っていたのだ。何度もギルバートに勧誘され、今も視線を向けられていたのだから。
彼女はホッとしつつ、内心でギルバートに毒吐く。
――ナイスよ、ダイス氏。全く、レンちゃんもリリィちゃんも災難だわ。ギルバートめ、アーク×ギルバートの噂でも広めてやろうかしら。
彼女は腐女子だった。ギルバートは受けであって欲しいとすら思う、生粋の腐女子だった。ついでにもうすぐアラサーだった。業が深い。
「開けるぞ」
短く言って、アークが宝箱を開く。光の演出が、パーティに参加した面々に降り注いでいく。
「……やはり、このランクか」
期待外れと言わんばかりに呟くアーク。
「これまでのダンジョンと、大差ないですね」
「あぁ。この辺りでは、最もレベル設定が高いダンジョンなんだが……」
どうやら彼等は、このダンジョンの攻略に激レアアイテムのドロップを期待していたらしい。そんな二人を見て、一部のプレイヤー以外は同様に落胆した。
――スキルも装備もそう簡単に手に入る訳が無いだろうが。
ダイスという名のプレイヤーは、落胆しなかった側だ。彼は基本スキルを突き詰める事で、より強くなれると考えている。レアスキルが欲しくない訳では無いが、それよりもまず地力を上げるのが先決だと思っていた。
――案外、攻略集団のトッププレイヤーも俗物という事かしら。
冷め切った思考で、落胆するプレイヤー達を眺めるフレイヤ。彼女は今回のドロップで、それなりに収穫はあった。
――あんな難しい顔していたら、楽しくないのになぁ。まぁ、他人事だけど……。
リリィはリリィで、自分なりにゲームを楽しんでいる。しかし、楽しみ方は人それぞれだ。わざわざ苦言を呈するほど、お節介ではない。
「それでは、今回はここで解散でしょうか?」
涼しい顔でそう告げるのは、小柄な美少女……レンだ。メイドのシオンを脇に、出現した魔法陣の方へと向かう。
「まぁそう急がなくても。攻略成功を祝して、食事でもどうだい?」
めげないギルバートの言葉に苦笑しつつ、レンは首を横に振る。
「見ての通りの歳ですので、これ以上のプレイは怒られそうですから……ねぇシオンさん?」
「お嬢様は私をそういう目で見ていらっしゃったのですね?」
「冗談ですよ。それでは皆様、お先に失礼させて頂きます」
優雅に一礼すると、レンは魔法陣に入って行ってしまう。
「俺もバイトに遅れるから、ここでお暇するわ。お疲れさん、またやろう」
「私もそうしようかしら? 皆さん、お疲れ様」
「そうですね。皆さん、お疲れ様でした! それでは、また!」
ダイス・フレイヤ・リリィも、ボス部屋からさっさと去って行った。
残されたのは、アークとギルバート。そして、数人のプレイヤー達だ。二人以外は大して目立った活躍もしていない、トッププレイヤーからは実力が数段落ちるプレイヤー達だった。本当はもう一人、アークが信頼するプレイヤーが居るのだが……その少年は、家の都合で今回は欠席なのだった。
「やれやれ……儘ならないものだな」
そう嘯いて肩を竦めるギルバートに、アークは内心で思う。
――実力はあるんだけどな。この軽薄な感じが、コイツの最大の欠点だろう……。
相方にまで、辛辣な評価を下されているのだが……当のギルバートは、全くそれに気付かないのだった。
本編に関わってくるキャラクター達です。
それぞれに設定がありますが、どこまで掘り下げられるやら。