04-12 迫り来る影でした
セツナとの死闘から三日後。ヒイロは北東の森で戦闘をしていた。
ヒイロが大太刀を構えると、対峙していたモンスターに斬り掛かる。
「【一閃】!!」
放たれた一撃は、モンスターの弱点部位に正確に命中。クリティカルヒットとなり、そのHPを刈り取った。
「お見事です!」
「はい、素晴らしい一撃でした」
ヒイロの戦闘を見守っていたレンとシオンが、拍手でヒイロを称える。その背後に、ロータスが控えている。
「ありがとう、二人とも……だいぶ慣れて来たかな?」
そう言うと、ヒイロは大太刀を掲げる。すると手に持っていた大太刀が、一振りの打刀に変化した。
「【千変万化】……使いこなせれば、かなり有用なスキルだな」
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武装≪妖鎧・修羅≫
説明:≪呪いの魔剣の欠片≫を使って製作された鎧。
効果:VIT+10%、HP+10%【再生】
武装≪妖刀・羅刹≫
説明:≪呪いの魔剣の欠片≫を使って製作された刀。
効果:STR+10%、DEX+10%【再生】
武装≪妖刀・羅刹≫
説明:≪呪いの魔剣の欠片≫を使って製作された刀。
効果:STR+10%、DEX+10%【再生】
装備≪鬼神の右腕+1≫
説明:旧き鬼の腕を元に製作された篭手。装備する事で、旧き鬼の力をその身に宿す。一度装備したら、二度と外せない。
効果:全ステータス+20、HP・MP+20【幽鬼Lv2】
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セツナとの死闘を演じた翌日、仲間達に新たなスキルとアイテムについて説明したヒイロ。仲間達に背中を押され、忙しいのを承知でユージンに装備の製作を依頼する事になった。
幸いヒイロの依頼品に手を付ける直前だった為、依頼内容を修正……というよりも、ほぼ新規依頼だ。
そうしてユージンに製作して貰った、新たな装備。それはイベントで手に入れた素材と、セツナとの戦闘の報酬で手に入れた≪呪いの魔剣の欠片≫で製作した物だ。
≪欠片≫は三つドロップした為、ヒイロは打刀を二振りと、鎧を一着で依頼した。一つを鎧にしたのは、得られる装備スキルを重視した為だ。ちなみに、鎧の色はイメージカラーの藍色。
ユニークスキル【千変万化】による武装の変化は、武装一式に登録した装備の性能が上乗せされる。そこで試しに作成して貰ったのが、シオンの≪鬼斬り≫に似た大太刀と≪鬼殺し≫そっくりの大盾、ジンの≪大狐丸≫そっくりの小太刀である。
こうして登録出来る装備が増えれば増える程、ヒイロは複数の戦い方を使い分け出来るようになるという事だ。
加えてヒイロは、プラチナチケットを使って二つ目の≪古代の腕≫を入手した。それを使ってユージンに依頼したのは、切り札の強化である。
ユージンとの協議の結果、貴重なプラチナチケットを使って≪鬼神の右腕≫の強化案を敢行したのだ。その目論見は大当たりで、≪鬼神の右腕≫に備わる装備スキル【幽鬼】が無事に強化された。
「でも、変化する武器の形状は考えないといけないな。スキルスロットが足りないからね」
装備の力を最大限に引き出すのは、やはり専用のスキル。【心得】系は必須と考えて良いだろう。となれば、武装一式の装備は刀剣になるのは仕方がない。
「それが悩ましい所ですね。手に入ったのはスキルオーブと、≪呪いの魔剣の欠片≫だけなんですよね?」
ジン達のエクストラクエストの様に、【拡張スキルスロット】はドロップしなかった。それが歯痒い所である。
「スロット拡張はレベル40までお預けかな……まぁ無いものねだりだし、地道にレベリングするよ」
前向きなヒイロの言葉に、レンとシオンも頷いてみせる。
「レベリングならお手伝いしますよ」
「お嬢様と私ならば、足手纏いにはならないかと」
協力的な二人の言葉に、ヒイロは心から感謝の念が浮かんで来る。
「ありがとう、二人共。是非、お願いしたいな」
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一方その頃、ジンとヒメノは二人で人気の無い場所を訪れていた。とは言っても、決して色気のある理由ではない。何せ訪れた場所が、懐かしき[魔獣の洞窟]である。
「ここでジンさんは、【九尾の狐】を手に入れたんですよね」
「そうでゴザルな。あの頃より、少しは強くなれたのでゴザルかなぁ……」
少しどころかヤバい進化を遂げているのだが、本人の自己評価は低い。
「ジンさんは強いですよ……私だって、助けて貰っちゃいました」
「あー、あの時でゴザルな……間に合って、本当に良かったでゴザル」
ここを訪れたのは色気のある理由では無かったが、空気はほんのり色気を帯びて来た。
しかし、いつまでも見つめ合ってはいられない。ジンが咳払いし、本日の主目的について言及する。
「さてと……それでは、そろそろやるでゴザル」
「そうですね!」
二人がシステム・ウィンドウを操作し、PACの二人が召喚される。
「お呼びですか、主様」
「お姉ちゃん、お待たせしました!」
ジンに片膝を突いて頭を垂れるリン、めっちゃくノ一っぽい。ヒナはヒメノにニッコニコしながら駆け寄る。
「来てくれてありがとう、リン。今回はリンのスキルゲットと、ヒメノ殿の新装備を試すでゴザルよ」
「ヒナちゃん、リンちゃん。二人共、行けますか?」
ジンとヒメノの言葉に、リンはその体勢のまま応える。
「ハッ、お任せ下さい」
対するヒナは胸元で拳をグッと握って、大きく頷いた。
「はい、頑張ります!!」
「それじゃあ、ヒメノ殿」
「はい……装備してみますね!!」
ヒメノはそう言うと、システム・ウィンドウを操作して装備を変更していく。そうして装備されたのは、二門の大砲だった。
「……うん、大丈夫そうです!!」
ヒメノがそう言うと砲門がひとりでに動き出し、ヒメノの前方を狙う位置で停止した。艦隊をこれくしょんするのかな。それともアズールなレーンなのかな。
――めっちゃ艦〇に見える……やってくれるね、ユージンさん……。
そう、ヒメノはまるで〇娘の様な装備を背負っているのだ。重そうなのだが、そこはSTR極振りの彼女である。重量級装備を背負って尚、平然としていた。
「えへへ、【ゴーストハンド】が入手出来て良かったです!! これなら、両手を使わなくても大砲を動かせますね!!」
「うん、ユージンさんの発想がイカ……いや、ユニークなのを実感したでゴザルよ」
そう、ヒメノは背負った大砲を【ゴーストハンド】で操作しているのである。良く見ると、ヒメノの大砲の後ろの方にうっすらと白い手が浮いている。これが【ゴーストハンド】だ。
和装と相俟って、尚更○娘っぽい。っぽい。そんなヒメノに、ジンは内心で苦笑するのだが……ヒメノが嬉しそうにニコニコしているので、とりあえず気にしない事にした。
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武装≪二門大砲・桜吹雪≫
効果:固定ダメージ50×2
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「それじゃあ行くでゴザルよ。ヒメノ殿の≪桜吹雪≫の試射と、リンの【スピードスター】ゲットに向けて出発でゴザル!!」
「はいっ!!」
「はっ!!」
「了解ですっ!!」
歩き出すジンの掛け声に、三人の美少女が追従していく。
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その頃、ハヤテとアイネ。二人は新たな装備を身に纏い、フィールドを歩いていた。
「どうッスか? 使い勝手は」
「とても手に馴染む感じがします。やはり使い慣れた物の方が、しっくり来ますね」
そう言うアイネが手にしているのは、薙刀である。装備も新調する事を勧められたアイネは、思い切ってユージンに質問してみたのだ。
「本当に、薙刀を作ってしまうなんて……ビックリしてしまいました」
「確か【合成鍛冶】ッスね。槍と刀を合成させるなんて、驚きッスよ」
ユージンが保有するレアスキル【合成鍛冶】。このスキルを使えば、装備を合成させる事が可能なのだ。そのスキルを利用して、アイネが持っていた槍と幅広の刀を組み合わせたのである。
加えてこのスキルは形状だけや、性能だけを継承させたりする事も可能なのである。実は、ヒイロの武装一式にも【合成鍛冶】が使用されている。ヒイロが所有していた装備の性能を、ユージンが製作した新たな装備に継承させたのだ。
「ハヤテさんはどうですか? 新しい装備」
にこやかに問い掛けるアイネに、ハヤテも口元を緩めて答える。
「良いッスね、凄く振りやすいッスよ。あのユージンさん、凄い職人さんッス」
ユージンのヒアリングは、微に入り……という表現がピッタリ来る位、細かい点まで考慮されている。使用者が持ちやすいと感じるのは、その細やかな気配りが為せる職人芸と言うべきだろう。
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■プレイヤーネーム/レベル
【ハヤテ】Lv20
■所属ギルド
【七色の橋】
■ステータス
【HP】88/88
【MP】29/29
【STR】25≪+3≫
【VIT】23≪+4≫
【AGI】20≪+3≫
【DEX】15≪+4≫
【INT】10
【MND】10≪+6≫
■スキルスロット(4/4)
【長剣の心得Lv6】
【盾の心得Lv5】
【投擲の心得Lv2】
【刀剣の心得Lv1】
■予備スキルスロット(0/5)
■装備
≪ユージンの和風装束≫MND+3
≪ユージンの飾り布≫MND+1
≪ユージンのパンツ≫MND+2
≪ユージンのブーツ≫AGI+3
≪冒険者のポーチ≫
≪ユージンの打刀≫STR+3、DEX+2
≪ユージンの小盾≫VIT+4
≪狩人の投げナイフ≫DEX+2
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■プレイヤーネーム/レベル
【アイネ】Lv18
■所属ギルド
【七色の橋】
■ステータス
【HP】84/84≪+10≫
【MP】27/27
【STR】25≪+4≫
【VIT】20≪+5≫
【AGI】15≪+3≫
【DEX】19≪+3≫
【INT】10
【MND】10≪+6≫
■スキルスロット(3/3)
【長槍の心得Lv7】
【体捌きの心得Lv5】
【刀剣の心得Lv1】
■予備スキルスロット(2/5)
【感知の心得Lv3】
【短槍の心得Lv3】
■装備
≪ユージンの和風装束≫MND+3
≪ユージンの飾り布≫MND+1
≪ユージンの軽具足≫VIT+2、DEX+1、HP+5
≪ユージンのスカート≫MND+2
≪ユージンのブーツ≫AGI+3
≪冒険者のポーチ≫
≪ユージンの薙刀≫STR+4、DEX+2
≪体力の腕輪≫HP+5、VIT+3
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そんな二人は、ある程度の戦闘を終えた。まだ集合時間には早いが、林の中にある購入した土地……将来ギルドホームを建てる予定地へと向かう事にしたのだった。
「皆が帰って来るのは、まだ先ッスねー」
「それまで、どうしますか?」
「今後の方針でも……待った、アイネさん。止まって」
突然、ハヤテがアイネを制止する。人懐っこそうな表情を消し、ハヤテは眉間に皺を寄せていた。
「……ハヤテさん?」
「とりあえず、こっち来て」
普段のハヤテとは違う、その表情と口調。その様子に、アイネは訝しみつつもハヤテに歩み寄る。ハヤテがアイネに何か、善からぬことを……とは考えてはいない。そんな人間ではない事を信じられる程度には、二人は良好な関係を築き上げている。
アイネがある程度の距離に来たのを確認したハヤテは、ある一方向を見る。
「俺、AWOの前は別ジャンルのゲームをやってたんだ。FPS系のやつね」
突然な話題の出し方に、アイネは困惑する。しかし、余計な口を挟むべきではない……そう思い、先を促す様に頷いてみせた。
「FPSってさ、隠れて獲物を待つのも日常茶飯事でね。二時間、三時間と隠れ潜むのもよくある事なの」
アイネは何故、今そんな話を……と、口を挟みたかった。しかし、それは出来なかった。ハヤテの表情が、真剣そのものだから。更に言うならば、普段の軽い口調も無い。
そうして、ハヤテは一方向……ギルドホーム予定地の方向に視線を固定しながら、忌々しそうに告げた。
「逆にそういうプレイヤーを発見するのも、大事なプレイヤーテクニックなんだよね」
ハヤテがそこまで言って、アイネは猛烈に嫌な予感に襲われる。
「ハヤテさん、まさか……?」
「狙われてる。絶対に俺から離れないで」
いつもの口調を忘れる程に、ハヤテは集中していた。それは……自分達を狙う者達の存在を、察知したから。見られているのは確実だが、狙っているかは定かではない。それでも……警戒するに越した事は無い。第一、ただ見ているなら不自然なのだ。
――数が多い、な……これじゃあまともに戦ったら、すぐに殺られる。
そう、相手は複数名だった。気配を殺して自分達を見る、複数のプレイヤー……嫌な予感しかしない。
シオンの様な防御力、ジンの様な速さがあれば、まだ打つ手はある。しかしハヤテにもアイネにも、そんな力は無い。
そうして警戒しているハヤテとアイネ。そんな二人の耳に、乾いた音が断続的に響いて来た。手と手を打ち合わせる……拍手の音だ。
「この距離で気付くか、坊主。中々にイイ勘してるぜ」
ハヤテとアイネの様子を見て、警戒されている事に気が付いたのだろう。一人の男が、草むらの影から姿を現した。
黒いタンクトップ型のシャツに、深緑色のロングパンツ姿。その上半身は、ロングパンツと同じ深緑色のボロ布で覆われている。
アイネは【感知の心得】を保有しているが、男はその範囲外に隠れ潜んでいた。
その姿を見て、ハヤテは表情を強張らせる。見知った顔という訳ではない。
ならば何故? その視線に、口元に浮かんだ笑みに近視感を感じたのだ。
それは、獲物を見定める眼。それは、愉悦に歪んだ笑み。そして……放たれているのは、ゲーム内とは思えない確かな殺気。
そして何よりも、その頭上に浮かぶカーソルの色……それは、血の様に赤く染まっていた。
レッドカーソル……それが意味する事は、一つ。目の前の男は重犯罪プレイヤー。そしてその殺気から、ただの軽犯罪を積み重ねた訳ではないのが解る。プレイヤーキラー……プレイヤーを狩るプレイヤーだと、ハヤテはすぐに気が付いた。
「ディグル……それが俺の名だ。聞き覚えはあるか? いやいい、あっても無くてもやる事に変わりはねぇしな」
ディグルと名乗った男は、背中に背負った湾曲した剣の柄に手を掛ける。
「プレイヤーキル……された事はあるかい?」
それは、ハヤテとアイネに向けた……処刑宣言だった。
アイネはディグルが一人だと思ってしまう。だからこそ、ディグルの言葉と同時に薙刀を構えようとする。しかし、それをハヤテが止めた。
「逃げるよ、アイネさん!!」
「え……っ!?」
手を掴まれ、アイネはハヤテに引っ張られた。そのまま、何とか体勢を立て直してハヤテの後に続く。
「ハッ……本当にイイ勘してるぜ!! 逃さねぇよ!! そうだろ、テメェら!!」
「「「「「おおぉっ!!」」」」」
ディグルの叫びの後に、大人数の男達が叫ぶ。
「……一人じゃなかったの!?」
「隠れて油断させるのは、常套手段なんだ!!」
相手が大人数と気付けなかったアイネが驚愕を口にし、ハヤテはそうであっても不思議ではないと断じる。そして、二人は薄暗くなって来たフィールドを駆けた。
……
相手がギルドホーム予定地の方向に居たせいで、ハヤテとアイネは来た道を逆戻りする形になった。後ろから放たれる矢を避けて、必死で駆け抜けて行った二人。
「ハヤテさん……何処に!?」
「この前見付けた、地底湖の洞窟!! あそこの入口から少し入った場所なら、狭いから囲まれはしない!!」
更に言えば、救援を呼びやすい。先日その場所を共に訪れたジン達ならば、説明が最小限で済むという利点がある。
そんな二人を追い掛けるプレイヤー達が、愉しそうに怒声を上げる。
「【漆黒の旅団】に手を出した事を後悔しやがれ!!」
「忍者共はどうしたぁ!?」
「オラオラ、速く逃げないと追い付いちまうぞぉ!?」
男達の罵声に、アイネが眉を顰める。アイネも初音女子大付属に通うだけあり、相応に育ちの良い少女である。品性下劣な男達の言葉は、聞くに耐えなかったのだろう。
しかし振り返って迎え討つというのは、愚策中の愚策である。それはアイネも理解していた。
対するハヤテは、内心で舌打ちをする。男達の言葉から、自分達の状況を推測したからだ。
恐らく、彼等はPKerが集まったギルド。ディグル同様にその頭上には、赤いカーソルが浮かんでいる事だろう。
そして彼等は、忍者と言った。この異世界オンラインに、忍者なプレイヤーなど一人しか……少なくとも彼が知る限り、敬愛する従兄弟しか存在しない。
つまり彼等は、何故かジン達を含めた自分達を狙っている。これは突発的な襲撃ではなく……計画的な襲撃だ。もしかしたら、今頃ジン達も襲われている可能性がある。
――アイネさんだけでも、守らないと……!!
しかし二手に分かれて逃げるというのは、最低の一手だろう。凛々しい雰囲気を纏ってはいるが、アイネの容姿は中学生そのもの。まだ幼い少女であるアイネを見れば、ああいった手合いがどちらを優先して狙うかなど火を見るより明らかだ。
一番ベストなのは二人で洞窟まで逃げ込み、ジン達に連絡する事。そして救援が駆け付けるまで、何とか耐え凌ぐ事だ。
そうこうしている内に、二人は洞窟に辿り着く。
「それっ!!」
洞窟に入り込むと、ハヤテは入口辺りに一本のポーションを投げた。その瓶が割れ、中身の液体が床に広がる。
「オラァッ、逃さね……ぐぁっ!?」
「どうした!?」
「こりゃあ……毒か!?」
そう、ハヤテが投げたのはユージン特製の《ポイズンポーション》だ。その効果は、べらぼうに高い。
ハヤテは、これで時間を稼ぐ事ができると判断した。
「アイネさん、全員にメッセージを!!」
「解りました!!」
ハヤテの指示に、アイネは素直に従う。その間、ハヤテは矢などによる攻撃を警戒して盾を構える。
男達の罵声が、入口の方向から響いて来た。
「こんなモンで、俺等が止まると思うかぁ!?」
「まぁ待てよ、慌てんな。毒ならしばらく経てば消えるだろうが」
落ち着いた声は、ディグルのものだ。
「ですが、ボス!!」
「おぅ、坊主にお嬢ちゃん!! 俺ァな、獲物が逃げれば逃げる程に燃えてくるタチでなぁ……悪足掻きの手段は、後どれくらいだぁ!? 忍者共に、助けは求めたかぁ!?」
徐々にヒートアップする言葉から、ディグルのテンションが上がっているのが解る。逃げる程に燃えて来るというのは、事実なのだろう。
「今の内に覚悟を決めとけよ? この毒の効果が切れたら……解ってるよなぁ!?」
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その頃、[魔獣の洞窟]。ジン達は、狐型のボスモンスターである【ダークフォックス】を討伐した所だった。
「リン、どう?」
「はい、主様。無事に【スピードスター】のスキルオーブを入手致しました」
首尾は上々だったようだ。これでリンも、ジンには劣るものの更なる速さを手に入れられる。
そんな中、メッセージの受信を告げる音が響いた。
「メッセージですね」
「誰だろ……あ、アイネ殿でゴザルな」
そのメッセージを開いて……ジンとヒメノは目を見開いた。
『現在、【漆黒の旅団】を名乗るギルドに狙われています。ギルドホームから東南方面に向かう所にある、地底湖のある洞窟まで救援を願います』
次回投稿予定日:2020/8/10