21-01 春が訪れました
三月二十六日。三月も終わりに近付いて、多くの小・中学校が春休みを迎えた。
とは言っても年末年始や盆の時期と異なり、一般的な会社員は普通に仕事だ。その為、仲間で集まって……という訳にはいかなかった。
そんな春休み初日を迎えた少年・寺野仁は、外に出て街を歩いていた。体力が衰えない様に、仁は時折こうしてウォーキングをするようにしているのだ。
彼には最愛の少女が居るのだが、今日はデートの予定は無い。聞いた所によると、母方の祖父母に会いに家族で出掛けているのだそうだ。
恋人……というより、正式な婚約者である仁も一緒にどうか? と誘われたのは余談である。
曇り空でまだアウターが欠かせないものの、正午に近付くにつれて徐々に気温は上がって来ている。仁も歩いている内に、少しばかり背中が汗ばんできた。
アウターのファスナーを開けて籠った熱を外気に晒した仁は、とある交差点に差し掛かって足を止めた。
片側一車線の道路が交差する、何の変哲もない十字路。信号の点灯指示に従って、車が途切れる事無く行き来している。
進む方向は赤信号なので、仁はそこで信号待ちを強いられた。その視線が向かうのは、苦痛の記憶が刻まれた場所である。
「……もう、二年か」
二年前、この場所で起きた事故によって、仁は右足に後遺症を負った。そのせいで、仁は陸上選手としての生命を断たれたのだ。
陸上競技で、金メダルを取る……そんなかつての夢は、もう二度と叶わなくなってしまったのである。
夢を失って塞ぎ込んでいた仁の為に、両親が据置き型のVRドライバーと共に買って来たゲーム。それが、フルダイブ型VR・MMO・RPG【アナザーワールド・オンライン】だった。
そこで仁は姫乃と巡り合い、クラスメイトであり彼女の兄である英雄と遭遇。そこから新たな仲間達との出会いや、イトコ達との思わぬ再会があった。
そうして彼女や仲間達と共に過ごす中で、彼は新しい夢を見付ける事が出来たのだ。
『未来の金メダリストを育てる』
陸上競技選手の監督になるか、コーチを目指すか。大学や実業団で専属になるか、中学校や高校の教師となって部の顧問となるか。それはまだ、検討中である。
しかしハッキリしているのは、指導者になるには精神力も体力も必要となる事だ。それを知っているからこそ、仁はウォーキングや筋力トレーニングを欠かさない様にしているのであった。
二年前のあの日……この場所で大怪我を負って絶望していた少年は、再び夢に向けて走り出した。それを証明するかのように、仁は青信号に変わった交差点を歩き始める。
そんな彼を祝福するかのように雲が流れ、その隙間から太陽の光が射し込んだ。
************************************************************
仁がウォーキングをしている丁度その頃……星波姫乃と星波英雄は、家族と共に母親・聖の実家……田所家を訪れていた。
父・大将が田所家の前に車を停め、姫乃と英雄は聖と共に車を降りる。それとほぼ同じタイミングで、家の中から一組の老夫婦が姿を見せた。自宅の前に車が停まった事に気付いて、出迎えに来たのだろう。
「お帰りなさい、聖。ヒデ君とヒメちゃん、久し振りだねぇ」
「あぁ、来てくれるのを待っとったぞ。さぁ、上がりなさい。あぁ、大将君。いつも通り、うちの車の前に停めていいからね」
この六十代くらいの老夫婦が、姫乃と英雄の祖父母……【田所 兵蔵】と、【田所 久美】である。
二人は姫乃達の到着を、実に嬉しそうな表情で迎え入れる。
「じいちゃん、ばあちゃん、久し振り」
「こんにちは、おじいちゃん、おばあちゃん!」
「まぁまぁ、二人共久し振りねぇ。また更に別嬪さんになっちゃって」
久美がそう言って二人に歩み寄ると、姫乃の顔を見て表情を綻ばせる。それは以前使っていたVRゴーグルから、VRギアを使う様になったことで彼女の目元が覆われなくなったからだろう。
「ヒメちゃんも、可愛らしいお顔が見える様になって。本当に良かったねぇ」
「やれやれ……婆さん、年始にも同じことを言っとったじゃないか」
「えへへ、ありがとうございます、おばあちゃん!」
星波兄妹にとって、祖父母といったら田所夫妻だった。その理由は、星波家の祖父母……大将の母親は既にこの世を去っており、父親は不在だった為である。
姫乃も英雄も詳しくは聞けずにいたが、大将の父親は彼が生まれた時から居なかったらしい。その為、母親……【星波 瑠依】は女手一つで大将を育て上げたそうだ。
だからだろうか。姫乃と英雄にとっての大将は、愛情深い優しい父親だ。勿論、聖も同様である。
そんな両親に育てられた二人だからこそ、自分達も……と考えるのは当然だろう。脳裏に浮かぶのは、自分にとって一番大切な婚約者の笑顔だ。
姫乃と英雄は祖父母に促されるまま、両親と一緒に田所家の中に入る。久方振りに顔を合わせた祖父母から、婚約について根掘り葉掘り聞かれたのは余談である。
************************************************************
姫乃と英雄が、祖父母の質問攻めを受けるのと同時刻。初音恋は土出鳴子を伴って、とあるパーティーに参加するべく車に乗っていた。
数週間前の、恋の誕生日パーティー……あの日から、パーティーの招待状が頻繁に届く様になっていた。その目的を的確に見抜いている恋は、窓の外を見てぼやいた。
「未だに多くのご令息は、英雄さんより自分の方が優良物件だとアピールしたいご様子で。中々に自己評価が高い方々なのですね」
「お嬢様、パーティー会場では口を滑らせない様にご注意下さい。ちなみに私見ですが、お嬢様と一緒に英雄様が来ると考える殿方もいらっしゃるかと」
「あぁ、公然の場で恥をかかせよう……とかですね。確かに、そういった女々しい人も一定数は居そうです」
勿論、そんな魂胆を良しとする恋ではない。両親や兄姉とも話し合った上で、出席を辞退し続けているのだ。
では何故、今日のパーティーには出席するのか? その理由は単純に、招待相手が気心の知れた相手だからだ。恋の事を知り、英雄の事もよく知っている相手である。
初音家の車がパーティーを催す家の邸宅に到着し、恋は鳴子の先導で車を降りる。どうやら今日の催しは、ガーデンパーティーらしい。
恋はパーティーの会場である庭園に到着してすぐに、招待してくれた相手を見つける事が出来た。鳴子と目配せをして、挨拶の為に彼女が待つ場所へと歩いていく。
恋の接近に気付いた相手……二十代前半の美女は会話していた男性に一言断ってから、穏やかな笑みを浮かべて恋達を迎える様に歩み寄った。
「こんにちは、美里さん。今日はお招きいただき、ありがとうございます」
「ようこそ恋ちゃん、来てくれて嬉しいわ。忙しいみたいだから、招待するか悩んでしまったのよ」
「気を揉ませてしまい、すみません。幸い、今日は予定が空いていたんです」
そう、今日のパーティーを主催したのは、親交の深い六浦家だった。初音家にとって六浦家との繋がりは重要であると共に、恋にとって六浦家の令嬢……六浦美里は歳の離れた友人であり、仲間でもある。
和やかに挨拶をする二人の側で、鳴子は姿勢良く控えている。しかし内心で、二人の会話の裏にある本音に苦笑していた。
忙しいみたい……という美里の言葉は、恋の私生活が忙しいという意味ではない。恋を諦め切れない男達からの、往生際の悪い誘いが多い事についてである。そして恋の返答は、そういった男達からの誘いは受け流すが、美里の招待ならば喜んで応じるという意味合いだ。
このパーティー会場に居る者達は、予想もしていないだろう……彼女達が毎日、仮想現実空間で気の赴くままに仲間達と冒険を繰り広げていると。
************************************************************
恋が六浦邸に到着するのと、時をほぼ同じくして……繁華街にあるファストフード店で、二組のカップルが談笑していた。
「ん、うまー。新商品のたらこバターソース、結構好みかもッス」
「ほんと? 隼君、私も試してみて良い?」
「えー、どうしよっかな~……なんてな。イイヨ!」
相田隼が冗談めかして渋るのは一瞬で、ディップ用のソースを差し出す。そんな隼に笑みを浮かべる巡音愛は、感謝の言葉を一言告げてフライドポテトにソースを軽く付けた。
そんな二人のやり取りを微笑ましそうに見ていた名井家拓真は、咀嚼していたハンバーガーを嚥下して口を開く。
「僕もそっちにしとけば良かったな。今度、試してみよう……期間限定、いつまでだっけ?」
「四月の半ばまでだったと思いますよ、たっくん」
そんな拓真にすかさず答えるのは、彼の恋人である新田優だった。
ふんわりと微笑みながらそう口にした彼女に、拓真は笑顔で「ありがとう」と感謝の言葉を伝える。恐らく次のデートでは、彼が期間限定のたらこバターソースに挑戦するのだろう。
「もう高校生かぁ……あんまり期待とかしてる訳じゃなかったんスけど、こんくらいの時期になると流石にソワソワするッスねぇ」
「過度な期待は、僕もしていないけど……そうだね、言いたい事は解るな」
「私としては、隼君と拓真さんがお迎えに参加するのは楽しみかも」
「ふふっ、私もだよ。たっくんと毎日会えるのは、とっても楽しみ♪」
高校受験を無事に終えて、中学校を卒業した隼と拓真。四月を迎えれば、二人は晴れて仁や英雄が通う[日野市高校]に入学する予定だ。
そうなると毎日のお迎えに二人が加わる事になるので、愛と優からしてもそれが楽しみである。
そんな実生活の変化に加えて、四月からはゲーム内においても新しい展開が待ち受けている。それも四月を待たず、今日からだ。
机に置いていた携帯端末が震えたので、隼はそれに手を伸ばす。通知はSNS・RAINのメッセージ受信だったようだ。ギルドメンバーで立ち上げたチャットに届いたもので、送り主は仁と隼のイトコからである。
「お、和姉からだ。バイトの日程変わって、今日は早めにインできるって」
「あ、そうなんですね! 遅い上がりの予定って言ってましたもんね」
「うん、朗報だね。僕から姉さんに連絡しておこう。【桃園】はそれでオッケーだろうから……あ、数満さんが、心愛さんに伝えておくって」
「あ、恋ちゃんが今日、美里さんの家のパーティーだっけ」
「そしたら【ふぁんくらぶ】と【魔弾】はオッケー。残りは【ラピュセル】と新ギルド、フリーの人達ッスね」
本当に楽し気に話す四人は、誰がどう見ても仲良くダブルデートを楽しむカップルだった。
************************************************************
RAINの通知を受け取った少女・伴田千夜は、口元を緩ませていた。今彼女が居るのは自宅ではなく、幼馴染にして恋人である古我音也の家である。
「音也ー、和美さんから連絡あったよー。今日のバイト、無くなったってー」
「あ、そうなんだ? それじゃあ早めに集合できるんだね」
穏やかな笑みを浮かべながら、お茶の入ったマグカップを乗せたトレイを持って来る音也。相変わらず女の子かと見紛う顔立ちをしているものの、夏頃に比べて身長が伸びている。
「冒険らしい冒険は、久し振りになるのかな? ダンジョンの攻略も冒険なんだろうけど」
「確かにそうだね。やっぱり冒険は、開拓してなんぼだよね!」
音也がダイニングテーブルにマグカップを置いて、千夜の隣に座る。長年共に過ごして来た二人だからこその、仲睦まじさを感じさせる距離感だ。
ちなみに千夜が古我家に居るのは、伴田家の両親が不在だからである。
母・雅子はファッションデザイナーで、多忙な時期。父・満も週刊少年漫画雑誌で長期連載をしている売れっ子漫画家で、今日は編集部との打ち合わせらしい。
そんな訳で家に一人になる千夜は、隣の家であり幼い頃から家族ぐるみの付き合いをしている古我家にお邪魔している訳だ。
今は音也の母である好美が作った昼食を食べ終わり、洗い物を片付けた後である。
「じゃ、早めに春休みの宿題を終わらせないとだね」
「うっ……春休み初日から、宿題かぁ……」
「まぁまぁ、今日で全部やれって訳じゃないし。イベント参加はしたいでしょ?」
長期休暇の夏休みに比べて、宿題の量もそう多くは無い。早めに進めておけば、新学期直前に慌てずに済むはずだ。
それに春休みが終わる頃には、丁度AWOはアニバーサリーイベントのタイミングである。折角のイベント、積まれた宿題のせいで参加出来ないといった事態だけは避けたい。
「むふ、音也もすっかりVRゲーマーだよね」
「流石に長年やっている人達と、比べられる程ではないけどね。それに千夜ちゃんだってそうじゃん」
「まぁね! それにいよいよ今日、アレがお披露目だし!」
「うん、千夜ちゃん頑張ってたもんね。じゃあ、宿題も頑張ろっか」
「ぐぅ……もう、ぐぅの音しか出ない」
************************************************************
春休みの宿題に頭を抱えているのは、千夜だけではなかった。
とあるきっかけで以前よりも親しくなったクラスメイトを、自宅に迎えた寺野数満。春休み初日の今日、アルバイトは休みなので宿題に取り組む事にしたのだ。
そんな彼の話を聞いて、自宅を訪問したのがクラスメイトの井手社である。
「何で春休みまで、宿題出すんすかねぇ……おのれ、先生達……」
「いや、先公のせいにすんなや。教育カリキュラムみてーなのがあんだろ、よく知らねーけど」
口は悪いが、言っている事は真っ当。それが数満という少年であり、そんな数満の発言に「そうかもっすけど……」と社は遠い目をする。
それに二年に進級すれば、大学受験を見越していかなければならない。大学進学を目指す学生からしてみれば、高校二年生の春休みは大学受験の準備を始めるタイミングと言って良いだろう。
「いくらぼやいても、手を動かさねぇと宿題は終わんねーぞ」
「アニキって、その辺ちゃんとしてるよね……」
「面倒な事は、さっさと片付けるに限るからな。俺はバイトもあるし……そういや社、お前もバイト探してんだっけか」
そう問い掛けたタイミングで、部屋の扉がノックされる。数満が立ち上がって扉を開ければ、そこには二人の少女が立っていた。
一人は父の再婚に伴って義妹になった、寺野心愛。そしてもう一人は、心愛の親友である羽田名都代だった。いつの間にか、遊びに来ていたのだろう。
「兄さん、差し入れだよ~」
「サンキューな、心愛。いらっしゃい、羽田さん」
「お邪魔しています、お兄さん」
心愛が手にしているトレイには、オレンジジュースが注がれた四つのグラス。そして、クッキーが入った皿が二つあった。名都代を連れて自室に向かうのに合わせて、数満達の分も用意したのだろう。
一言断って部屋に足を踏み入れた心愛は、数満と社の分のジュースとクッキーをローテーブルに並べていく。そんな心愛に、社は「ありがとう」と感謝を伝え……そして、改めて口を開く。
「そういや、こうして現実で顔を合わせんのって初めてだっけ。俺は井手社、ゴエモンね。アニキのクラスメイトだから、俺も二人と同じ学校になるんだ。よろしくね」
「あ、やっぱりゴエモンさんだったんだ。イナズマこと、心愛です! 改めて、よろしくお願いしまーす!」
「私は心愛ちゃんの友達で、羽田名都代です。あっちでは、ハヅキです。よろしくお願いします、井手先輩」
「……今更だがよ、俺の周りって忍者ばっかじゃねーか」
心愛と名都代、そして社は、AWOで【忍者ふぁんくらぶ】に所属しているプレイヤーだ。彼等は元祖忍者を崇拝レベルで推しており、自分達も忍者化した変わり者達である。ちなみに社の姉と、その友人まで忍者だ。
そんな忍者達が、あちらこちらに居る元凶……と言うのは聞こえが悪いが、彼等が忍者ムーブに走った切っ掛け。それが数満のイトコである仁だというのだから、彼にしてみればもう溜息しか出ない。
今度はどこから忍者が出て来るのだろうか、などと考える数満……彼も気付けば、しっかり毒されているのだった。
************************************************************
数満と社の宿題に目処が付くのと、ほぼ同じ頃。大学生は、中高生よりも一足先に長めの春休みに入っていた。長期休暇をどう過ごすかは、一人一人で違うのが普通だ。
仁と隼のイトコである麻守和美と、その親友である梶代紀子……二人の場合は、アルバイトに精を出していた。
「二週間ぶりにお茶するけど、久し振り感は無いのよね」
「まぁ……毎日、ゲームで……会うもんね」
本当は和美がアルバイトの予定だったのだが、急遽シフト変更があったのだ。代わりに翌日がアルバイトになるが、それはそれで問題は無かった。
そんな訳で、今日は珍しく互いにアルバイトも休み。特別な予定も無いという事で、和美と紀子は待ち合わせをして喫茶店で近況報告をする事になった。
とは言っても近況報告は単なる建前であり、暇な時間を共に潰す目的で二人は集まった。普段からゲーム内で顔を合わせているので、今更新たに報告する事などそうそう無い。
「じゃあ、勝守さんは福岡に転勤の予定なんだ?」
「う、うん……五月の、連休が……開けたら、だけど」
「良かったじゃない、紀子。ふふっ、愛ねぇ」
紀子の交際相手である梅島勝守は、現在大阪に勤めるサラリーマンだ。就職と共に家元を離れ、一人暮らしをしているのである。
クリスマスから交際を始めた二人だが、これまでは長崎と大阪……つまり遠距離恋愛だった。しかし勝守が転勤で福岡に引っ越してくると、今までよりも会いやすくなるのだ。
「そう言えば朱美さんも、転職して静岡に引っ越すって言ってたわね」
「う、うん……治さんと、一緒に住む……らしい、ね?」
「もしかしたら、【桃園】のカップルは結婚秒読みかもね~」
彼女達のギルド【七色の橋】には、結成当初から親交深い姉妹ギルドがある。それが、中華風ギルド【桃園の誓い】だ。
学生が大半の【七色の橋】に比べて、【桃園の誓い】のメンバーは社会人が大半。そして彼等のギルド内では、既に三組のカップルが成立している。そんな訳で、彼等の結婚はそう遠くない未来の事だろうと彼女達も考えていた。
「……和美は、その……どう、なのかな……?」
「あー……うん、もうちょっと待って欲しいかな。ちゃんと話すんだけど、色々と必要な事がまだあるから。主に、あっち側の事情が」
そう言われてしまえば、紀子からはこれ以上深く突っ込むのは躊躇われた。
和美自身の問題であれば、彼女は既に自分に話してくれているだろう。紀子はそれを理解しているので、彼女を信じてその時を待つ事にした。
「洗いざらい……話して、貰うから……」
「あはは……お手柔らかに?」
苦笑しながらそう言って、和美は視線を逸らした。そうして視界に入ったのは、店内に設えられたテレビだった。
現在は夕方のニュースが流れており、大きなクルーズ船が海を航行している様子が映し出されている。その映像を見た和美は、待ちに待った日が訪れたのだと考える。
「半月近く待ったけど……いよいよ、今夜ね」
「え?……あ、うん。そう、だね……流石に船造りは、間に合わなかったけど」
「ま、それは今後の楽しみにしときましょ。そう言えば紀子は、アバターはどうするの?」
「うん……あ、あんまり、目立つ気……無いし……簡単に、済ませる……かな?」
「あらら、私と同じね……そうなると、中高生組の変化に期待かしらね」
クランメンバーで話し合って、一度きりのアバター再調整を行うのは、今夜という事になっていた。仲間達がどんな姿で現れるのか……それも含めて、楽しみだと二人は笑い合うのだった。
次回投稿予定日:2026/3/25(本編)




