20-48 追い掛けられました2
(2026/3/8追記)
コメント頂いて気付きましたが、この投稿で本作も600部となりました!!
いつも常日頃から、ご閲覧及びコメントを頂き誠にありがとうございます。
皆様のおかげで、ここまで執筆が続いています。
これからもジン達の青春と冒険を描いていくので、お付き合いいただければ幸いです!
運営ミーティングが終了してすぐ、ギルド【摩天楼】の面々はギルドホームで激しく議論をしていた。その内容は、勿論アンヘルについてだ。
「外見が変わったら、アンジェリカを見付けるのが更に難しくなるぞ……!!」
「クソッ、何でアイツは重犯罪にも軽犯罪にもなってないんだよ!!」
「もしかしたら、もうアイテムを使ったかもしれないな……おい、名前はまだそのままなのか!?」
「は、はい……今も名前はアンヘルのままっす」
「フレリスに表示されてるってことは、まだだろうが……こっちがあいつを追い掛けてる事が解ったら、フレ登録を切った上で名前を変えられてもおかしくない……クソがっ!!」
アンヘルの存在に気付いてから数日、彼女を特定しようと動き回っている【摩天楼】。しかしながら全くと言って良い程に、成果が得られていないのが現状だ。
そんな中運営が配布した≪神の恵み≫は、アバターの外見を変える事が出来るというアイテム。アンヘルが外見を変え、更にヴィッツとのフレンド登録が解除されたら……彼等は、アンジェリカをもう追えなくなる。それもあって、ギルドマスターであるエディミオンは必死に考えを巡らせていく。
――今夜、アンジェリカを追い詰める……その為には、手段を選んでいられない。
ここ数日の空振りによって、エディミオンは焦りに焦っていた。彼はアンジェリカを”放置するには危険な存在”ではなく、”このAWOから追放しなければならない存在”と見做している。
問題なのは「彼女は悪事を働いたのだから、何をされても文句を言う資格など無い」という考え……そして「自分達が絶対的な悪人を排除する事で、AWO中から一目置かれる存在になれる」といった本心だ。
行き過ぎた正義感と、歪んだ功名心。そこに焦燥感というマイナス要素が加わった事で、彼の思考は悪い方向へと傾いていく。
それは自分達以外のプレイヤーを扇動して、アンヘルを追い詰める策略である。
「……アンジェリカは今夜、[アージェント平原]に現れる可能性が高い」
そう告げたエディミオンは、自分の発した声が思った以上に低かった事に驚いた。しかし自分に向けられたギルドメンバーの視線によって、そのまま言葉を続けるしかない。
「これまでは奴の居場所を確認次第、追い掛けていたが効果は得られなかった。ならば我々は先回りして、あの女を特定するのが良いだろう。幸い、行き先は予想できるんだ」
既に[ウィスタリア森林]と[オーア山地]、そして昨夜が[アジュール湖畔]。アンヘルがそこを訪れたのは、間違いない。それならば、今夜彼女が姿を見せるのは[アージェント平原]に違いない。
エディミオンのその言葉に、ギルドメンバー達も真剣な表情で頷く。追い掛けるのではなく、待ち伏せをする方が成功率は上がるはずだ。そう考えたであろう彼等の視線は、ギラついている。
「変装した状態で町中に潜伏し、あの女を探す。奴は、アバター名を非表示にしている可能性が高いだろう……そいつを監視して、ボロを出すのを待つ」
確実にアンヘルを捕捉し、追い詰める。その為の策を考えたエディミオンは、ギルドメンバーに指示を出していく。
「既に容姿を変えている可能性があるが、まだやり様はある……アンヘルとフレンド登録をしている、ヴィッツがいるからな。AWOに、偽物の天使なんぞの居場所は無い!! それを俺達が、思い知らせてやる!!」
「「「「「おぉっ!!」」」」」
エディミオンにヴィッツ、そして他のプレイヤー達。彼等は自分達が正義であるという確信の下に、アンヘルを追い詰める為の行動を開始した。
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その頃クラン【十人十色】の面々は、拠点[十色城]でゆったりとした時間を過ごしていた。既に全員が四体の第三エリアボスを討伐し、新大陸へ向かう資格を得られたお陰である。
残っている優先事項は、アンヘル……アンジェリカの事である。
「それじゃあ、今夜は[アージェント平原]……【騎士団連盟】の拠点に行くんだね」
アンヘルがそう言って、今夜の変装に使用する装備品の確認を行う。選択したのは、斥候風の見た目の装備。加えて後ろの腰に二本のダガーを携えている。
これらは現在の店売りの装備の中でも、性能が良い物だ。一番良い装備ではなく、それより少し劣る程度……最前線での実用にも、ギリギリ耐え得るレベルの装備品である。
そして今夜は、【天使の抱擁】のメンバーも別口で[アージェント平原]の付近にある町に向かう事にしている。勿論、タイミングはずらして行く形だ。
「これまで全くといって良い程に、アンヘルさんと【天使の抱擁】は近くには居なかった。今回は逆に同じではないけれど、それなりには近い場所に居る……という状況を作っておくッス」
そうハヤテが告げると、ハイド達に更に指示を出す。
「んで、ハイドさん達は……アンヘルさんを探すフリをして欲しいんスよ」
フレンドリストを使ってアンヘルを探せるのは、【摩天楼】だけの専売特許ではない。同じ手段で、【天使の抱擁】もアンヘルを捜索している……という雰囲気を作っておくのだ。
「俺達がアンヘルさんと、示し合わせていない様に見せるんだね」
「大したもんだよ、本当に。【禁断の果実】をあそこまで追い詰めたのも、納得だ」
「んふふ、味方で良かったわ~……本当に、マジで、切実に」
最初に比べて大分明るい様子を見せながら、【天使の抱擁】のメンバーは出発した。
各ギルドのトップが顔を突き合わせて、この後の流れについて最終確認をする。
まず、[アージェント平原]で【摩天楼】を振り切る。これはここ数日、毎晩やっている事だ。しかし、今夜でそれも終わりである。
アンジェリカ最後の動画は、既に公開準備が完了済み。日付が変わると同時に、動画が公開される予定だ。
そのタイミングで、アンヘルが全てのフレンド登録を解除する。そしてすぐにパーティを組んでいるメンバーとフレンド登録をすれば、一緒に[十色城]へと転移できるという寸法だ。
今夜のアンヘルの付き人役は、まずはヴィクト。更に【桃園の誓い】からヒューゴ、【魔弾の射手】からミリア、【忍者ふぁんくらぶ】からタスク、【ラピュセル】からジュリアンが変装して同行する事になった。
合計で六人のパーティとなってしまうが、町中であればそこまで不自然に思われないだろう。フィールドならば注目を集めるかもしれないが、町中ではフルパーティで行動する方が珍しいのだから。
同行メンバーに【七色の橋】が不在なのは、動画の公開時間が深夜だからだ。翌日は月曜日なので、学生の彼等は夜更かしが出来ないという事情である。ちなみに同行する面々は、翌日の午前中に講義やバイトの予定が無い面々となっている。
「それじゃあ、皆さん。よろしくお願いします」
アンヘルがそう言うと、変装したメンバーが笑顔で頷く。そうして出発したアンヘル達を見送って、ジン達もそれぞれの活動を開始した。
……
クラン【十人十色】の面々はまず、今夜の優先事項について話し合う。クベラによってもたらされた【調教の心得】だが、この検証を進めるという話になった。
「スキルの検証をクベラさんだけに任せたら、カノンに怒られるしね~」
「ミ、ミモリ……! そんなこと、しない……もん!」
「あ、アハハ……」
ちなみにクベラと契約したフクは、コンやホリィと一緒に戯れている。実に、心温まる光景だ。
「という事で各ギルドで最低一人ずつ、【調教の心得】の検証メンバーを出しましょうか」
「異議なしッス! で、【七色の橋】は俺が担当ッスね!」
「おや、もう決めてたんだね?」
「あはは、【七色】から出した提案ですからね」
ちなみにハヤテが狙っているのは、ハヤブサ型のモンスター【ハンティングファルコン】を狙っているそうな。
そうして色々と話し合い、検証を行うメンバーは各浄化マップの街の外……[ウィスタリア森林]も含めて、五箇所に分散する事になる。勿論、[アージェント平原]にも誰かしらが向かう事になる。
また公開された情報を考慮して、ある人物が声を上げた。
「はーい、生産職のみんな達~! 集まれ~!」
小学校の先生かな?
それはさておき、ユージンが生産職の面々に声を集めて提案を持ち掛けた。それはオークションに向けた活動方針について、生産の主軸となるメンバーで話し合う事だ。
市場調査や素材の収集、やるべき事は掃いて捨てる程にある。折角クランとして活動を共にするのならば、協力体制を確固たるものにすべきなのは当然だろう。
そして恐らく、他の生産職人達も行動を起こすはずだ。初動が遅れたら、その分だけ思う様に生産が出来ない可能性も大いに有り得る。
そして、ある少女がジンとヒメノに声を掛けて来た。
「ジンさん、ヒメノさん。お時間いいですか?」
「リリィさん? それに、コヨミさんと……」
声を掛けて来たのは、リリィ……そして、リリィと一緒にやって来たコヨミだ。リリィはその腕で、可愛らしい仔一角獣を抱きかかえている。
「もしや、ホリィの件でゴザルか?」
「ふふっ、お見通しでしたか。もしよろしければ、レベリングに付き合って頂けないかなと思って」
「それにコンちゃんが居ればホリィちゃんも喜ぶかな~って、リリィさんと話してたんですよー!」
そんな風に言われたら、断る訳にもいかない。勿論、断るつもりも無いのだが。
という訳で他のメンバーとは別行動で、コン&ホリィ育成班が結成した。
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[ウィスタリア森林]
【検証班】
ケイン・イリス・ゼクス・フレイヤ・ゲイル・チナリ・アリッサ・イザベル・サブリナ・フィディス
【生産職人会議】
ミモリ・カノン・ヴィヴィアン・バヴェル・ラミィ・ルナ・ディーゴ・メイリア
ハヅキ・ディルク・ヘルマー・マルファ・エウラリア・メリダ
ユージン・ケリィ・ネコヒメ・クベラ
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[アージェント平原]
【アンヘルパーティ】
アンヘル・ヴィクト=コン・ヒューゴ・ミリア・タスク・ジュリアン
【ハイドパーティ】
ハイド・ソラネコ・エミール・ジョーズ・コイル・ミシェル
【検証班】
アナスタシア・テオドラ・ルイーズ・レオン・マール・ゼクト・アゲハ・カスミ・ゴエモン
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[アジュール湖畔]
【検証班】
アヤメ・コタロウ・イズナ・ココロ・イナズマ・ヒイロ・レン・シオン・イカヅチ・ダイス
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[オーア山地]
【検証班】
ジェミー・レーナ・シャイン・ビィト・クラウド・トーマ・ジライヤ・サスケ・ハナビ・ハンゾウ
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[ギュールズ高原]
【検証班】
ハヤテ・アイネ・センヤ・ネオン・ヒビキ・ナタク・アシュリィ・マリーナ・モニカ・ステファン
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【神獣育成班】
ジン・ヒメノ・リリィ・コヨミ・PACリン・PACヒナ・PACスピカ・PACリゲル
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ジン達はどこでレベリングを行うか相談し、結果としてホリィが怖がらない様に序盤のエリアへ向かう事にした。その理由は、レベル不相応に強い敵と戦わせ続ける事で、ホリィが戦う事を恐れるかもしれないと考えた為である。
そこで訪れたのが、第一エリアにある[アエーロ丘陵]だ。
「ホリィの経験値を上げる為に、モンスターが多い所に来たゴザルが……」
「何か、凄い事になってますね……?」
近場の村に設置された≪ポータル・オブジェクト≫に転移して、序盤のレベリング場所に来てみたジン達。そこで目にしたのは、何だか鬼気迫る勢いでモンスターを討伐するプレイヤー達の姿だった。
「おっ? あそこに居るのは、【闇夜之翼】と【フィオレ・ファミリア】……?」
ジンがそう呟くと、ヒメノ達もその視線の先を追う。彼の言葉通り、そこで戦闘を繰り広げているのはクラン【ルーチェ&オンブラ】だった。
「あっ、あちらに【白狼】と【真紅】……【無限の可能性】もいらっしゃいますね」
次いでリリィも、クラン【無限の可能性】の姿を見付けた。
共同戦線を張っている【ルーチェ&オンブラ】と【無限の可能性】。その事情は、ジン達も良く知っている。
不思議なのは、彼等以外にも複数の勢力の姿がある点である。
「あれ……【竜の牙】ですね……」
「それにあっちは……確か【中華連合】というクランですね。その反対側は、クラン【勇者の集い】……だったかな?」
この状況を見たジン達は、彼等がここで何をしているのかを察した。ほぼ間違いなく、精霊クエストのキーアイテムを手に入れる為に活動しているのだろう。
「あー……確か、ここって≪ギルドクレスト≫の素材の採取場所でしたね。となると、ここでレベリングをするのは難しそうですね」
リリィがそう言うと、困り顔で肩を落とす。ホリィを育てる為にやる気を出していた所で、出鼻を挫かれたのだ。無理もないだろう。
そこで、ジンはフィールドでなければ良いのではないか? と考えた。
「それなら、ダンジョンに向かってみてはいかがでゴザルか? 確かこちらの方に、丁度良さげなダンジョンがあったと思うでゴザルよ」
ジンがそう提案すると、ヒメノ・リリィ・コヨミの三人は「確かに!」と笑みを浮かべる。メンバー的にもPAC含めてバランスが良く、戦力が不足するといった不安要素は無い。
「皆さんがよろしければ、それでお願い出来ますか?」
リリィがそう言えば、ジン達は「勿論!」と首肯。あちらこちらを走り回るプレイヤー達を尻目に、近場にあるダンジョンへと向かって歩き出した。
そんなジン達の姿に、気付いた者が居た。
「フッ……この地に風が吹く事は無かったか……」
「何の話ですか、シモンさん? と言いますか、モンスターにボコボコにされてるのに、何で死なないんでしょうか、本当に……」
そいつは、厨二病な彼だった。
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ダンジョン[猛毒の横穴]へと向かって、ゲーム内時間で一時間が経過。ジン達はダンジョンを周回して、ホリィのレベル上げに勤しんでいた。
「最初はデバフダンジョンでレベリングするのは不安でしたけど、うまく行ったみたいですね」
「ですね~! ホリィちゃんが【回復魔法の心得】と【支援魔法の心得】を覚えましたし!」
ホリィはレベルが20に上がり、スキルスロットが追加された。その間に覚えたのはどちらも魔法系スキルなので、彼女は恐らく魔法主体の神獣なのだろう。
とは言うものの、接近戦が出来ないという訳では無いらしい。獣技も攻撃として【角突き】、機動面では【クイックステップ】を会得している。そして、レベル15になった時点でコン同様に【成獣化】も覚えたのだ。
「ホリィちゃんは、やっぱり騎乗前提のサポートタイプな神獣みたいですね?」
「恐らく、そうでゴザルな。リリィ殿との相性は、実際に良いのではないかと」
リリィを騎乗させてフィールドを駆け抜け、共に回復や支援魔法で仲間を守る。彼女は恐らく、そんなタイプの神獣なのだろう。
「鞍はもう、ユージンさんにお願いして製作済みなんです。ホリィと一緒に、フィールドを走るのが楽しみですね。コヨミさんも、ホリィが大丈夫なら一緒に乗りますか?」
「良いんですか!? ぜひぜひ!!」
「じゃあ私は、コンちゃんに乗っけて貰います!」
「ふふっ、良いでゴザルな。それなら拙者も、一緒に走りたいでゴザル」
「「「その上で、ジン(くん)(さん)が一番速いんですよね……」」」
そんな話をしながら、ジン達はダンジョンの外に出た。
先程の一団の方に視線を向けると、大勢のプレイヤーの声が聞こえて来る。恐らく精霊関連のアイテムをドロップする為の、エクストラクエストが繰り広げられているのだろう。
「どの勢力が、エクストラクエストに挑んでいるのでしょうか……」
「うーん、何か【竜の牙】は嫌だなぁ」
コヨミも【ラピュセル】の面々と仲が良いので、【竜の牙】の件は把握している。その為、あまり良い印象は抱いていない様だ。
ともあれ今日の目的を達成した以上、ここに留まらなくても良いだろう。ジン達はあまり人が多くないフィールドの方へ向かって、コンとホリィを【成獣化】させた。
「わぁ、ホリィちゃんも【成獣化】したら、凄く立派ですね!!」
「すご~い! きれ~い!」
「確かに格好良さよりも、綺麗という感想が先に来るでゴザルな」
その脚はスラリと長く、馬体もスマートな印象を与える姿。額の角も立派に伸びて、鬣もサラサラだ。ジン達に褒められているのが解るのか、ホリィもどこか機嫌が良さそうに見える。
「よっ……と、これで良いんでしょうか? 乗馬の経験は無いので、少し不安ですね」
鞍を装備したホリィに乗ってみせると、リリィは不安そうな表情を浮かべる。実際、乗馬経験者はAWOに何人居るのだろうか。
しかし実際に乗ってみると、ホリィはリリィが驚かない様に大人しくしている様子だった。
「……ホリィ、もしかして私の事を気遣ってくれているの?」
「ヒィン(そうだよ)」
そんなやり取りを見て、ヒメノとコヨミも「そう言えば……」とこれまでの事を思い返す。
「コンちゃんに乗せて貰う時、特に指示もしていないけれどコンちゃんは思った方に向かってくれますよね」
「そうそう! 走っている時も、自分が考えている通りに走ってくれるっていうか!」
二人の言葉を受けて、ジンはある事に気付いた。AWOの一部のシステムに流用されている、思考を読み取って反映する機能だ。もしかしたら神獣達には、思考検知システムが採用されているのかもしれない。
勿論、システム的な話は好感度低下の要因になるので、口には出さない。後で、プレイヤーだけのタイミングで共有しようと判断する。
……
PAC達には先に帰還して貰い、ジン達は【成獣化】したホリィの走りっぷりを見るべくフィールドへと繰り出した。
「わぁ……凄いね、ホリィ! とっても速い!」
地面を蹴るホリィの背に乗っているリリィは、普段の大人びた様子は鳴りを潜めている。年相応の、普通の少女の様に喜びを全身で表現している。
そんなホリィと一緒に走るのは、自分の足で走るジンと、ヒメノとコヨミを乗せたコンだ。リリィ単独でホリィに乗ったのは、やはり初乗りは主従だけの方が良いと考えたからである。
「ふむ、中々の速さでゴザルな」
「はい! 全力じゃないとはいえ、コンちゃんと同じくらいの速さで走れるなんて!」
実際に走ったホリィのAGIは中々のもので、ジンやコンには負けるが普通のプレイヤーよりも断然上だ。このまま成長していけば、ジン達と同レベルのスピードで走る事が出来るかもしれない。
[アエーロ丘陵]から駆けて行き、そのまま真っ直ぐに南下していって[ウィスタリア森林]へと向かう四人。その途中で、ジンはある一軒家を見て立ち止まる。
「ジンさん、どうかしましたか?」
「あぁ、いや……あの一軒家が、確かジョシュア殿の住んでいた家だとか」
アイネと契約したPAC・ジョシュア。彼はエクストラクエストのボスとして、来訪するプレイヤーに試練を与える存在だった。そんな彼が住んでいた家が、すぐ側にあったのだ。
「そう言えばエクストラボスは皆、特定の場所に居るみたいですね?」
「ジョシュアさんが、あのお家で……セツナさんとカゲツさん、それにソラネコさんと契約したルーベンスさん。確かに、決まった場所に居るみたいです」
「何か、規則性とかあったりするんでしょうか……」
ヒメノ・リリィ・コヨミが考え始めたので、ジンはマップで何か解るだろうか? と思い、システム・ウィンドウを開く。
丁度そのタイミングで、メッセージが届いた。
「これは……姉さん?」
「クランメッセージ……ですね」
何かあったのだろうか? と思い、ジン達はメッセージを開いてみせる。
『緊急事態! 掲示板の晒しスレに、アンヘルさんの事が晒されてる! しかも[アージェント平原]に、彼女が居るっていう情報付き! アンヘルさん達は、すぐに[アージェント平原]から撤退して!』
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アンヘルを狙った晒し行為の情報を、クランメッセージによって知らされた面々。勿論その情報は、アンヘル達のパーティにも届けられていた。
行動を共にする面々は、そのメッセージを確認して周囲を確認する。幸いだったのは、アンヘル達【天使の抱擁】がまだクランに参加していない事か。もしこのメッセージを彼女が確認していたら、多少なりとも動揺しただろう。
「……ヒューゴさん、ジュリさん、タスクさん。周囲を探すフリをして下さい。私達が、当事者じゃない様に振舞います」
メッセージを見たミリアが、即座に三人に指示を出す。彼女は即座に、この晒し行為が釣り針であると判断していた。
――恐らくこれを晒した連中は、何気ない様子でアバター名を非表示にしたプレイヤーを監視してる。ここで隠れたり、逃げたりする様子を見せたら……後ろ暗い事があると自白する様なモノだわ。
だから、情報を得て「ここに、あのアンジェリカが居るのか?」と探しているように見せかける。幸いこちらは六人パーティで、アンヘル一人とは思われていないはずだ。
アバター名を非表示にしているプレイヤーは多数とは言えないが、かといって彼女達だけという訳でも無い。これならば、十分この場を逃れる事が出来るはずだ。
そう思っていたミリアはふと、通路の隅に立っているプレイヤーの視線に気付いた。そのプレイヤーは男性で、ジッとこちらを見ている。その視線は予想通り、アンヘルに固定されている様に思えた。
そのプレイヤーの動向を不自然にならない様に伺うと、彼はシステム・ウィンドウを開いて何かを打ち込んでいく。恐らくは、仲間に向けてメッセージを送っているのだろう。
つまりそのプレイヤーは、彼女がアンヘルだと疑念を持っている……そう判断するべきである。
ここで、大慌てで行動するのは悪手だ。ミリアは冷静に、かつ慎重に対策を脳内で検討する。
慌てて逃げれば、自分達がアンヘルとその仲間だと確信させてしまう。それを避ける為には、落ち着いて行動しなくてはならない。
ミリアは事情を把握していないアンヘルとヴィクトに、システム・ウィンドウを表示したまま歩み寄る。
「最悪の事態になったわ。二人共、どうか落ち着いて聞いてね」
小声でそう呼び掛けて、ミリアは二人にシステム・ウィンドウを見せる様な素振りをする。アンヘルとヴィクトは、その言葉だけでおおよその事態を察した。
「少し面倒ではあるけれど、連中に捕まる訳にはいかないわ……ここが正念場よ」
そう言ったミリアは、それぞれにいくつかの指示を出す。そうして一行は、落ち着いた様子で一軒の店に向けて歩き始めた。
次回投稿予定日:2026/3/10(本編)




