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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第二十章 第四エリアを目指しました

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596/610

20-44 ホワイトデー当日でした

過糖警報発令!

何故なら!

ホワイトデーだからっ!(キリッ)


※現実ではそろそろバレンタインですけどね。

 バレンタインのお返しに込められた意味合いとか、ちゃんと調べてみました。

 参考になれば幸いでございますん!

 いよいよ訪れた、三月十四日。まず仁はいつも通り、星波家へと赴いて姫乃・英雄・恋と合流。そのまま四人で[初音女子大学付属中等部]への通学路を歩き、姫乃と恋を見送る形だ。

「それじゃあ、行って来ますね!」

「英雄さん、仁さん。行って参ります」

「行ってらっしゃい、また放課後に」

「昼頃に迎えに来るね。授業、頑張って」

 校舎に二人が入って行くのを見送った二人に、顔見知りになった守衛のおじさんは朗らかな笑顔で「いつもお疲れ様」と声を掛けてくれる。そんなおじさんに軽く会釈をして、二人は踵を返す。


 まだ肌寒い早朝の道を、二人は雑談をしながら歩いていく。話題はやはり、本日のメインイベントについてである。

「英雄はホワイトデー、どうする感じ?」

 ちなみに英雄は、恋へのお返しをマカロンにしたらしい。マカロンには『あなたは特別な人』という意味合いがあるのだそうな。

 それは事前に知っていたので、仁が「どうする?」と聞いたのはプレゼントではなく予定の方だ。

「あぁ、事前に恋と予定を合わせてるんだ。デートして、ホワイトデーのプレゼントを渡す予定だよ。仁は?」

「姫と一緒に、のんびり過ごす予定。お出掛けしてデートも良いけど、たまにはゆっくり過ごそうってさ。まぁ多分、僕の足を気遣ってくれてるんだと思うけどね」

「成程、確かにヒメが言いそうだ」

 今日は土曜日で仁達は休みの為、そのまま二人は一旦解散する。


 ちなみに朝のお見送りは流石にしなかったものの、放課後のお迎えには隼・拓真・音也も来るらしい。

 また鳴子も今日は会社が休みであり、恋の送迎以外の仕事は無い。故に帰りのタイミングで、同じく迎えに参加するそうだ。

 要するに、一カ月前のバレンタインデーと同じ状況となる訳だ。


「これが毎年恒例になるんだろうな」

「ははっ、きっとそうだね」

 それは今日という日に相応しい、幸せな予想だ。同時にそうなるだろうという、確信が二人にはある。

 仁と英雄はそんな幸福感を共有しつつ、近所の公園で一度別れるのだった。


……


 一度帰宅した仁は、勉強と筋力トレーニングを済ませていく。この二つは、陸上選手時代から欠かせない日課なのだ。そうして日課を済ませた仁は、軽めにシャワーを浴びて汗を流す。

 そうこうしていれば、すぐに昼時の時間になる。


――時間が経つのは、あっという間だな。


 そんな事を考えつつ、身支度を整える仁。両親は今日は二人でデートをすると言っていたので、既に外出済み。そんな訳で自分が作ったものと、俊明から姫乃と聖宛のホワイトデーの贈り物を忘れずに持って行かなくてはならない。

 忘れ物が無いか確認をして、仁は再び[初音女子大学付属中等部]へと赴くのだった。


 早朝の肌寒さは大分和らいでおり、昼時ともなれば太陽の光で少し暖かく感じる。それは冬の終わりと、春の訪れを予感させるものだった。

 四月になればまた、色々なイベントが待ち構えている。姫乃の誕生日もあるし、隼と拓真が[日野市高校]に入学してくるのだ。それにアナザーワールド・オンラインも、サービス開始から一周年を迎える。きっと何かしらのイベントを開催するだろうし、また忙しくなりそうである。


――そういえば、明日が運営ミーティングだったっけ。


 運営メンバーによる、公式生放送。恐らくそこで、AWO一周年の件にも触れるのだろう。恐らくはアニバーサリーイベントを開催するだろうと、仁達は予想している。

 勿論、カイル・エリア・アウスはそれらの情報を漏らしたりはしない。それを理解しているので、仁達も三人に探りを入れる様な真似はしていない。


 そんな事を考えながら歩けば、[初音女子大学付属中等部]が見えて来た。前日とは違い、到着するのは終業時刻の数分前だ。その時には既に、仁以外の男子メンバーが勢揃いしていた。

「タク、これ鏡美さんに。荷物増やして悪いけど」

「あ、僕からも! 済みませんけど、お願いします!」

「了解だよ隼、音也君。確かに姉さんに渡すね」

 既に隼と音也が、鏡美宛のホワイトデーの贈り物を拓真に託していた。今日顔を合わせる予定は無いのだから、それも当然と言えば当然だろう。


「おっ、仁も来たね」

「やぁ、皆。拓真と優さんは、鏡美さんと買い物だったっけ?」

「あはは……そうですね。優さんが、姉さんとも出掛けたいらしくて」

 どうやら優は、今日は拓真だけではなく鏡美とも一緒にショッピングに行くらしい。鏡美も一緒という事で、修も許可をしたのだろう。ちなみに仁と英雄は前日、学校で鏡美・伊栖那・夜宇に直接手渡ししている。

 ちなみに隼は、バレンタインの時と同じように巡音家へお邪魔するらしい。音也と千夜は、例年通り互いの家族とパーティーなのだとか。


 そうしている内に、帰りのホームルームを終えた生徒達が校舎から姿を見せ始める。最初の生徒達が姿を見せたほんの少し後に、すぐに姫乃達がやって来た。そして、同じタイミングで鳴子が校門の前に到着する。

「皆、お疲れ様!」

「お帰り、皆!」

「お待たせしました!」

「いやぁ、五人と鳴子さんが揃ってると目立つねぇ」

 千夜の言う通り、下校する生徒達の視線は仁達に集中している。既に先月のバレンタインデーでその姿を見ていたからか、興味深そうではあるものの怪訝そうな様子ではない。


 何はともあれ、これで全員勢揃いだ。

「それじゃあヒメと愛、鳴子さん、千夜と優に。バレンタインのチョコ、ありがとう」

「これは僕から。どれも、とても美味しかったです」

「んじゃ、俺からも。ささ、お納めくださいッス!」

「姫乃さん、恋さん、鳴子さん、愛さん、優さん! ホワイトデーのお返しです!」

「それで、これが僕からです。バレンタインチョコ、ありがとうございました」

 本命相手以外へのお返しは、男子メンバーで話し合ってかさばらないものを渡す事にした。紙袋一枚に容易に収まったお返しに、女性陣はそれぞれ笑みを浮かべている。


 少しばかり会話をした後、仁と姫乃、英雄と恋はいつもの通りに星波家へ向かう。休暇である鳴子は、そのまま真守と待ち合わせなので別行動。本日の恋のお迎えは、姉夫婦が星波家へ立ち寄ってくれるのだとか。

 そして隼と愛、千夜と音也、優と拓真も、それぞれの家へと向かう。そんな訳で、今日の所はこれで解散である……現実では。

 そう、夜になればまたこのメンバーで集まるのだ。AWOでも、クランメンバーが集まってホワイトデーの贈り物の受け渡しが待っているのだから。


 解散した後、星波家へ向かう帰路の途中。仁達の携帯端末に、RAINメッセージが届いた通知が鳴る。送り主はイトコである和美で、ギルドメンバーで作成したグループだ。

『皆からのホワイトデーの贈り物、受け取ったよ! ありがたく頂くわね!』

 どうやら宅急便で送った贈り物は、無事に届いたらしい。関東から九州への宅急便なので、早めに郵送したのは正解だった様だ。この分ならば和美と同じ地域の紀子や、二つ隣の県に住む心愛・名都代にも届いている頃だろう。


――まぁ、その分バカに出来ない出費だったけど。


 ホワイトデーのお返しだけでも、それなりの費用が掛かった。更に郵送代もとなると、アルバイトをしていない男子高校生からしたら結構な出費である。

 そんな訳で仁達は五人で折半して、一緒に郵送する形で費用を抑えたのだった。数満だけは単独での郵送なので、自分達よりも出費が嵩んだのだろう。


……


 星波家へ到着した仁と英雄は、まず聖にホワイトデーのお返しを手渡す。勿論、俊明の分も一緒にだ。

「ありがとう英雄、仁君。後で、ありがたく頂くわね~」

 そう言ってふんわりと微笑んだ聖は、よそ行きの装いだ。どうやらこの後、大将と共に出掛けるらしい。要するに、夫婦でホワイトデー・デートと洒落込むのだろう。


 恋は一度荷物を置いて、星波家に置かせて貰っていた私服に着替える。帰る時は星波家へ戻り、荷物を回収して迎えの車で帰る予定なのだそうだ。

 しかしその前に、仁達は聖が用意してくれた昼食をご馳走になる。これは事前に今日の予定を伝えており、それならばと聖が提案したからであった。勿論寺野家も、初音家も了承済みである。


 そうして大将も含めた六人で昼食をとった後、星波夫妻と英雄・恋はそれぞれ出掛ける頃合いになった。

「それじゃあ二人共、行って来るよ」

「ヒメちゃん、仁さん、また後程」

「仁君、姫乃の事を頼むよ」

「ゆっくりしていってね、仁君」


 英雄と恋、星波夫妻を見送った今、星波家に残るのは仁と姫乃の二人だけ。そうすると先程までの賑やかさな雰囲気から一気に、静かな空気感に変わった。勿論気まずさとは無縁であり、心が通じ合った二人にとっては心地の良い静けさである。

 ちなみに姫乃の両親が二人きりで過ごすのを良しと判断しているのは、やはり仁に対する信頼の表れだろう。仁という少年を常日頃から見守り、彼ならば姫乃を大切にしてくれるだろう……という安心感から来る、揺るぎない信頼だ。

 当然ながら、仁もそれを察している。大将や聖からの信頼は決して裏切らないし、姫乃を誰よりも大切にする……そう、強く心に決めている。


************************************************************


 一方、デートに繰り出した英雄と恋。二人は腕を組みながら、ショッピングモールを訪れていた。そうなった理由は、恋の発案である。

「折角なので、星波家で過ごす時の為の部屋着を用意しようかと思いまして」

 ついでに英雄の好みで選んで貰えば、一粒で二度おいしいというのが恋の弁。そんな婚約者様のご意向に、英雄が勝てるはずもなかった。


 という訳で、二人はまず部屋着や寝間着を売っている店に入った。

「結構、可愛いデザインのが多いんですね。あっ、こういうのも……」

 普段の服を買う店とは趣が違うのか、恋は物珍しそうにあちらこちらに視線を向ける。そんな彼女の様子を見守りつつ、英雄は笑みを浮かべていた。

「そういえばここの商品は、肌触りとかも良いって母さんやヒメが言ってたな。俺も何度か、荷物持ちで一緒に来たこともあったし」

「成程、星波家御用達のお店なんですね。じゃあ嫁入りする私も、ここの商品を買えば皆でお揃いになると」

「……ソウダネ」

 相変わらず、隙を見せればこうしてぶっ込んで来るお嬢様だった。英雄はデートの度に、彼女の言葉でドキッとさせられてしまうのである。


 そんな中で、英雄は恋の見ている服を観察してある事に気付いた。

「……そういえば、恋も初めて会った時より背が高くなったよね。全体的に、大人っぽくなってる気がする」

「そうですか?」

「あぁ。出会った時から美人だったけど、出会った時よりも美人になった」

「あら、お上手ですね。でも実際に、背は伸びましたね……えぇ」

 そう言って、何故か胸元に手を当てる恋。身長が伸びたのも喜ばしいのだろうが、どちらかと言えばとある一部のサイズがもう少し成長して欲しいらしい。


――やっぱ、気にしているんだ……付き合い始めた時より、多分成長してるんだけどな……。


 彼女の成長について詳しいのは、常日頃から腕を組むことで物理的に実感させられている英雄だろう。一気に成長している訳ではないものの、交際を始めた頃よりも明らかに女性らしい体型に近付いている。

「しかし最近は、現実の姿とアバターの姿が違って来ただろう? そのお陰で、たまに脳がバグりそうになるんだ。昼間は恋の顔がこの辺りだったけど、ゲームでは以前の位置にあったり」

「それは……確かにそうですね。私達もですが、音也さんや拓真さんも背が伸びていらっしゃいますよね?」

「そうだね。それに隼も、目線の高さが俺や仁と同じくらいになったし」

 丁度、成長期である中学生。春から夏頃に作ったアバターの姿は、ほぼ現実の姿と変わらない。もうすぐ新年度を迎えるにあたり、現実の身体の成長がアバターの姿と異なるのは無理もないだろう。


「アバターを作り直すのって、確か出来ないんですよね」

「そうらしいね。まぁ簡単に姿を変える事が出来るとなると、悪用するプレイヤーが絶対に出て来るだろうからな……」

 現在のAWOの仕様ではアバター名は課金アイテムで変える事が出来る。だが、アバターの姿を大元から変える事は出来ないのだ。それは英雄の言葉通り、悪用防止の為の措置である。

 アバターそのものを容易に弄る事が出来ると、名前や姿を変えて詐欺行為やストーカー行為等に悪用される可能性がある。そんな訳で、アバターの姿を弄る事は出来ないのである。


「こればかりは、仕方が無いのかもね」

「そうですね……私達の様な成長期の学生には、少々気にかかりますが」

 ユーザーの要望を何でもかんでも叶える事は、どんな運営も不可能だろう。可能な限り、要望に沿う様に対応するのが精一杯のはずだ。それらを考慮した上で考えてみれば、【ユートピア・クリエイティブ】はかなり頑張っている運営会社と言って良い。


 そんな風に話をしながら二人はショッピングを楽しんだ後、英雄が案内した喫茶店に入る。

「それじゃあ、恋。これ、ホワイトデーのお返しです」

「ありがとうございます……でも、ここだと食べられませんよね」

「いや、大丈夫。この店で買った物で、事前に許可も貰ってるんだ。さぁ、開けてみて」

 そう言って、英雄は店員を呼ぶボタンを押す。すぐにやって来た店員に話を通して、アールグレイを注文する。その間に、恋はプレゼントの包装を解いていく。


 店員に注文を済ませた英雄が、丁寧にラッピングを外していく恋に笑みを浮かべて話し掛ける。それは、ネタばらしも含まれていた。

「俺のお返しに一番合うのが、アールグレイなんだってさ。恋も好きだって言っていたし、一緒に味わって貰いたかったんだ」

 紅茶は淹れたてのものを味わって欲しかったので、直接この喫茶店に連れて来た……という訳である。つまり英雄にとって、今日のデートのメインはこの喫茶店であった。

 クリスマスの時は背伸びをして無理をしたせいで、恋から苦言を呈された。だが今回は身の丈に合った、高校生男子ならば十分手の届く贈り物である。


 勿論、恋もそれを察している。ちゃんと自分の言葉を、覚えていてくれた事……そしてその上で、自分の為にここまでしてくれた事が嬉しくて仕方ない。

「成程……ふふっ、ご用意の良い事で。わぁ、マカロンだったんですね。とても美味しそうです。ありがとうございます、英雄さん」

「あぁ、喜んでもらえて何よりだよ」

 そう言いながら頬を緩める英雄の笑顔に、恋も笑顔の裏で内心ときめいていた。


――私も成長しているかもしれませんが、英雄さんだって……更に素敵になっていますし、大人っぽくなっているんですから、もう……。


************************************************************


 その頃、二人きりになった仁と姫乃。二人は姫乃の部屋ではなく、リビングで過ごしていた。その理由は簡単で、姫乃にホワイトデーのお返しを堪能して貰う為だ。食器もあるし、暖かいお茶もすぐに淹れられるという事で、自室よりリビングが良いと考えたからだった。


 とはいえ星波夫妻や英雄と恋を見送ってから、大分時間が経っている。そうなった理由は、姫乃が今日出された課題をする為だった。

 姫乃の成績は決して悪くは無いが、跳び抜けて良い訳でも無い。それでも試験や課題で躓かないのは、こうした日頃の努力の賜物である。

 という訳で現在の仁は、姫乃の家庭教師役を務めているのだった。


「ふぅ、やっと終わりました!」

「お疲れ様、姫。少しは役に立てたかな?」

「少しどころじゃなく、とってもですよ♪」

 そうして優先事項を片付ければ、時刻は丁度三時頃。姫乃へのお返しを渡して、味わって貰うのにはベストなタイミングだろう。


「それじゃあ、姫……そろそろ、良い頃合いかな?」

「あ、もうこんな時間だったんですね。えへへ、丁度良い時間に終わって良かったです」

「バレンタインの時は、ありがとう。これが、僕からのホワイトデーのお返しだよ」

「えへへ、ありがとうございます、仁くん!」

 心から嬉しそうに、仁が差し出した紙袋を受け取る姫乃。間違いなく、今日一番の笑顔である。

「開けてみても、良いですか?」

「うん、勿論。ただまぁ、あんまり期待はしないで貰えると嬉しいかな……」

 自信など無いと言わんばかりの苦笑いを浮かべる仁に、姫乃は思わず笑みを零す。


 紙袋から出した箱の包装を丁寧に剥がして、姫乃は仁からの贈り物を目の当たりにし……驚きで、目を丸くしてしまった。

「これ……バウムクーヘン……ですよね?」

 綺麗に焼き上げた三つのバウムクーヘンの上部分は、チョコレートでコーティングされている。種類としては、普通のチョコ・ホワイトチョコ・そしてピンク色のチョコの三種類だ。


「バウムクーヘンって、『幸せが長く続く』とか『一緒に年月を重ねる』っていう意味があるんだって」

「一緒に……ふふっ、素敵な意味合いですね♪」

 一緒に歩んで行く長い人生が、幸せなものであるように。そんな想いを込めたホワイトデーの贈り物は、姫乃の心にしっかりと届いたらしい。


 早速、姫乃は一口食べてみることに。普通のチョコレートをコーティングしたバウムクーヘンにフォークを入れて、一口サイズにしたものを口へと運ぶ。仁は姫乃の反応を緊張しながら見守っていたが……すぐに、姫乃の表情が驚きに変わった。

「……わぁ! すごく美味しいです!」

 ちゃんと咀嚼して味わい、呑み込んだ後の第一声がそれだった。そんな姫乃の反応に、仁は安堵の溜息を吐くのだった。


「良かった。口に合ったのなら何よりだよ……」

「本当に美味しいですよ。こんなに美味しいバウムクーヘン、初めてかもしれません。でもこれ、結構高かったんじゃ……?」

 姫乃が心配そうに仁に視線を向けると、仁は「そうでもないよ?」と首を横に振った。

「材料は普通にスーパーで買えるものだったし、そんなに高くなかったよ」

「そうですか?……ん? 仁くん、今”材料”って……?」


 ここで、姫乃は気付いた。紙袋や箱は市販のもので、どこかの店のロゴも何も入っていない。つまり仁が贈ったバウムクーヘンは、店で売っているものではないという事に。

「もしかして……これ、手作りですか!?」

「あはは、実はそうなんだ。姫のお返しだけは、手作りにしてみようと思ってね」

 どうやら姫乃は、このバウムクーヘンが手作りとは気付いていなかったらしい。それは以前から、仁が料理を苦手としている事を知っていたのも理由の一つではあるが……勿論それだけではない。一番の理由は、仁が手作りしたバウムクーヘンの出来栄えと味が、非常に良いものだったからだ。


 照れ臭そうに笑う仁の表情は、嘘を言っている様には見えない。そもそも、仁が嘘を言うとは思ってもいない。

「す、凄いです! お店で売っている物と言われても、信じちゃいそうなくらいですよ!」

「本当? 良かった、お菓子作りは初めてやったからね。上手くできるか不安だったんだ」

 見た目はそれなりに整ったし、味見した限りでは変な味はしなかった。それでも自信が無かったのは、やはり料理に対する苦手意識からだった。


 仁に向けてふにゃりと微笑んだ姫乃だが、ある事に気付いてその表情が陰る。

「あっ、写真を撮っておけば良かったです……」

 そんな風にしゅん……とした顔をする姫乃に、仁は「あぁ、それなら……」と微笑んでみせた。

「箱に入れる前のを撮影してあるんだ。姫さえ良かったら、RAINで送ろうか?」

「お願いします、是非お願いします!」

 真剣な様子で、そう告げる姫乃。一口分欠けてしまった物よりも、完全な物を写真として残しておきたいらしい。

「味も勿論ですけど、見た目の方も凄く綺麗ですね……どうやって作ったんですか?」

「これかい? ざっくりした説明になるんだけど、ホットケーキミックスで生地を作って、それを少しずつ卵焼き用のフライパンで焼いたんだ。卵焼きみたいに、一層ずつ生地を足して」

 笑みを零して「綺麗に焼けて良かったよ」なんて言う仁。その安心したような表情を見て、姫乃は仁がどんな想いでこのバウムクーヘンを作ってくれたのかを悟る。


 ホワイトデーの贈り物は、そもそもバレンタインチョコに対するお返しという意味合いがある。そして姫乃が仁に贈ったのは、彼の事を考えに考え抜いたフルーツにチョコレートをコーティングしたものだった。そのお返しとして、姫乃の気持ちには仁からの気持ちで……そして手作りには手作りで、応えようと思ったのだろう。


 自分の事を考えて、苦手意識を振り切って、わざわざ手作りで作ってくれたバウムクーヘン。それは姫乃にとって、忘れられない一品となるだろう。

「ありがとうございます、仁くん……えへへ、大好きです!」

「喜んで貰えたなら作った甲斐があった。僕も大好きだよ、姫」

 幸せそうに仁お手製のバウムクーヘンを堪能する姫乃と、そんな姫乃を眺めて微笑む仁。二人の初めてのホワイトデーは、幸福感で満ち溢れる一日になったのだった。

次回投稿予定日:2026/2/20


仁  料理× だけどお菓子は◎

隼   歌× だけどラップは◎

和美 運動× だけど投げる系は◎

数満 ガラ× だけどツンデレ的に◎

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― 新着の感想 ―
仁の一族は欠点の中に才能隠してるのかw しかしゲーム内はともかく現実では甘々ですなぁw
甘いデスね実に甘いw七色カップルは末永く爆発して下さいませw後書きガラ☓にツボりましたw
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