20-36 幕間・星波姫乃の独白1
ご閲覧下さる皆様へ
本年も大変お世話になりました。
今年は業務多忙につき、番外編で年末年始のお届けとなる事をお許し下さい。
本年も本作品にお付き合い頂けましたこと、心より御礼申し上げます。
それでは、遅めのお歳暮(砂糖)のお時間です。
私の名前は、星波姫乃。初音女子大学付属中等部に通う、中学二年生です。
学年末試験が終わった今日は、三月十二日。もう三月も折り返しになる、そんな今日この頃ですね。
試験勉強から解放された私は今、ここ最近の思い出が詰まったアルバムを捲っているところです。アルバムの中に収められた写真を見ていると、これまでの出来事が鮮明に浮かび上がってきます。
全盲というハンディキャップを持って生まれた私ですが、それでも両親とお兄ちゃんに大切にされて育ちました。
当初は盲学校に通っていた私ですが、小学校に入った頃にフルダイブ型VR技術が革新的な進歩を見せました。その技術が医療に転用された事で疑似的な視覚を得られてからは、私も普通の人に近い生活を送れる様になりました。
そうして小学校四年生の頃、両親が視覚障害者用VR補助具……通称VRゴーグルを用意してくれたおかげで、普通の中学に通えるようになりました。
とはいえ、それも簡単だったわけではありません。家から通いやすく、障害者に理解がある学校……その条件に最も適しているのが、初音女子大学付属中等部だったんです。
他の人と同じ様に試験を受けて、無事に入学するまでは勉強をひたすら頑張ったと思います。五年生からの二年間は、勉強漬けと言って良い生活でした。
勿論両親も、お兄ちゃんも私の入試を全力でサポートしてくれていました。
本当に、私は家族に愛されて育って来たと思います。勿論私も、お父さんとお母さん……そして、二つ年上のお兄ちゃんの事が大好きです。
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更にアルバムを捲ると、今年に入ってからの写真が並んでいます。そこからのお兄ちゃんの写真は、中学の制服から今の高校の制服になっていますね。
私が中学二年生に進級して、お兄ちゃんが[日野市高校]に進学してすぐの頃……私は、お兄ちゃんに勧められてVRゲームをプレイする事になりました。それは、VR・MMO・RPGというジャンルのゲーム。ゲームタイトルは【アナザーワールド・オンライン】で、プレイヤーからはAWOと略される新発売したばかりのゲームでした。
AWOはお兄ちゃんと一緒に始めた、初めてプレイするVRゲーム。半月くらい遅れて始めた私達は、スタートダッシュに乗り遅れた側のプレイヤーでした。
でも私は、それを特に気にしていませんでした。VRゴーグルを付けていなくても、物が見える世界。走ったり、飛び跳ねたりしても一切問題が無い世界。仮想現実世界ではありますが、私にとってそこは本当に異世界でした。
「VRの世界だったら、私にも出来る事があるんですね!」
「そうだね、本当にそうだ。ヒメが楽しそうで、俺も嬉しいよ」
何もかもが、初めての経験。心が浮き立ってはしゃぐ私を、お兄ちゃんは優しい眼差しで見守ってくれました。
存分に身体を動かす事が出来るようになりましたが、私はこれまで碌に運動をした事がありません。
そんな訳で、私が選んだ武器は弓矢でした。魔法と迷ったんですけど、結局悩んだ末に弓矢にしたんですよね。
お兄ちゃんは剣と盾を武器にして、私を守って戦ってくれる。だから、私もお兄ちゃんを守る為に弓矢の練習を頑張りました。
ゲームで撮影したスクリーンショットを、プリントアウトした写真。それも、アルバムの中に収めてあります。この頃はまだ普通の、店売り装備でしたね~。
……
AWOを始めて半月くらいすると、私もお兄ちゃんと一緒にフィールドで戦闘する事に慣れていました。
お兄ちゃんは高校に進学したばかりで、色々とする事があるから少し遅れてログインします。だから夕方の六時くらいにログインする私は、一時間から二時間くらいブラブラする事にしています。
そういう時は、フィールドに一人で出るのは避けて街の中を散策します。それだけでも、私にとっては特別な体験でした。
そんなある日、私は運命の出会いをしました。
ゲームを始めたプレイヤーのスタート地点となる、始まりの町。前日の夜の戦闘で残量が減った矢を補充しようと訪れた、NPCが経営するショップに向かいます。頻繁に矢を買いに来るので通いなれたショップの扉を開けると、そこには先客がいました。
背格好はお兄ちゃんと同じくらいだけど、どことなく鍛えられた身体付きの人。真っ黒な和風の衣装と、紫色のマフラーがとても特徴的でした。
茶色の髪の毛をうなじ辺りで一つ結びにしたその人は、振り返って私に視線を向けました。目が合ったその人は、私に譲る様にカウンターの脇へと移動してくれます。
その時、私の頭の中に浮かんだ言葉は一つ……あっ、忍者だ!! というものでした。
入試対策の勉強を頑張っていた私にとって、一番の娯楽はお兄ちゃんが持っている漫画でした。そのお陰で、私は現実には存在しない忍者という存在を知っていました。
だから私は、思わずその人に質問してしまいました。思い返してみれば、それが私達の……始まりの一言。
「あの……忍者さんですか!?」
今になって冷静に考えると、初対面の人にする質問じゃない。
あの時の私は、ゲームで色々な体験が出来て浮かれていたんだと思います。だからこそ初めて会った人にまで、そんな質問をしてしまった。だって、気になったんですもん。
勿論、その人が本物の忍者なはずが無い。きっと私やお兄ちゃんと同じ、ゲームをプレイする普通の人。
だというのに、彼は私の「和風が足りないなって思っていたんです」という言葉に対して……思ってもみない反応をしてくれました。
「う、うむ。拙者も和が足りないと思っていたでゴザルよ」
その言葉を聞いた私は、確信しました……あぁ、良い人だって。
初対面で名前も知らない私の、とんでもない第一声。それに対する彼の受け答えは、私の事を思ってしてくれたものだと解りました。
口元はマフラーで隠れているから、表情の全てを見る事が出来たわけではなかったけれど……その瞳は優し気で、私の事を真っすぐに見てくれていた。お父さんやお母さん、お兄ちゃんと同じ……私の事を、思い遣ってくれている。それが、視線だけで解ったんです。
そんな彼が……ジンという名前の少年が兄のクラスメイトだと解ったのは、すぐ後の事でした。
……
アルバムを捲って、次のページ。そこには、和装姿の私とお兄ちゃん……そして、ジンくんの姿がありました。
私とジンくんが親しくなるのに、そう時間は掛りませんでした。
兄のクラスメイト、事故で右足に障害を負ってしまった被害者、元・陸上界期待の星と呼ばれた選手。
同じ極振りプレイヤー、初めてのユニークスキル獲得者、AWO初の和装プレイヤー。
一緒の時間を過ごす度に、彼の事を知る度に、私の中で彼の存在は大きくなっていきました。
私が彼の事を好きだと自覚したのは、第一回イベントの時でした。
ジンくんとお兄ちゃん……そしてダンジョンで偶然出会った、同じ学校に通うレンちゃんと、その付き人であるシオンさん。パーティを組んだ私達は、イベントの仕様で別々の場所に配置されて……そこで私は、彼が居ない事で不安や不足感を感じていました。
そして離れ離れの状態で、私はボスモンスターである朱雀の攻撃を躱せなくて……彼に会いたいと思って。
その瞬間、風が吹いて。自分の身体が、抱き上げられるのを感じて。でも嫌悪感とか、そういうのは一切無かった。
だって、それは……駆け付けてくれたのが、彼だったから。
「もし離れたとしても、ピンチの時は駆け付けるでゴザル!」
離れ離れになる寸前、彼は私にそう言って。
「約束でゴザルからな……ちゃんと、駆け付けられて良かったでゴザル」
その約束を、本当に守ってくれた。
ジンくんの事が好きだって、はっきり自覚したのはこの時だったなぁ……。
だって格好良過ぎるでしょう、ジンくんってば……その時の事を思い返せば、未だに胸は高鳴って仕方が無いんですから。
そんなジンくんだから、あんなに熱心なファンが集まっちゃったんですよ?
……
次のページには、ギルドホームをバックにした私達の写真。これは、七人でギルドを設立した後……ギルドホームが完成した記念に撮影した、思い出の一枚ですね。
一躍有名人になってしまった私達は、色々な要因が重なった結果……自分達のギルドを設立する事にしました。
その途中でジンくんのイトコであるハヤテさんと、レンちゃんと同じクラスのアイネちゃんが加わって……そうして私達は、ギルド【七色の橋】を結成しました。
ギルドホームが出来て、私のクラスメイトのセンヤちゃんとネオンちゃんがVR体験をして……そんな平穏な日常の裏で、私がある男に執着されているなんて思いもしていませんでした。
ギルド【聖光の騎士団】のメンバーだった、マリウス。第一回イベントで同じエリアに居た彼は、私をギルドに勧誘して来たプレイヤーでした。その時は、ただそれだけだと思っていたんですよね。
単独でギルドホームを訪ねて来た大男は、私に何故ギルドに来なかったのだと詰問してきて……未だにあの時の事を思い出すと、理解不能な恐怖と生理的な嫌悪感が呼び覚まされます。
意味不明な詰問をされて、お門違いな怒声を浴びせられて、ファーストキスを奪われそうになって……あれは、本当に不快な出来事でした。
そんな私が感じた不快感を……幸福で上書きしてくれたのも、やっぱりジンくんでした。
助けを求めて、彼の名前を呼んだ瞬間。彼は風の様に駆け付けてくれて、あの男を撃退してくれました。それも、私にとって忘れられない言葉と共に。
「もう大丈夫……大丈夫だよ。僕が、君を守るから」
「ヒメを泣かせたお前は、絶対に許さない……!!」
「ヒメの隣は誰にも譲らぬ!!」
彼の私に対する優しさと、あの男に対する怒り……ジンくんの言葉と行動は、私の恐怖と嫌悪感をまるごと吹き飛ばしてくれて。私の事を、大切に思ってくれているんだと実感できて。
だから、私は期待してしまった……私を、特別な存在と見てくれているかもしれないって。
「ジンさんは、私にとってのヒーローなんです」
「ジンさん、もう一回言ってくれませんか……? 私の隣は譲らないんですよね?」
期待感を込めた私の言葉は、これでもう少し……もう少しだけで良いから、ジンくんとの距離を縮めたいという想いを込めた言葉でした。
でもジンくんの返事は、私が想定していた言葉ではなくて……でも、一番期待していた言葉で。
「ヒメ……好きだよ」
その一言で私の世界は、これまで以上に彩り溢れる事になりました。
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次のページには、写真が二枚だけ収まっています。余白が目立ちますけど、勿論わざとそうしました。このページに収める写真は、この二枚だけが良かったんです。
そこには、現実とVR……二つの世界の、私と仁くんのツーショット写真が収められていました。
交際を始めてから今日まで、仁くんはお兄ちゃんと一緒に学校まで送り迎えしてくれます。それだけで、私は幸せを感じる事が出来ます。
ファーストキスは、ゲームの中でした。別行動で拗ねた私のお願いを、聞いて貰う形でしたけど……ジンくんは、緊張していた私を落ち着かせようと優しくリードしてくれました。
初めてのデート、最初に行ったのは映画でしたね。まさか、私達のアバターが宣伝映像ででかでかと映し出されるとは思っても見ませんでした。その後ご飯を食べて、仁くんのお家にお邪魔して……そして、現実でもキスをして。今思い出しても、凄く甘くて幸せな初デートの思い出ですね。
そうそう、同じタイミングでお兄ちゃんと恋ちゃん、隼さんと愛ちゃんもデートをして……そこで、それぞれカップルになったんでした。ふふっ、何だか懐かしいですね。
……
次のページには、夏休みに入った後の写真ですね。
その片方のページは、ゲームの中のもの。二人の女子大生プレイヤーが加わった、私達の写真。それとクラスメイトの二人と、一人の男の子が加わった後の写真です。
そしてもう片方のページには、現実で撮影した思い出深い旅行の写真です。
夏休みが始まってすぐに、私達のギルドにミモリさんとカノンさんが加入しました。まさかハヤテさん以外のジンくんのイトコに、ゲームの中で会うとは思っていなかったです。ちなみにこれ、更にもう一回同じことを考えるんですよねぇ。
そして私達は、皆で一緒に初音家の別荘に旅行しました。ヒビキさんと初めて会ったのも、旅行の時でしたね。
夏の旅行は、本当に楽しかったです。あの時、恋ちゃんと鳴子さんがファースト・インテリジェンスで開発中のVRギアを用意してくれて……VRゴーグルからVRギアを使うようになってからは、普段の生活や仁くんとのデートも凄く快適になったと思います。
次の写真は……夏休み終盤の、AWOの第二回イベントの写真です。
ここでも、色々な事がありました。一日に満たない時間の出来事なのに、三か月分くらいは色々あった気がしますね。
姉妹ギルドである【桃園の誓い】とは、第一回の時には既に深い信頼関係を結べていましたけど……この時は、純粋にライバルだったんですよね。あとは、後々同盟を組んだりする【魔弾の射手】。皆さんとの仲が深まったのも、ここからでしたっけ。
そして、【聖光の騎士団】や【森羅万象】……彼等との関係性が変わるきっかけも、このイベントだったと思います。
その中でも、彼は……うん、ジンくんはジンくんでした。
アーサーさんとの、一対一での戦い……あの時のジンくんは、VRMMOプレイヤーであると同時に一人の競技選手でした。アーサーさんと実力を認め合って、対等なライバルとして戦って。私はその姿を、今でも鮮明に思い出せます。
そして、ギルバートさんとの一件。まさか彼がジンくんのクラスメイトだったとは、この私の目をもってしても……。
暴言を吐かれた直後の、ジンくんの虚無を感じさせる表情は……今思い出しても、私の胸が締め付けられそうです。元々”持っていなかった”私と違って、ジンくんは”奪われる”という経験があります。その時に感じた苦痛は、私には想像できません。
だというのに……ジンくんは、真っすぐに相手と向き合う覚悟を見せてくれて。誰よりもひたむきで、そして純粋で、優しくて……。
そして、戦いが始まるその前……ジンくんは遺恨抜きで、互いに全力で立ち合う事を選びました。それがきっかけで、ギルバートさんとの関係も変わったんですよね。
そんな彼が、私は凄く誇らしくて……そして、とても愛しいんです。
ジンくんは相手を否定するよりも、相手を認める事に重きを置いている人。そんなジンくんだからこそ、様々な人との縁を結ぶことが出来たんだと思います。
何よりも嬉しいのは、そんな彼の愛情を、惜しみなく私に向けてくれている事……ううん、愛を一緒に育くんでくれている事。
……
アルバムを捲ると、そこには他の写真よりも大きくプリントアウトした写真。それは、どこからどう見ても結婚式の記念写真です。勿論、その中心に居るのは……私と、彼です。
第三回イベント、魔王の誕生日を祝うプレゼントのコンテスト。その結果発表の後で、ジンくんは私にプロポーズをしてくれました。
ゲーム内で結婚式を挙げて、私達は夫婦になって……その挙式の写真を見た私は、幸せな気持ちで満たされます。タキシード姿のジンくんはとても素敵で、その横でウェディングドレスを身に付けている自分はとても幸せそうです。
この教会……[エル・アリシア教会]を教えてくれたのは、【遥かなる旅路】のカイセンイクラドンさんとトロロゴハンさんでしたね。結婚式にも来てくれて、それから【旅路】の皆さんとの関係も深まる事になったんでした。
そうそう、あの頃はまだ変装していたユージンさんが、神父様役をしてくれたっけ。神父様の恰好なのに、サングラスを外さない理由は……後になって、変装の為だって解ったんですよね。
「汝、ジンは、ヒメノを妻とし、生涯愛すると誓いますか?」
「誓います」
「汝、ヒメノは、ジンを夫とし、生涯愛すると誓いますか?」
「はい……誓います」
それはあくまで、ゲームの中の結婚式。でも、私達にとっては……現実と同じくらい重みをもつ、婚姻の誓いの場でした。
ずっと、ジンくんを愛していく。その誓いは今も変わっていない……ううん、もっと強い想いに変化しています。
そうして沢山の人に祝福されて、私達は夫婦として新しいスタートを切りました。
……
またアルバムを捲って、次のページは……[日野市高校]の文化祭の写真ですね。皆で撮影した写真と、ジンくんとのツーショット写真。
私はジンくんと文化祭デートが出来るんだって、ウキウキしていたんですけど……その裏で、色々なイベントがあったんだって知ったのは少し後の事でした。優ちゃんと拓真さんが現実で初めて会ったのも、この時だったんですよね。
それにしても、周りの人達が凄く騒がしかった印象が強かったですね。お兄ちゃんが人気者なのは、仁くんから聞いていましたけど……一部の人は、仁くんの事を見ていた気がします。
そうそう。仁くんとお兄ちゃんの親友である、ギルバートさんとライデンさん……鳴洲さんと倉守さんに会って、仁くんとお兄ちゃんの日常が少し垣間見えた気がしましたね。隼さんと倉守さんは、ウマが合ったみたいで色々お話していました。
その後は、二人で文化祭を廻って……あ、そうそう。仁くん、出し物の輪投げで百発百中だったんだっけ。ゲームでの鍛錬が感覚として脳に記憶されて、現実でもその感覚が発揮されるんだって。凄いですよね!
あぁ、イズナさんとココロさんの事もありましたね。えへへ、仁くんと私の占いの結果が、凄く良いものだったのはとっても嬉しいです。
来年も、仁くんと一緒に……そうだ、次は初音女子大学付属中等部の文化祭に、仁くんに来て貰いたいな……♪
姫乃可愛いよ妃乃。
おっと、失礼致しました。
アルバムをめくりながら、一年の出来事について思いを馳せる妃乃ちゃんをお届け致しました。
改めて、この作品を描いていて思います……まだ一年経ってないんだなぁ……と。
2025年も本作にお付き合い下さり、重ねて御礼申し上げます。
2026年もどうぞ、【忍者ムーブ始めました】を宜しくお願い申し上げます。
それでは皆様、どうぞ良いお年を!!
次回投稿予定日:2026年1月1日(幕間・星波姫乃の独白2)




