20-25 ヘル・デュラハンを撃破しました
「ジン!? 何で【変身】を……!!」
「また、HPとAPが減っちゃうんじゃ……!!」
仲間達が驚きや困惑の声を上げる中、ジンは凄まじい速さでヘル・デュラハンに肉薄し……そして、両手の小太刀を振るう。
「【閃乱】……【一閃】!!」
ヘル・デュラハンの周囲を高速で移動しながら、連続して何度も何度もその身を斬り付けていくジン。その威力は先程と違い、普段通り【変身】を使用している時と同じだ。
そんな自身のHPを犠牲にした、捨て身のクリティカルラッシュ。これはヘル・デュラハンにダメージを与える事よりも、ヘイト値を稼いで自分にタゲを引き付ける為だ。
「ジン君……スキルが封印されて、焦ったんでしょうか?」
「ジンくんが……封印されたスキル……?」
ヒメノは夫婦である自分ならば、封印されたジンのスキルオーブが解るのでは? と考えて、システム・ウィンドウを展開。そしてジンのスキルスロットを見て……すべてを理解した。
「そっか……だから、ジンくんは……!! 皆さん、ジンくんは大丈夫です!! もう、ジンくんのAPは自然には減りません!!」
ヒメノがそう言った通り、先程と違ってジンのAPは減少していない。HPは減っているが、それは【閃乱】のクリティカル発動コストだからである。
ヘル・デュラハンに封印された、ジンのスキルオーブ……それは、【変身】だった。そこでジンは、初めて自分がどういう状況下にあったのかに気付いたのだ。
自分のスキルスロットに収められている、自前の【変身】。そして夫婦で共有する収納に収められた、≪オーブドライバー≫に装備されているヒメノの【変身】。
つまりジンは二つの【変身】スキルを保有しており……先程は、二重に【変身】していた事になるのだ。
ちなみにヒメノが≪オーブドライバー≫を入手したのは、第五回イベントの真っ最中。その時ジンはPKK作戦や[試練の塔]攻略の為に、【変身】のスキルオーブをアイネに貸し出していた。
つまり二つの【変身】がある状態で使用するのは、今回が初めてだ。だから、これまで気付く事が出来なかった。
――恐らく攻撃力や速さが強化されていたのも、そのお陰だったんだろうな……でも、それにはデメリットがあった。
恐らくは二重となったステータス強化が、ジンや変身専用装備≪風の忍鎧≫にとっては過負荷だったのだろう。
100ボルトの電化製品に、200ボルトの電圧を掛けたら故障する。それと似た様な状況だったに違いない、とジンは納得した。
だがヘル・デュラハンによって、スキルスロットに収められた【変身】が封印された。つまりこれで、普段通りの【変身】状態で戦う事が出来る訳だ。
――まぁ、予備のスロットに移動させれば良かったんじゃないかって話だけど……封印されて、初めて気付いた訳だしなぁ。
そうこうしている内に、ヘル・デュラハンのタゲはジンに向けられた。それを確信したジンは、【閃乱】による攻撃を止めて足を止める。
本来であれば、恐らく盾職が武技込みで攻撃を受け止めるのが正道。卓越した技巧を持つプレイヤーならば、【スキル相殺】を狙えばダメージを受けないで凌げるのだろう。
しかしジンならば、タゲさえ引ければヘル・デュラハンの攻撃を尽く躱せる。なにせ今のジンは、従来通りの【変身】でステータスが強化されているのだから。
「当てられるか、首無し騎士? スーパー忍者タイム、いざ……開幕!!」
ジンの挑発に応じた訳では無いだろうが、ヘル・デュラハンはジンに向けて四本腕で、更に苛烈な攻撃を繰り出していく。勿論、その攻撃はジンを捉える事は出来ない。
……
「……ヘル・デュラハンが、背を向けた!!」
「はい、今が好機です!!」
ジンを追って振り返ったヘル・デュラハンは、ヒイロ達に向けて背後を晒した。ヘル・デュラハンの注意を引き付けるジンの、狙い通りにだ。
「……ほんと、ジン君のアレに支えられてるわね、私達」
「う、うん……やっぱり、頼りに……なる、ね……」
それは【七色の橋】全員の総意であり、【魔弾の射手】やユージン・ケリィも同じ考えだ。こうしてボスの注意を引き付け、仲間達の為に絶好のチャンスを作り出す……口で言うだけならば簡単だが、それを完璧に実行できるプレイヤーはそう多くは無い。
「ここで一気に決めるべきね。皆、≪フラッグ≫を使うわ!!」
『了解!!』
「ふむ……それじゃあ俺も、ちょいと仕込みをしておこうかな」
「程々にして下さいね、ユージンさん」
そんな【魔弾の射手】の様子を見たユージンとケリィも、それぞれ攻撃の準備を開始。ユージンはヘル・デュラハンの背後に移動し、地面に何かを仕掛けていく。そしてケリィは細剣の刀身に指を当て、MPを消費して魔力を注ぎ込んでいく。
「こっからは、全力でブン殴る感じでいいッスよね。火力重視の総攻撃ッスか?」
「あぁ。まずは銃の固定ダメージで、HPを削ろう。そこから前衛と遊撃で攻撃して、締めは魔法職でトドメ……こんな感じでどうだろう?」
「良いと思うわ。それで行きましょう!」
「お兄ちゃん、私もトドメで大丈夫ですか?」
「あぁ、勿論。ヒメも前と違って、魔力ダメージを出せる様になったからね」
単純明快だが、だからこそ良い。強引に押し切れるだけのスペックがあるのならば、無理に奇を衒う必要など無いのだ。
「お願いね、レンちゃん!! 【インテリジェントアップ】!!」
「お任せします、ヒナ先輩。【インテリジェントアップ】!!」
ネオンとシスルは攻撃ではなく、レンとヒナのINT強化を選択。ヘル・デュラハンに効果的にダメージを与えるならば、この二人の魔法攻撃が有効だと判断したのだ。
「成程。それならレン、私からも……【インテリジェントアップ】」
「じゃあ、私はヒナちゃんに! 【インテリジェントアップ】!!」
更にアクアとルナも、二人のINT強化に参加。これでレンとヒナのINTは、大幅に強化されている。
「ありがとうございますネオンちゃん、お姉様」
「シスルちゃん、ルナさん、ありがとうございます! 頑張りますね!」
そして、総攻撃の準備がほぼ整った。そこでジェミーが収納から≪ギルドフラッグ≫を取り出し、それを床に突き立ててキーワードを宣言する。
「さぁ、始めるわよ!! 【A cat has nine lives】!!」
光と共に≪ギルドフラッグ≫の効果が発動し、【魔弾の射手】メンバーのステータスが強化される。彼等は即座に銃を構え、ヘル・デュラハンに狙いを定める。
「総攻撃、開始!! 銃撃部隊、頼んだ!!」
「了解!!」
ヒイロの号令が響き渡ると同時に、けたたましい発砲音がボス部屋に響き渡る。ハヤテと【魔弾の射手】、そしてユージンによる銃撃。それに加えてクベラも、カノンに手伝って貰いながら移動式大砲≪逢煙鬼宴≫で砲撃を行っている。
固定ダメージを与える一斉射撃は、ヘル・デュラハンのHPを徐々にだが確実に削っていく。
「よし!! 前衛部隊、遊撃部隊!!」
銃撃組の斉射が落ち着いた瞬間に、前衛メンバーと遊撃部隊が突撃する。
「斉射完了、これより接近戦に移ります。【オーバードライブ】!!」
銃から近接武装に持ち替えたレーナ・ジェミーやミリア、シャイン・ディーゴ・ビィト・アウスもそれに続く。
「それでは、こちらを! 【光剣】!!」
ヘル・デュラハンによりダメージを与える為に、レンは光属性魔法で【術式・剣】を発動。メンバー全員の武器に、魔力の光が宿る。
「来いッ!! 【幽鬼一閃】!!」
「【励鬼】は使ってしまいましたが……それならこちらです。【バーサーク】!!」
「参ります!! 【一閃】ッ!!」
「ブチかましてやらぁ!! 【スーパースター】!!」
まずはヒイロ・シオン・アイネ・イカヅチによる、渾身の一撃。更に召喚された【幽鬼】が戦列に加わり、ヘル・デュラハンを激しく攻め立てる。
更にセンヤやヒビキ、ナタクが追撃。そこにレーナとジェミーの≪打刀≫、ミリアの≪長刀≫、シャインの≪長槍≫とディーゴの≪両手短槍≫、ビィトの≪ハルバート≫による攻撃が加わる。それから少し遅れて、セツナやジョシュア、ニコラ・アルクが攻撃。ヘル・デュラハンのHPを削るべく、猛攻撃を仕掛けていく。
それを鬱陶しいと感じたらしいヘル・デュラハンが、振り向き様に武器を振るう……が、その攻撃に合わせてアウスが武技を発動させた。
「【ストロングガード】!!」
多少ノックバックしながらも、攻撃を受け止めたアウス。【スキル相殺】が使えない場合は、こうしてVIT上昇効果のある防御手段で凌ぐのがセオリーなのだろう。
「後退、防御態勢!!」
ヘイトがジンから自分達に移ったのを確認したヒイロ達は、ヘル・デュラハンの攻撃を警戒しつつ後退。それを追ってヘル・デュラハンが前進すると、その足元が爆ぜた。
「やはり地雷パイセン、地雷パイセンは全てを解決する」
ユニークスキル【クレストエンチャント】を駆使して、罠を仕掛けていたユージン。ヘル・デュラハンのタゲがこちらに向いた際に、出鼻を挫く為に地面に刻印を仕込んでいたのだ。
「さぁ、魔法職の皆。頼んだよ」
「それでは、行きましょうか」
魔法剣の切っ先をヘル・デュラハンに向けるのは、ケリィだ。
「【シャイニングブラスト】!!」
先陣を切るケリィの放った【シャイニングブラスト】は、通常よりも砲撃範囲が広くなっている。これは細剣に魔法をセットする際に、追加でMPを注ぎ込んで魔法そのものを強化した為だ。
「【御雷光】発動!!」
レンが精霊ライディーンの秘技と共に選んだのは、【魔法合成】で新たに生み出した合成魔法だ。
これはヘル・デュラハンに効果が見込める【シャイニングブラスト】と、自身の【御雷光】で強化が見込める【ライトニングブラスト】を融合させたものである。
「行きます! 【雷光の魔砲】!!」
そこに強化されたレンのINTが加われば、凄まじい威力の必殺魔法となる。
「私も、行きますっ!!」
ヒナが【エレメンタルアロー】を駆使して放つのは、ゴースト系やアンデッド系のモンスターに特効効果を持つ聖属性魔法。
「【ディバインフォール】ッ!!」
彼女が持つ【癒しの聖女】で、最もダメージを与えられるのがこの魔法だ。それを詠唱を省略して放つ事が出来るのは、ヒメノと共有している【エレメンタルアロー】のお陰である。
そして、三人と共に後方から強力な攻撃を放とうとするのは、ヒメノだ。
「【炎蛇】……【炎転化】!!」
矢に纏わせた【炎蛇】に、【炎転化】でMPを注ぎ込む。
ヒメノ自身のINTは、STRに比べればそう高くはない。しかし【炎転化】でMPを注ぎ込む事で、【炎蛇】によって与える炎属性魔法ダメージを強化する事が出来るのだ。流石、精霊サラマンダーが直々に与えた秘技といったところだろう。
「【スパイラルショット】ッ!!」
光の奔流と、雷光の砲撃……聖光の瀑布でヘル・デュラハンのHPが減少する中、紅蓮の炎で象られた大蛇が飛ぶ。【炎蛇】がヘル・デュラハンに命中すると共に、炎が弾けた。
ジリジリと削られていたヘル・デュラハンの頭上のHPバーは、ケリィ・レン・ヒナの攻撃を受けて一気にガクンと減少し……そしてヒメノの攻撃が命中して、完全にゼロに到達した。
が、その瞬間。ヘル・デュラハンが崩れ落ちる寸前に、その全身から青黒いオーラが噴出。それと同時に、HPが僅かに上昇した。
「おいおい……!!」
「ガッツスキルか……!!」
これで終わった……と安堵しかけたタイミングでの、ガッツスキル。ヘル・デュラハンがヘイト値を稼いだ後衛メンバーに向けて、突進しようと足を踏み出す。
「そうは問屋が卸さぬでゴザル!!」
仲間達の前に高速で移動したジンが立ち塞がり、今この瞬間まで攻撃を避け続けた成果を発揮する。
「【其の疾きこと風の如く】!!」
最終武技【九尾の狐】。【変身】によるステータスプラス100パーセントに加えて、更にステータスがプラス100パーセント。通常時の三倍のステータスとなったジンは、勢い良く跳び上がる。
「いざ、流星の如く!! 【キックインパクト】!!」
突進して来るヘル・デュラハンを、正面から蹴り付ける狐面の忍者。九尾のオーラを身に纏って放たれたそのキックは、運よくクリティカルヒットとなったらしい。激しいエフェクトを発しながら、ジンはヘル・デュラハンの残りのHPが一気に消し飛ばす。
攻撃を終えたジンはヘル・デュラハンを蹴った反動のまま、一回転しながら後方に跳んで仲間達の目前に着地する。
それと同時に今度こそヘル・デュラハンの巨体が崩れ落ち、ピクリとも動かなくなった。
『東側第三エリアボスモンスター【ヘル・デュラハン】を討伐しました』
……
ヘル・デュラハンが倒れたのと同時に、ジン達の視界が一瞬赤く染まる。これはゲーム全体における何かが起きた際に、発生するワールドアナウンスの特徴だ。
『東側第三エリア[クローカー海底洞窟]にて、エリアボス【ヘル・デュラハン】が初討伐されました』
『エリアボスの魔力で発生していた一部海域の大渦が沈静化し、船舶の航行が可能になりました』
そんなテロップによるアナウンスの後に、討伐に成功したクランやギルドの名前が表示される。それは勿論クラン【十人十色】と、【七色の橋】と【魔弾の射手】の名前である。
それを流し見ながら、ジンは首を傾げる。
大渦を生み出していたのは、ヘル・デュラハンの魔力だったらしい。そしてエリアボスを討伐した事で、大渦が収まり船での航行が出来るようになった……という事なのだが。
「……という事は、他のプレイヤーはエリアボスを倒さずとも、東側の大陸に渡航できるという事でゴザルか?」
「どうッスかね……って、ジン兄! またHPとAP減って……」
その瞬間、ジンの全身から力が抜けた。そのまま膝から崩れ落ちて、倒れ伏してしまう。
「……封印されていた【変身】の効果が、復活していたでゴザルな……」
「【閃乱】でHP激減してたから、まぁそうなるよね……」
「ジン俺恥ずかしいよ」
「ジンくーん、お注射よ~」
イカヅチにジ俺恥されたところで、すかさずミモリが≪ライフポーション注射器≫を投擲。プスッと注射器が刺さって≪ライフポーション≫が注入された事で、ジンのHPが五割回復した。
「まさか一番死なないと思われていたジン君が最初の≪ライフポーション注射器≫の犠牲者になるとは、このユージンの目をもってしても……」
「はいはい、静かにしましょうね〜」
「感謝するでゴザルよ、姉さん。いやぁ、うっかりしてたでゴザル……【変身】解除っと……」
ジンが【変身】を解除するのに合わせて、他の面々も【変身】を解除。ジンの頭に刺さった≪注射器≫は、出来るだけ見ない様にしている。
「おっ、リザルト画面……流石に、取得経験値が多いな? まぁ、この難易度だったしな……」
「本当ね。あ、SAB取れてる」
「まぁひとまず、無事に攻略完了ね。皆、お疲れ様!」
「ヒヤヒヤしたッスね……」
「っつーか、東側の大陸ってどうやって行きゃあ良いんだ?」
「んー……船を買うか、造るとかじゃないですかね?」
「つ、造る?……船、造る? やる、よ? 頑張る、よ?」
「おー、カノンがめっちゃ乗り気です!」
戦闘を終えて賑やかになる仲間達を見て微笑みながら、ジンは近付いて来るヒメノに視線を向ける。
「お疲れ様です、ジンくん」
「うん、姫もお疲れ様」
いつも通りに微笑み合う二人だが、ヒメノは若干心配そうな表情を浮かべた。
「それで、ジンくん……さっきの【変身】の事ですけど……」
「うん。正直、あれは焦ったね……多分、二つの【変身】の効果が重複したせいだと思う」
そんなジンとヒメノの会話に、近付いて来たヒイロ達も加わった。
「そういう事か……じゃあとりあえず、予備スロットにスキルオーブを移せば解決するんだな」
「うーん、単に二倍が三倍になるだけって訳じゃないんだね。解決方法があれば良いのに」
「……ふむ。その件については僕の方でも、少し調べてみよう。もう結構な時間だしね」
既に時間も遅いので、あまり長々と話し込むべきではないだろう。それを考えたユージンの言葉に、反対意見は出なかった。
「ところでエリアボスを討伐しても、先に通じる道は開けないらしいね? そして、ボス部屋の中央に転送ポイントが一つだけ……と」
ユージンの言う通り、先へ進む為の道が開放された様子は無い。ダンジョンを踏破した後、離脱する為の転送ポイントがあるだけであった。この転送ポイントは、この海底ダンジョンで下層へ移動するのに入ったものと同じものだった。
「とりあえず、ダンジョン外に出るしかありませんね。どの道第四エリアに行くには、海を渡るしか無いはずですし」
最後に何も無い事を確認したジン達は、転送ポイントに入ってダンジョンから離脱した。
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ダンジョンを離脱したジン達を待ち受けていたのは、領主が配備した見張りの兵士達だった。
「……な、何……!? 貴殿等は、先程の……」
ジン達の姿を見た兵士達は、有り得ないものを見た! と言わんばかりに目をかっ開いている。するとこの場の責任者なのか、兵士達の中でも身形の良い兵士が歩み寄って来た。
「失礼、私はこの場を指揮する【ボーバッツ】だ。君達は領主様より許可を得て、ダンジョン内に入った異邦人達だったね?」
ボーバッツの様子を見て、ジン達は「あぁ、こういうイベントなんだな」と確信した。ダンジョンから離脱したら、そこに見張りの兵士達が居るのは当然だ。
つまり彼とのやり取りの先に、第四エリア……新大陸に向かう道筋が分かる様になっているのだろう。
「もしかしてなのだが……あの、凶悪なバケモノは……」
「凶悪なバケモノ、か……それは、ヘル・デュラハンの事で良いですね?」
「あなた達の考えている通り、ヘル・デュラハンなら私達で退治したわ」
ヒイロとジェミーがそう言うと、兵士達は顔を見合わせ……そして、歓声を上げた。
「なんてこった! こいつは一大事だぜ!」
「異邦人ってのは、とんでもねぇな! あの怪物を倒しちまうなんて!」
「おい、誰か早馬を走らせろ! 領主様にご報告しなければ!」
喜びながら盛り上がる兵士達を見て苦笑したボーバッツは、改めてヒイロ達に視線を戻した。
「本来ならば今すぐ領主様の下へ案内したい所だが、君達も戦いで疲れている事だろう。話は通しておくので、休息を取ったら領主館に顔を出してくれ」
今すぐ来いと言わない辺り、ボーバッツは自分達に敬意を以って接しているのだろう。そう察したジン達は、了承の言葉を伝える。
するとボーバッツは兵士達を一喝して、整列させる。そして兵士達が整然と並んだところで、ボーバッツが声を張り上げた。
「彼等の力を称えると共に、この地を守る者の一人として、心からの感謝を!!」
『ハッ!!』
一斉に背筋を伸ばし、右手を左胸に当てる兵士達。それはこの地の兵士達の敬礼に等しいものであり、ジン達に対する敬意の証明なのだろう。
ジン達は兵士達と同じ様に胸に手を当てて、一礼する。どうやらその応対は間違いではなかったようで、兵士達は一様に笑顔を浮かべていた。
そうしてジン達は兵士達に見送られながら、[ウィスタリア森林]の拠点へと戻る事にしたのだった。
次回投稿予定日:2025/11/10(本編)




