20-22 第三エリアボス戦が始まりました
一番最初にエリアボスの部屋に到着したのはジン達だったらしく、まだクランメンバー達の姿は無い。そこでジン達はエリアボスの間の前で待機し、仲間達の到着を待つ事にした。
「これならMPも、自然に回復できそうですね」
「≪MPポーション≫が節約できるでゴザルな」
MPの自然回復は、一分に1ポイントずつ。ただし、座っている間は三十秒に1ポイントになる。今居る場所は安全地帯らしいので、これ幸いとジン達は腰を下ろして休息をとる事にした。
和気藹々とした雰囲気で会話を楽しんでいると、そこに一組のパーティがやって来る。ジン達の姿に気が付いて、真っ先に声を上げるのは緑髪の女性。
「ジン君達! やっぱり、皆が先だったわねぇ」
姿を見せたのは【七色の橋】とフリーランスのメンバーで構成された、ユージン率いるパーティだ。見た限りではいつも通りの様子なので、そこまで苦戦した訳ではないのだろう。
「やぁ、皆。待たせてしまったかな?」
「拙者達も、先程ここへ来たばかりでゴザルよ」
「皆さん、お疲れ様ですっ♪」
ジン達のパーティのすぐ横まで来ると、二組目のパーティメンバーも腰を下ろしてしばしの休息に入る。
「姉さん、≪ポーション≫の在庫はまだ大丈夫でゴザルか?」
「うん、大丈夫! 普通の≪ポーション≫は、そんなに使っていないからね」
ミモリの発言を受けて、ヒメノ達が苦笑した。彼女が口にした、普通じゃない≪ポーション≫……つまり≪ポーション注射器≫は、それなりに使ったという意味が込められているのに気付いたからだ。
実際に同行したメンバーも、一部を除いて苦笑いを浮かべていた。
「そちらもやはり、エリートゴブリンやリビングアーマーとの戦闘だったのかな?」
「えぇ、その通りです。やはり攻略する為の推奨レベルが、上がっているっぽいですね」
「同感だ。こうなるとエリアボス……デュラハンも、恐らく一筋縄ではいかないだろうね」
「僕もそう思います。他のパーティが合流したら、ハヤテも交えて攻略情報の擦り合わせをしましょう」
VR・MMO歴の長いナタクと、VRは初めてだがビデオゲームの知識はそれなりにあるディーゴ。二人は今回の道中で感じた事……攻略難易度の引き上げについて、話し始める。ナタクの隣に腰を下ろすネオンは、彼氏の真剣な表情を見て穏やかな笑みを浮かべていた。
――最初の頃に比べて、たっくんは凄く積極的になったな。
転生前……マキナだった頃は、どちらかと言えば受動的だったナタク。しかし彼は転生して、仲間達と様々な出来事を乗り越えて来た。そのお陰かネオンの為に、ギルドやクランの仲間の為に強くなろうと努力を積み重ねて来た。そして今ではハヤテに並ぶ、ギルドのブレーン的ポジションになったのだ。
実際に彼はクラン内の知見者と意見の擦り合わせをしたり、新しい情報を収集したりと活躍している。その力量は、誰もが認めているのだ。そんな彼氏が、ネオンにとっては誇らしい。
……
それから数分して、ハヤテが率いるパーティが……そしてすぐに、ヒイロとジェミーが率いるパーティが合流。これで、今回のレイド戦に挑む四組のパーティが揃った事になる。
本来はもう一パーティがレイドパーティに加わる事が出来るのだが、メンバーの都合上それは適わなかった。【七色の橋】も【魔弾の射手】も、少数精鋭である事が大きな理由である。
「よーし……HPもMPも、全員満タンだね?」
「えぇ、それに装備やアイテムの確認も完了です」
準備を終えたレイドパーティメンバーは、巨大な扉の前に集合している。既にレイド戦に向けた陣形で、扉を開けてすぐ戦闘開始になっても良い態勢だ。
「それじゃあ、皆……準備は良いかな?」
ジェミーがそう問い掛ければ、メンバーは力強い笑みを浮かべ首肯する。それを確認した彼女は、隣に立つヒイロに視線を向けて笑顔で頷いた。突入の合図は、ヒイロに任せる……という意思表示だ。
そんなジェミーの意図を察したヒイロは、彼女に頷き返すと仲間達に向き直る。
「それじゃあ、長かったダンジョンアタックも終盤……エリアボス戦を始めよう!!」
『おーっ!!』
両開きの扉の左右を、ヒイロとジェミーが軽く押す。すぐに扉はひとりでに開いていき、エリアボスの部屋が開放された。
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ボス部屋の中に入ると、壁に設えられた燭台に火が点る。誰も火を点けていないので、現実であればホラーな光景なのだが……流石にゲームで似たような経験を何度もしているので、誰も恐怖心や驚きは感じていなかった。
その部屋の中央に、大きな鎧があった。その鎧は、床に突き刺した大剣に手を添えながら佇んでいる。そしてその鎧は、頭部……兜が無く、首から下しか存在していない。これが、エリアボスである事は明白だ。
盾職と前衛役が警戒しながら前進し、鎧まであと十メートル程に差し掛かる。その瞬間、開け放たれていた入口の扉が勢い良く閉まり……そして、鎧が動き出した。
床に刺さっていた大剣を右手で握り、勢い良く引き抜く鎧……第三エリアボス【ヘル・デュラハン】が、侵入者に対して構えた。
「来るぞ、まずは攻撃パターンの把握だ!!」
「盾職は前進して、攻撃を防御!」
そう言った瞬間、ヘル・デュラハンはその場で大剣を力強く一薙ぎした。距離がある為に最前にいる盾職にも当たらない攻撃だが……その薙ぎ払いによって発生した衝撃波の様なものが、レイドパーティ全体に襲い掛かる。
「う……っ!? これは……!!」
「ダメージは、大した事が無いけど……状態異常に……っ!!」
衝撃波に接触したプレイヤーのHPバーの下に、デバフが付与された事を示すアイコンが表示される。与えられた状態異常は【呪い】……プレイヤーにVIT・MNDのステータスダウンに加え、被ダメージ増加と回復量低下を与える実に厭らしい効果だ。
衝撃波が収まるや否や、ヘル・デュラハンは一歩一歩レイドパーティに向けて近付く。その前に立ちはだかる盾職メンバー達だが、彼等も当然デバフを受けている。それぞれのVIT値も下げられている為、まともに受ければ大きなダメージを受ける可能性がある。
だが、それはあくまで状態異常のままであればの話である。
「呪いには、これねっ!!」
すかさず≪注射器≫を投げて、盾職メンバーの呪い状態を解除するミモリ。この≪注射器≫の中身は、≪聖水≫という解呪効果のある液体だ。
「感謝致します、ミモリ様」
そう告げて前に出るシオンは、大盾≪鬼殺し≫を構える。それはヘル・デュラハンが、大剣を振り下ろすタイミングと同時だった。
その巨体から繰り出された攻撃を、シオンは涼しい顔で見事に受け止め切る。状態異常が解呪された状態ならば、シオンのVIT値で防げない物理攻撃は殆ど無いだろう。
そんな大振りな攻撃を繰り出した直後の今が、攻撃の好機。攻撃を受けたシオン以外の盾役……ヒイロとヒビキ、ジョシュアが動く。
「【一閃】!!」
ヒイロはユニークスキル【千変万化】の力で、大盾を大太刀に変化させた。渾身の力で放ったその【一閃】は、クリティカルヒットになり激しい閃光が発生する。
「はあぁ……っ!! 【ナックル】!!」
「喰らいな、デカブツ!! 【一閃】ッ!!」
更にヒビキの拳と、ジョシュアの大太刀がヘル・デュラハンに命中。そのHPバーは、僅かではあるがしっかりと減少した。
「ふむ……思ったより、普通か。ジェミーさん!!」
「了解!! 次は私達よ……一斉射撃、開始!!」
盾職メンバーの反撃と同時に、ジェミーは銃撃舞台に号令を出す。その声に従い、ヘル・デュラハンに向けて【魔弾の射手】とハヤテ・ユージン・クベラが射撃を開始。夥しい数の銃弾が、ヘル・デュラハンに襲い掛かる。
ちなみにユージンが射撃に使用しているのは、≪銃刀≫や≪ガトリングガン≫ではない。第五回イベントのガチャチケットで手に入れた≪壊れた発射機構≫で、新たに製作した≪TAR-21型アサルトライフル≫だ。
殺到する弾丸を受けるヘル・デュラハンのHPバーが、また僅かに減少する。その減少量を見る限り、先程のヒイロ達の攻撃とそう差は感じられない。
「遠距離攻撃に対しても、特別な耐性は恐らく無い……固定ダメージも、ちゃんと通るわね。次は、遊撃役の皆ね」
ジェミーの言葉通り、仲間達の攻撃と同時にジン達も既に動き出していた。盾役が反撃している間に呪い状態を回復し、銃撃の間に移動を開始。ヘル・デュラハンの左右に分散した遊撃メンバーは、挟撃する形で攻撃態勢に入る。
「銃撃が中断した……今でゴザル!!」
右側からはジン・アイネ・ナタク&ドッペルゲンガーが、万全の態勢でヘル・デュラハンに迫る。同時に左側からはセンヤとケリィ、リンとロータスが接近していく。
抜刀術の構えで駆け出すセンヤと、魔法を剣に纏わせたケリィ。リンは両手に小太刀を、ロータスは麻痺毒を仕込んだ短刀を携えて二人に続く。
そして遊撃役が左右から同時に、攻撃を仕掛ける。
ジンの【一閃】を皮切りに、アイネの薙刀とナタク&マキナの短槍による【一閃】。更にセンヤの【チェイサー】を発動させた【一閃】と、ケリィの魔法剣。リンとロータスも、各々の武器による【一閃】を叩き込む。
遊撃役はそのまま追撃はせずに、勢いのままに駆け抜けてヘル・デュラハンから距離を取る。
「手応えは、リビングアーマー達と特に変わりませんね……」
「ですね!」
物理攻撃によるダメージの通りを確認した所、物理ダメージは等倍で与えられる事が確認出来た。となれば、次は魔法攻撃だ。
「私達の番ですね」
レンの周囲に集まっているのはネオン・ルナ・アクアと、ヒナ・シスル。そして、物理主砲役のヒメノだ。
まだ呪い状態ではあるものの、INTには影響が無い。元より後衛ポジションなので、盾役が止めてくれればダメージは受けずに済む。故に、後方支援組は回復を後回しになっている。
既にレンは雷属性の【術式・陣】を発動し、魔法詠唱も完了済み。他の面々も、レンの【雷陣】の恩恵を得られるように雷属性魔法の詠唱を完成させている。
「行きます! 【ライトニングジャベリン】!!」
レンの【ライトニングジャベリン】を皮切りに、魔法職メンバーの雷属性魔法が次々と放たれる。ヒメノも魔技【雷蛇】で、共に攻撃に参加している。
次々に放たれる、雷属性魔法攻撃。ヘル・デュラハンはその攻撃を次々と受けて、更にHPバーを減少させていく。
「うーん……レンちゃん。どうやら、魔法抵抗も特には無いみたいかな?」
「そうね? 鎧のボスだから、物理か魔法に耐性があると思ったのだけれど……」
特に今の攻撃には、INT特化のレンが【雷陣】を駆使して放ったものだ。故にヘル・デュラハンのHPはようやく一割程度を削ることに成功し、その結果レンがヘイトを稼いで標的になった。
「そうはさせません、【ウォークライ】!」
すかさずシオンが【ウォークライ】を発動し、ヘイトを自分に集中させようとする。しかしヘル・デュラハンはシオンに見向きもせず、レンに向けて歩き始めた。
しかし首無し鎧の巨体が着々と迫っても、レンは全く動じていない。この程度の事で慌てる程、ヤワな攻略はして来ていないのだ。
だが、その行動に疑問点は残る。
「純粋なプレイヤーの行動でしか、ヘイトが溜まらないのかしら……?」
瞬間、ヘル・デュラハンの行く手を遮るように、宙に躍り出るのは勿論……AWOで、最も有名な忍者だ。
「鎌鼬の如く! 【狐風一閃】!!」
ヘル・デュラハンの胸元に叩き込まれる、真空の刃。だが、ジンの行動はまだ終わっていない。
「【狐雷】!! からの……【狐火】!!」
投擲した苦無で【狐雷】と【狐火】を同時に発動させ、状態異常を与える行動を駆使してヘイト稼ぎ。これは例えエリアボスであろうと、ジンの機動力ならば問題無いという確信からの行動だ。
ジンの猛攻が始まったのを確認して、レン達は≪収納鞄≫から≪聖水≫を取り出す。
「ジンさんなら、きっと大丈夫なはず。今の内に全員、状態異常を解いておきましょう」
ジンの怒涛の攻撃が始まって、少し。ヘル・デュラハンも行く手を阻むジンが鬱陶しいのか、その大剣で薙ぎ払い攻撃を繰り出す。だが、それもジンの誘い水である。
「【アサシンカウンター】」
バック宙返りで大剣を避けたジンは、【アサシンカウンター】のカウンタータイムに突入。着地前に【天狐】を発動し、そのままヘル・デュラハンに肉薄する。
「【空狐】!! 【ラピッドスライサー】!!」
怒涛の連続斬りを繰り出して、ヘル・デュラハンに夥しいダメージエフェクトを刻み付けていく。現在はステータス強化スキルを発動していない為、通常状態での連撃。故にヘル・デュラハンに与えたダメージは、そう大きくはない。
だがしかし、ヘイト稼ぎは無事に成功したらしい。ヘル・デュラハンのタゲが、ジンに向けられた。
そうして始まる、ジンの超回避戦術。ヘル・デュラハンのタゲを引き付けつつ、仲間達が攻撃を成功させる為の隙を作っていく。既にレイドパーティメンバー全員が呪い状態を解除に成功しており、万全の態勢で攻撃に移れる状態となっていた。
「流石、スーパー忍者。それじゃあ、攻撃役の皆! 出番だ!」
「っしゃあ!!」
「ふははっ、ようやくか!!」
「了解、前に出ます」
イカヅチが気合十分で前進し、その左右をセツナとアルクが固める。ジンが作った隙を突いて、渾身の攻撃を叩き込む。
そして、攻撃役は前衛だけではない。
「【スパイラルショット】!!」
「と、届いて……っ!!」
STR極振りなお姫様が放つ矢は、唸りを上げてヘル・デュラハンの右肩部を抉る。そしてトップクラスの鍛冶職人が自ら鍛造した投擲専用の≪モーニングスター≫が、ヘル・デュラハンの胴体に見事命中した。
更に銃撃部隊や遊撃部隊も攻撃に加わり、徐々にヘル・デュラハンのHPが減少し残りは八割程度だ。
その間に、陣形の中心に集まる知恵者達が意見を擦り合わせる。
「特に、目立った耐性や特殊行動は見受けられない……かな?」
「強いて言うなら、最初の呪い付与……それと、ヘイトスキルの無視かしら?」
「同感ッス。正直、構える程のモンでも無いッスね」
「エクストラやらイベントやらで、エリアボスの難易度を高く見積もったかもしれないね」
これならば、力押しで討伐出来るのではないか。そう考えるくらいには、ヘル・デュラハンは普通のボスに思える。
そんな仲間達の様子に、特に口を挟まないカイル・アクア・アウス。運営メンバーである三人は、純粋な戦力としてのみ参加する形だ。つまり攻略手段や、戦術に関しては一切口を出さない。指示に沿った行動をするだけ、という取り決めがされている。
これは、運営メンバー……それも責任者クラスの人間として、決して越えてはならないラインである。その実情を知るクランメンバーは、【七色の橋】【魔弾の射手】【桃園の誓い】と、温泉旅行にも参戦したリリィ・クベラ・コヨミ。そして、何故か知っているユージン・ケリィである。
つまり今回のレイドパーティでは、全員が三人の立場について知っている。
そして、レンはそんな三人の様子を見て確信していた。まだ、恐らく何かがあると。
――こちらの会話に参加しないのは勿論、感情も表さないのは流石ではありますが……同時に、隠し切れていないものがある……。
レンが感じ取ったそれは、強い警戒心だった。三人はこの先に待ち受ける何かを知っているからこそ、万全の態勢で攻撃や回避に集中しているのだ。
とはいえ、何かがあるのは間違いない。しかしそれが何かを推し量るのは困難だし、運営トップである三人は決して口にしない。勿論レンとしても、初音家の人間である三人にそんな真似をして欲しくは無い。
だから今は、あえて楽観的な意見に冷や水を浴びせるくらいしか出来ない。
「何が、とは言えませんが……これで終わる様なボスでは無いと思います。何かがあれば、即座に防御か回復が出来る体勢にすべきかと」
AWOで誰もが認めるトップギルドのサブマスターであり、初音家の令嬢に相応しい教育を受けて来たレン。そんな彼女の言葉を軽視する者は、一人も居ない。
レンの言葉を受けて、ヒイロは弛緩しそうだった緊張感を引き締め直す。
「レンがそう言うなら、何かあるかもしれない。ヒナ、いつでも回復魔法を発動できる様にして貰って良いか?」
「はい! レンお姉ちゃんが言うなら、何かあるかもですよね!」
「……ルナちゃん、念には念を入れましょうか」
「了解です、ジェミー先輩! 私もいつでも回復できる様に、準備しておきますね」
「ミモリ君、二人の回復が間に合わないメンバーには……」
「えぇ、勿論。すぐに≪ポーション≫で回復させます」
自分の言葉を、こうもあっさり受け入れる面々。しかしむず痒くはあるが、その信頼は素直に嬉しくもあり……レンはその高揚感を燃料代わりにして、更に思考を巡らせる。
――ここまで初撃の呪い付与以外に特殊な挙動も無し、ダメージに対する耐性もリビングアーマーとそこまで変わらない。でも、何か違和感がある……?
慎重にヘル・デュラハンの様子を窺うと、丁度ジン……そして、その最愛の少女が最高に噛み合った連携を繰り出す段階に移行していた。
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「今でゴザル、姫!!」
「はいっ!! 【炎蛇】……からの【スパイラルショット】!!」
魔技【炎蛇】を発動させた状態での、多段攻撃【スパイラルショット】。【炎蛇】を纏った矢が突き刺さり、ヘル・デュラハンのHPはいよいよ四分の一まで減少している。
ここで、ヘル・デュラハンの挙動に変化が起きた。ジン達の攻撃を一切意に介さずに、大剣を構えているのだ。
「むっ、この構えは……!!」
それは戦闘開始のタイミングで使用した、呪いを付与する攻撃の構えと同じだった。勿論、注意深くヘル・デュラハンの行動パターンを見ていたハヤテやナタクも、それに気付く。
「状態異常攻撃が来る!! 盾職の皆!!」
「遊撃役は距離を取って!! 攻撃役、防御態勢!!」
そんな指示が飛んだ直後に、ヘル・デュラハンが衝撃波を放つ斬撃を繰り出した。前方に向けて扇状に広がるその攻撃は、遊撃メンバー以外を呑み込んでいく。
「ダメージを受けてHPが減った所で、再び状態異常攻撃……といった所でしょうね」
「僕もそう思います……それと、行動パターンの変化もあるでしょう。ここから、新しい攻撃を使う可能性があります」
アイネとナタクの会話を聞きながら、ジンはこの状態異常攻撃について考える。ただ呪い状態にするだけの攻撃を、わざわざ何度も放つだろうか? と。
ともあれ、今は行動あるのみ。折角呪い状態を回避したのだから、この場は遊撃メンバーが引き受けるべきだ。
「遊撃役、タゲ取りでゴザル!!」
そう口にして駆け出したジンに、アイネ・センヤ・ナタク・マキナ・ケリィ・リン・ロータスも続く。それぞれ深追いはせずに、攻撃してすぐに距離を取って反撃を喰らわない様に注意していた。
しかし遊撃役の攻撃を意に介さず、ヘル・デュラハンは他の面々の居る方へと歩みを進めている。流石に先程のジンの様に一分足らずとはいかないが、既にヘイトは十分稼げているはずであっても挙動は変わらず。
その様子を見て、ケリィは「もしかして……」と呟く。
「ケリィさん、何か気付いた事でもあるんですか?」
ヘル・デュラハンに攻撃を叩き込んで距離を取ったセンヤがそう問い掛けると、ケリィは状態異常を回復していくメンバーに視線を向けながら頷いた。
「可能性の段階ではありますが……このボスが標的にするのは、呪い状態になった者が優先されるのではないでしょうか?」
最初に呪いを付与された状態で、魔法攻撃でヘル・デュラハンのヘイトを上げたレン。彼女が標的になった際に、シオンが【ウォークライ】を発動させたが……しかし、ヘル・デュラハンがシオンを標的にはしなかった。
「あの時、シオンさんは状態異常を解呪済みでした。もし呪い状態のままだった場合、【ウォークライ】も効果を発揮していたのではないかと」
「そう言えば……主様が標的になったタイミングは、確かに全員が呪い状態を解呪した直後でした。可能性は、大いに有り得ますね」
ケリィとリンの考えを耳にしたセンヤは、驚きつつもすぐに意識を切り替える。
「な、成程っ!! ジンさん、アイちゃん、ナタクさん!!」
「聞いていたでゴザルよ!! ロータス、今の話をレン殿達に伝えて欲しいでゴザル!!」
「承知致しました、ジン様」
ケリィの予想が正しいならば、ヘイト管理をするには呪い状態が最も重要な要素となる。その仮説を検証するかどうかの判断を、知恵者達に判断して貰うべきだとジンは考えた。
そんなジンの指示を受けて、ロータスは颯爽と後方へ向けて駆け出した。
次回投稿予定日:2025/10/30(本編) → 2025/10/25(本編)




