20-21 幕間・ダンジョンに挑む者達3
ジン達のパーティが中層を攻略している、その頃。
「あー、疲れる……大量のモンスターとの戦闘の次は、面倒なモンスターとの連戦ってさぁ……」
そうぼやくのは、【桃園の誓い】結成時からのメンバーであるゼクスだった。
序盤の階層では、他のマップでも戦う機会があるリザードマンとの戦闘。ただしリザードマンもゴブリン同様に強化されており、【グレートリザードマン】として進化していた。
そして中層に入ってからは、毒攻撃を多用するモンスター【コカトリス】が出現。これによって、≪解毒ポーション≫や≪HPポーション≫の消費が増えているのだった。
「とりあえず、回復しましょう。苦戦しているのは、他のメンバーも同様でしょうね……そして、恐らくは他の地域のダンジョンも」
アナスタシアが回復魔法の詠唱を始めつつそう言うと、チナリとマールも頷いて同意を示す。
「第三エリアのダンジョンでも、群を抜いて攻略難易度が高いんじゃないかしら」
「もっと言えば、現時点で発見されているどのダンジョンよりも……ね。流石にエクストラクエストのダンジョンは、どうか解らないけど」
そう口にしたマールがゼクスに視線を向け、言外に「そこのところはどうなのかしら?」と問い掛けていた。見ればアナスタシア・テオドラ・エウラリアも、ゼクスの返答を待っている様だ。
「エクストラクエストのダンジョンは、道中は普通のダンジョンと変わんねーぞ? エクストラボスが大体ギミック持ちで、特定の条件を満たさねぇとダウンしないんだ」
それを考慮すると、道中の攻略難易度はエクストラクエストのダンジョン以上という事になる。それを聞いた面々は、何とも言えない表情だ。
「言い方が悪いかもだけど、私達でこれだけ苦戦するとなったら……他の勢力が攻略するの厳しいんじゃないですかね?」
テオドラがそう言えば、エウラリアはうんうんと頷く。
「私達はかなり恵まれてる側だもんね? 【十人十色】に加入出来て無かったら、装備の強化も中途半端だっただろうし……それに、これだけの≪ポーション≫を収納鞄に入れていなかったはずだし」
「そそ。あと、ゴハンもだね」
通う学校は違うが、二人は同じ大学一回生。同じ年で気が合うらしく、親しい友人同士の関係らしい。もっとも気が合うとはいえど、テオドラと違ってエウラリアは特定人物に百合的な感情を抱いてはいないが。
それは置いておくとして、テオドラは右手の人差し指をピンと立てて、ある事について口に出す。
「だから、何か救済措置とか隠されてそうじゃないですか?」
テオドラがそう言うと、ゼクス達は目を丸くした。最初に、ダンジョン攻略に救済措置? と思い……しかし、この難易度では最前線クラスの勢力でなくては攻略は無理では? とも思うのだ。
実際に、今回のダンジョンの攻略に必要な条件は少なくない。これまでのAWOでも、最高の難易度であるのは間違いないだろう。
「救済措置か……例えば、どんなのが考えられるんだ?」
「え? あー、済みません。結構適当に思い付いたんで、どんなと言われても……」
苦笑して頭を掻くテオドラに、ゼクスは「あー、まぁそういう事もあるよな!」とだけ言って頷くに留めた。
――ここで「何だよそりゃあ」とか言わないのは、流石ゼクスさんだよなぁ。
アナスタシアとテオドラ・エウラリアは、ジン達からも良き兄貴分として慕われるだけある……と感心するばかりだ。こういう人柄だから、男性プレイヤーから迷惑を掛けられた彼女達も警戒せずに済む。それにゼクスはチナリ一筋だと解っているので、そういった面でも安心だ。
ちなみに余談だが、ゼクスはケインが相手の場合ならば遠慮せずにツッコミを入れる。それは、気安い親友関係だからこそだ。
そこで、マールがぽつりと呟いた。
「……領主の兵士。もしかして、応援者として借り受ける事が出来たりしないかしら?」
それはゼクスにも、テオドラやエウラリアにも予想外の考えだった。
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【アナスタシアチーム】
アナスタシア・テオドラ・エウラリア
ゼクス・チナリ・マール
PACラウラ・PACロベルト・PACリューシャ・PACベルナデッタ
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その頃、同じダンジョンを攻略中の面々。
「バフは私が! コヨミさんは、デバフをお願いします!」
「了解です! よーし、それじゃあ行くよっ!」
リリィが新装備≪神聖笛ユニコーン≫で【行進曲】を奏でる傍らで、コヨミは≪魔楽器・六弦琴≫で【子守歌】を演奏。コカトリス一体が睡眠のデバフを受け、動きを止めている。
その隙にイザベル・スピカ・リゲルが、もう一体のコカトリスに向けて突撃。更に弓使いのアリッサと攻撃魔法を得意とするメリダ、イザベルのPACとなった魔法職・エカテリーナの援護を受けて猛攻撃。
みるみるうちにコカトリスのHPが減少し、そして倒れ伏した。
「はっや……≪魔楽器≫持ちが二人居ると、効率がエグいね」
そう呟いたのは、アリッサのPACであるミッシェルと共にリリィとコヨミの護衛をしているネコヒメである。
彼女の言う通り、一体を討伐するまでにかかった時間はものの数分だ。しかもコカトリスの毒に掛かっても、即座にエカテリーナが解毒する。
特筆する点は、やはりリリィの新装備……エクストラアイテム≪魔楽器・笛≫と、ユニーク素材≪完全な一角獣の角≫を用いて生まれ変わったユニークアイテム≪神聖笛ユニコーン≫だろう。
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ユニークアイテム≪神聖笛ユニコーン≫+1
効果:INT+105%、MND+105%、MP+105%
回復魔法効果+55%、支援魔法効果+55%、水属性魔法効果+55%
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武装スキル【術式・角】
説明:属性を選択し、貫通性能を有する魔力の角を射出する。
効果:消費MP5、詠唱破棄。
武装スキル【浄化】
効果:自身を中心として、半径11m以内にいる味方の状態異常を即座に解除する。
消費MP50。
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ユニークアイテムの力は、やはり伊達では無かった。ステータス強化は神話系スキルレベルで、支援を得意とする魔法職ならば喉から手が出る程に欲しい逸品。
そしてリリィが元より保有していた魔法スキル、【癒しの旋律】と【魔楽器の心得】……この二つとの相性が、恐ろしい程にピッタリである。
――このピッタリ具合、ジンさん達を思い出すなぁ。
今度は口に出さず、ネコヒメは心の中でそう呟く。プレイスタイルや性格にマッチした、ユニークスキルやユニークアイテムを手に入れる……そんなプレイヤーが、自分達のすぐ側に何人か居るのだ。
類は友を呼ぶ、というのはこういう事か? などと考えつつ、ネコヒメはコカトリスの動きを警戒する。
生産職である自分があまり戦力にならないのは、承知の上だ。それでも大切な仲間達の足を引っ張るのだけは、絶対に避けたい。
ともあれ今は、リリィとコヨミの護衛だ。二人には指一本触れさせないと、ネコヒメは気を引き締めた。
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【アリッサチーム】
アリッサ・イザベル・メリダ
リリィ・コヨミ・ネコヒメ
PACミッシェル・PACエカテリーナ・PACスピカ・PACリゲル
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一方、南側のダンジョン。ここはダンジョン内に水辺があり、現れるモンスターも人型はサハギンの進化した【アビスサハギン】……そして中層から出現する強敵枠は、【シーサーペント】だ。
そんな強力なモンスター達は、今……素早い動きで刀を振るうプレイヤー達に、翻弄されまくっていた。
「右は頼むぞ、ジライヤ」
「あぁ、会長! 心得ている!」
【忍者ふぁんくらぶ】会長であるアヤメと、攻略最前線にかつて居たジライヤ。二人はそのAGIを活かして、シーサーペントの攻撃を避けて避けて避け続ける。
そして注意がそちらに向いている間にコタロウとココロ、そしてもう二人のプレイヤーが近接攻撃。後方からはイズナと、残るメンバーによる弓矢・投擲物・魔法での支援だ。
もしその戦闘を観戦している者が居れば、実にスピード感溢れる戦闘シーンと思って感心するだろう。しかしそうでは無い事を、誰よりもアヤメ達自身が実感していた。
――やはり硬いモンスター相手では、火力不足は否めないか……。
イナズマを除く【忍者ふぁんくらぶ】のメンバーは、AGI重視のビルド。その結果、弱いモンスターならば数が居ても問題無いが、極端に硬いモンスターが相手となると討伐までに時間が掛かるのだ。
今回の相手、シーサーペントはその体表を硬質な鱗で覆ったモンスター。【忍者ふぁんくらぶ】との相性は、地味に悪い。
そうなると頼れるのは、相性はあれど一定のダメージを出せる攻撃……投擲物による攻撃である。
「イズナ、≪焙烙玉≫の残数は?」
「残り、十五です!」
アヤメが言及した≪焙烙玉≫は、【七色の橋】の≪爆裂玉≫や【魔弾の射手】が使用する≪手榴弾≫と同じ爆弾系投擲アイテムだ。その破壊力でモンスターを一網打尽にしたり、硬いモンスターのHPを削ったりと用途は多い。
だがこの先に待ち受けるエリアボスとの戦闘で、≪焙烙玉≫は重要な切り札。ここで使用すべきかどうか、アヤメは攻撃を避けながら熟考する。
そうして彼女が導き出した、その結論。
「コタロウ、ココロ! 先にあちらを叩け!」
「「承知!!」」
火力が足りないならば、一体に火力を集中させれば良い。その間は、アヤメがシーサーペントを引き付ける。それが可能な自信が、彼女にはあった。
それは、ジンとの対話だ。彼と話す中でアヤメは、その回避技術……コツについて、伝授されているのである。
――プレイヤーと違い、モンスターは視線での誘導は無いわ……フェイントの動作がこのダンジョンから追加されているが、手練れのそれと違い大分素直。頭領様から教わった、視線や予備動作の向きで……攻撃の軌道を予測すればッ!!
一人でシーサーペントの相手を引き受ける事にしたアヤメは、その判断力と反応速度を最大限に駆使し、ジンから教わったコツを活かして立ち回る。
シーサーペントの攻撃は全て空を切り、アヤメを捉えるには至らない。更にヘイト管理目的でのカウンターも入り、シーサーペントはアヤメに釘付けだ。
意識を集中させる傍ら、アヤメは流石はジンだと驚嘆する。そして同時に、彼の目指す道……未来の金メダリストを育てるという夢も、遠い未来の事では無いかもしれない。
アヤメに分かりやすい様に、丁寧に説明する姿。それを思い起こしたアヤメは、ジンが良き指導者になるだろうと確信するのだった。
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【アヤメチーム】
アヤメ・イズナ・ココロ・コタロウ・ジライヤ・他5名
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そして、ジン達と同じ東側のダンジョン。リビングアーマー達を倒しながら、邁進するパーティが居る。
「オラァッ!!」
「ほいっと」
片や豪快で威勢の良い、片や余裕を感じさせる気楽な掛け声。豪快な声の主が振り下ろした≪長巻≫が、リビングアーマーのHPを削る。余裕がある声の主は銃剣を振るって、クリティカルヒットを発生させていた。
「ナイスよ、イカヅチ君!」
「ユ、ユージンさんも……流石、だね……」
「今だ……っ!!」
「えぇ、行きましょう」
「行くわね、マスター」
イカヅチとユージンがリビングアーマーの動きを止めた瞬間に、ナタクとケリィ……そして、クベラのPACエリーゼが前進。一気に距離を詰めて、その武器で攻撃を繰り出していく。
エリーゼは盾と槍を装備した盾職ではあるが、防御を考えなくて良いのならば前衛職としても動ける。彼女が攻撃に加わる事で、リビングアーマーのHPはどんどん減っていく。
その後方で、魔法の詠唱をするネオン。選択した魔法は、勿論回復魔法だ。
「【メガヒール】!!」
そして同様に、【回復魔法の心得】を保有しているミモリ。しかし彼女のスキルレベルはそこまで高くなく、その回復量……つまりリビングアーマーに与える回復ダメージは、そこまで期待できない。
だがしかし、彼女はそれでも回復役としての立ち回りが出来る。魔法ではなく、アイテムを駆使してだ。
「えいっ!!」
ミモリが投げたのは、先端に針が付いた筒状の何か。その筒は透明になっており、中に入っているのが≪HPポーション≫だとその色で判別できる。しかし親友であるカノンと、カノンの恋人のクベラは「そのアイテムで回復されるのは、ちょっと……」という顔をしていた。
――だって……見た目が明らかに注射器……!!
苦手な人は本当に苦手な、≪注射器≫。投擲されたそれは、リビングアーマーにプスッと突き刺さった。何故鎧に、細い針が刺さるのか……そこは、気にしてはいけない。更にどういう原理か、注射器の中身……≪HPポーション≫は自動的に、リビングアーマーへと注入されていく。本当にどういう原理なのか? それも、気にしてはいけない。
そうして≪HPポーション≫を注入されたリビングアーマーのHPが、ガクッと減少。一気に減ったHPの量から、ミモリの調合した≪ポーション≫の効果の程が解るだろう。
ちなみにこの≪ポーション注射器≫は、地味に理に適ったアイテムだったりする。≪ポーション≫類の効果は身体に掛けるよりも、飲む方が……つまり経口摂取する方が、得られる効果は高い。
そこで考えられたのが、注射によって体内に注入するという手法。これならば、経口摂取と同等の効果が得られるのではないか? という想定で開発されたのが、この≪ポーション注射器≫であった。
ちなみに効果の程はというと、経口摂取と同じ効果が得られる。また回復行為と見做されるらしく、≪ポーション注射器≫をプレイヤーに刺しても”プレイヤーへの攻撃行為”には該当しないらしい。勿論、中身が毒などであれば攻撃行為の判定を受けるだろう。
しかしプレイヤーとしては、その見た目がどうにも怖い。また優しく刺すのではなく、投げて刺すという形なので尚更怖い。そして当事者でなくとも、その光景が実に怖い。
ちなみに≪ポーション注射器≫をブン投げて、リビングアーマーを回復攻撃した当のお姉ちゃんはと言うと……。
「おー、意外と上手くいくモノね。ま、見た目がちょっとアレだけど!」
彼女からしたら、ちょっとアレ程度の認識らしい。ちなみにこの≪注射器≫で、特に恩恵を受けるのは≪ライフポーション注射器≫だ。戦闘不能状態からの蘇生に加えて、その際のHP回復量が増えるのである。
つまり、戦闘不能になれば……ミモリは躊躇いなく、その投擲技術を遺憾なく発揮して、≪ライフポーション注射器≫をブン投げるだろう。
――絶対に、ミモリ(さん)の前では戦闘不能にならない様にしないと……!!
当事者と製作者と発案者以外のプレイヤーの心が、今一つになっていた……注射が嫌という、ちょっと子供染みた方向性で。
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【ユージンパーティ】
ミモリ・カノン・ネオン・ナタク・イカヅチ・ユージン・ケリィ・クベラ
PACニコラ・PACエリーゼ
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次回投稿予定日:2025/10/20(本編)
※業務多忙につき、執筆が追い付いておりません。
楽しみにして下さる皆様、お待たせして申し訳ございません。