20-15 ダンジョンを進みました
第三エリアボス討伐の為に動き出した、クラン【十人十色】の面々。しかしダンジョン内で待ち構えていたのは、これまでのフィールドマップやダンジョンマップで遭遇したモンスターとは異なっていた。
そのラインナップを簡潔に表現するならば、これまで戦って来たモンスターの上位種である。
「エリートゴブリンの前衛、ただ単に武器を振り回すという感じじゃなくなっているッスね……これまでの奴らより、良い動きをする様になってる」
そう言って唸るのは、【七色の橋】の中でもゲームに精通しているハヤテだ。既に何度か戦闘を行って、エリートゴブリン達は今までのゴブリンより格段に手強いと感じていた。
「攻撃を受け止めるだけでなく、攻撃を受け流す。また味方と連携する様な動きや、フェイントを使って攻撃して来てたッスね」
「後は、後衛の弓使いや魔術師もだねぇ。何度かルナが詠唱し始めたら、矢を撃って来たし」
「あはは、レーナちゃんやトーマ君がカットしてくれて、無事だけどね」
それ以外にもエリートゴブリン・メイジが味方のHPを回復したり、前衛メンバーにデバフを与える魔法を撃つ場面もあった。
全体的にエリートゴブリンは、より高度な戦闘を行う様になっている。つまりは明らかに、攻略難易度が上がっているのだ。
これらから察するに今回のダンジョンからは、大きく変わったポイントがあるという事である。
「要するに、モンスターの……あー、言うならAI性能レベルが上がってるって感じッスね」
PACであるジョシュアやカゲツの前なので、AIという単語を避けるハヤテ。同行するプレイヤー達も、彼のその言葉に秘められたニュアンスを汲み取り頷いてみせる。
「そうだね。これまでのモンスターが一般兵士レベルだと考えると……エリートゴブリン達は多分、小隊長とかそれくらいのレベルって感じかな?」
アイネがそう口にして、他のメンバーも「成程」と納得した。
「解りやすい表現だね、流石は武道経験者だ」
レーナがそう微笑むと、アイネは「そんな大したものじゃないですけどね」と笑った。
そこで、共に前衛として戦っているミリアが「武道経験者と言えば……」と、アイネに問い掛けた。
「アイネちゃんは、薙刀を習っていたのよね? 動きもキレも、凄く良いし……結構、本格的に習っていたのかしら」
「あはは、そうですか? まぁ……小学校時代は、土日はずっと【剣望館】っていう道場に通ってましたね。そこのお爺さんが剣術道場の師範で、お婆さんが薙刀道場の師範だったんですけど」
その言葉を聞いて、ミリアは目を見開いた。そしてすぐに表情は、納得したような顔になる。
「成程、【望月 実里】さんの教え子だったのね。道理で……」
ミリアがその名前を口にし、今度はアイネが目を丸くする番だった。その女性の名前は、アイネが通っていた道場の師範の名前だったのだ。
「えっ……ミリアさん、先生の事をご存じなんですか?」
「えぇ、少しばかり縁があってね。【剣望館】って、剣術道場の師範が【望月 健】さんでしょう? 彼は”望月流”だけではなく”警視流”も修めていて、警察官の指導もする達人なのよ」
「へぇ!?」
「警察官の指導……そう言えば、それっぽい人も居た気が……」
「ふふっ……勿論、奥様の実里さんも凄腕って聞いているわ。お二人共、界隈では五本の指に入るそうよ?」
「へぇ……そうだったんスね。っつー事は、アイって結構いい道場の門下生だったって事?」
「……そう、みたいだね? あの頃は全然、その辺を気にしてなかったなぁ……」
そんな会話をしていると、他の面々も話に加わって来た。
「アイネちゃんの薙刀捌きは凄く綺麗だなって思ってたけど、そういう理由があったんだねぇ」
レーナがニコニコしながらそう告げると、シャインが満面の笑顔で頷いた。
「ですね! 戦う時のアイネ、格好良いです! ”イットージョーダン”って感じで!」
「シャインちゃん、それを言うなら”一刀両断”じゃないかな?」
相変わらずのシャイン語録に、優しくツッコミを入れるルナ。そんな面々を、トーマは楽し気に笑って見守っていた。
「長いダンジョンの道中も、皆と一緒なら楽しく進めそうだね」
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【ハヤテパーティ】
ハヤテ・アイネ
レーナ・ミリア・ルナ・シャイン・メイリア・トーマ
PACカゲツ・PACジョシュア
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一方、西側の海底ダンジョン攻略に向かった、【桃園の誓い】&【ラピュセル】+フリー組。その中で、ダイスがリーダーを務めるパーティ。彼等もレベルアップしたモンスターと戦い、気を引き締め直している所だった。
「思った以上に、モンスターのレベルが上がっていたな……序盤でこれとはな」
ダイスがそう言ってパーティメンバーの様子を見れば、特に大きなダメージ等は無い事が確認できた。
今回のパーティはダイス・ヒューゴ、【ラピュセル】の短槍使い・モニカが前衛。盾役はゼクトと、モニカのPACであるロザリアの二人。ラミィと弓使いのルイーズ、ダイスのPACであるクラリスが遠距離攻撃。魔法攻撃や回復役は、サブリナが担当という布陣だ。
バランスを重視したパーティ編成が功を奏し、モンスターのレベルが予想以上であっても恙なく倒す事が出来ていた。
「やっぱ、[試練の塔]でいくらか慣れたお陰かね。さて、【ラピュセル】の皆はどうだ? 先は長そうだからな……今の内に改善すべき点や、連携について突き詰めておいた方が良い所があれば遠慮なく教えてくれ」
ダイスがそう切り出すと、サブリナとモニカが頷いてみせる。
「回復役が私一人となると、被弾を抑えて貰った方が良い気がしますね。エリアボス戦では、恐らく≪ポーション≫類の消費も多くなるでしょうし」
今回のパーティの生命線であるサブリナとしては、一人で十人のHP管理を担当しなければならない。それを考えれば、当然の要望だろう。
「そりゃあそうだな。了解、迂闊に突っ込み過ぎたりしない様にしようぜ。モニカさんとルイーズさんは、何かあるか?」
長い桃色の髪を持つ、槍使いのモニカ。そして赤い髪を一つ結びにした、弓使いのルイーズ。二人はダイスに声を掛けられて、首を横に振った。モニカは柔らかい微笑みを浮かべているが、ルイーズは仏頂面なので対照的である。
そんな二人の様子に対して、ダイスは一切態度を変えずに言葉を続ける。
「そうか、もし何かあったら遠慮せずに言ってくれ。パーティリーダーを任せて貰う以上は、全員がベストコンディションでエリアボスまで行って貰いたいからな」
ダイスの表情や態度は、誠実そのもの。その言葉を受けて、ルイーズが気まずそうに手を軽く上げる。
「あの……ちょっと私、思ってる事とかを顔に出すのが苦手で……これがデフォで、機嫌悪いとかそういうのじゃ全然ないんで……」
それは戦略的な面ではなく、自分の表情についての言及だった。しかしここから長いダンジョンアタックになるのだから、予めちゃんと話しておいた方が良いという考えからだろう。
そんなルイーズの言葉を、ダイスや他の【桃園の誓い】の面々は当然の様に受け止める。
「成程、そうだったのか。あぁ、了解だ」
「まだ俺等に慣れてなくて緊張してんのかなって心配してたけど、そういう事ね。オーケーオーケー!」
「あぁ、むしろ早い内に教えてくれて助かるぜ」
「うん、了解です! 教えてくれてありがとうございます、ルイーズさん!」
誰一人として変だと言ったり、疑ったりすることは無かった。そんな四人の言葉に、ルイーズはホッとした様子である。
「良かったじゃん、ルイ。それにホラ、モニカも全然大丈夫そうでしょ?」
「……リナちゃん、一々その事は言わなくても良いでしょ?」
サブリナに話を振られたモニカは、困った様な表情を浮かべる。そんなやり取りに、ダイス達は「何かあるのだろうか?」という視線を浮かべ……ここで言わないと、隠し事をする様な空気になりそうだとモニカは判断した。
「いえ、その……私が【ラピュセル】に加入したきっかけが、まぁ……胸の件で、男性プレイヤーに色々と言われたり見られたりする事があったからでして……」
モニカの言葉を聞いたダイス・ヒューゴ・ゼクトの視線が、思わず彼女のそこに行き……その圧倒的な存在感を目の当たりにした三人は、スッと視線を外した。
「……あー、そういう。苦労してんだな、モニカさんも……そう言えばシオンも、学生時代は結構苦労したって言ってたな」
「ケッ、彼女自慢か? ってのはさておき、言い難い事だったよな? そんな話をさせて、申し訳ない!」
「男にゃ解んない苦労だよなぁ、そいつは。まぁ、安心してくれや! 俺ァこれでも家庭を持ってるし、ダイスも彼女持ちだ。ヒューゴもヒューゴで、そこらの盛ったサルもどきのクソガキとは全然ちげぇからよ!」
「あはは、そうですね。言うまでは皆さん特に気にせず接してくれていましたし、そこは安心していますよ!」
紳士的な対応をする男三人に、モニカは気にしないで欲しいと言わんばかりに微笑みかける。
そんな四人から少し離れた場所で、ラミィはサブリナ・ルイーズと話していた。
「……モニカさんのあのサイズって、もしかしてリアルでも……?」
「そう。リアル準拠だよ、アレ」
「リナさんは、モニカさんと同じ高校らしいです……凄いですよね」
「あはは……羨ましいと聞かれたら、正直超羨ましい」
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【ダイスチーム】
ダイス・ヒューゴ・ラミィ・ゼクト
サブリナ・モニカ・ルイーズ
PACクラリス・PACロザリア
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同じ頃、南エリアの海底ダンジョン。そこでも、強化されたモンスター達と激しい戦いを繰り広げる面々が居た。
「ホラホラ、こっちだよ!」
両手に持った≪小太刀≫でモンスター達を斬り付けつつ、注意を引き付ける小柄な少女。そんな少女を狙おうとするモンスターに、黒髪の美女と赤髪の少年が迫る。
「そこで止まって貰うわ……!!」
「ついでに言うと、固まってくれよっと!!」
AI性能が上がっていても、ステータス的には[試練の塔]中盤くらいのレベル。十分なプレイヤーレベルと強化された装備、鍛えたスキルオーブと磨き上げた技巧があれば……チャンスを作る事は十分可能だと、彼等は[試練の塔]で実感していた。
そして[試練の塔]とは違い、今回のパーティは十人フルパーティで挑める。そこで今回は、各パーティにダメージディーラーを配置しているのだ。
「ボクにお任せっ!!」
仲間達がモンスターを数体、一箇所に集まらせた。それを確認した瞬間、金髪の少女が戦鎚を手に突撃。
「【スイングインパクト】ッ!!」
複数体のモンスターを、まとめて吹き飛ばすのはイナズマである。AGIと忍者的な技巧に熱意を注ぐ【忍者ふぁんくらぶ】では、珍しくSTRに重点を置くパワーファイター。仲間達が作り出したチャンスをモノにすべく、渾身の力を込めたフルスイング。その甲斐あって、モンスター達がHPを大幅に減らしていく。
そこに他の面々が一斉攻撃を仕掛け、モンスター達を一体ずつ討伐。こうして無事に戦闘を終えた【忍者ふぁんくらぶ】の面々は、被害状況を確認する。
「ゴエモンさん、こちらの≪ポーション≫をどうぞ」
「ハヅキちゃん、あざっす!」
「イナズマちゃん、グッジョブ! お陰で早く済んで助かる~!」
「本当、その通りね。イナズマちゃんが居ないと、どうしても火力不足になっちゃうから」
「えへへ、それなら良かったです!」
パーティメンバーの若年層となる五人が、和気藹々と会話に興じる。そんな五人の様子を、残るメンバーが微笑ましそうに見守っていた。
彼等【忍者ふぁんくらぶ】は、ジンの実力と人間性にどえらいレベルで感銘を受けて集まった集団だ。その年齢層は幅広く、社会人も居れば学生も居る。
その中で最も年若いメンバーが、イナズマとハヅキの二人だ。彼女達はギルド内では、皆に可愛がられ愛されている。
その理由は二つあり、まずはギルド内で火力役と生産担当のトップクラスの実力者という点だ。その為、頼りにされる立ち位置という事もあるが……もう一点の、二人が純粋に良い子である事が最大の要因だろう。
「でも今回、イナズマちゃんとハヅキちゃんはイカヅチ君と一緒じゃなくて残念だったねぇ」
アゲハがそう言うと、イナズマは笑顔で……ハヅキは頬を赤く染めて俯きがちに答える。
「ん~、まぁ今回は仕方が無いですよね~」
「わ、私はそんな、別にですね……」
イナズマは、イカヅチの義妹だ。その為、彼女はイカヅチと共に行動する機会が多い。実際に第五回イベントでは、ずっとイカヅチと共に攻略に臨んでいた。
そしてハヅキは……誰が見ても明らかに、イカヅチに好意を抱いているのが理解出来た。勿論そこで茶々を入れたり、余計なお世話を焼く様な面々ではない。だから【忍者ふぁんくらぶ】メンバーは、ハヅキの恋路を暖かく見守るスタンスを取っていた。
そんなやり取りを見て、ゴエモンは学校でのイカヅチとのやり取りを思い出していた。
「ギルドの中で、うちの妹に惚れてるヤツとかいねぇだろうな」
「大丈夫、いないっすよ……いや、マジですって。ウチのギルドってカップルゼロ、既婚者ゼロですから。現実では解んないですけど、俺の知る限り誰も浮いた話とか無いっすよ」
「……それが不思議なんだよな。ウチの妹も、羽田さんも可愛いだろ? それにお前の姉ちゃんとか、アゲハ先輩も綺麗じゃねぇか。あとは会長さんとかも美人だしよ……」
「皆、頭領様達を推す事に全熱量を注いでますしね。あとハヅキちゃんに実際に伝えた方がいいっすよ、それ」
「あん? んな事出来る訳ねーだろうが、こっ恥ずかしい」
数満の言い分に対して「そんなんだから、ハヅキちゃんの恋が進展してないんだ!」という言葉を、社はグッと呑み込んだのだった。
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【カスミチーム】
カスミ・アゲハ・ゴエモン・イナズマ・ハヅキ・他5名
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そして一方、ヒイロ達もダンジョンを危なげなく進んでいく。このパーティには【魔弾の射手】のギルドマスターでもあるジェミーも居るので、ギルマス二人が率いるパーティとなっていた。
そうなった理由の中心には、レン……そして、レンの実姉であるアクアの存在が大きい。
ヒイロとレンは、一緒で確定。レンが居れば、シオンがもれなく付いて来る。
そしてせっかく一緒のレイドパーティになるならば、レンとアクアの姉妹タッグが実現できる。アクアが居るならば、その夫であるカイルと執事であるアウスもセットとなる。
そしてアウスが居るならばと、ジェミーがそこに加わるのだ。その理由は……。
「まさか、ジェミーさんとアウスさんが恋人同士だったとは」
「ごめんね、隠していた訳じゃないんだけど……何て言うか、一々アピールする事じゃないし、そもそも言う機会が無くて……」
そういう事である。ちなみにこの事を知っているのは【魔弾の射手】のメンバーとレン、そしてギルドに所属していない某夫婦くらいだ。
「確かさえ……いえ、アウスさんとジェミーさんが、高校時代にお知り合いになって交際するようになったんでしたね」
「はい、お嬢様」
レンに話を振られたアウスは肯定するが、それ以上の事は口にしない。彼は初音家の執事なので、余計な事は口にしないのだ。
「アウス君がジェミーちゃんに、猛アプローチしてたんだよな~。いつもどっしり構えてたけど、ジェミーちゃんと話す時だけはガッチガチになってて……」
「ビィトさん?」
「へいへい、おくちミッフィー」
口の前で、指を重ねてバツを作るビィト。そんなやり取りに、ヒイロだけではなくレンとシオンも意外そうな顔をしてしまう。
「あの頃はアウス先輩、アクア先輩といい仲なんだとずっと思ってたのよねぇ……ちなみに先輩達は私の一つ上だけど、二年飛び級で大学卒業したんだよ」
「はい。もし三年飛び級なさっていたら、私がアクア様と知り合う機会が得られていませんでした」
ジェミーに続いて、シオンが補足を入れる。
「成程……そうなると、やっぱり強い縁を感じますよね。ビィトさんやクラウドさんとも、その頃にお知り合いに?」
ヒイロの質問に、ジェミーが頷く。
「えぇ、同じくらいの時期にね。その少しだけ後に、トーマ君とメイちゃんと知り合ったの」
そうして紡がれた縁により、ギルド【魔弾の射手】が結成されたらしい。
丁度そこで、アウスが一行に呼び掛けた。
「前方約十メートル先、敵を視認」
そう言ってアウスが指で指し示した前方に、モンスターの姿があった。前衛七体、後衛三体の一パーティと同じ数だ。しかも中には、盾を持つモンスターが三体居る。
「へぇ、バランス良さ気じゃん」
そう言って、武器を構えるビィト。その両手で握り締めているのは、変装時に装備していたハルバートだ。しかしその見た目は、以前とは異なっている。アーミー仕様という表現がピッタリで、性能も大幅に向上している。
「中央の守りは、私にお任せ下さい。お嬢様達には、指一本触れさせません」
そう言って前に出るシオンに、アウスは「いいでしょう」と頷く。
「では、私はシオン君の右手を。左手は、ヒイロ様にお任せしても宜しいでしょうか」
「えぇ、アウスさん。任せて下さい」
ヒイロは≪妖刀・修羅≫を大盾に変化させ、左手でそれを構える。同様にアウスも≪ライオットシールド≫を手にし、もう片方の手には伸縮式の≪特殊警棒≫を構えている。ちなみに警棒は犯罪者を捕縛する為に、殺傷性が低い物だが……アウスが手にしている物は先端にメイスヘッドがあり、破壊力を高めている仕様だと解る。
「じゃあレンは、盾持ちを倒せる?」
「はい、お姉様。後衛はお願いしますね」
≪伏龍扇≫と≪鳳雛扇≫を構えるレンの隣で、長杖型の魔法杖を手に微笑むアクア。姉妹間で役割分担をして、盾役と後衛を同時に落とす算段だ。
「任されたわ。大丈夫、レン程じゃないけど私も魔法は使えるもの」
「ふふっ……頼りにしています」
「これまで通り私とビィト君、セツナで前衛の処理ね」
そう言ってジェミーは、刀を鞘から抜く。それはレーナの≪黒猫丸≫と同タイプの、SFチックな造りの刀だ。
ジェミーも第一回イベントでは長剣でモンスターと戦い、ランキングに入る腕前の持ち主だ。第二回イベントでアクとの接近戦を見れば、彼女が前衛として戦う事に誰も不安を抱く事は無いだろう。
「あいよ」
「よかろう」
「残る二人には、前衛組の援護を頼みます」
ヒイロがそう声を掛けたのは、カイルとロータスだ。カイルは両手に≪タクティカルナイフ≫を装備しており、ロータスも小太刀を手に佇んでいる。
そんなヒイロのオーダーに、二人は頷いて応える。
「あぁ、任せてくれ」
「かしこまりました、ヒイロ様」
「それじゃあ、行きますか」
「ええ、行きましょう……作戦、開始」
ヒイロとジェミーがそう言ってパーティ全員が前進すると、すぐにモンスター達の視認範囲に入る。まず盾職のエリートゴブリン達が前に出て、威圧する様に前進する。
そのすぐ後ろには、長剣や槍といった装備を持つ前衛組。そしてその後方で弓に矢をつがえる弓職二体、詠唱を開始する魔法職が一体だ。
「【サンダーボール】!!」
レンが雷属性魔法の中で、最も詠唱速度が速い【サンダーボール】を発動。盾職エリートゴブリン達に向けて放たれたそれが、盾に接触して弾ける。
並のプレイヤーならば、多少の余剰ダメージ止まり。トップランカーレベルならば、より大きな余剰ダメージと同時に麻痺効果の発動だろう。しかしレンはそれを更に上回るINTの持ち主であり、彼女の放った魔法攻撃はエリートゴブリン達のHPを大幅に減らしてみせた。
「あら、落とせませんでしたか……」
そんな言葉を口にするが、レンは全く残念そうには見えない。既にエリートゴブリン達は麻痺状態で、その動きを止めているのだ。
「悪いが、ちょっとそこどいてくれ」
そう言ってビィトが≪ハルバート≫で、麻痺している盾職を薙ぎ払う。その一撃で、エリートゴブリンのHPが完全に消失した。
「邪魔だ、疾く去ね」
同様に、セツナもその大太刀でエリートゴブリンのHPを刈り取る。しかし既にセツナはその背後に控えていた前衛ゴブリンに狙いを定め、更に前進していた。
「ハッ!!」
ジェミーは鋭い踏み込みから、所謂”抜き胴”で残る盾職エリートゴブリン一体を斬り捨てる。更にそのまま前衛ゴブリン達に迫り、素早い身のこなしでその懐に飛び込んでいた。
そうこうしている内に、アクアの魔法が詠唱を終える。しかしそんなアクアに狙いを定めて、弓職二体が別の方向から矢を放った。
しかしながら、レンとアクアの目前に立つのは最高峰の盾職だ。
「【展鬼】」
大盾≪鬼殺し≫が分割展開され、形成されたオーラのシールドがエリートゴブリンの矢を阻む。
そこでジェミー・ビィト・セツナの脇を擦り抜けた前衛ゴブリン二体が、後衛メンバーを目指して距離を詰めていく。しかし、そうは問屋が卸さない。
「悪いね、通行止めなんだ」
「通れると思うな」
二人による妨害を察したエリートゴブリン達は、武器を振り被って更に速度を速める。それに対しヒイロとアウスは、ゴブリン達の突撃を受け止める直前に力強く前進。それによってゴブリン達の攻撃のタイミングがずらされ、その突撃が阻止される。
「ナイスッ!!」
「隙ありです」
動きを止められたエリートゴブリン二体に、カイルとロータスが素早く接近。体勢を立て直す前に数度斬り付けて、そのHPを削っていく。
「【ウォータージャベリン】!!」
そこでアクアが、後衛のエリートゴブリン三体に向けて魔法を放つ。水属性魔法で出来た投槍が空を切って飛び、弓職二体の胸元に命中。魔法職ゴブリンは避けてしまったが、それによって魔法詠唱を中断させる事に成功した。
既に盾職は処理済みで、後衛も体勢を崩した状態。前衛ゴブリンの動きを止めたヒイロとアウスは反撃を開始し、二人に任せたカイルとロータスが前衛に合流。更にレンが魔法職ゴブリンに魔法を放って、そのHPを一気に刈り取り流れは完全にこちらに傾く。
それから、一分足らず……ジェミーが小さく息を吐いた後に、一言を口にした。
「状況終了、準戦闘態勢に移行……さ、進みましょう」
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【ヒイロパーティ】
ヒイロ・レン・シオン
ジェミー・ビィト・カイル・アクア・アウス
PACセツナ・PACロータス
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次回投稿予定日:2025/8/20(本編)
暑い日が続きますが、皆様体調は崩されていないでしょうか。
水分と塩分を補給して、どうかご無事に猛暑を乗り切って頂ければと存じます。
さて、毎年恒例にしている夏イラストですが、今夏はリアル事情で全然進んでおりません。
というのもお仕事で、なまらやべぇトラブルに巻き込まれまして……執筆速度も上げたいんですが、思う様に進められず……orz
なので今年の確定情報としては、事前に進めておいた一枚を「こぼれ話」の方に掲載となります。
ちなみにこちらは、夏イラストでは初出の面々となります。
8/15を予定しておりますので、そちらもどうぞご覧下さい。