20-07 第四エリアへの道を探し始めました
クランとしては、三月に誕生日を迎えるメンバーのお祝いを昨夜行っている。しかし年に一度の、折角の誕生日。その当日はギルドだけでも良いので、祝おうというのが【七色の橋】の基本方針だった。
そんな訳で恋の誕生日パーティーの後、初音家に宿泊する事になった仁達はAWOにログイン。ギルドホーム[虹の麓]に集まったメンバーで、レンの誕生日パーティーを祝っていた。二次会である。
「現実でお祝いしにいけない分、ここで全力でお祝いしちゃいましょうか!」
「う、うん……レンちゃんの、折角の……お祝い、だもんね」
「っつー訳で、だ。改めて、誕生日おめでとう」
初音家のパーティーに参加できなかったミモリ・カノン・イカヅチが、レンの誕生日を祝う為に事前に色々と準備を行っていたらしい。飾り付けがされた大広間に、様々な料理が並べられている。
「ミモリさん、カノンさん、イカヅチさん……ありがとうございます、嬉しいです」
初音家のパーティーと違い、リラックスした様子でそう言って微笑むレン。そんな彼女の様子に、仲間達も柔らかな笑みを浮かべる。
他にも【桃園の誓い】のメンバーや、仕事で参加できないクラウドとビィト……そしてカイル・エリア・アウスを除く【魔弾の射手】のメンバー。そしてクラン【十人十色】に所属する、フリーランスの面々も集まっている。
また、大勢で押し掛ける訳にはいかないという事で、【忍者ふぁんくらぶ】からは代表としてアヤメ・コタロウ・イナズマ・ハヅキ……【ラピュセル】からはアナスタシア・アュリィ・アリッサが参加していた。
「散々パーティーで食べただろうから、メイン系の料理は避けてつまめるタイプの物を用意してみたけど大丈夫そうかな?」
「お気遣いありがとうございます、ユージンさん。勿論、大丈夫ですよ」
つまめる物とは言っても、その量は実に多い。人数が人数なので仕方がないが、この量を用意するのは大変だったはずである。
「よくこの量を用意出来ましたね……大変だったのでは?」
「ははっ、時間加速様々だね。そうそう、飲み物も色々あるからね」
そうして誕生日パーティー第二部が始まるが、一部のメンバー……特に【忍者ふぁんくらぶ】のアヤメ・コタロウと【ラピュセル】の三人は、レンの正体について今夜初めて知る事となった。
――まさか、ファースト・インテリジェンスの社長令嬢だったとは……でも、成程。すごく納得してしまう……。
それだけ、レンという少女はそこらの大人よりも大人びている。中学二年生の割には落ち着いた淑女らしさがあり、気品溢れる佇まいと口調にも納得がいったらしい。
ちなみに彼女達にもその事実を明かしたのは、今夜のパーティーの話題でその辺りの話が出ない様に仲間達が気を回すのが申し訳ないのが一点。そして最大の理由は、彼女達であれば知られる事に忌避感が無いからである。
そうして話題に出るのは、それぞれの現実の話題だった。何でもかんでも明かす訳では無いが、いつもよりも一歩踏み込んだ話題がそこかしこで行き交う。
「じゃあ、アヤメさんは都内でOLさんなんですね」
「えぇ……まだ一年目で、苦労が絶えないのが現状です。やはり、所謂お局様みたいな人もおりまして……あと、セクハラまではいきませんが目付きが厭らしい上司も」
「成程ねー。まぁその辺りの立ち回り方なら、アドバイス出来るかも。ねぇフレイヤ、マール?」
「そうね……私も新人の頃は、同じような感じだったわ」
「アヤメさんの職場でどこまで通用するかは解らないけれど、色々教えられることはあると思うわよ」
「皆様……お心遣い、感謝致します」
「おぉう、皆さん苦労されてるんすね……ってか、俺はいい加減進路を考えねーとなぁ」
「ヒューゴ……お前、まだ決まって無かったのか……」
「うっせー! ちぇっ、お前は良いよなぁ……美人な彼女っていう、モチベーションの源があるし」
「あー、まぁそれはそうだが。将来、どんな仕事がしたいとかはねーのか?」
「んー、サッパリだなぁ……」
「そっかそっか、じゃあイナズマさんとハヅキさんは、イカヅチ君の高校に通う事になるのね~! 何だか楽しそうだわ」
「はい、姉君様! 兄さんが一緒なら、楽しい高校生活になると思います♪」
「そうですね。お兄さんは本当に、頼りになりますから……」
「あんま過度な期待はしねーでくれよ? ま、後はゴエモンの奴もいるしな。そういや、アゲハさん……だっけか? その人もイッコ上の先輩らしいし……あれ、俺の高校生活【ふぁんくらぶ】に囲まれてね?」
「た、確かに……先輩、同級生、後輩に……【ふぁんくらぶ】、居る……ね……?」
「す、凄い偶然やな……?」
「……そういえば、ジン? うちの学校にも、ココロ先輩とイズナ先輩が居るよな?」
「いや、後輩に【ふぁんくらぶ】が入って来る可能性は低い……はず」
「そういえばジンくんから聞きましたけど、イナズマさんとハヅキさんが最年少らしいですね?」
「それに同級生には居ないはずだから、包囲されてはいない……はず」
「ジンさん……言いにくいのですが、それはフラグを立てる発言では……」
「あー、解るよレンちゃん! いきなりある日、ジン君の同級生が【忍者ふぁんくらぶ】に加入したりでしょ?」
「後はゲームでの事を知った後輩が、ジン君に憧れて【忍者ふぁんくらぶ】に加入するとかも有り得そうだね。だからこそ、今の【ふぁんくらぶ】がある訳だしね?」
「レーナさん、トーマ君!? マジで勘弁して!?」
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ゲーム内時間で三時間程、パーティーを楽しんだジン達。パーティーを切り上げ片付けを終えると、改めて活動を開始する事にした。目的はやはり、新エリアへの道を探す事だ。
「第三エリアの時の様に、ギミックを解くんだろうけど……」
「恐らくそうですね。折角ギルドマスターが集まっていますし、情報の擦り合わせをしましょうか」
ジン達【七色の橋】からは、南側の第三エリア探索情報。大渦によって阻まれている為、その先に進めない箇所が一番怪しいポイントである。
「逆に言うと大渦さえ何とかしたら、先に進めるのか……という点も問題ですね。多分、高確率で海中戦になるでしょうし」
「そうだねぇ……ハヤテ君、海中では銃は使えるのかな?」
「≪海人族の友好の証≫を持っているプレイヤーなら、使えるッスよ。あれって不思議パワーで、息が出来るだけじゃなく濡れるのも防いでくれるんス」
「成程、ならまぁ大丈夫かな」
「ただ、撃った弾は水の抵抗を受けるッスね……ちょっとッスけど、弾速が落ちるッス」
銃を主装備とする【魔弾の射手】にとって、水中戦は鬼門である。しかし海人族の活動する範囲内の海中ならば、戦えない事は無いらしい。
「ちなみに東側は、どんな感じでした?」
「東も最後は海岸になっていてね、こっちも大渦が発生していたよ」
「西も同じね。という事は、【ラピュセル】の皆さんが行ってくれた北側も……」
「はい、ジェミーさん。北側も同様でした」
つまり、プレイヤー達が現在活動しているマップ……エル・クレア神によれば[アウルコア島]は、四方を大渦に囲まれた状態らしい。もっともそこから先に向かう為の手段が同じかは、やってみなければ解らない所だ。
「それこそ、空でも飛んでいくしか無いか?」
「もしくは下側にダンジョンがあり、そこを通り抜けて行く……でしょうか」
ダイスとシオンがあまりにも手詰まりの為、そんな事を言い出した。その発言に、ジンは「おや?」と首を傾げる。
「通り抜ける……? もしかしてなんだけど、[精霊郷]を通って大陸側に出る事は出来ないのかな」
最初に妖精達と出会った際、彼等は[精霊郷]が世界の裏側にあると口にしていた。もしそうならば、大陸側にも通じている可能性は高いのではないか? と考えたのだ。
しかし、そんなジンの考えにイナズマが疑問を唱える。
「あの、頭領様。決して頭領様のお考えを、否定したい訳ではないのですが……」
「……イナズマさん? 普通に議論しているだけだし、反対意見くらい気にせず言ってくれて大丈夫ですから」
「は、はい! そうでしたね!」
むしろジンとしては、自分の推論に穴があるなら指摘して貰った方がありがたいのだ。
「妖精さん達はあの時、悪い人は[精霊郷]に入れないと言っていたのを思い出しまして。ボクはその対象が、軽犯罪者や重犯罪者のプレイヤーだと思うんです」
そう言われて、ジンも妖精達の発言を思い出した。
「そうか……いくら軽犯罪者や重犯罪者だとしても、この先に進ませないなんて事は運営さん達はしないだろう。ありがとうございます、イナズマさん。確かにその通りですね」
「いえ! ボクがお役に立てたのなら、良かったです!」
しかしそうなると、またも手詰まりになってしまう。そこで、レンが「いえ、待って下さい」と口にした。
「確かに[精霊郷]の事を、忘れていたのは事実です。第三エリア到達までに、現地人に聞き込みをして効果が得られた事もありますし……妖精達や精霊に、話を聞いてみるのも一つの手ではないでしょうか」
「ふむ、それもそうだね。[精霊郷]がこの世界の裏側というならば、大渦の事や大陸の事を何か知っている可能性は高いんじゃないかな」
レンの言葉を、ユージンも支持してみせる。他に具体策も無いならば、試してみる価値はあるだろう。
「しかしそうなると、大勢で押し掛けるのは迷惑になるかもしれませんね」
今この場に集まっている人数を考えて、ヴィヴィアンは少人数で向かうべきではないか? と考えたらしい。しかし彼女の横で皆の話を聞いていたバヴェルが、首を横に振る。
「僕達と関わりがあるドライアドの所に全員が行ったら、確かに迷惑かもしれないけれど……精霊は、ドライアド以外にもいますよ」
それは、既にマップ浄化が済んでいる地域。
クラン【騎士団連盟】が浄化した、[落雷の荒野]改め[アージェント平原]。
クラン【開拓者の精神】が浄化した、[猛毒の沼地]改め[アジュール湖畔]。
クラン【導きの足跡】が浄化した、[瘴気の山道]改め[オーア山地]。
自分達が拠点を構える[ウィスタリア森林]も含めると、四箇所……ドライアド以外に、三体の精霊が会話可能な状態になっているはずだ。
「あ、そうですね! それなら、四箇所に分かれて行けば良いので!」
「はい。それに、より多くの情報を得られるかもしれませんし」
話がそこまで進めば、後は組み分けである。この場には四十九名が居るので、九名はあぶれる形になるのだが……それについて、相談しようとしていた瞬間だった。
『フィールドマップ[灼熱の荒野]が浄化され、フィールドマップ[ギュールズ高原]が開放されました』
「おっと、タイムリー過ぎじゃない!?」
「わお、五箇所目……さてさて、達成したのは……」
「……ふむ、そう来たか」
新たに増えた浄化マップ、そのクエストを達成したのは一つの勢力では無かった。クラン【無限の可能性】とクラン【ルーチェ&オンブラ】……どういう経緯かは不明だが、二つのクランが共同でエクストラクエストに挑み達成したらしい。
「何にせよ、聞き込み可能な精霊が増えたな」
「恐ろしい程に、タイミングがバッチリでしたね……」
ともあれ、これで五箇所に分散する事が出来るようになった。
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【ギュールズ高原】
ジン、ヒメノ、カノン、マール、ルナ、シャイン、アヤメ、コタロウ、アリッサ、クベラ
【アージェント平原】
ヒイロ、レン、シオン、センヤ、ヒビキ、ダイス、ヒューゴ、レーナ、トーマ
【アジュール湖畔】
ハヤテ、アイネ、ネオン、ナタク、フレイヤ、ゲイル、ヴィヴィアン、バヴェル、ラミィ、アナスタシア
【オーア山地】
ミモリ、イカヅチ、ゼクト、ジェミー、ミリア、イナズマ、ハヅキ、アシュリィ、ユージン、ケリィ
【ウィスタリア森林】
ケイン、イリス、ゼクス、チナリ、レオン、ディーゴ、メイリア、リリィ、コヨミ、ネコヒメ
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念の為に戦力バランスを考慮し、盾役や回復役の配置。そして外部のプレイヤーと相対する時の為に、ギルドマスターがパーティに居る様になっている。これが今回の、探索メンバーだ。
「それじゃあ、行きましょうか」
ジン達のパーティは、弓使いがヒメノ・マール・アリッサ。銃使いがルナ・シャイン・クベラ。そして重量武器の投擲戦術を使うカノンと、後衛に比重が偏っている。しかしジンとアヤメ、コタロウといったトップクラスの回避盾が三人居るので、然程問題は無い。
「私は初めて行くんだけど……ジン君やヒメノちゃんは、今回浄化された[灼熱の荒野]には行った事はあるのかしら?」
マールがそう問い掛けると、ジンとヒメノは首を縦に振る。
「西側の砂漠を抜けて、今居る[メイリス]と逆方向に行った場所でゴザルな」
「第四回イベントの準備期間に、行った事がありますよ。マップのあちこちで火が点いていて、延焼ダメージを常に受けるんです」
「あー、やっぱりスリップダメージ系なのね。しかも聞いただけで、めちゃくちゃ暑そうなのは解ったわ」
暑いのは苦手なのか、マールは微妙そうな顔をしていた。しかし既に【無限の可能性】と【ルーチェ&オンブラ】によってマップも浄化済みの為、その心配は要らないだろう。
「確か浄化マップのすぐ近くに、[精霊郷]に通じる≪精霊の座≫があるのよね? まずは、それを探す感じかしら」
アリッサがそう言えば、アヤメとコタロウも首肯する。
「そうなるかと。これまでの浄化マップ、我々が拠点を置く[ウィスタリア森林]以外も同様に≪精霊の座≫がある事は確認しております」
実はこの情報は、【忍者ふぁんくらぶ】の面々の調査で得たものである。彼等は他クランの拠点の動向を逐一確認しに行っており、その際に周辺の調査も行っているのだとか。勿論、全てはジン達の役に立ちたいという理由で。相変わらずだな、この忍者達は。
「これまでの傾向からして、≪精霊の座≫は炎属性のものと思われます。既に樹・雷・水・土が出揃っているので、残るは風と氷でしょう」
コタロウの言葉通り[ウィスタリア森林]が樹属性である様に、[アージェント平原]は雷属性。[アジュール湖畔]は水で、[オーア山地]は土属性の≪精霊の座≫があるらしい。
しかも更に、アヤメが未浄化マップについて言及する。
「風は恐らく[烈風の渓谷]……氷は[氷結の凍土]が、マップ浄化クエストの舞台になるものと推測しております」
「そこまで調べが済んでいるんですか? 流石ですねぇ……」
ちなみに[アージェント平原]は既に【騎士団連盟】のクランホームが竣工し、そこを中心に建物や施設を建てている最中らしい。
【開拓者の精神】の[アジュール湖畔]も、負けじと開発が進行中。クランホームだけではなく、プレイヤー店舗も既にオープンしているのだそうだ。
一方、【導きの足跡】はクランホームを建てたものの、他の部分はそこまで進んでいないらしい。これは彼等が初心者等の支援を継続して行っているのに加え、純粋な戦闘織が多い影響で手が足りていないかららしい。
とはいえ、他の三クランには「応援NPCの協力を得れば、拠点内で活躍してくれる」という情報を提供した。これによって、[オーア山地]も今までより開発が進んでいるそうだ。
「どうせなら、【WC】と【L&O】にも情報を提供するでゴザルよ。彼等とはライバルではあるものの、友好的な関係が築けているでゴザル故」
出発前に話し合った結果、【無限の可能性】と【ルーチェ&オンブラ】ならば情報提供しても良いだろうという結論に至っている。これがもしも【竜の牙】であれば、【十人十色】は情報提供はしなかっただろう。
迷宮都市[メイリス]を出て三十分程で、[灼熱の荒野]改め[ギュールズ高原]が見えて来た。浄化直後である為、何もない真っ新な状態だ。
そして浄化されたマップを確認しようと考えたのか、既に数組のギルドが集まっていた。
「野次馬か、もしくはクラン加入希望者でしょうね」
「然り。[ウィスタリア森林]の時と同じかと」
ジン達はそんなプレイヤー達を避けつつ、エクストラクエストを達成した面々の方へと歩いていく。ジン達の接近に真っ先に気付いたのは、【闇夜之翼】のセシリアだった。
「あら、皆様! どうなさったのですか?」
セシリアは……いや、他の面々も長期戦が終わったからだろうか、少し表情が疲れている様に見受けられた。あまり、長居をするのも悪いだろう。
「エクストラクエスト達成のお祝いをと思い、我々から情報を提供しようと参りました」
ギルドマスターであるアヤメが代表してそう切り出すと、反応したのはアリアスだった。
「情報提供……ですか?」
ジン達はエクストラクエスト達成のお祝い代わりに、応援NPCに協力を仰ぐ事で開発が進められる事を説明。この情報には彼等も喜色を浮かべ、ジン達は丁寧な感謝の言葉を受けるのだった。
そうして少しばかり話をした所、今回二つのクランが共同でエクストラクエストに挑んだ経緯が解った。
事の発端は、二つのクランが精霊のアイテムを手に入れるクエストでバッティングしたというものだった。そこで両者は対立しかけたのだが、【ルーチェ&オンブラ】に加入したフリーランスのプレイヤー……セスが、ある提案をしたのだ。
「それなら各ギルドから十人ずつメンバーを出して、どちらがドロップするのか競争してみるのはどうだろう?」
平行線の言い合いで時間を浪費するよりはマシだと考えた彼等は、その提案に乗ってエクストラボスと戦闘を開始。その結果、アイテムをドロップしたのは【白狼の集い】のヒューズだったらしい。
しかしそこでヒューズがクリムゾン達に相談を持ち掛けて、【ルーチェ&オンブラ】に新たな提案をしたのだ。それは「マップ浄化クエストに【ルーチェ&オンブラ】も協力してくれるなら、他のマップ浄化クエストまで自分達が協力する」というものだった。
これはお互いのクランで、四レイド分の戦力を揃える際に不安要素があった為だ。しかし偶然にも十人ずつ精鋭メンバーを出した事で、高難易度に耐え得るレイドパーティとなっていた。その上【フィオレ・ファミリア】も【闇夜之翼】も初共闘でありながら、しっかり連携をして事に当たる事が出来た。
この先も高難易度クエストに挑む為に、彼女達との協力関係があれば確実性が増す。そう判断した結果だった。
「で、無事にクエスト完了となった訳だが……いやぁ、もう一回これをやるのはしんどいだろうなぁ」
ヒューズがそう言って、クリムゾンに視線を向ける。クリムゾンも「全くだ」と頷いて、セシリアとフィオレに向き直る。
「ただまぁ、約束を違える気は無いから安心してくれ。でだ、今日までクラン内で相談したんだが……次のマップ浄化まで、二つのクランでこのマップをシェアしないか?」
一つのマップを、二つのクランで分割してシェアする。これは【ルーチェ&オンブラ】からすると、意外過ぎる提案だった。
「……理由を伺っても?」
フィオレが慎重にそう問い掛けると、クリムゾンは真剣な表情でそれに答える。
「安心してくれ、何も企んでないから。それに、当たり前の話をしていると思うぜ? 君達の協力があったからこそ、このマップは浄化出来た。だろ?」
クリムゾンがそう言うと、スカーレットも会話に加わる。
「勿論、次のマップ浄化を私達も優先するわ……でも、他の勢力も既に動き始めているはずでしょ? あまり考えたくは無いけど、先を越される可能性もあるって思うのよ」
「そうですね、それは私達も懸念していました」
セシリアも、彼等の言いたい事が段々解って来たらしい。
「もう一つ浄化されたマップが手に入ったら、それで当初の目的は達成したって事で良し。もしも間に合わなかった時は、そのままここをシェアすれば良い」
「折角こうして協力関係にあるんだし、より良い隣人として付き合っていきたい。それが俺達、【無限の可能性】の総意だ」
ヒューズとクリムゾンの言葉を受けて、フィオレとセシリアは顔を見合わせ……そして、仲間達に視線を戻す。反対意見を持つ者は居ない……その表情を見れば、彼等の答えは自分達と同じものだと確信出来た。
「解りました、その提案をありがたく受けさせて貰います」
「皆様のご厚意に、心からの感謝を。今後共、どうか宜しくお願い致します」
そうしてこの[ギュールズ高原]は当面の間、二つのクランが共同で所有する事になるのだった。
次回投稿予定日:2025/5/10 → 2025/5/20(本編)
ご閲覧下さる皆様へ。
大変申し訳ございませんが、業務多忙により執筆速度が低下しております。
その為しばらくの間、本編投稿を5日間隔から10日間隔にさせて頂きます。
楽しみにして下さっている方がいらっしゃいましたら、誠に申し訳ございません。
今後共、本作を何卒宜しくお願い申し上げます。
それはそれとして、ヒューズさんもクリムゾンさんもやっぱりいい人。
あと、またも根津さんフラグが……。