20-05 誕生日パーティーに出席しました3
「恋さん、この度はお誕生日おめでとうございます」
そう言って一礼するのは、ヴィクトリア・エンタープライズを経営する社長にして葉歌郎の父親だ。その右隣に長男が立ち、左側に葉歌郎が立っている。二人も父に倣って一礼し、恋の誕生を祝う言葉を口にする。婚約を祝う言葉を口にしないのは、勿論あえてだ。
初音家の令嬢を嫁に迎える……これは勝良家にとって重要な要素であり、それを横から搔っ攫われるのは面白くない。故に葉歌郎だけでなく、父や兄も婚約については触れない様にしていた。しかしあからさまに英雄を無視するのは、逆に恋達の心象を悪くする。故に、当たり障りのない会話を振る必要があった。
そして葉歌郎は、恋の婚約者となった英雄……そして初音家と同じ席に座る星波夫妻を見て、すぐに自分の記憶にある有力者達とは関係のない人物だと察した。つまりは一般人であり、恋が結婚できる年齢……十八歳になるまでに、手は打てると考えた。
「そちらの……星波、英雄さんでしたか? お会いするのは、初めてでしたでしょうか。私、勝良葉歌郎と申します。どうぞ、お見知り置きを」
まずは相手の情報を引き出し、ついでに自分や恋とは家柄や立場が違うのだと思い知らせる。その為にまず、英雄に喋らせる必要がある。だからこそ、自分から挨拶をしてみせた。
そんな葉歌郎の挨拶に、英雄は落ち着いた様子で応える。
「お初にお目に掛かります、星波英雄と申します。勝良家の皆様のお話は、恋からよく伺っています。葉歌郎さんは、テクノロジー・エンターテイメント・セクションの責任者をなさっておいででしたね」
英雄が言及したテクノロジー・エンターテイメント・セクション……それはテクノロジーを有効利用して、エンターテイメント事業で利益を上げる事を目的とする部署だ。プロゲーマー事務所【フロントライン】のスポンサーとなったのも、その辺りの兼ね合いからである。
――フン、よく予習しているじゃないか。だが、付け焼刃の知識で乗り切れると思うなよ。
「おや、ご存知でしたか」
「はい。今特に力を入れているのが、フルダイブVR技術の発展と伺っています。確か、プロゲーマー事務所のスポンサーでもありましたよね。ユートピア・クリエイティブとの事業提携も、その一環でしたか」
ヴィクトリア・エンタープライズの動向についても言及する英雄に、葉歌郎だけではなく父親と兄もわずかに表情を変える。企業における、一部署の動向も把握している……英雄の言葉は、それをアピールしているのだと気付いたからだ。
――顔色が変わったな。俺がただの子供だと思って、マウントを取ろうとしてたのは間違いなさそうだ……恋と鳴子さんに、粗方叩き込まれてるお陰だな。
英雄もこのパーティーで自分が多くの有力者達にどう見られ、そしてどう接して来るのか……それを予想し、初音家の面々と一緒に対策を考えていた。その方針は当然、正面から返り討ちにする……だ。
秀頼達からしたら、英雄に対する悪意を放置する気は無い。しかし初音家の人間が対応したら、相手は英雄を軽んじて次の手を考えるだろう。必要なのは、英雄が自力で相手を突っぱねる事なのだ。
そこで招待客の顔写真と部署、そして企業のおおまかな動向を事前に予習するという地道な対策を取った。そんな地道な努力の成果が、今発揮された訳だ。
「……中々、お詳しい様で」
「いえ……VR業界の発展は、私も興味がある分野でしたので」
フルダイブ型VR技術は多くの企業が研究・開発を進めており、ヴィクトリア・エンタープライズもその中の一社だ。しかし現状では、ユートピア・クリエイティブが生み出したVR・MMO・RPG【アナザーワールド・オンライン】の技術には到底及ばない。
今現在、VR技術の最先端と目されているのはユートピア・クリエイティブだ。その技術を欲する企業は、ヴィクトリア・エンタープライズだけではない。だからこそ多くの家は、初音家か六浦家の人間を迎え入れたいのである。
マウントを取るつもりが、逆に「ユートピア・クリエイティブの技術の為に、恋が欲しいんだろう?」と暗に言われている……葉歌郎達は、そう感じ取った。
「……そういえば、恋さんとはどの様な経緯でお知り合いに?」
そう切り出したのは、葉歌郎の父親だった。かなりドストレートな質問をするのは、話題を変えたい……それと同時に、二人の関係に探りを入れる為であった。
「妹が彼女と同じ学校で、仲良くさせて頂いていまして。その縁で、私も恋と知り合う事が出来ました。今では、家族ぐるみの付き合いをさせて頂いています」
「……成程、そういう事でしたか」
勝良父はそう言って、言葉を切る。そこで葉歌郎は「よし、ここが攻め時だ」と確信した。
「しかしそういう事であれば、これから大変でしょうね」
葉歌郎はそう言って、笑顔を英雄に向ける。そんな葉歌郎に、英雄も笑顔で問い返す。
「と言いますと?」
「初音財閥に婿入りするには、かなり努力をしなくてはならないでしょう? 一般家庭で生まれ育った方が初音家のご令嬢と吊り合う様になる為には、実に苦労されるかと思いましてな」
慮る様な葉歌郎の発言は、暗に「お前では恋の婚約者に相応しくない」と告げていた。実際に葉歌郎の言葉を受けて、英雄は目を細めてみせた。
――フン、この程度の言葉で顔に出すとは……ここまで上手く取り繕っていたみたいだが、やはりただのガキじゃあないか。
内心で格の違いを見せ付けたと確信して、葉歌郎は勝ち誇っていた。しかし、その鼻っ柱はすぐに折られる事になる。
「あら、誤解なさっていますよ」
鈴を転がす様な声で、そう言ったのは恋である。彼女は笑顔を浮かべて、葉歌郎に視線を向けていた。
「誤解? どういう意味でしょうか、恋さん? もしや彼は、既に初音家に婿入りするだけの家格と教養があると?」
住む世界が違うのだと自覚させる為に口にしたのは、先程までよりも直接的な言葉だった。そんな葉歌郎の発言にも、恋は表情を変えずに首を横に振り……彼の勘違いを、指摘する。英雄の手に、自分の手を重ねて微笑みながら。
「そもそも私は、英雄さんに婿入りして貰うつもりは無いんです。十八歳になったら、私が星波家に嫁ぐつもりなんですよ」
「「「……っ!?」」」
それは勝良家の面々にとって、予想外の言葉だった。
初音家に婿入りするという前提ならば、英雄を扱き下ろすのは簡単だ。しかし逆に恋が星波家に嫁ぐとなれば、家柄も教養も大きな問題では無いのである。
そこまで彼等が驚いている理由は、簡単である。恋が初音家を出るという選択をするとは、微塵も思っていなかったのだ。姉である水姫の様に、恋も婿を取ると思い込んでいた。
しかも、十八になったらすぐに嫁ぐという発言。それは「婚約だけではなく、結婚も確定事項である」という宣言に相違ない。
葉歌郎はその発言を耳にして、思考を巡らせる。当然焦っているので、かなり直接的な手段から悪辣な搦手ばかりを。
――くっ……恋がここまで言っても否定しないって事は、既に初音家もそれを認めているって事か!? 初音家がそこまで考えているなら、チンピラを使ってこいつを脅すのはこっちが危険だ……!!
当然、英雄には初音家の護衛が居る。勝良家が雇った人間が彼を傷付けようとしたならば、即座に護衛がそれを排除するだろう。
勿論そのくらいは、葉歌郎も考えている。そもそも、いきなり最終手段を思い付く時点でどうしようもない人間性だが。
――いや、確か恋は[初音女子大学付属中等部]に通っているはず。となれば、この小僧は別の学校だろう……それならば、やりようはある……!! 使える娘が、何人か居るからな……!!
例えば、英雄の通う学校に自分達の息が掛かった娘を通わせ、そこで彼に迫らせる。それも一人ではなく、複数人に迫らせるのだ。その全員と関係を持たせれば、彼の評判を大きく下げる事が可能。そこまでいけば、初音家も婚約解消を考えるだろう。
もっともそれは、葉歌郎が英雄を全く知らないから考え付いた愚策である。
そもそも彼は、日頃から女子生徒達に囲まれていながら丁重にお断りしているのだ。そんな英雄が、今更ハニトラに靡くはずもない。というか、ハニトラ要因が英雄に近付けるかどうかの方が問題かもしれない。
勝良家が動揺していると、そこへ一組の老夫婦が歩み寄った。
「失礼……勝良さん? 我々もご挨拶をしたいのですが、まだ掛かりますかな?」
「あら、望月様。大変ご無沙汰しております」
老紳士に恋が笑顔で声を掛けると、すぐに勝良家の面々へと視線を戻す。
「申し訳ございませんが、他の皆様もお待ち頂いておりますので……」
さっさと場を譲れ……なんて言う恋ではないが、ニュアンスは概ねその通りだ。結果、勝良家の面々はすごすごとその場を後にする以外の選択肢が無かった。
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英雄と恋が、招待客の挨拶に専念しているその頃。仁達の席の方には、ある面々が訪れていた。
「ここで瑠璃さんにお会いできるとは、思っていませんでした」
「あはは……実は恋さんから、招待状を頂いていまして。ファースト・インテリジェンスからお仕事を頂いている事もあって、社長と亜麻音さんに一緒に来て頂いたんです」
訪れたのは現役女子高生アイドルである瑠璃と、そのマネージャーである社絵亜麻音。そして……。
「いつも、ウチの瑠璃がお世話になっているそうね。私は【スタープリズム・プロダクション】の社長をしている、【留土町 愛紗】。どうぞよろしくね」
社長である愛紗は初老の女性でありつつ、綺麗よりも格好良いという印象を先に抱かせるような女性だった。整った容姿も気取らない態度も、不思議と頼り甲斐を感じさせる……そういった、不思議な魅力に満ち満ちている。そんな彼女は挨拶をした後、すぐに仁達を見て……そして、口を開く。
「ん-、ん-……皆、アイドルとか興味ない? 絶対、人気出ると思うんだけど」
開口一番、スカウトであった。
丁重にそのお誘いを断って、仁達は瑠璃と談笑する。そこへ美里達もやって来て、若者同士で話に花を咲かせていた。
「【十人十色】って、結構とんでもないメンバーが揃ってませんか……少なくとも、大財閥のご令嬢が二人も居るなんて他にありませんよ……仁さんも、以前は陸上界期待の星と呼ばれていたそうですし」
ついでに、アイドルである自分も。そう付け加える瑠璃だが、彼女の認識はまだ甘い。なにせ【魔弾の射手】には、初音家の若夫婦とその専属執事も居るのだから。
そこで、恋達への挨拶を済ませた一組の招待客……その中の一人が、目を見開いて仁に視線を向けていた。
「ああああ、あの……っ! 寺野選手……ですよね……!」
「あっ、コラ……」
初老の男性の制止も間に合わず、妙齢の女性が仁に歩み寄って目をキラキラさせていた。その様子を見て、仁は何故か【忍者ふぁんくらぶ】の面々の事を思い出してしまう。
「え、えぇ……僕の事を、ご存知なんですか?」
「はい、勿論、当然です!! 私、寺野選手の大っっっっっっっファンです!!」
そっかー、ファンかー……やっぱりかー。そんな心の声が喉元から漏れ出そうになるのを堪えて、仁は苦笑しつつ一礼する。
「ありがとうございます。とはいえ僕は、もう選手には戻れないんですけどね」
「あ、し、失礼しました!! その、事故の事は存じておりまして……」
そうして女性が仁の足に視線を向けて、おや? と首を傾げる。見た目だけでは、仁の足が障害を残している様には見えない。
「歩行補助のサポーターで、何とか普通に歩ける様にはなりましたが……選手時代の様に、走る事はもうできません」
女性の疑問を解消すべくそう告げると、彼女は更に申し訳なさそうな顔になった。流石にそういった表情にも慣れているので、仁は「気にしないで下さいね」と笑う。
そこへ、女性の上役らしき人物が声を掛けた。
「あー……秘書が、大変失礼をした。まさかここで、寺野さんにお会いできるとは思わなかったよ」
「いえいえ、お気になさらず……えぇと」
仁が口ごもるのを見て、男性は自分が自己紹介もしていない事に思い至った。気まずそうに一つ咳払いをした男性は、仁達に頭を下げる。
「これは秘書だけでなく、私も失礼をしてしまったな。私は、【小津守 歩】というものだ。【オズ・スポーツ】というスポーツブランドメーカーの、社長をしている者だよ」
その自己紹介を受けて、仁は目を見開いた。【オズ・スポーツ】の製品は質も良く、現役時代によく購入していたのだ。
「【オズ】の社長さんとは存じませんで、大変失礼致しました。僕、結構【オズ】のシューズやウェアを持っているんですよ」
「おぉ、そうなのか。君の様な才能ある選手に、ご愛顧頂けていたのは幸甚だな。事故の件は、私も伺っている……本当に、何と言って良いのか……」
言葉を選ぶ小津守社長を見て、仁は苦笑しながら何でも無い事の様に言葉を返す。
「お気になさらないで下さい。それに、今後も【オズ】の製品には注目させて貰うつもりですよ。使い心地の良さは僕も実感していますから、将来できるだろう教え子に勧める事になるでしょう」
仁がそう言うと、小津守社長と秘書さんは目を瞬かせた。今、仁が口にした言葉に聞き捨てならない単語があったのだ。
「将来の、教え子……?」
「それは、もしかして……?」
元・陸上界期待の星……そんな仁が口にした、未来を予感させる言葉。その言葉に意識を集中させる二人に、仁は口元を緩める。
「どの様な形を選ぶかは検討中ですが……僕は、未来の金メダリストを育てます」
その言葉を口にした仁の表情は引き締まっていて、試合に挑む選手の様だった。
仁の言葉を表情を見た小津守社長と秘書は、仁の覚悟と気迫を感じて圧倒されてしまう。黒い瞳が照明を反射したその輝きは、夜空に輝く星を思い起こさせる。そして不思議な事に、彼の姿に別の姿がダブって見える。
――元……だと? 馬鹿な……彼は今も、輝きを失っていない……!
不慮の事故で、幼い頃から抱いていた夢を失った仁。そんな彼はようやく新たな夢を見出し、その実現に向けて動き始めている。それはつまり選手時代の情熱と、輝きを取り戻した状態である。
選手ではなく、指導者として。陸上界期待の星が、再び輝き始めたのだ。
それを確信した小津守社長は懐からサッと名刺入れを取り出し、自分の名刺を仁に手渡す。
「陸上界期待の星の復活を、心から応援させて貰うよ。何か相談があれば、連絡してくれたまえ……楽しみにしているよ、未来の金メダリストのコーチ」
そこで、成り行きを見守っていた愛紗が「おー、それなら私も」と名刺を取り出した。
「君の教え子が金メダルを獲った時、うちの子がインタビューさせて貰いたいね。勿論、君にもだ」
そこでようやく、小津守社長達は愛紗達に気が付いた。
「おや……確か、貴女は【スタープリズム・プロダクション】の」
「御無沙汰しています、小津守社長。今回はうちの瑠璃が、恋お嬢様と懇意にしておりまして出席させて頂いています」
思わぬところでスポーツブランドの大手メーカーの社長と、芸能プロダクションの社長の名刺を頂戴する事になった仁。この名刺、どうせいっちゅうんじゃい。
そこで姫乃が、仁にぴたりと寄り添う。
「……姫、どうかした?」
「ふふっ……仁くんが生き生きしているから、嬉しくなっちゃいました」
常に仁の事を気に掛けている姫乃は、仁の雰囲気が大きく変わった事を察していた。それは悪い方向では無く、とても良い方向にだ。
かつて抱き、そして見失った夢。そこから立ち直り、新たな夢を見出した仁はこれまでよりもエネルギーに満ちている。そんな仁に一番近い姫乃にとって、彼が生き生きとした姿を見せてくれることがとても喜ばしかった。
「おや、そちらのお嬢さんは……もしかして、寺野さんの恋人かな?」
小津守社長がそう問い掛けると、仁は笑顔で首を横に振る。
「恋人より、もっと上ですね。彼女は、星波姫乃……恋さんの隣に居る英雄の妹で、僕の婚約者です」
その言葉を受けて、仁達AWOをプレイしている者以外が驚きの表情を見せるのだった。
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そして恋の誕生日パーティーが、盛況のままに終わりを迎えたのは二十一時を回った頃だった。ここから仁達は、初音家の車で家に送り届けられる……はずだった。
「折角だし、今日は皆うちに泊まっていったらどうだい? もう遅い時間だしね」
そう言い出したのは、現初音家当主である秀頼である。既に一部を除いた招待客は退席しており、素の秀頼おじさんだった。
「……お父様、最初からそのつもりでしたね?」
「まぁ、それはそうだね。折角大将君と聖さんも来てくれた事だし、二次会と洒落込みたい。となると、君達だけ帰らせるのもね」
「予想していたよりも、バリバリ私欲満載な理由」
ちなみにパーティー会場に残っているのは、初音家と星波家の面々……そして仁達友人枠に、美里達と瑠璃達である。尚、美里の家族である六浦家の面々も居る。
「ちなみに君達のお家には、事前に了承を貰ってはいるよ。既に学校の制服もクリーニング済みだから、明日はうちの者に学校まで送らせよう」
「これは用意周到な、計画的犯行ですね……」
恋様のジト目が秀頼に向けられる中、美里が戸惑い気味に声を掛ける。
「あの、初音のおじさま? 私達も宜しいのですか?」
「それは勿論だとも。君達【魔弾の射手】の事も、娘達から聞いているからね」
ただでさえ、初音家と六浦家は懇意の間柄。更にAWOで恋と美里が同じ勢力に所属し、強固な信頼関係を築いているのである。
むしろ仁達にとっては、折角こうして現実でも出会えたのだ。だから今日は、存分に友好を深めて欲しい……という親心も、少なからずある訳だ。勿論、それは瑠璃達にも言える事である。
秀頼の説得に折れた仁達は、電話で各家庭への事情説明をする事になる。そこで「やっぱりそうなったか」という反応をされてしまい、やはり事前に根回しがなされていたのだと確信するのだった。
ともあれ家族からお泊りの許可を頂いた子供達は、着替えとAWOへのログインの為に用意された客室に向かうのだった。
……
女性陣はメイクを落としたりと、何かと時間が掛かる。それを事前に鳴子から伝えられていた仁達は、それぞれ案内された客室で先にAWOにログインする事になった。一人につき一部屋を用意されるあたり、流石は初音家というべきか。
「……父さんと母さんが使っているベッドより、大きいんだよなぁ」
寺野家は、夫婦で一つのダブルベッドを使用している。仲睦まじい夫婦関係、自分もそうありたいものだ等と考えつつ、仁は用意されているVRドライバーを装着する。やはりというか何というか、それは夏休みや温泉旅行で借り受けたVRドライバーだった。
「秀頼さん、最初からこうするつもりだったんだろうなぁ。さて、と……どうせなら女性陣がログインした時に、恋さんの誕生日を祝うつもりだし」
これは初音家に一泊する事が決まった時点で、男子メンバーで相談した事だった。勿論、和美と紀子……そして数満にはその時点で連絡をしてある。
ちなみにその話を聞いたディーゴこと吾郎が、仁達に「自分達も、一緒にお祝いしに行って良いかな?」と言い出した。今回出席できなかった面々が、当日中に誕生日を祝うチャンスだと思ったらしい。
「了解です。それじゃあ、ウチのホームで大丈夫ですか?」
「OK、それじゃあまた後でね」
ヤンキー風の見た目に反して、吾郎は非常に気配り上手で心優しい青年だ。改めてそれを実感して、仁達はAWOにログインしていくのだった。
次回投稿予定日:2025/4/23(幕間)




