04-05 そんな話題になりました
ユージンに製作の依頼をした、二日後。ジン達は、始まりの町を練り歩いていた。ギルド結成クエストの為である。
メンバーはジンとヒイロの二人、そしてケインとゼクスの二人だ。ダイスと、女性陣は別行動である。
「……これは盲点だったね」
「意外とバレないもんだなぁ」
というのは、彼等の服装である。今装備しているのは、店売りのありふれた装備。普段の格好は目立って仕方がないので、変装しているのだ。ヒイロは弓使い風の装備、ケインは魔法職風でゼクスは昔使っていた装備。ジンは普段と違う、重厚な鎧姿である。
ダイスが居ないのは、彼の顔が広く知られているからだ。女性陣は言うに及ばず。
その為ダイスは、イリスやフレイヤと共にギルドホームを建造する為の素材集めに奔走している。
ヒメノ・レン・シオンの三人は、ギルドホームを建てるのに良さそうな場所の選定。町中でも良いのだが、どちらかと言うと町から少し離れた場所に建てたいと考えたのだ。理由は推して知るべし……ジン達の注目度は現在、飛ぶ鳥を落とす勢いで上がっているのである。
「次のクエストを終えたら、後は騎士団詰め所にギルマス役が行くだけだ」
「いやぁ、長かったなぁ……何で、こんな面倒なんだよ」
ケインの言葉に、ゼクスがボヤく。二日かけてのクエストになってしまったのだ、そう言いたくなるのも無理はない。
しかし、それにもちゃんと理由があった。
無差別にギルドを作れるとなると、それを悪用するプレイヤーも必ず現れる。それを避ける為に、簡単にギルドを設立できないようにしているのだ。
ギルドに所属すると、それなりの恩恵があるのである。
その最たるものが、パーティメンバーの上限アップ。八人が十人になるのだ、それは魅力的だろう。
次に、ギルドホームの存在がある。ギルドホームにはマイルームが存在し、それはプレイヤー一人につき一部屋与えられる。無論ギルドホームの規模によって、その上限が存在するのだが。ともあれそれは、自分達の自由に出来る領域。どんなプレイヤーも欲しがるだろう。
プレイヤー個人で購入できるプレイヤーホームもあるが、ギルドホームの性能は更に一段階上だ。その最たるものとして、特別な家具を設置すればギルドメンバーのステータスが少し上昇する点だろう。
もちろん、メリットばかりではない。
ギルドに所属する事は、集団の一員となる事を意味する。そうすると、どうしてもしがらみが生まれてしまうのだ。
最も、現状ではジン達にはそういった事は無い。何せ、仲が良い故に。
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「この辺りはどうでしょうか?」
「滅多に人は来そうにないですが……」
「うーん、難しいですね……」
ヒメノの言葉に、レンとシオンも頷く。小高い丘の上にある、売却地……悪くは無い。悪くは無いのだが……何故かピンと来なかった。
理由は単純だ。
「和風の建造物、似合いませんね」
「そうですね」
「ですよねぇ……」
そういう事だった。ちなみに今いるのは、遺跡の様なフィールドだ。
彼女達が探しているのは、和風の家がマッチする土地である。あまり大所帯になると目立つ為、PAC達は不在だ。PACは呼び出さない限り、別の空間で待機している。これは、ギルドに所属していない場合のみである。ギルドに所属すると、ギルドホームに常駐する事になるらしい。
「やはり昨日の、竹林がよろしいのでは?」
「ただ、あそこは狩り場が近いですからね」
「他のプレイヤーさん達、たくさん居ましたからね……」
そんな会話をしながら、三人はフィールドへと向かう事にした。
歩き回って三十分程、三人は他のプレイヤーのホームを見付けた。
「やはりフィールドに建てるプレイヤーさんも、いるものですね」
「始まりの町よりは、人が少ないですから。始まりの町だと、不特定多数のプレイヤーに監視されるという事もあるそうです」
それは嫌だ……と、三人は頷き合う。知名度が上がって来ている現状、居場所を特定されやすい状況は避けなくてはなるまい。
「あの空に浮かぶ島とか、行けたら良いんですけどね」
「あー、あの島ですか……あれ、何でしょうね?」
「不確定な情報ですが、運営の方々があそこで作業をしているという話も……」
そんな雑談をしながら、レンはヒメノの様子を覗う。というのもここ数日、ヒメノの様子に変化が見受けられたのだ。
言ってみるならば……何かを見ている時も、他の何かに意識を向けている様な感じである。そしてもう一つ……以前は会話の節々で、ヒメノはジンの事を話題に出していた様に思える。ここ数日……あのイベント以降、そういった様子が見受けられない。
「ヒメノさん、最近なのですが……何か、悩みでもあるんですか?」
ジン関連で、とは言わない。それは直球が過ぎるからだ。
「……え、な、何でですか? そ、そんな事無いですよ?」
あからさまに動揺している。ちょっと可愛らしい、なんて思ってしまうレンだが、誤魔化される訳にはいかない。何故ならば。
「ヒメノさん、私はヒメノさんをお友達だと思っています。もし出来るなら……そうですね、ヒイロさんやジンさんの様な、親友……という関係になれると思っているんです」
そのレンの台詞に、ヒメノとシオンが驚いた。ヒメノは、レンが自分の事をそんな風に思ってくれていた事に対して。シオンはここ最近、変化著しいと思っていたレンがここまでの変化を遂げていた事に対してだ。
ヒメノは少し黙り込み……そして、意を決したかのように口を開いた。
「そ、その……変な事を聞いてしまうかもしれないんですけど」
レンとシオンは、ヒメノがその心の内を明かすのだろうと察した。余計な口を挟まずに、ヒメノの言葉を待つ。
「……こ、告白って……どうしたら良いんでしょうか?」
しかし、その内容は予想外だった。
「こ、告白ですか?」
「はい……」
聞き間違いか? と思った二人だが、ヒメノは真剣そのものだった。どうやら、ガチのやつらしい。
「ヒメノ様。それはつまり、ジン様に愛の告白をしたいという事でよろしいでしょうか」
シオンの忌憚なき言葉に、ヒメノの顔が真っ赤になる。
「ジ、ジンさんだって何で解るんですか!?」
「解らない方がおかしいですね」
「同感で御座います」
「えぇっ!?」
……
「成程、あの時ですか」
「まぁ、気持ちを自覚するのには絶好のシチュエーションでございましたね」
レンの言うあの時……それは朱雀の攻撃からヒメノを間一髪で救出した、動画にもされているあのシーンである。
絶体絶命のピンチに颯爽と現れ、見事に救出してみせた気になる異性。しかも北門から南門まで、猛ダッシュして。助けるその時は、お姫様抱っこで。これはヒメノが墜ちるのも仕方がない……レンとシオンは、納得した。
「ううぅ……み、見抜かれていたなんて……」
「いや、普通に解りますよ。ヒメノさん、ジンさんの事になるといつもキラッキラしていましたから」
恥ずかしそうに身を捩るヒメノに、レンは苦笑しながらもストレートにツッコミを入れる。
「それで、恋人同士になりたいのですね?」
シオンのまたもやストレートな言葉に、ヒメノは顔を真っ赤にしながらもコクリと頷いた。恥じらうその様子がまた可愛らしい為、レンとシオンは同じ事を考えていた。
――なに、この可愛いイキモノ……。
ともあれ、レンとシオンはそろそろヒメノ弄りを切り上げる事にした。
「私も異性とのお付き合いは、まだ経験が無いのですが……そうですね、告白したら負けかなと思っています」
レン的な、譲れない何からしい。つまりレンは自分から告白するのではなく、相手に告白させたいタイプらしい。カグヤ様なのかな? とりあえず、ヒイロは苦労しそうだ。
「私も経験が豊富という訳では御座いませんが……ヒメノ様は、ジン様に告白するのとされるのは、どちらがよろしいですか?」
二人の言葉に、ヒメノはその時の事を想像する。ジンから告白されている瞬間……そして、自分から告白する瞬間。
「ど、どっちも捨て難いです……」
「あら、欲張りですね」
「良いではありませんか。女の子はワガママになって良いのです」
……
それから三十分が経過した。なんだかんだで、話をしつつもフィールドを歩く三人。これ! という土地は、まだ見付かっていない。
「ヒメちゃんは可愛いんだし、もっと自信を持つべきだと思うのだけれど」
「私は、レンちゃんみたいに自分に自信が無くて……」
「あら、私だって自信があるという訳ではないのよ?」
「クスッ……もうすっかり仲良しで御座いますね」
シオンの言葉に、ヒメノとレンは顔を見合わせて微笑み合う。レンから言い出した、親友になりたい発言。それを受けたヒメノから、提案したのだ。まずは呼び方を変えてみよう、と。
最初はぎこちなかったものの、じきに二人は慣れていった。そうなりたい、という想いがあったのもある。
お陰で、これまでよりも二人の距離は近い。それは物理的にも、そして心情的にも。
「レンちゃんは、気になる人は居ないの?」
「……気になる人は、もしかしたら……っていうくらい。でも、まだ自分でもハッキリしていないの」
「そう……なんだ」
「……ハッキリしたら、真っ先にヒメちゃんに言うわ」
そう言って微笑むレンに、ヒメノは嬉しそうな表情で頷いてみせる。
――どこからどう見ても、ヒイロ様を意識しているのはバリバリ感じるのですが……。
口を挟みたいシオンだが、グッと堪える。デキるメイドは、主のプライベートに助言はしても茶々は入れないのだ。本職メイドじゃないですが。
ともあれ中二コンビの恋バナを聞いていると、自分も彼氏が欲しくなって来る。どこかに優良物件が転がっていないものだろうか。
身近な男性となると、限られる。まず職場恋愛は却下の方向性なので、初音家の使用人は無い。
そうなると、親しい男性はこのゲーム内に居る面々となる。ジンとヒイロの二人は除外。そうなると、ケインやゼクス、ダイスにユージン。
――無いですね。
ケインは良い男だと思うし、歳も近い。しかし彼は、イリスを意識している様に思える。ゼクスは、悪くは無いのだが性格が恐らく合わないだろう。そして、ユージンは既婚者だと知っている。不倫なんて以ての外だ。
――本気で、いい出会いが訪れないかしら……。
シオンさん二十五歳、中々に悩ましい年頃であった。
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「よーし、これで後は騎士団詰め所に行くだけか!」
「明日には、ギルドが結成出来そうだね」
始まりの町で、おつかいクエストを終えたジン達。ヒメノ達に報告のメッセージを送ろうとすると、ジン宛にシオンからメッセージが入った。
『レンお嬢様とヒメノ様が、随分と仲良くなられました。無用な配慮とは存じますが、驚いたり茶化したり等が無い様にお願い申し上げます』
その文面に、ジンは口元を緩める。そんなジンの様子に、ヒイロが首を傾げた。
「ジン、何かあった?」
「あぁ、うん。シオンさんから。ヒメノさんとレンさんが、もっと仲良くなったみたい」
そう言うジンの表情は、喜びに満ちた笑顔だった。二人が更に仲良くなってくれたら良いと、ジンも思っていたのだ。
二人は同じ学校で、同じ歳の女の子だ。きっと唯一無二の親友になれるだろう。
「そっか、それは俺も嬉しいな」
ヒイロも同じ考えだったのだろう。ジン同様に嬉しそうに微笑む。
「……ジン、お前さんはヒメノちゃんをどう思ってんだ?」
「はっ!? な、何をいきなり言うでゴザル!?」
いきなりのゼクスの発言に、何故か忍者ムーブで返すジン。動揺しているのがありありと解る光景であった。
「いやな、見ててヤキモキするんだよ。お前にとって、ヒメノちゃんって特別な存在だろ?」
ズビシ!! とジンを指差すゼクス。失礼にあたりますから、人を指差しちゃいけませんよ。良い子の皆はマネしないでね。
「ゼクス、まさかヒメノさんを狙って……?」
うわぁ……という表情をするケインだが、今日のゼクスは手強かった。ケイン特効の、痛烈な反撃を用意していたのである。
「コラ、ケイン。人をロリコン扱いするなよ。イリスに言いつけるぞ」
「何でそこでイリスが出て来るんだ!?」
簡単にケインさんも動揺した。流石、ケイン特効である。
本日のゼクスさん、本気で容赦が無い。矛先は、空気になろうとしているヒイロにも向けられた。
「あと、ヒイロもだ。レンちゃんの事、気になってんだろ」
「ぐぅ……俺にも……」
自分まで被弾するとは思っていなかったヒイロは、視線を泳がせた。三人揃って、解りやすい反応である。
そんな解りやすい三人を見て、ゼクスは満足げに頷いて……爆弾発言をした。
「ふっ……一応は彼女持ちの俺が、アドバイスしてやっても良いが?」
一瞬の、静寂。
「えっ!? 待て待て!! ゼクス、お前彼女いたのか!?」
「おぉ、大人だ……」
「彼女さん、AWOやらないんですか?」
彼女の存在を知らなかったケイン、ゼクスがやたらと大きく見えたジン、純粋な疑問を投げ掛けるヒイロ。三者三様の反応であった。
「まぁな、付き合って二年半くらいか。彼女はあれだ、AWOやる為に金貯めてる。VRドライバー、高いしな」
確かに、VRドライバーは未だに高額なアイテムだ。安い機種でも、六桁はいくのである。
ちなみにゼクス、彼女がVRドライバーを買う為に自分も金を出すと言ったのだが、断られたらしい。理由は「将来の事を考えて、そのお金は貯めておいてくれればいい」という事だそうだ。結婚資金ですね、解ります。
ともあれゼクスと彼女の関係は良好そのもので、順調にお付き合いをしているらしい。
「何で教えてくれなかったんだよ……」
不満そうなケインに、ゼクスはククッと笑いを堪える。
「お前とイリスがくっついたら、バラそうと思ってたのによ。二人共中々踏み出さねぇから、そろそろ発破かけるには良い時期かと思ってな」
つまり、ジンとヒイロはついでにイジられた訳だ。
ともあれゼクス、少年少女の恋を応援するつもりはある模様。
「ヒメノちゃんは、自分から行くのも相手を待つのも出来る子だろうけどな。レンちゃんはアレだ、相手からコクらせるタイプだな」
ゼクス先生、中々に鋭い。同じ頃にヒメノ達もそんな会話をしているとは、思いもよらないだろうが。
「そういう子にはアレだな。ハッキリと、自分から行った方が良いぞ」
「ふぅん……イリスは?」
真面目に頷いて問い掛けるケインだが、ゼクスは呆れたような視線で返した。
「お前には教えてやらね。大人なんだから自分で考えろ。さっさと玉砕覚悟で突っ込め。あと、イリスは結構ロマンチックな所あるぞ」
ケインに対しては、放任主義らしい。とはいえ最後にアドバイスしているあたり、応援はしてくれているのだろう。
そんな中、ジンがおずおずと心の内を打ち明ける。
「その、好きかどうか……まだ、ハッキリと自覚が無くて……」
「……俺も、似たような感じですね」
ジンとヒイロの反応に、ゼクスは笑った。口には出さずとも、その表情が全てを物語っている。「青いなぁ……」と。
「一番手っ取り早い、自分の気持ちを自覚する方法を教えてやるよ。その子が自分以外のヤツと、デートしたりしている所を思い浮かべてみ?」
ゼクスの言葉を受けて、二人はその光景を想像してみる。
「……すっごく嫌な気分になりました」
「俺も……突っ掛かりたいくらい」
本気で嫌そうな顔をするジンとヒイロに、ゼクスが大笑いしたいのを堪えながら頷く。
「くくっ……ほら、ハッキリしただろ? なら、後は行動あるのみだ。その想像を現実にすんなよ?」
ゼクスの言葉に、二人はグッと奥歯を噛み締める。
そして、同時に思うのだ。とは言っても、何から始めれば良いのだろう……? と。
「先生、質問です!」
「俺も!」
「おうおう、良いぞ。いくらでも相談に乗っちゃる。ケインは知らん!!」
「お前、俺の事嫌いだろ!!」
そうして男同士、場所を変えて恋バナを始めるのだった。
……
良い時間になったので、今日はそのまま解散になった。
ヒメノ達もログアウトの時間が迫っているので、そのまま合流せずに落ちる事にするらしい。そのメッセージを受けたジンとヒイロがログアウト。ケインとゼクスも少し会話を交わし、先にケインが落ちた。
彼等がログアウトするのを見送って、ゼクスは溜息を吐いた。
「まぁ三人共、普通に告白すれば良いだけなんだけどな」
ヒメノはとっても解りやすい。明らかに、ジンを特別な異性として認識している。もう目を見れば、表情を見れば即解る。
レンも中々、解りやすい。時折見せる小悪魔な部分は、異性ではヒイロにしか向けられていない。甘えている……という事だろう。
イリスは表面上はケインへの好意を露わにはしない。しかしゼクスは、ゼクスだからこそ知っている。なにせ彼女から「左利と二人きりだと緊張するから、一緒にゲームをやって」と誘われたのが、VR・MMOを始めたきっかけだったのだ。
ともあれ、春爛漫な身内の状況。これまでは傍観して楽しんでいたのだが、このままではいつまで経っても進展は望めまい。
ならばこそ、こういう時は自分の様な人間が、背中を押してやる役割を担うのだ。ゼクスは、そう判断した。
そういった面では、意外に一番大人なゼクスであった。
ヒメノとレンのコンビ、好きです。
そして意外な事に、ゼクスさんは彼女持ちでした。
彼女に、くノ一好きな事がバレないと……いいね……(ゲス顔)
次回投稿予定日:2020/7/29